無職転生 -今度こそ本気だす-   作:無気力な卵

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新たなるステージへ

 

あの家族会議から数ヶ月が経った。

グレイラット家では少しだけ変化があった。

リーリャがパウロと前回よりも仲睦まじい様子を見せている。

とは言っても、よく観察すればほんのちょとだけわかるくらいの変化だ。

 

むしろその原因はパウロにある。ゼニスからのお許しが出たヤツは大義名分を得たとばかりに、露骨にリーリャをエロい目で見ている。

今はゼニスとリーリャの2人とも妊娠中だから大人しくしているが、あの顔はロクでもないことを考えているに違いない。

きっと、出産後には2人まとめての3P計画でも企てているのだろう。それでいいのかパウロよ…。

 

俺はというと、まずヒトガミ像のばら撒きをやめた。ある程度は各地に送れたと思うし、あまり増やしてヒトガミ信者みたいなのができたら嫌だからだ。オルステッドが気付いたら、時期をみて残りを回収したいくらいだ。それでも金策は引き続き行っている。代わりに家にあった「三剣士と迷宮」の本を参考に作った三剣士の像やレッドドラゴンの像を売り出していくつもりだ。

 

平穏な日々が続いている。

シルフィは無詠唱を成功させて中級魔術までマスターしていた。

相変わらず才能豊かなことだ。

そろそろ次の段階に行ってもいいかもしれない。

 

「ねえ、シルフィ今度は剣術を習ってみない?」

 

「え、やだ。だって痛そうだし」

 

まあ、そうだよな。こんな平和な村でわざわざ痛い思いをして剣術なんてやりたくないよな。

 

「でもね、俺はシルフィには剣の才能があると思うんだ。父さんに伝えるから一緒に習ってみない?」

 

「パウロさんに?うーん…でも…」

 

悩んではいるみたいだ。しかし、強引に習わせるのも良くないか。

 

「まあ今はいいから考えておいてよ。それじゃあ魔術の練習はじめよっか?」

 

「うん」

 

焦っても仕方ない。無理やりやらせては伸びるものも伸びないだろうしな。

 

 

 

---

 

7歳になった。

 

ノルンとアイシャが生まれた。

 

可愛いなぁと眺めているが、またしばらく妹たちとは会えなくなるんだよな。

 

妹たちに物心がつく頃、俺は彼女たちのそばにはいないだろう。

 

自分が選んだ道とはいえ、悲しいものだ。

 

転移事件。本当に厄介なモノだな。あと3年か…。さすがに焦ってきた。初めてヒトガミ像をばら撒いてからも、もうすぐ3年になる。そろそろオルステッドには気付いて欲しいところだ。そうでないと計画にかなりの支障がでる。大丈夫なのだろうか…。

 

しかし、平穏な日々もそろそろ終わる。俺も覚悟を決めて動き出さないとな。残り時間はそう多くない。

 

 

---

 

俺はシルフィに会いに来ていた。

この頃になると、すっかり髪も伸びてきてどこからどう見ても可愛らしい少女だ。

魔術の練習も順調で、前回と同じかちょっとだけそれより強くなったかもしれない。

 

「ねえ、シルフィ」

 

「ん?どうしたの?」

 

「俺はこれからこの村を出ようかと思ってるんだ」

 

「え?どうして…?」

 

「やらなくちゃいけないことがあるんだ。しばらく、この村に戻って来れないかもしれない」

 

抱きつかれた。彼女は小刻みに震えていた。

 

「シルフィ?」

 

「い、や、いや……いや!」

 

くそっ。またやっちまった…。幼い彼女を精神的に強くする方法なんて、俺にはわからなかった。それに、シルフィに対して厳しく接することなんてできなかった。できるわけもない。

 

「い、いか、行かないで……うぇ、う、えぇぇ~ん」

 

泣かれてしまった。こんなに幼くて可憐な少女が、前回と同じ目に遭うかもしれないと考えるだけで、心が擦り切れそうだ。脳裏にチラつくのはシルフィが処刑されていたあの日の光景だ。あんなに惨いことがあっていいわけがない。ちくしょう、しっかりしろよ俺。感情を押し殺してでも前に進まなきゃ、それがいつかヒトガミに付け込まれる隙になる。ヒトガミは狡猾だ。相手のウィークポイントを狙ってくるだろう。そうやって俺はまたシルフィを失うつもりか?それこそあっていいわけがないだろうが。

 

「ひっく、やだよぉ、どこにも、いかないでよぉ……」

 

「ねえ、シルフィ聞いてくれる?」

 

