三人が出会ってからどのくらいの時間が経ったか分からないが、デパートを歩き回り会話に花を咲かしていた。時より琴里から指示が飛ぶことがあるが、笑いの沸点が低いよしのんは笑い、焔華はそのやり取りを見て笑っていた。
二人の精霊の精神状態をモニタリングしている<フラクシナス>艦橋でもいい数値が出ているらしい。
『――ふむ、存外いい感じじゃない』
『そうだな。よしのんは今すぐキスしようって言っても拒まれないくらい上々と行ってもいい。焔華の方は友人位の好感度だな』
「……おいおい」
冗談か本当か分からない言葉に頬をかく。しかし士道も驚いていた。今では十香も会話できるようになったが、最初会ったときには酷い人間不信であり、言葉を間違う度に死にそうな目にあった。しかし、よしのんと焔華は友好的に接してくれる。
『やっぱりお喋りするのはたーのしーいねー。どうもあの人たちは無粋でさー』
「そうだね、姿を見るなり攻撃してくるもんね」
「は……はは」
士道にとっても会話が弾むのは願ったり叶ったりであるし、数値的にも機嫌や好感度が上がっているのなら、何も問題はない。……はずだが、パペットを操っている少女を見る。雄弁に喋るのはパペットの腹話術だけで本人の口はピクリとも動いていない。それは焔華も思っていたが、さっきのよしのんの反応を見るに踏み入れては"行けないところ"と感じた。しかしそれ以上に
(楽しい……人と話すって落ち着いてられる)
焔華もまた、デパートの散策を楽しんでいた。すると
『――おぉ?すっごーい!何かねありゃー!』
よしのんが興奮気味に手をばたつかせ、その場からとてとてと走っていく。よしのんが興味を示したのは、お子様用の小さなジャングルジムらしかった。焔華と士道もその後を追いかける。よしのんは器用に両足と右手で上り頂点に到達する。
『わーはは、どーよ焔華ちゃん士道くん。カッコイイ?よしのんかっこいい?』
声を弾ませながらよしのんは訊いてくる。
「お、おい、そんなところに立ってると危ないぞ」
「カッコイイと思うよ、よしのん」
よしのんは士道の方を向き不満げに
『んもうっ、カッコイイかどうかって訊いてのにぃ―――っと、わ、わわ……っ!?』
よしのんはバランスを崩し、ジャングルジムの上で踊るように手を振ってから、士道の上に落ちた。
「大丈夫!?よしのん、士道……くん?」
落ちたよしのんとその下に居た士道を心配するが、焔華の目に入ったものは、形的にキスをしている形になっていたのだ。
『……』
よしのんは無言のまま、体を起こす。そのタイミングで二人の口が離れた。
『あったたたぁー……ごめんごめん、士道くん。不注意だったよー』
「二人とも怪我は無いみたいでよかった」
焔華は胸を撫で下ろし、よしのんの頭を撫でる。今度は士道の方を見ると、士道の後ろに新たに女の子が居た。
「と、十香……?」
士道は目を見開き、そこにいる少女の名前を呼ぶ。焔華も十香の様子を見る。体は雨で濡れていて荒く肩で息をしていた。走って来たのだろうと分かる。
「――シドー。……今、何をしていた?」
「……っ、な、なにって……」
焔華は察知する、さっきの事故はこの少女にとって気に入らないということと、士道と十香という少女は仲がいいということ。だが、今は……
「――あ、あれだけ心配させおいて……」
「え……?」
「女とイチャコラしてるとは何事かぁぁぁぁぁっ!」
だんッ――!
