無職転生 -今度こそ本気だす-   作:無気力な卵

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エリス・ボレアス・グレイラット

 

 ブエナ村を出て、現在はギレーヌと二人荷馬車で移動中。

 

「ギレーヌさん。父さんからは剣術の鍛錬を付けて頂けると聞いています。明日からよろしくお願いします」

 

「ギレーヌでいい。こちらも魔術の件よろしく頼む」

 

今回も家庭教師をするにあたってギレーヌに剣術を教えてもらい、魔術を教える事になった。

前回との違いは、俺がラノア魔法大学へ入学する話をしていないため月の給金は銀貨2枚から5枚に上がった。なんでもこの辺だと家庭教師は月銀貨5枚が相場らしい。

ギレーヌに鍛錬を付けてもらうことや自身が子供なのを考えれば十分に優遇されている気がするが、教えるもう一人を考えれば何とも言えない心境だ。

 

「では、私はルーデウスと呼んでください。父さんからギレーヌは剣王様だと聞いています。失礼ですが、今更なぜ魔術を習おうと思ったんでしょうか?」

 

「ああ、そのことか。昔、冒険者をやっていたときは仲間からバカだなんだと言われててな。そんなあたしが魔術を使えるようになればどうだ?そんな奴らの驚く顔が見れると思ってな」

 

なるほどと相槌を打ちつつ、指先に魔力を展開させて水道の蛇口を捻る要領で水を出したりライターのイメージで小さい火を灯したりする。

 

「確かにこんな風に魔術を使えれば、飲み水や火の扱いに困りません。戦闘面では役に立たないかもしれませんが、なにかあった時の為に覚えておいてもいいかもしれません」

 

どうやらギレーヌの琴線に触れたらしい。驚いた顔をしつつ、尻尾はフリフリと揺れていた。

 

「器用なヤツだなルーデウス。あたしでもできるようになるのか?」

 

「ええ、そうですね。訓練次第ではありますがギレーヌにもできるようになると思いますよ」

 

よろしく頼む、とキラキラした目で再度言われた。こんな感じでギレーヌの好感度を少しずつ稼ぎながらロアの街を目指していく。

なんでそんなことをするかって?そりゃ、この後の展開を考えて気が重いからさ…。

 

エリス・ボレアス・グレイラット。

俺より2歳年上で今は9歳くらいか?これから家庭教師を務める生徒になる。この頃の彼女はかなりの乱暴者で手が付けられないほどだった。貴族達が通うロアの学校では、気に食わないヤツを片っ端からぶん殴り追い出される。家庭教師は何人も彼女に手を焼いて辞めている。父親であるフィリップも彼女を貴族としての人生を送らせるのは諦めているほどだ。

 

俺は未だに、彼女と仲良くなる手段について思いついていなかった。

 

 

 

---

 

ブエナ村を昼前に出て、夕刻に迫る時間帯になるとボレアス家の館に到着した。

ギレーヌとは別れ、応接室で待機中だ。

ここロアの街はフィットア領内で一番栄えている城塞都市になる。商売も盛んだし、冒険者も多い。アスラ王国の首都アルスまで行くと、ライフラインが国内である程度は完成されている。そんな理由もあって駆け出しの商人や冒険者にとっては、仕事にありつけるロアの街の方が住みやすいのかもしれない。そしてその城塞都市の中心部に立つ城。そこの領主を務めるのが、恐らくこの後に登場するサウロス・ボレアス・グレイラットだった。

 

「ここか!」

いかにも武闘派という出で立ちのこの男こそ、エリスの祖父でありアスラ王国の四大貴族の領主という肩書を持っている。鋭い眼光に、壮年を覗わせる白髪交じりのダークブラウンの髪がダンディだ。最も見た目以上に、胆力、活力に満ちており老いを感じさせない剛毅な人物である。

 

「初めまして。パウロ・グレイラットの息子でルーデウス・グレイラットと申します」

 

