無職転生 -今度こそ本気だす-   作:無気力な卵

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踊るグレイラット家

--- パウロ視点 ---

 

俺にはもうすぐ4歳になる息子がいる。

 

できた息子だった。…そう、よくできた息子だ。

 

3歳にして中級魔術をいきなりぶっ放しやがった。

 

俺は息子を剣士にしたかったが、少し母さんと口論になったところをリーリャにたしなめられた。剣も魔術も両方教えればと言われて、家庭教師を雇うことにした。

 

母さん…ゼニスは大喜びだった。天才だの才能の塊だの大はしゃぎ。ゼニスは昔から夢みる少女のようなところがあった。いつもキラキラしていて純粋なのだろが、騙されやすいとも言える。もう少女って言える歳じゃ…げふん。それはまあいい。さすがに3歳の息子が母親に対してなにか企むなんてことはないだろう。…そう、思っていた。

 

ロキシーがやってきた。彼女は魔族だったが、頑張り屋さんで息子ともゼニスやリーリャともすぐに馴染んだ。そんな彼女は言っていた。

 

「ルディは本当に優秀です。おそらく将来は歴史に名を残す魔術師になるでしょう。まさか私もこんな小さな子供に魔術を学ぶことがあるとは夢にも思いませんでした」

 

私を雇ってくれてありがとうございますとか、できればもう少し学ばせてくださいとか。

 

…空いた口が塞がらなかった。

 

ロキシーは冗談をいうタイプではない。しかも水聖級魔術師だ。熟練の魔術師だ。冒険者をやってた時もそんなヤツほとんど見たことがない。そんな彼女が言っていた。

 

…いやいや、まてまて。さすがにこれはおかしくないか?3歳で魔術を使える。この時点でもおかしかったが、3歳児が熟練の魔術師に魔術を教える?…っはは。俺は夢でもみているんだろうか。息子が優秀なのは嬉しい。嬉しいが…ちょっと怖い。

 

この頃になるとゼニスは息子をさらにもてはやした。

 

この子は神童だわ、素晴らしい、息子を讃える賞賛の言葉。

 

ゼニスはミリス教だった。とはいえ、冒険者としての活動もあり魔族に対する偏見はない。ロキシーも快く迎えた。それはいい。

 

だが、最近のゼニスは息子を神格化しているようにも思える。そのうち息子に祈りを捧げかねない。

 

聖ミリス教からルーデウス教に改宗しかねない。さらに息子が怖くなった。

 

そんな息子は朝も夜もロクに遊びもしないで、ロキシーと熱心に魔術について語り合っている。俺は魔術に関してはさっぱりだが、熱心な2人をみていると長年研鑽を積んだ魔術師同士の語らいのような、趣味を共にする得難き仲間のような、そんな深い絆をなぜか感じた。ゼニスやリーリャも思うところはあるのだろうが、見守っていた。

 

…よし。そうだな。ルーデウスはなにも悪いことをしているわけじゃない。俺は自分がガキのときは、悪ガキだったがコイツは違うってだけだ。なにかあれば親として導けるようにしよう。

 

そんな日々が続いていたある日の午後。剣術の鍛錬のときだ。もっともまだ体力づくりの段階で、剣を振っているわけではない。天才的な息子だが、体の方は普通らしく熱心にトレーニングをしているのが微笑ましい。そしてよく息子と2人で話すことも多くなった。

 

…なんでも最近は王族や貴族に対しての礼儀作法などをリーリャに教わっているそうだ。一体うちの息子はどこを目指しているんだろうか?貴族なんていいもんじゃねえがな。そんな風に思い息子に尋ねた。

 

「父さま。僕はなにも貴族になろうとなんて思っていません。僕はリーリャと仲良くなりたかったのです。リーリャは知的で素晴らしい女性です。彼女がグレイラット家のメイドとして現れたことには感謝しかありません」

 

ほほぉー。コイツもうこの歳で色気付き始めたってわけか。まあコイツくらい頭が良けりゃそれもありえるのか?グレイラット家の血は争えねぇってか?

