世の中は金だと思った。それはどこの世界も変わらないらしい。
ヒトガミ像を各地へ流しつつ、さらに土魔術で生成した皿やグラスもついでに作り売る。
アスラ王国辺りじゃ人気の出そうなペルギウス像なんかも作ろうと思ったがやめた。
光のパシリが登場しても困るからな。今はまだペルギウスと会うつもりもないし、下手に不興を買うのは避けたい。
それでも、行商人のおっちゃんと仲良くなり、頼んだものを仕入れてきてくれたりして順調だった。
売ったお金でまた魔力結晶や魔法陣作成に必要な塗料などを揃える。しばらくはこれの繰り返しだ。
強くなるためにまずお金がいる。金策だ。魔術師は不便だな。
新しく開発中の転移技法を試すにも、魔術召喚技法を試すにも、魔導鎧を開発するにもまずは金がないとできない。金。金。金だ。世の中は世知辛い。
ロキシーがいなくなり、気持ちを紛らわせるために一心不乱になってやった。
…いや違うな。今回の俺はロキシーがきた頃からブエナ村の中では活動していた。
その中で会おうと思えば会える人物がいた。
シルフィエット。シルフィだ。
会おうと思えば会えるのに避けていた。
前回、俺はロキシーを失った悲しみでなにも考えられなくなった。酒ばかり飲むようになった。シルフィは俺を優しく慰めようとしてくれた。何度も、そう何度もだ。「私を抱いて忘れて」とか「そんなに悲しい顔しないで」とかいつも気遣ってくれた。そんなシルフィを疎ましく感じた当時の俺は外で酒を飲むようになった。挙句の果てには行きずりの娼婦に声を掛けられて抱いた。
シルフィは家を出ていった。アリエル達と一緒に。そしてアスラ王国の権力争いに巻き込まれて死んだ。処刑だった。反逆者として扱われて民衆の前に晒されて、石を投げられていた。片腕を失い、顔には深い斬り傷が刻まれていた。残酷だった。残虐だった。
…ロキシーは救えなかった。でも、シルフィは救える命だった。ヒトガミが関わっていたとしても、俺がしっかりしてれば、アスラ王国の権力者争いに巻き込まれることは防げただろう。俺のせいだ。まさにクズそのものだった。
俺はシルフィを愛している。
だが、そんな俺にシルフィと会う資格があるだろうか?愛してもらう資格があるだろうか?
あるわけがないと思った。そして、シルフィに再び会うのを恐れた。
ちくしょう。いつまで経っても臆病なクセは治らねぇーな。あの時と今のシルフィは違う。頭ではわかっている。ロキシーとは違い見た目も今は少女、いや幼女だろう。
会わないわけにはいかない。シルフィがこの先、前回と同じように転移したら、アリエル達のところに辿り着くだろう。力がなければやっていける環境じゃない。
それに、もしまたシルフィが前回と同じように、アリエル達に付いてアスラ王国の権力者争いに立ち向かうとなれば、更なる力が必要になる。
よし、決心は固まった。暇そうにしてるパウロに声をかける。
「父さま。外で遊んできてもいいですか?」
「お、おう。遊びにか?」
「はい」
「いいぞいいぞ。行ってこい。だいたいお前はお利口さん過ぎるんだよ。もっと子供らしく遊んでこい」
「はい。ありがとうございます。ちょっと女の子をナンパしてきますね」
パウロが目をまん丸くしている。ちょっとおもしろい。けど、折角のイケメンが台無しだぜ?
「ほほぉー。いいな。うまくいったら父さんにも紹介しなさい」
流石はパウロ、話がわかるね。
「はい。では、行ってきます」
そんな感じで外にでた。
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「魔族は村にいんなよなー!」
お、いたいた。パウロに偉そうにナンパするとか言って家を出た日から数日後。やっと見つけた。
…ナンパに失敗したと思われてるだろうな。恥ずかしい。
用意していたローブを着込む。大人用のローブだ。少し短くしてだぼだぼな感じ。外から見たら誰だか分かるまい。
水弾。というか限りなく威力をなくした水の玉だな。けど大きさはそれなりだ。
それをソマルだっけか?いじめっ子達の上空に浮かべて落とす。
「ぎゃーつめてー」
意識がそれた瞬間にシルフィを連れて猛ダッシュした。
これで、パウロお説教フラグ、ソマル君いい迷惑フラグ、パウロのエトさんフラグ、全部へし折った。
誰も幸せになれない3大フラグだ。無理に立てる必要もあるまい。
「ふう。ごめんね。急に走って連れまわしたりして。大丈夫?」
幼ねーぇ!幼女やん。確かにショートヘアで少年っぽいけど、シルフィ幼女やん。日本人だった頃は大好物だったと思うんだが、前回の俺はなぜ男だと思ったんだろうか。
かわゆいなぁーシルフィたん。はあはあ。
うん、こんな感じだったろう。
「はぁ……はぁ…う、うん……だ、大丈夫」
…いじめられっ子って感じだな。泥まで被って…。やっぱりソマル殺そうかな?