右腕を胸に当て軽く頭を下げる。

 

「ふん、パウロの息子にしては礼儀正しいではないか!よろしい!この館への滞在を許す!」

 

嵐のようにやってきて去って行った。詳しくは覚えてないが、この人は転移事件後に一旦は助かるが領主の責任を取らされて処刑される。俺は貴族間のやり取りに明るくないし、どうすればこの人を助けられるのかセーフティラインが全くわからん。自ら矢面に立ちそうな性格も災いしそうだ。仮に前回より転移事件の被害者の数を減らしたとして、責任を逃れることができるのだろうか?せめて死刑はやめて欲しいよ。

 

「どうしたトーマス。扉が開けっ放しじゃないか。あと、父さんがやたら上機嫌だったけど、何かあったのかい?」

 

エリスの父であるフィリップがやってきた。やや癖のあるサラリとした茶髪。父親であるサウロスとは一変して体の線は細く知的で、軽薄そうな印象の人物だ。だけど、前回はなにかと俺に目を掛けてくれたし気の良い人物だ。腹黒い面もあったが、だからこそ貴族社会で戦っていくならこのような人物の方がいいだろう。前回は妻のヒルダ共々亡くなってしまったが、彼が今回生き残ればサウロスの件もなんとかできそうな気もする。

 

「これは若旦那様。申し訳ございません。先ほど大旦那様がルーデウス様に会われまして。気に入られたようです」

 

トーマスね…。なんだか一気に登場人物が増えてややこしいが、コイツはエリスをどっかの貴族に売ろうとしていた。今回は自演の誘拐策なんて取る気はないけど、妙な動きをされても困る。

 

「ふぅん。父さんが気に入るような子なのか……これはちょっと人選を誤ったかな?」

「初めまして、ルーデウス・グレイラットです」

「ああ、私はフィリップ・ボレアス・グレイラットだ。なるほど、挨拶もしっかり学んでいるようだね。よろしく頼むよ」

 

フィリップはソファにどっかりと腰を下ろす。

 

「君、女の子は好きかい?」

「はい。好きです」

「そうかい、じゃあ合格だ」

 

この流れは覚えていたけど、女の子が好きだと合格する意味はよくわかっていない。ボレアス家では女好きしか雇わない伝統とかあるのだろうか?

 

「ハッキリ言って、君にはあまり期待していない。パウロの息子だから、とりあえず試してみようってだけだ」

 

まあ、今だからわかるけど、きっとこの人は誰が相手でも期待はしないだろう。エリスをどうにかできる人なんて中々いないだろうし。

 

「そうですね、まずは会ってみて話してみないと何とも言えないですね」

 

「随分と冷静だね。君の話はパウロからも聞いてるよ。随分と優秀なんだってね。なんでも村中の女をナンパしまくっていたらしいじゃないか。女の扱いには慣れてるって事かい?」

 

え?何の話だ?そんな事実はないのだが。これもパウロからの援護射撃なのだろうか…。ならここは乗っておこうか。

 

「ふっ。そうですね、私にかかれば貴方の娘さんくらいたいした事はないでしょうね」

 

「それはそれで娘が心配だよ。まぁ、ここで話をしていても埒があかない、娘に会わせよう。トーマス、案内してあげて!」

 

こうしてエリスとの対面を迎える。あれ?こんな流れで大丈夫なのだろうか…。

 

 

---

 

キッとつり上がった眦、ウェーブのかかった髪。

原色のペンキでもぶちまけたのかと思えるほどの真紅。

今はまだ幼さを多く残しているが、その中に見え隠れする猛禽のような苛烈さ。

俺は知っている。この女は将来かなりの美人になる。だが、彼女の発する熾烈なオーラに大抵の男は尻込みしてしまうだろう。とんでもないバケモノじみた力を手に入れることも相まって、彼女の攻略難易度は極めてハードだ。彼女をそこらの貴族令嬢だと思うのは、根本的に間違っている。