 

だが、リーリャは…いくらなんでも歳が離れすぎじゃないのか。なんて思いつつも話を聞いていると、どうやらそうでもないらしい。

 

なんでも、リーリャが久々にみた俺が逞しくなっててビックリしたとか、リーリャが俺をカッコイイといっていたとか、リーリャがずっとこの家にいてくれたら嬉しいとか。あんなに素晴らしい女性を手放してはならないだとか…手放すもなにも俺には母さんがいるのだが……。

 

なんで俺は3歳児に浮気を勧められているのだろうか?

 

…いくら考えてもわからなかった。やっぱり息子は少しだけ怖い。

 

 

--- ゼニス視点 ---

 

 

私はミリス神聖国貴族のラトレイア伯爵家の次女として生まれた。母からはラトレイア家の淑女とはなんたるかと厳しく育てられてきた。良家のお嬢様だった。

 

そんな生活が嫌になったわけでもなかった。結果的に喧嘩別れのように家を出ていったが、あの頃の私はただ外の世界を見てみたかっただけだった。

回復魔術が盛んなミリス神聖国で育った私は、回復魔術が中級まで使えたし、家出をしてもなんとかなる。そんな風に考えていた。

だけど、そんな私も一歩外に出ればただの世間知らずな小娘に過ぎなかった。所詮は常識知らずの箱入り娘だったのだ。狡猾な冒険者に騙されて詐欺にあいそうなところをパウロに助けられた。彼は青年剣士だった。お互い家出をしたこと、回復魔術を使えることなどを話したら、すごい勢いで彼のパーティーに誘われた。それが、パウロとの出会いだった。

 

そんな助けてもらったパウロだけど、彼は女にだらしない男だったわ。ミリス教の私とは相容れない存在だと思っていた。それでも、冒険者としての生活は楽しかった。私の知らない世界、辛いことや死にそうな目にもいっぱいあったけど、毎日がキラキラしていて充実していたわ。

そういった意味でパウロには感謝していたし、冒険者生活で私の価値観も変わり始めていた。それを知ってか知らずかパウロはしつこく何度も私にアタックしてきた。他の女には手を出さないからとか何とか言って…。最初はパウロの事を嫌いだった。悪い人ではなかったけど。彼はお堅いラトレイア家で育った私とは違った。自由奔放で、けれどなぜか頼りになる。次第にそんなパウロがかっこよく見えた。とうとう折れて関係を持ってしまったら、すぐに妊娠が判明した。

 

こうして冒険者生活を続けるわけにもいかず、ブエナ村でパウロと生活することになった。冒険者を続けたい気持ちもあったけど、子供ができたからかしらね。いつしか母親として生まれてくる子のために頑張ろうと思うようになっていた。

 

…そうして生まれたのがルーデウス。ルディだった。

 

ルディは目に入れても痛くないくらい可愛い息子だったわ。言葉を話すようになると、「まーまきれい」とか「まーまびじん」ってニコリと笑いながら言うのよー。

 

あらあら。そりゃもう可愛いに決まっているじゃない。

 

3歳になるとルディは魔術を使えるようになっていた。言葉もすぐに理解して本を読んでと頼まれたりして、賢い子だと思っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。

 

私はすぐにルディに家庭教師を付けるようにした。この子は天才よ。間違いなく将来は大物になるでしょうね。

 

そうしてロキシーちゃんがやってくるようになって、ルディと魔術の勉強を始めていた。…そう2人で勉強を始めていたのよ。ロキシーちゃんがルディに教えているというより、2人で魔術の講義をしているみたい。私にだってわからない高度な魔術の話をルディはロキシーちゃんと熱心に話していた。これは、間違いないルディは天才…いいえ神童だわ。ああなんて素晴らしいことなんでしょう。これは邪魔しちゃいけないわね。うふふ。将来が楽しみで仕方がないわ。

 

ある日、日課にしている庭の園芸作業中にルディがやってきた。

 

「母さま。手伝います」

 

「あら、ルディありがと。でもいいのよ母さん趣味でやってるだけだし、ルディは魔術と剣術の稽古に忙しいのだから休んでらっしゃい」

 