十香が叫び足を打ち付けた瞬間、その位置を中心に床が陥没し、周囲に放射状の亀裂が入る。
「な、なななな……」
「うそ……」
突然の事態に、士道と焔華は戦慄する。士道は精霊の力を封印して人と変わらないと言われた十香が床を陥没させたことに驚き、焔華は人だと思っていたのにここまでのことが出来ることに驚いた。
士道は琴里に『状態が悪化する前に、何とか十香の機嫌を直しなさい』と言われたが、どうすればいいかわからないでいた。そんな会話をしているうちに、十香は士道とよしのん、焔華のもとに到達していた。鋭い視線で三人を交互に見て、よしのんと焔華に指を指し
「……シドー。お前の言っていた大事な用とは、この娘達と会うためだったのか?」
「あ、いや、それは……」
焔華はどのタイミングで入るべきか考えていた。そんなタイミングで
『……いやぁー、はやぁー……そぉーいうことねぇ……おねーさん?ええと――?』
よしのんは十香の登場でキョトンとしていたがうさぎの顔をいたずらっぽい笑顔にして十香の名前を聞く。
「……十香だ」
パペットに言われ憮然とした様子で返す。
『十香ちゃん。君には悪いんだけどぉ、士道くんは君に飽きちゃったみたいなんだよねぇ』
「な……っ」
「……!?」
よしのんの爆弾を投下するような発言。そこから始まるは、よしのんと十香の口論である。士道がよしのんに対して発言しようとすればそれを十香が止めて黙らせる。よしのんは言葉巧みに十香を攻め立てる。十香は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
『別に十香ちゃんが悪いって言ってるわけじゃないよぅ?たぁだぁ、十香ちゃんを捨ててよしのんの元に走ってきた士道くんを責めることもできないっていうかぁ』
「よ、よしのん。もうそこまでにした方がいいと……」
焔華が苦笑いしながらがよしのんを止めようとするが、
「う、うるさい!黙れ黙れ黙れぇっ!駄目なのだ!そんなの駄目なのだ!」
『ええー、駄目って言われてもねぇ。ほらほら士道くんもはっきり言ってあげなようぅ、十香ちゃんはもういらない子、って』
その言葉を聞いた時、焔華は固まる。そして寒気を感じる。理由なんて分からない、でも、奥底の何かが少し壊れそうな感覚が内側を刺激する。その硬直で遅れた。十香がパペットの胸ぐらを掴みあげた。無論小さなパペットである。よしのんのてから容易く外れる。
「………!?」
よしのんの様子が変わる。目を丸くしたかと思えば、眼球がぐらぐらと揺れ、顔面が蒼白になり、顔中にびっしりと汗が浮かんだ。さらに目に見えて呼吸も荒くなり、指先がぷるぷると震え始めていた
「よ、よしのん……?」
「大丈夫?よしのん?」
明らかに様子がおかしい。士道と焔華はその変化に気づくが、パペットが話していると思っていた十香はパペットに詰め寄り
「わ……ッ、私は!いらない子では無い!シドーが……シドーが私に、ここにいていいと言ってくれたのだ!それ以上の愚弄は許さんぞ!おい、何とか言ったらどうだ!?」
うさぎの耳元を掴みあげながらグラグラと揺らす。
「……!……!」
そんな様子によしのんは声にならない悲鳴を上げた。おっかなびっくりと言った様子で、十香の服を引っ張った。
「ぬ。な、なんだ?邪魔をするな。今私は、こやつと話をしているのだ」
「――かえ、して……っ、くださ……っ」
よしのんは取り返そうとしてぴょんと飛び跳ねる。そして士道の耳には
『―何してるの士道。よしのんの精神状態まで揺らぎまくりよ。早く止めなさい!』
と琴里の声が響く。士道は恐る恐る
「な、なあ、十香。その……それ、返してやってくれないか?」
「………っ!」
その言葉を聞いた十香は愕然とした表情で目を見開き士道を見る。
「シドー……やはり……私よりもこの娘の方が……」
「は、はぁ?いや、そういうことじゃ……」
それと同時によしのんの霊力が高まるのを焔華は感じ取り、士道と十香の前に立つ。それと同時に
「……っ、<
よしのんが右手を上げ真下に振り下ろした瞬間、床を突き破るようにして、その場に巨大な人形が現れる。
「に、人形……ッ!?」
「――なっ、これは――!?」
「これが……よしのんの……!」
よしのんは人形の背にピタリと張り付くと、その背中にある二つの穴に両手を差し入れる。その瞬間、人形の目が赤く輝き、鈍重そうな体躯を震わせながら、
『グゥオオオオオオォォォォ―――』
と低い咆哮をあげる。さらにその人形の全身から白い煙のようなものが吐き出された。
「冷たい!?」
焔華は思わず足を下げる。よしのんが小さく手を引いたかと思うと、人形――<
そして、前方に聳える人形はギロリと十香の方に顔を向けた。焔華はそれを見て動いて、<
「くっ…あっ…!!」
「焔華……!!」
背中に激痛を感じながらも十香の持つパペットを奪い取り、よしのんの方に投げる。よしのんは人形の口に当たる部分でパペットを咥えて割れた窓から屋外に飛び出す。
「……二人とも怪我は無い?」
少し辛そうな声で焔華は質問する。
「ああ……」
「大丈夫だ……」
士道は十香を守るような体制でいた。それを見た焔華は納得した。だが、十香は納得出来ず、士道と少し言い合いをして苛立たしげに地面を蹴るのであった。
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