 

そして俺は悩んでいた。今回、この凶暴なお嬢様とどうやって仲良くなればいいのかと。

剣王ギレーヌと一騎打ちでもして、実力を認めてもらう?一見して悪くない案にも思える。確かにギレーヌに勝てればエリスの俺への態度も幾分、軟化しそうだ。

だが、冷静に考えて欲しい。仮にギレーヌと勝負して勝ったとする。周りからも一目置かれるだろう、なにせ剣王だからな。

そうやって噂が広がり、例えばだ。ギレーヌが剣の聖地とかに「あたしよりも強いヤツがいる」みたいなことを言ったとしよう。

そうすると「俺より強いヤツに会いに行く」みたいなノリで剣帝とか剣神みたいなヤツがゾロゾロとやってきかねない。なにせ、剣神流は気性が荒いからな。そんなことになったら、ヒトガミを倒す前にゲームオーバーって寸法さ。コンティニューできないんだからやめて欲しい。

下手に実力を見せるのは悪手だろう。

 

「初めまして、ルーデウス・グレイラットです」

 

前回、彼女とは結局分かり合えることがなかった。長い付き合いだったにもかかわらずだ。いつもどこからかやってきて、ちょっかいを掛けてくる鬱陶しい女だと俺が思っていたからだ。戦っても勝てなければ、彼女からいつも逃げていた。彼女が自分にとって邪魔な存在だと勝手に決めつけていた。

 

「なによ、私よりも年下じゃないの!こんなのに教わるなんて冗談じゃないわ!」

 

しかし、彼女はずっと俺の傍にいたいだけだった。ずっと俺の事を好きでいてくれた。俺がどんなにクズな人生を送っていようがだ。見捨てれば良いのに最後の最後まで、俺を庇って死ぬまでずっと。嘘みたいな話だった。

けれど、そんな風に思うのは俺がずっと彼女から目を背け続けていたからなんだろう。

 

だからこそ思った。

悩んでいたというよりは、決心が付かないだけだったのかもしれない。

今度こそ本気で彼女と向き合わなければならない。例え、その結果がどうなろうとも。

 

「まぁまぁ、これから一緒に頑張りましょう。よろしくお願いしますね」

 

俺は極めて友好的に、両手で腕を組んでふんぞり返るエリスの手を取って握手をした。

 

パァン!

 

「いきなり何するのよ!」

 

あれ?おかしいな?殴られたぞ。それは完全にこっちのセリフだろう。

俺は再度、めげずに握手を交わす。

 

「そう言わずに、握手ですよお嬢様。友好の証みたいなもんです」

 

パァン!パシーン!ドカッ!

 

お礼に3発追加で殴られた。

 

「だから!なんで!私に!勝手に触るのよ!」

 

どうやら触られることもお気に召さないらしい。

しかし、それでも再度、握手を交わそうとする。

俺は無敵だった。今回は殴り返すつもりもない。そんなことをしても意味のないことは既に知っている。

 

パァン!パシーン!ドカッ!

 

また殴られた。しかし俺は無敵だった。

このために治癒魔術の無詠唱化に成功させたと言ってもいいくらいだった。

 

 

パァン!パシーン!ドカッ!

パァン!パシーン!ドカッ!

パァン!パシーン!ドカッ!