「落ち着いた?いま汚れを落とすから、少し目をつむって貰っていいかな?」
いい感じの温度になったのを確認して全身にお湯をかける。
「わぁっ!あぷっ」
そのまま風と火の魔術で温風を送りつつ、汚れたところをハンカチで丁寧に拭う。
「あ、ありがとう………」
「なんでやり返さなかったの?」
「勝てないよ…………」
俺は右手に炎、左手に氷を出現させて大げさに腕を広げる。メドロ〇アが打てそうな全能感がある。
そしてこう言った。
「強くなりたくはないかい?」
「わぁ。それきみのまほう…なの…?」
「そうだよ。俺はルーデウス。ルディって呼んで欲しいな。君の名前は?」
「シル…フ…ィエット……るでぃ?…きみは…ぼくをみて…へいきなの?」
もの凄い保護欲をそそられるな。拉致監禁されかねない。このままだと奴隷ルートもありそうだ。やっぱり強くなってもらおう。
「もちろん平気だよ。シルフィでいいかな?よろしくね。とっても綺麗な髪だと思うよ」
「うん。あ、ありがと」
はみかみながら言った。KAWAII。
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シルフィの父親ロールズ。相変わらず美形だ。
確か、ハーフエルフでエリナリーゼの息子?だったか。
この人に会うのも久しぶりだ。そしてこの人に会うのも恐れていた。
……この人は転移事件で死ぬ。
現状、はっきり言って救う手立てがない。なにも誰も彼も救おうとは思っていないが、命の取捨選択を迫られているみたいで嫌な気持ちになる。
「初めまして。ルーデウス・グレイラットです」
「グレイラット…………もしかしてパウロさんの所の?」
「はい。パウロは父です」
「おお、話には聞いていたが、礼儀正しい子だ。おっと、申し遅れた。ロールズです。普段は森で狩りをしてます」
今回は初対面だが、シルフィの父でエリナリーゼの息子。仲間だ。身内だ。それを救えない。
「うちの子はこんな見た目だが、ちょっと先祖返りをしてしまっただけなんだ。仲良くしてやって欲しい」
「もちろんです。シルフィは素敵な子です。なにがあっても僕が守りますから」
「ええ!?…それは、頼もしいな。うん。うちの娘をよろしく頼むよ」
シルフィは必ず守ります。たとえ、あなたを救えなくても。だから安心してくださいロールズさん。
…こんなことしか言えない自分が嫌だ。
ふと、シルフィがちょんと服の端を引っ張てきた。そろそろ切り上げよう。
「ロールズさん、シルフィと二人で遊んできてもいいですか?」
「ああ、もちろんだとも。ただし森の方には近づかないように」
「はい。もちろんです。父にガールフレンドを紹介すると伝えたので、シルフィをお借りしますね」
このままナンパに失敗したと思われたまま引き下がれない。
「ええ!?まあ、いいのかな?パウロさんによろしく頼むよ」
こうして家にシルフィを連れ込むのだった。
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「父さま。紹介します。ロールズさんの娘でシルフィエットです。僕のガールフレンドです」
どやあ。
「お、おう。えっと、シルフィちゃんで良いのかな?ルディの父でパウロです。その、なんだ家の息子をよろしく頼むよ」
「はい…シルフィ…エット…です」
「では、父さま子供は子供同士で部屋に行って遊んできますね」
「あ、ああ。そうか。仲良くしなさい」
「はい。父さま。それじゃ、シルフィ行こうか?」
「う…うん」
そんな感じで自室にシルフィと戻ってきた。
「シルフィどうだい?さっき言ってた魔術の話だけど、習ってみる気はある?」
初心者用の魔術教本を片手にシルフィに問う。
彼女は目をキラキラさせて、身振り手振り伝えてくる。
「手から、あったかいお水がざばーって出るのと、暖かい風がぶわーって出るの。ボクにもできる?」
「もちろんできるようになるよ。よし、じゃあ今日から特訓しよう」
こうしてシルフィとの特訓が始まった。
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さて、シルフィとの今後の特訓について説明しよう。
基本的には前回と同じように進めるつもりだ。幼い頃から魔力をなくなるまで使うと、魔力が増え続ける。この現象の解明はできていないが、成功体験があるならそのまま使う。前回より意識してやってもらおう。
魔力を増やしたいのはもちろんあるが、狙いは魔力操作だ。これをうまくできるようになってもらうのが前回との明確な違いだ。
なぜ、魔力操作なのか?
