この日利根川は、選抜レースで目をつけたウマ娘を探し歩いていた。
2着ではあったが、その素質、内に秘めた燃えるような闘志に惹かれたのだ。
「ククク…探したぞ……!」
「ひゃっ!? だ、誰!?」
「惜しかったな……選抜レース…!」
「アンタ…ライスさんのトレーナー…」
「2着だったのだ……恥じることはない……!」
「2着じゃダメなのよっ!! アタシは1番じゃなきゃいけないの!!」
どこか悲痛な叫び声が響き渡ると、スカーレットはすぐに冷静さを取り戻し、「すみません」と頭を下げてその場を走り去っていった。
「ククク……! ウマ娘とは…そうでなくてはいかん……!」
勿論…勝つことがその全てではない……! 時に……勝ち負けよりも大事な何かや……負けることでほの見える………分岐点……!
ただそれは…2着でいいという理由にはならない……!
「……………」
利根川は…内ポケットから取り出したタバコに火をつけ……深く煙を吸い込んだ…。
また後日…声をかけてみるか……と…夜空を眺めながら…ゆっくりと煙を吐いた……。
× × ×
最初こそ、スカーレットに群がるトレーナーたちは多くいたが、次第に彼女は気性難だの、あれでは上にはいけないだのと、散々なことを言って、もう誰もスカーレットに声をかける者はいなかった。
とどのつまり…スカーレットに期待している者など…誰ひとりいない……!利根川幸雄……この男を除いて……!
「1番で在りたいのなら……ワシと共に来いっ……!」
夕陽が沈んでも尚…トレーニングをやめようとしないスカーレットに……利根川は声をかけた……!
「ア、アンタ……また来たの…? 言っとくけど…アタシはアンタが思ってるような子じゃない……! 地元で少し速かっただけで…1番気取って……必死に優等生のフリをして…! でもいざトレセン学園に来てみたら……『本物』の速い子に…あっさり負けちゃって………ほんとは……1番になるだなんて…アタシにはっ……」
「黙れっ…!」
「うっ…」
ざわ・・
ざわ・・
「まあ…確かに……今のおまえじゃ…ライスにもスズカにも……マックイーンやキングにも勝てん……! どころか…入賞すら出来ん……!」
「……………は、はぁ!?」
「予言する……! 間違いなくどのレースを走っても……お前は負ける…! 最下位……!」
「な…な……」
「負ける……! 最下位だおまえは……! 負ける…! 負ける……! 負ける……!」
「あっ……! あっ……! あっ……! あっ……! や、やめてっ……! アタシが……アタシがっ……!」
「負けるっ……! 最下位っ………!」
「ぐっ……!」
「負けっ! 負けっ! 負けっ……!」
「うるさいっ! うるさいっ! うるさいっ……! アタシがっ…………1番なんだからっ…!」
その叫び声は…トレーニングコース全体に響き渡り……まだちらほらといたウマ娘や…トレーナーたちの視線が利根川たちに集まっていた。
それでも…利根川は気にも留めなかった…。
「そうだ……! 悔しかったのなら…決して膝を折るなっ……! 手をつくな……! 諦めたフリなどして……自分のプライドまで明け渡すなっ………!」
「ア、アンタ……バッカじゃないの! アタシはただ……そうよ! アンタのことが信用できないだけ…! 納得いかなきゃ、トレーニングメニューにもめちゃくちゃ口出しするんだから!! その覚悟、できてるわけ!?」
「ククク……たとえ…肉 焦がし………骨 焼かれても……ワシはお前の背を押し続ける……!」
「…………な、なんなのよ、アンタ」
「ワシとおまえに…相応しい
「…………ッ!! ほんとっ……変なヤツに…捕まっちゃった……っ」
――ダイワスカーレットは…今まで抑え込んできたものが決壊したかのように……静かに泣いた…。
× × ×
「あっついわね……」
スカーレットは、デビュー戦を見事勝ち取った。これはスカーレットの実力であれば勝てて当然のレース。だが、次に出走する重賞レースではそうはいかない。
利根川は、まだまだ圧倒的に足りない部分を強化するため、夏合宿を行うことを決意した。
「ククク……甘くないぞ……合宿は……!」
「フンっ! 合宿に来たくらいで1番になれるなら苦労はしないわよっ!」
実はスカーレット…未だ利根川のことを信頼しきれてはおらず……夏合宿に大きな期待などしていなかった……!
が……しかし……!
ざわ・・
ざわ・・
利根川の指示するトレーニングをこなすにつれ……徐々に浮き彫りになっていく……!
夏合宿の……圧倒的完成度……!
スカーレットは…夏合宿という名前だけ聞いた時点では……大した期待もせず…素人の考えそうな
気がつけば………
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このゴミ手が………
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この形…!
テンパイ……! 純チャン三色一盃口……!