 

「はぁはぁ…あんた!なんなのよ!」

 

しばらく殴られていると、どうやらエリスの方が疲れてきたらしい。俺はこの瞬間自分の勝利を確信した。

 

「いえ、だから握手をしようとしているだけですよお嬢様」

 

そしてまた手を差し出す。

 

「ふん!今日の所はこれくらいで勘弁してあげるわ!」

 

そう言って踵を返し去って行った。

 

俺は後ろでポカーンとしているギレーヌとフィリップに向かってこう言った。

 

「ふっ。大した事ないですね」

 

「あはは。君面白いね。しかし意外にタフだね。大丈夫なのかい?」

「見直したぞルーデウス。まさかエリスお嬢様相手に正面から挑むなんてな」

 

…正面からサンドバッグにされていただけです。

いきなり上手くやれるとは思ってない。少しずつ彼女と向き合っていこうと思っていた。

 

 

 

 

そんな感じで、翌日もその次の日もなにかとエリスに絡んでは、殴られてを繰り返していた。そして次第に殴られなくなってきた。

 

「もう!なんなのよ!」

 

「なんなのではなくルーデウスですよ。エリスお嬢様。そろそろ授業受けて貰えませんか?」

 

「いやよ。でもエリスでいいわ!」

 

「ありがとうございますエリス。なんで授業は嫌なんですか?」

 

「だって必要ないもの!」

 

ふむ、確かに将来のエリスの強さを知っている俺からすると魔術が必要とは一概には言えない。しかし魔術には多分興味があるんだよな。読み書きや算術も覚えておいた方がいいしどうしたものか…。

 

俺は火の玉をどんどん展開させて、ジャグリングの要領でくるくると回してみる。

 

「わー!すごい!ルーデウスすごいわ!」

 

凄い凄いと連呼されて調子に乗った俺は「お次は」といい、今度は水を指先に展開させて噴水みたいに水のアーチを作る。どっかの宴会芸の神様みたいだ。

 

「わー!きれい!ねえ、私にもできるようになるの?」

 

エリスは目をキラキラとさせていた。

 

「頑張ればできるようになりますよ!読み書きや算術も受けてくれれば、特別に教えてあげましょう」

 

「わかったわ。やるわよ!」

 

どうやら上手くいったようだ。しかし、この時の俺は調子に乗っていた。あるいはエリスに殴られ過ぎて頭がアッパラパーになっていたのかもしれない。

俺は大げさに溜息を吐いた。

 

「はぁーー。いいですかエリス。人にモノを頼むときには礼儀というものがあるでしょう?ボレアス流の挨拶というものをとくと見せて頂きたい!」

 

エリスもこちらの意図に気付いたのか、顔を真っ赤にしながら睨んでくる。

 

「そんな顔をしても無駄です。やらないと教えませんよ?」

 

意を決したのかエリスは長い赤髪を根本から掴み、ツインテールを作る。そしてパチリとウインクを一つ。

 

「え、エリスに魔術を教えてくださいニャん☆」

 

んーダメだな。怒りや屈辱の感情が出過ぎている。エリスには萌えというものが全くわかっていない。

 

「いいですかエリス、まずお尻はもっとクッと突き上げるようにして腰はもう少しくねらせます。そして何より大事なのは表情です。そんな怒り心頭ではだめです。恥じらいが重要です。あるいは笑顔でも構いません。もう一度やってみてください」

 

殴られた。

 

「なんなのよ!ふん!」

 

そう言って立ち去ろうとする。また、失敗か。しかし諦めるわけにはいかない。俺は本気で彼女と向き合わなければならない。

俺は悟っていた。前回の反省を生かすならここがターニングポイントだと。ここで彼女から萌えを取り上げてしまったことが諸悪の根源だったと。

 

そんな風に思っていると、

 

「ルーデウス!早く行くわよ!」

 

どうやら授業は受けてくれるみたいだ。これから彼女には萌えというものをしっかりと教えなければ。俺はかつてないほどやる気に満ち溢れていた。

 

 

---

 

ギレーヌとの剣術の鍛錬が始まった。

 

「よっ、ほっ、なんの。はっ」

 

「くぅ」

 

「よし!そこまで!」

 

流石にまだまだ中級にもなっていないエリスには負けない。そのうち抜かれるだろうが。エリスは自分に殴られてばかりの俺しか見ていなかったからか、剣術で勝てないとわかると幾分、角が取れてきていた。