俺はできるだけ優しく、彼女の頭を撫でながらゆっくりと言葉をつなぐ。

 

「落ち着いた?大丈夫だよ、少し会えなくなるだけさ。また、必ずシルフィに会いに行くよ」

 

「うぅ…ほん…とに?うそじゃない?」

 

「うん。本当だよ。だからその時まで待っていて欲しい。心を強く持って。絶対に君を迎えに行くから」

 

「う、うん。わかったっ!」

 

まるで自分にも言い聞かせるように言った。

そうシルフィも、そして俺にもだ。心を強く持たなければならない。

単純だがヒトガミに有効だと思う。自分を曲げない信念があれば、ヒトガミが介入する余地はない。仮に周りの誰かを操ってきても、対処できる確率が増える。

シルフィが俺のウィークポイントになるのなら克服しなきゃならない。また逆もそうだ。

 

「ありがとう。俺はこれから強くならないといけない。だからシルフィにも強くなって欲しいんだ」

 

「うん。でもルディ…どうすればいいの?」

 

「それはシルフィが決めることだよ。自分で決めることに意味があるんだ」

 

剣術を習って欲しいとか思うが、結局はシルフィが選ばなくてはならない。この先、彼女がどんな選択をしてもそれが力になるだろう。

 

「わかった。頑張る!」

 

そう強く決心するシルフィをみて、やはり女の子は強いと思った。

 

 

 

---

 

そしてその翌日、家族が揃っている時に俺は切り出した。

 

「父さま。一つワガママを言ってもいいですか?」

 

「いいぞ。言ってみろ」

 

あれぇ?出鼻をくじかれた思いだ。ここは断られるところだろう。対処法をいくつも考えていたんだが…まあいいか。

 

「仕事を斡旋してください。読み書き算術はできるので家庭教師か、魔術師としてのものでもいいです。なるべく給金の高いものがいいです」

 

「わかった。そういう事なら心当たりを当ってみよう」

 

あれぇー?スムーズに話が進み過ぎていて逆に怖い。まさかっ!?パウロはヒトガミに操られているのか?

 

「ありがとうございます。ところで父さま、最近、夢の中で貴方のココロの隙間をお埋めしますとか言われませんでしたか?」

 

「はぁ?なんだそりゃ?」

 

…どうやら違うらしい。

 

「ふふっ。ルディ、父さんったら何かあればルディの力になりたいって最近はずっと言っていたのよ」

 

「はい。ルーデウス様の力になりたいと、最近の旦那様はやけに素直になったものです」

 

「お、おい!母さん、それにリーリャまで…。それは言うなって……」

 

などと言われているが、にわかには信じられない話だ。前回はこのあと、息子を力ずくでねじ伏せグルグル巻きで荷馬車に放り込んだ。挙句それを、知性溢れる偉大過ぎる父親とか抜かしてた男がだ。どう見ても知性より痴性のパラメータが高そうな男だ。

 

そんな風に考え込んでいると、

 

「…なぁルディ。お前に魔術師としての才能があるってのは父さんだって知っている。剣術はまだまだだがな。それにだ。お前が家族のことを思ってあれこれ行動していたのを知っている。俺だけじゃない、ゼニスやリーリャだってそうだろう」

 

ゼニスとリーリャは黙って聞いている。

 

「俺はお前をまだまだガキだとかなんだとか言ってたら、母さん達にどやされたよ。お前がしっかり考えられるヤツだってな。だから、仕事を紹介して欲しいなら探してやる。ただし、しっかりと勤めを果たして見せろ。それができるまでは、家に帰ってくることは許さん!」

 

…変わらないモノもあれば、変わっていくモノもあるか…。ここにきてやっとそんな事実を、目の当たりにした気持ちだった。

 

「はいっ!ありがとうございます」

 

「しかし、お前シルフィちゃんはいいのか?毎日仲良くしてたのに、急に居なくなったら悲しむんじゃないか?」

 

「はい。そのことなんですが、実はもう1つお願いが……」

 

こんな感じで、着々と家をでる準備を進めていく。

 

---

 

そういえば、ロキシーから手紙がきていた。

 

要約すると、シーローン王国に滞在していること。迷宮を攻略して王子の家庭教師になり、宮廷魔術師に任命されそうとか。水王級魔術師になったとか、魔術に行き詰ったらラノア魔法大学に行ってみてくださいとのことだ。

 

俺はこれを読んで、ロキシーのパンツを盗んだり、やりたい放題している第7王子を次に会ったら殺すと静かに心に決めた。

 

前回と違う箇所も、もちろんあった。

 