ルディは忙しいわ。3歳児とは思えないほど勤勉だ。朝と夜はロキシーちゃんと付きっきりで魔術の勉強をしているし、パウロとの鍛錬も熱心にこなしている。幼くして才能を目覚めさせるだけではなく、努力を怠らない。母さんを手伝ってくれるのは嬉しいけど、たまにはゆっくり休んだり、遊んだりして欲しいと母親として思う。

 

「そうですか。なら、お話しがてらお手伝いしてもいいですか?母さまとお話ししたいです」

 

あらあら、可愛い子ね。

 

「もちろんいいわルディ。母さんとお話ししましょう」

 

こうしてルディと2人で話をした。なんでも、今度はリーリャに王族や貴族に対しての礼儀作法を習っているとか。リーリャの教えはわかりやすくて面白いとか。いつもリーリャは優しくお世話をしてくれるとか。…やけにリーリャになついているわね。まあいいわリーリャは確かに優しくて礼儀正しいしね。それからルディにパウロと出会った時のこととか、冒険者生活のお話をしてほしいとか、久々に息子とたくさん話した。受け答えがしっかりしてるから、なんだかすっごく楽しくて色々話しちゃったわね。

 

…ルディまだ3歳なのに、やっぱりうちの息子は天才ね。うふふ。

 

 

--- リーリャ視点 ---

 

かつてアスラ後宮の近衛侍女だった私は、生まれたばかりの王女を狙う暗殺者に不覚を取り、足を悪くした。

 

そうして近衛侍女を解雇された私が仕事を求めて、流れ着いたのがグレイラット家である。パウロは私が昔に習っていた剣の道場にきた弟弟子だった。そんな経緯もあり快く迎えてくれた。

 

奥方のゼニスが出産間近だったのもあるだろう。そうして生まれてきたのがルーデウスだった。 

 

赤子のときはゼニスのお乳を勢いよく飲んでいて、一瞬、顔をしかめてしまったがよく考えれば普通のことだ。アスラの後宮での貴族や王族の変態っぷりを知って、神経が過敏になってしまったのかもしれない。

 

それからのルーデウスはよくできた子供だった。礼儀正しく、侍女である私にもしっかりと感謝の言葉をかけてくる。利発で優しい子だった。そんなルーデウスは魔術に関しても非凡な才能を有しているようだ。手のかからない子供で非凡な魔術の才。グレイラット家は安泰だと思った。

 

しかし、同時に私の侍女としての役割もそろそろ終わりがくるのかとも思ってしまう。あれだけ優秀な子供なら、世話の必要もあまりない。田舎のブエナ村にいる下級騎士としては裕福なパウロだが、いつまでも雇ってもらえるとは限らない。そう考えると少し寂しいと思ってしまう。

 

ブエナ村は田舎でなにもない。しかし、のどかで平穏たる日々だ。近衛侍女だった時のような命の危険性も少ないし、なにより私はこの生活が気に入り始めているのかもしれない。うららかな午後の昼下がり。洗濯物を干しながら、一面に広がる黄金色の麦畑を眺めて、そのような感傷に浸る。

 

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ルーデウスは私に王族や貴族の礼儀作法を教えてほしいと言ってきた。どんな意図なのかはわからないが、拒否する理由はなかった。それに非凡な才を持つルーデウスなら将来役に立つ事もあるだろう。私は快く教えることにした。

 

 

 

 




パウロ「母さん、そろそろルディが5歳になるな」
ゼニス「ええ、そうね。盛大にお祝いしなくっちゃ」
ロキシ「ああルディ。とうとう別れの時ですね」
シルフ「ルディどこー?」

5歳の誕生日を迎えるルーデウス・グレイラット。別れに出会い。物語は新たなステージへと進もうとしていた。
しかしそんな彼は焦っていた。オルステッドの行方も手掛かりもない。そんなルーデウスは苦肉の策に打って出る。

次回、無職転生 -今度こそ本気だす- 第7話  ≪龍神ホイホイ大作戦≫
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