「よし……今日はここまでだ……!」
「な、何言ってんのよ…! アタシはまだまだやれるわ……!」
「クク……休息も……トレーニングのうちだ……!」
「うっ…! わ、分かったわよ……」
こうして…利根川とスカーレットは……少しずつ…それでも確かに…信頼関係を築き上げ……数々の重賞を制していった。
負けた日は…落ち込むスカーレットをかつ澤に連れて行き……勝った日は喜ぶスカーレットをかつ澤へと連れて行き……!
そうして…数え切れない、でも少しの歳月は流れ…やってきた……!
URA予選……!
これを…スカーレットは難なく1着でゴールし……地下バ道で待つ利根川の下へと駆けてきた…。
「トレーナー! 見てたでしょうね!?」
「クク…愚問っ…!」
「ふふ、やっぱりアタシが1番なんだから!」
そして…異変が起こったのは……この後のレース……準決勝でのことだった……!
『あいにくの雨が芝を濡らす、中山レース場。バ場状態の発表は重となってしまいました』
――雨の中のレースだったが…スカーレットは重バ場をものともせず……準決勝も見事1着で走り抜け、残すは決勝だけとなった……! が…しかし……!
「トレーナー! しっかり見てなさいよ、アタシの走り!」
「…………あ……?」
「雨だろうと雪だろうと、アタシは1番でゴールしてみせるわ!」
ざわ・・
ざわ・・
『あいにくの雨が芝を濡らす、中山レース場。バ場状態の発表は重となってしまいました』
この時…利根川はいち早く気付いていた。気付いていたが…信じられなかったのだ。
誰が信じられるだろうか。
同じ日を繰り返しているなど…そんな非現実的なことを……!
「トレーナー! しっかり見てなさいよ、アタシの走り!」
「ぐっ…! がっ……!」
ぐ
に
ゃ
あっ・・
利根川は以前…聞いたことがあった…。
一日三個だけ使うことができる…目覚まし時計……! それを使えば…負けてもレース直前まで時を戻すことができる…と……!
利根川…走る……! 雨の中を…ただひたすら……!
この時…利根川の脳裏には既に犯人の顔が浮かんでいた……! 利根川は…記憶していたのだ……! 全てのウマ娘の…枠順……枠番……!
その中で……たったふたりだけ……二度…入れ替わったのだ……!
スカーレットと………
「ギギ……! これが…最後の一個……! 頼むっ……! 勝たせてくれっ……! ミココノチカラを……!」
「ククク………クズめっ…………!」
「あ…あんたはっ……ライスシャワーのトレーナーっ………!!」
「その目覚まし時計で……何をするつもりだ……!」
「うっ…」
「勝っても負けても……それを真摯に受け止める……! それがレース……それが勝負……! なめるなっ……! うまぴょいを………!」
「あっ…ああっ……!」
「おまえの人としての評価は……Eランク……!」
「ぐっ……!わしが…間違っとったんだ……!わしが……!すまん……ミココノチカラ……!わしはもう二度と……間違えん……!うっ……おおおっ……!」
「ククク……対あり……!」
× × ×
予想外のアクシデントはあったものの…スカーレットは1着でゴール板を駆け抜け……後日……!
ついに迎える……! URA……決勝戦……!
「今日だ……! 今日勝てば……圧倒的頂点…! うまぴょい……!」
「ね、ねえ…トレーナー…。今日もアタシが1番でゴールしたら……そしたら……ト、トレーナーのことっ……」
「退屈……!」
逆光の中見えたのは……四人の黒服の男たちを…横一列に並ばせ…四つん這いにさせ……その上に寝転がる男の影……!
目の前に立ち塞がるそれは……影と呼ぶにはあまりにドス黒く……悪魔的………!
ターフへと続く…地下バ道で利根川たちが出会ったのは……帝愛グループ…その頂点に君臨する……
「がっ! ぐっ……!」
「つまらん…! うんざり……!」
「か…会長っ……!」
兵藤和尊………!
ぐ
に
ゃ
あっ・・
「やれ「偏頭痛」だの……「夜更かし気味」だの…「太り気味」だの……なまけ癖だの…練習ベタだの……!小さなほころびだの……肌荒れだの……!チッ……!下らぬ……!どれもこれも……!そうは思わんか……?利根川っ……!」
ざわ・・
ざわ・・
「は……! まさにその通り………かと! ですが会長……それもウマ娘を育てる上で必要な…」
「ウイニングライブだ……! ウイニングライブが観たい………! ワシを満足させうるような……ウイニングライブ……!」
「あの…会長……ライブ…お好きなのですか……?」
「ククク……好きなわけがなかろう……! まあだが……無くはない………! 極稀に…ではあるが……多少は観れる……このワシをわずかだが
「
「――! どっちでもよいわっ……! そんなものっ…!」
「はっ……! すみませんっ……!」
兵藤は…利根川に一発制裁をすると…その足で観覧席へと向かって行った。
その背中を見送り、震えているスカーレットに視線を移した。
「また……諦めるつもりか……?」
「――ッ! も、勿論…アタシは1番を譲るつもりなんてないけど……アンタが…し、心配なのも……本当なのよ……! アタシ……どうすればっ……!」
「考えるなっ………! 会長の機嫌だなんだ……そういったしち面倒臭いことは……なんとかするっ…………! ワシが……!」
「アンタ……」
「初のURA……決勝戦だ………!」
利根川は…未だ不安そうに見上げるスカーレットの背中を……強く叩いた……!