これを話す前に前回のシルフィの戦闘スタイルについて振り返ろうと思う。
ラノア魔法大学で無言のフィッツ、沈黙の魔術師、そう呼ばれた無詠唱魔術師。煩熱のマント、圧倒の手袋、疾風の靴と一級品のマジックアイテムを使い魔術師の弱点をカバー。正攻法の攻撃魔術戦が主体で、かつ無詠唱による高速戦闘。疾風の靴で俊敏性を高め、無詠唱での治癒魔術も使える。最終的にはロキシーから水聖級魔術、
魔術師の同格戦においてシルフィに勝てるヤツはいないだろう。剣士への対応策も取っており、聖の位の剣士までならなんとか対応できる。一級品の装備、無詠唱、堅実な戦闘スタイル、これだけ揃ってる魔術師はそういない。それなのに、対剣士戦だとわりとゴロゴロいる聖の位と同格。いかに魔術師が弱いかがわかる。
少し話が逸れるが、前に説明した水神流の技の一つに「流」というものがある。基本の技だが、この技の精度が水神流の位を分ける目安になっているらしい。以前、俺は水神流のマスタークラスの剣士イゾルテ・クルーエルと戦ったことがある。とんでもない防御性能だった。接近すればフ〇カウンターみたいなしっぺ返しを喰らい、距離を取っても魔術は受け流される。一度、戦闘モードに入ればこれを崩すのは難しい。
この水神流の「流」という技は恐らくは魔力、あるいは闘気の流れを読んで対処してると予測した。ここで繋がるのが魔力操作だ。
水神流の剣士、それもマスタークラスの剣士は魔力操作がうまいという仮説を立てた。
初代水神レイダル、彼は剣士としても最強だったが、魔術師としても水神級だったという。最初この話を聞いたときはどんな超人だよと思ったが、合点がいく部分もあった。
シルフィーはこの世界でほとんどいない無詠唱魔術師だ。魔力操作は超一流といっていい。
もし、この仮説が正しいのなら、シルフィは水神流として超一流の才能を有している可能性がある。
会得できればアリエルの護衛を務める上で、これ以上ない力となるだろう。元々、水神流は護衛に向いているしな。その上で無詠唱魔術。
あれ?俺より強くね?シルフィに剣でボコられるのは、なんか想像できない。
「あれっ?あれっ?ルディってザコなのかなっ?」
生意気なシルフィに蔑まれた目で見られる。うん。悪くないな。
ごほん。まあ、とにかく今は魔術を習得させよう。あれこれやっても仕方がないしな。
--- パウロ視点 ---
家の息子は勤勉だ。魔術の訓練、剣の鍛錬、果ては礼儀作法まで学んでやがる。
5歳にして水聖級魔術師となり、剣術の筋も悪くねえ。
ゼニスじゃないが、贔屓目にみても天才だった。
毎日、毎日、熱心にこなしてる。それこそ何かに取り付かれてるみてぇだった。
…いくら何でも勤勉すぎねぇか?
本当に俺の子なのか?って悩んでいたら、ルディは外で遊ぶと言ってきた。
少し驚いたが、同時に安心した。良かったと。
このくらいのガキん時はもっと遊んだ方がいいと思ったからだ。
「女の子をナンパしてきます」
息子の口からそんなセリフが出ると思わなかったから、ビックリしたが、さらに安心した。
ませたセリフだったが、グレイラット家の血筋ならありえるだろうと。むしろ喜んだ。
息子は次の日も、その次の日も、あるいはまたその先の日も。毎日、外に出ることになった。しかもしばらく帰ってこねえ。
少し違和感があった。息子は勤勉だった。息子はナンパしてきますと言っていた。
まさかあいつ、村中の女に声掛けてるんじゃねぇよな?
ルディは勤勉で熱心だった。言ったことは守るよく出来た子だ。
心配になった。
息子はシルフィを連れてきた。まだ幼いが可愛い子だ。
全然子供らしくない言葉遣いで、「ガールフレンドです」と紹介してきた。それはまだいい。
問題は息子の表情だった。なんて誇らしげな表情をしてやがる。
剣術や魔術の鍛錬中でも、こんな表情をする息子は見たことがなかった。達成感に満ち溢れていた。
お前どんだけの女に声かけてきたんだよ。
…心配はやはり絶えなかった。
シルフィ「ねえねえ、ロキシーなんでもあの名シーンが蘇るらしいよっ。どうなるのかなっ?」
ロキシー「シルフィー落ち着いてください。しかし、私も年甲斐もなくハラハラしますね」
エリス 「ふんっ!そんなのルーデウスに任せておけばいいのよ!」
シルフィ「もうっ!エリスってばルディだって失敗することはあるんだよっ?」
ロキシー「二人とも喧嘩しないで下さい。とにかく私たちは見守ることにしましょう」
次回、無職転生 -今度こそ本気だす-第9話「緊急家族会議(改)」