 

「ふむ、ルーデウス。パウロによく鍛えられているようだな」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「しかし、まだまだ無駄な動きが多い。調子に乗るな」

 

そりゃ、剣王からすれば小手先だけの技術ですよ。反論の余地もない。

 

「エリス。お前はまだまだ伸びる。これに懲りずにしっかりと鍛錬することだ!」

 

「はいっ!」

 

エリスの方はやる気を増しているようだ。剣術に関しては、俺になにかできることもないが心配はしていない。むしろ彼女は前回のように強くならなくていいとさえ思っている。剣士として上級、あるいは聖の位もあればこの世界で十分にやっていける。前回の彼女は強くなり過ぎた。それ故に俺を追いかけ回し、彼女の幸せを奪ってしまったという側面もあると思ったからだ。

 

「ルーデウス!もう一本勝負するわよ!」

 

まぁ、放っておいても勝手に強くなりそうだが…。

 

 

 

 

今度は俺の魔術の授業だ。

 

俺はエリスとギレーヌそれぞれに初級の簡単な魔術教本を渡した。

 

「2人には初級の魔術を覚えてもらいます。お勧めは火魔術と水魔術です。この2つを覚えれば冒険者生活などでも役に立ちますし何かと便利だからです」

 

「冒険者!」

 

エリスはワクワク感を抑えられないようだ。少年ジャ〇プの主人公みたいだな。そんなにまだ見ぬ敵に会いたいんだろうか?

 

「そうですね。もし仮にエリスがどこかで冒険者をするなら必要になってくると思うので、覚えた方がいいでしょう」

 

「そうね!頑張るわ!」

 

「まずは、渡した魔術教本の読み方を勉強しながら、同時に読み書きも並行してやっていきましょう。算術に関しては別で時間を作ります」

 

2人はコクリとうなずいている。

 

「2人には目標を持ってもらいます。まずは火魔術、水魔術、土魔術、風魔術の初級魔術から2つ以上の習得を目指してください。そして魔力制御をマスターしてもらいます。ところでギレーヌ、魔力制御というものがなんだかわかりますか?」

 

「いや、わからん」

 

「そうですね、ギレーヌは熟練の剣士なので「闘気」を纏うことができると思います。あるいは剣神流の極意みたいなのがあればそれを思い浮かべてください。「闘気」やその道の極意と魔術制御は似たような性質を持っていると私は考えています。なので最初は意識的にその感覚を思い浮かべるだけでいいです」

 

「なるほど、それならあたしにもわかりそうだ」

 

「ちょっと!私にはわからないわよ!」

 

「大丈夫ですよ。エリスはエリスでゆっくり覚えていけばいいのです。焦らなくてもしっかりできるようになりますよ」

 

「そうなの?わかったわ」

 

ロキシーとの経験から俺はこの2人に無詠唱を教えるのは、極めて難しいと思っている。ロキシーほどの魔力量があって、魔力を欠乏寸前まで使い続けて習得に2年かかった。彼女たちが本気で努力して数十年あれば覚えられるかもしれないが、そこまでは彼女たちも求めていないだろう。

 

 

そして今回、魔力制御を覚えてもらう事の本質。それは魔術にはあまり関係がない。

 

「ところでギレーヌ、眼帯をしている方って魔眼ですよね?外さない所を見ると、巧くコントロールできないのでしょうか?」

 

「ああ、そうだな。短い時間なら使えるが、長時間は厳しい」

 

「先程話した魔力制御と魔眼というのは、実は密接な関係を持っています。魔力制御ができるようになれば、今よりもっと魔眼が巧く使えるようになると思います」

 

「なるほど!そうなのか。それはありがたいな」

 

「魔眼!かっこいい!」

 

はい。来ると思ってました。

 

「エリス、なんでも魔大陸にはご飯を差し出すと魔眼を授けてくれる幼女がいるみたいです。もし、強くなって機会があれば探しに行ってみてもいいかもしれません」

 

