Re:もしかして異世界
目覚めると、金髪のどこか懐かしい女性が俺をのぞき込んでいた。
美少女……いや美女と言って良いだろう。
(ん?なんか既視感があるな。誰だ?)
隣には、同じくこれまたどこか懐かしい茶髪の男性がいて、ぎこちない笑みを俺に向けている。
強そうでワガママそうな男だ。筋肉が凄い。
DQNっぽいが不思議と嫌悪感はなかった。
ってそうじゃない。
「あぁ、口元があなたにそっくりよ」
金髪の美女がそう言いつつ、俺に微笑みかけている。
「そうだな。でも目元の優しそうなところなんて母さんにそっくりだよ」
男の方も、親バカ丸出しの緩い顔で微笑んでいた。
ってだからそうじゃない。
「旦那様、奥様、おめでとうございます」
どこからか、三人目の声が聞こえる。
姿は見えないが、懐かしい声だ。
だからそうじゃないってばよ。
あまりの出来事にラーメン大好き忍者の口調になりかけたが…。
おーけい。うん。落ち着いた。
……パウロ、ゼニス、リーリャ。記憶よりかなり若いが、見間違えるはずもない。
「あー、うあー」
体も当然動かない。
指先や腕が動く感触はあるのだが、上半身が起こせない。
けれど、この感覚も覚えている。
「なんだか赤ん坊にしてはやけに大人しくないか?」
パウロが少し心配そうにつぶやく。
…なるほど。
前回は正直何を言ってるかさっぱりだったが、こんな感じだったのか。
「確かに泣かないわね。でも、強い子になりそうねルディ」
ルディ。この呼称で呼ぶ人はそう多くない。
パウロにゼニス。後はシルフィとロキシーくらいだろう。
正直、なんの因果でまた赤ん坊に戻っているのかとか。
また、シルフィやロキシーに会いたいとか。
今度こそ、シルフィやロキシーそれにエリスを救いたいとか。
守れなかった、失ってしまった人たちを助けたいとか。
今度こそヒトガミをぶっ殺してやりたいとか。
…色々と思うところはある。
考えなきゃいけないことは山ほどある。
「ルディ。父さんですよーべろべろばー」
そう考えなきゃならないことはたくさんあるが、とりあえず今は…
「おぎゃあーーーーーーーーーーあぁーーーー」
赤ん坊らしく、精一杯泣くところから始めてみようか。
---
一ヶ月の月日が流れた。
もう一度同じ人生を繰り返したところで、赤子の俺にできることは少ない。
ゼニスやリーリャが常に居るし、そもそもまだ満足に動くことすらできない。せいぜい不快感を持たせぬように、母親の乳を舐めたりせずに尿意や便意が近くなった時だけ泣きわめくくらいだ。
「おぎゃあーー」
はいさっそく今日も元気にイキましょう!