「――ッ!」
「踊ってみせろっ…………! うまぴょいっ……!」
喰うか…! 喰われるか…!
血路を開け…!
「見てなさいトレーナー! アタシが勝ったら……トレーナーのこと……っ、利根川先生って呼ばせてもらうんだからっ…!」
× × ×
『な、なんということでしょうか…! これはもはや…圧倒的……! 後続との差を大きくつけてっ……カズタカイザー……今…1着でゴールインっ……!』
「クゥクゥクゥ……!」
駆け巡る脳内物質っ………!
「ククク……キキキ……!」
β-エンドルフィン……!
チロシン……! エンケファリン……! バリン…!
リジン
ロイシン
イソロイシン……!
「カカカッ……!」
利根川は……生まれて初めて…心の底から震え上がった……! 真の恐怖と…決定的な挫折に…!
恐ろしさと…絶望に…涙すら流した……! これも…初めてのことだった……!
「ト、トレーナー…! アタシ……!」
利根川はその場にうなだれ、駆け寄ってきたスカーレットの声に反応することさえ出来なかった。
「してもらおう……! 償いだけは………きっちりと………!」
ざわ・・
ざわ・・
「ククク……スカーレットくん………確か…レースに
「な……なにをっ……!」
「ククク………3着までのウマ娘は…ウイニングライブで踊ることになる……!当然…1着でなくとも……それを見届けるのが…トレーナーの務め……!しかしその観覧に…ちょっとした負荷を加えると…もう連中は…満足に観覧することもできなくなる………!本来できるはずなのだ…!本当に勝たせてやりたかったという気持ちで……胸がいっぱいなら……!2着であれ振ることができる…!」
ペン 光り……闇 照らす……サイリウムをっ………!
× × ×
『うーーーー(うまだっち)』
醒めない悪夢っ……! 悪魔の愉悦…!
「おっ……! おっ……!」
地獄っ…!
地の獄…!
底の底…!
「はあ〜〜……いいよなぁ………外出許可証………!」
「無理ですオレらには………担当ウマ娘もいないのに外出なんてとても………」
カフェテリアの……あちらこちらから聞こえてくる…トレーナー見習いたちの声をよそに……ある男が動き出した………!
「ふふ…会長……探しましたよ…」
「おや、○○のトレーナー君じゃないか。どうしたんだ?」
「外出許可証を………2枚……!」
「ふむ…。分かった、手配しよう」
「ありがとうございます」
ざわ・・
ざわ・・
「うっ…」
「また…!?」
「何度目だよこれで…!」
「すげえっ……!」
これは…ジュニア級でありながらも
会長と親しくなり…
「外出許可証」を利用しては…
ウマ娘と悠々自適な1日を送る
ジュニア級トップ………
大槻トレーナーの
1日外出の記録である…!
一条聖也………!
「おやおや…どうされました?ミココノチカラ様………」
「――!」
怪我を押して…出走した結果……レース中に転倒してしまったウマ娘に近づき……一条は声をかけた……!
「走られないんですか…? 続き…!」
「うっ……」
「おい! 棄権だ……!」
一条がそう叫ぶと……後ろに控えていた男たちは……ミココノチカラを担架に乗せ……レース場外へと連れて行く…………!
「まだ走れる……! もう少し…もう少しだけ……! やめてっ…!放してっ……!」
うわあああ・・・
「フフ……こういうのもなんですが……なんで諦めないんスかね?」
「クク……奴らウマ娘はこれまでの人生…………ただただ努力を繰り返し……走り続けてきた……!そういう奴らは最後の最後…怪我をしても……根拠なく自らの脚を信じ……走り続けるしか術を知らないのさ………たとえそれが……底なしのウマ喰い
「フフ……間違いないっスね………!」
「さて……にんじんハンバーグでも食べようか」
「はい!」
この物語の主人公は……後に自らが生み出した…悪魔的レース場「沼」で……宿敵……伊藤カイジと死闘を繰り広げることになる麒麟児……
府中裏レース場代表者時代の……一条聖也……!
ではなく……!
田舎から…トレセン学園に就職したが…
未だ燻り何者にもなれぬ…………
新米トレーナー時代の……
一条聖也の…物語である……!
ハンチョウとイチジョウこんな感じで書き進めてます