「魔大陸!いいわね!行きたいわ!魔眼も欲しいわ!」

 

エリスのテンションはだだ上がりだった。

 

「なら、魔術をしっかりと勉強しないとですね。今のまま魔眼を貰っても、制御できずに失敗して失明するのがオチです。頑張って覚えていきましょう」

 

「わかったわ」

 

仮にエリスが前回と同じくらい強くなって、「予見眼」とか使えるようになったら俺は逆立ちしても勝てそうにないな。

 

「ルーデウス。あたしもよろしく頼む」

 

ここで俺はまた調子に乗った。

 

「はぁー。いいですか、ギレーヌもボレアス家の護衛になって長いですよね。ボアレス家の挨拶を知らないわけじゃないでしょう?」

 

俺は悪い笑みを浮かべながらギレーヌに問う。

 

「お前まさか、あ、あたしにもそれをやらせるつもりか?」

 

物凄い殺意を感じる。怖いけど、負けられないんだよこっちは。

 

「まさかできないわけないですよね?ボアレス家の礼儀です。ここは腕の見せ所ですよギレーヌ」

 

「ぐぐぐっ……。わかった」

 

よし!頑張れギレーヌ!負けるなギレーヌ!

 

「あ、あたしに!魔術を!教えて!くださいニャん!」

 

あーこれは完全にダメだわ。アウトだわ。声にドスが効いていらしゃる。膨大な闘気が視野化して見えるわ。

 

「わかりました。エリス、お手本を見せてあげてください!今こそ修行の成果を見せる時です」

 

「わ、私もやるの?」

 

エリスは若干顔を引きつらせていた。しかし、容赦はしない。これも世界の定めなんだよ。

 

「もちろんです。さあ!お願いします」

 

俺は煽りまくっていた。

 

「エリスに魔術を教えてくださいニャん☆」

 

「オオオォォォーいいねいいね!その調子ですエリス!」

 

「冒険者になりたいニャん☆」

 

腰の突き出し方といい、以前ほど怒りの感情もなくなっていた。

確実にエリスは成長していた。

 

「魔眼も欲しいニャん☆」

 

そこには確かにあったのだ。萌えというモノが。

 

俺は感激した。ついにやった!やり遂げた!万感たる想い。

 

「ありがとうエリス。俺はエリスがやればできる子だって信じていたよ」

 

「ふん!よくわからないけど、ルーデウスが嬉しいならそれでいいわ!」

 

「ありがとうありがとう」と口にする俺をギレーヌは終始、冷ややかな目で見ていた。

 

 

 

---

 

後日。

 

フィリップに呼び出された。

なにか失敗したかな?と内心では少しビビっていた。

 

「エリスとは上手くやってくれているみたいだね。父として礼を言うよ。ありがとう」

 

どうやら違ったらしい。

 

「はい。順調に魔術、読み書き、算術の授業を進めています」

 

と伝えた所で、いきなりドアが「バンッ!」っと音を立てて開いた。

 

「ルーデウス!ここにいるか!」

 

サウロスだった。

 

「はい。サウロス様どうされましたか?」

 

「ルーデウス!よくやった!エリスが可愛くわしに挨拶してきてのぉー。なんでもお前が教え込んだそうではないか!」

 

バシンバシンと肩を叩きながら「よくやった!」とか「でかした!」と頻りに褒められた。

…どうやら俺が教え込んだボレアス流の挨拶がお気に召したようだ。

 

「父上!それは本当ですか?ルーデウス。君はなかなかわかっているじゃないか」

 

フィリップも上機嫌だった。ボレアス家はこんなんで大丈夫なのか?

 

ともあれボレアス家の男陣営からが気に入られるようになった。

 

「ふん!」

 

チラっと通ったヒルダには嫌われてるみたいだが…。

 

 

 

 

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