「おーよしよし。お着換えしましょうねー」
まあ、こんな感じですくすくと育っている。
あとは、そうだな。
何もできない状態だからこそ、考える時間は十分にある。
この体はすぐに眠くなってしまうが、それでも前回、前々回の自分の記憶がある。それを今後に生かす為に、まずは自分の記憶を辿り、忘れないように思い返していた。
---
半年の月日が流れた。
記憶を遡りながら、今後の指針というかあれこれと未だに考えていた。
この頃になるとハイハイくらいはできるようになる。
高速ハイハイじゃないが、できる限り動いてはお乳を吸って、吸って、吸いまくる。
この程度の事しかできない自分が情けない。
前回ほどではないが、ゼニスの乳へと執拗に吸い付く俺を見たリーリャの視線はやはり厳しいものだった。ちくしょう。
少しでも早く体を作りたいところだ。
「目を放すとすぐにどこかにいっちゃうの」
「元気でいいじゃないか。こんだけ元気ならきっと強い子に育つぞ」
「そうね。きっとすごい優秀に違いないわ」
…相変わらずと言うべきか、親バカっぷりを発揮している。
いや、そんな言い方は良くないな。前回は色々失い過ぎて心がすさんだが、このまま殺伐とした息子に育ってしまうのはあまりにも申し訳ない。
息子が殺人鬼のような目つきになってしまったら、余計に心配をしてしまうだろう。
ピュアにいこう。
今日からはピュアデウスだ。
長い間忘れていたが、こうやって愛されて育ったんだ。
パウロにゼニス。それにリーリャ。
今回は絶対に幸せになって欲しいものだ。
生まれた時から言葉が理解できたのであまり心配はしていなかったが、やはり文字に関しても問題なく読めた。
人間語、獣神語、闘神語、魔神語。そして死ぬ前に覚えた龍神語。
この5つの言語を最初から使えるのは大きい。
魔神語の読み書きに関してはうろ覚えではあるが、話す分には問題ないだろう。
前回の俺は幼くして習得をしていたが、それなりに時間がかかった。
その分の時間を他に回せると考えれば、大きなプラス材料だ。
ただ、こちらも予想通りではあったが、やはりと言うべきか魔力量に関しては完全にリセットされている。
こっそり魔術を使って見たところ、即行でぶっ倒れた。
しかし、こちらも前倒しで魔術を行使して、魔力量を増やせるだろう。
まさか生後半年足らずで無詠唱の魔術をぶっ放す赤子は、異世界広しとはいえ俺くらいだろう。
現在の状況に関してはそんなところだ。
さて、そろそろ今後の事も話していこう。
結論から言えば、ヒトガミは絶対にぶっ殺すって事だ。
前世の俺はヒトガミに到達できなかった。あるいは今回、ヒトガミに関わらずひっそりと暮らしていける未来も存在するのかもしれない。
むしろ、そうするべきと考える事もあった。
未来が分かる今の俺なら、ヒトガミの思惑を読んでロキシーの死を防ぐ事はできるかもしれない。
迷宮で亡くなったパウロを助ける事だって可能だろう。
だがな、到底許せるモノではない。
いかに、家族の前ではピュアデウスでいようと決めた俺でも、こいつだけは絶対に許せない存在だ。
それに、パウロやロキシーを助けたとしても…。
またさらにその先の俺の知らない未来で、ヒトガミがロキシーや俺の家族を狙ってくる事は十分に考えられる。
結局はどこかで決着を付けなければならない。
ヒトガミを倒さなければ安穏と暮らすなんて、俺にはできそうにない。
それを踏まえてどうするのかってことが一番の悩みではあったが、基本的には前回の道筋に沿って進めるつもりだ。
理由はたくさんあるが、一番はヒトガミの思惑を読みやすくするためだ。
とはいえ現状で、打てる手段は限られている。
差し当たって最初の山場は、10歳の時にフィットア領で起こる転移事件だろう。
この転移事件の後に初めてヒトガミと会うことになる。
逆に言えば10歳まではヒトガミと接触していなかった。
ヒトガミが俺の存在に気付いていない可能性が高い。
もし、ヒトガミが俺に気付いているのなら、家庭教師としてやってくるロキシーに何らかの手段を用いるはずだ。
前回の記憶から、ヒトガミはロキシーを殺したがっていた。
そして恐らく、ロキシーと俺が結ばれる事を恐れていたんだろう。
ゆえに、転移事件が起こるまでは準備期間。
この期間でいかにヒトガミへの対策が取れるかが、勝負になってくる。
残された時間は9年と半年。
この幼い体では行動も大幅に制限される。
正直、厳しい戦いだ。
心が折れそうになる。
前回で失った妻、多くの仲間。
たくさんのものを失った。
これ以上奪われたくない。
その為にもヒトガミから逃げずに立ち向かっていこう。
ヒトガミが邪魔な存在なら、今度こそ見つけ出して倒して見せる。
前回は果たなかった誓いをもう一度、深く心に刻もう。
今度こそ、本気でこの世界で生きて戦っていくと。