まず無詠唱魔術だ。ロキシーはあれから火魔術、風魔術、土魔術を中級まで無詠唱に成功したらしい。迷宮を攻略できたのはあなたのおかげです。…とかなんとか、それは俺がなにもしなくてもできたと思うが…。物凄く感謝されて、ルディには必要ないかもですが、何かあれば頼ってくださいと追加されていた。

 

おぉ、神よ。なんと頼もしいお言葉。

涙が出そうだった。

 

…理想の形だった。きっとロキシーとは運命の赤い糸で結ばれているに違いない。

そう、今回はなにもロキシーがシーローン王国に滞在してなくても、打つ手を考えていた。最低限、フィットア領から離れてさえいてくれればと。

それでも、シーローン王国への滞在はベストであった。これで打てる手が広がる。

 

前回、俺が転移事件に巻き込まれるまでの一連の騒動の中で、転移事件に巻き込まれない知り合いというのは、非常に少ない。

その中でも、友好的だったのはロキシーくらいだろう。

彼女の存在なくして、この騒動の対策はあり得ない。

 

「その時がきたらお力をお借りします、先生」

 

まずは順調に進んでいると確信した俺は、決意を新たに旅支度を進めていった。

 

 

 

---

 

そして、旅立ちの日。

 

どうやら、ギレーヌが迎えに来てくれたみたいだ。

 

「初めましてルーデウス・グレイラットです」

 

「パウロの息子にしては礼儀正しいのだな」

 

「ギレーヌだ。明日からよろしく頼む」

 

ギレーヌ・デドルディア

 

剣神流にしてマスタークラスの剣士だ。獣族の優れた嗅覚と聴覚と合わせて高い索敵能力を持つ。

特筆すべきは、彼女の持つ「魔力眼」だろう。眼帯をするところから、十全には使えないのだろうか。

個人的には今回、優先して欲しい魔眼だ。魔術の研究だけじゃなく、魔力を視野化できるというのはそれ自体が高い索敵能力になる。

後手を踏みたくない魔術師としては、喉から手が出るほど欲しい。

ロキシーにも、この魔眼をどこかで手に入れて欲しいところだ。

そうすれば、眼帯をして完全なる魔女っ娘ロキシーの出来上がりだ。

 

ああ、神が新たな高みへと昇っていく光景がみえる!

俺は、お祈りをした。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「あぁ、私の可愛いルディ。行ってしまうのね。元気で頑張るのよ!」

 

「ルーデウス様。どうかお元気で。無理はなさらないように」

 

ゼニスとリーリャが赤子を抱えながら、見送りをしてくれた。

 

「行ってきます。母さん、リーリャ」

 

そして、ふとパウロを見る。

 

「ん?なんだルディ。寂しいのか?」

 

若干にやけ顔のこの男に言っておこう。

 

「父さん。なにかあっても俺は大丈夫です。それから母さんは死んでも俺が守ります。だから父さんができることをしていてください」

 

そう告げると、返事を待たずに荷馬車へと乗り込んでいった。

 

 

 

 

 

--- パウロ視点 ---

 

父さんか…。全く息子ってのはこうも早く大人になっちまうもんなのかね。

しかも、アイツ俺なんて言い方しやがってよ。

この先アイツはもっと立派になっていくんだろうな…。

 

俺はルーデウス、お前が家族の為に動いてくれていたのを知っている。

欲望のままリーリャを抱いた俺なんかより、よっぽど立派だな。

ナンパをしまくっていた時は、どうなるかと思ったが…。

だが、俺はお前の行動を見ていて悟ったぜ。

 

まさか自分の母親を口説き落とす為に、練習していたとはな。

すげーヤツだよルーデウス。

俺には考えもつかないぜ。

 

そして、ルーデウスが去ってしばらくして。

 

庭先に入る足音が聞こえてきた。

 

ここにも息子に口説き落とされた娘がいる。

 

シルフィエットだ。

 

なんつー真剣な目をしてやがるんだよ。家の息子はこの子になにを伝えたんだろうか…。

7歳の娘がするような目つきじゃねえっての。

 

「パウロさん。今日もよろしくお願いしますっ!」

 

最初ルディから、シルフィに言われたら剣術を教えて欲しいって聞いた時は、こんな華奢な少女がって思ったが。

 

中々に根性ある子だ。ロールズも良い娘を持ったな。

 

ギレーヌにはルディに剣術を教えてあげるように頼んだ。

 

また、アイツは強くなるだろう。

 

俺にできることか…。

 

よし、ちょっと気合を入れて剣を鍛えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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