緑谷出久は絶望していた。
彼には個性と言うものがない。単純に人間の性格等の話ではなく特殊な力を個性と呼び、それを使用して成り立つ社会となった今、出久は無個性と言う何の力のない1人の人間として生きていた。
彼の夢は個性を使って人々を助けるヒーローになること。だが個性がない時点で彼にヒーローとして前線に立つ資格が無かった。
故に学校では優秀な幼馴染にいじめられ、大切にしていたヒーローの情報を集めたノートを燃やされた挙句に自殺教唆までされてしまった。
もう中学三年生ということもあって進路を決めないといけない時期にこの出来事は割と心に来るものがあった。それだけならいつもよりちょっと不幸程度だったが、この日は更に運が悪かった。
個性を悪用して犯罪行為を繰り返す『
厄介なことに『
「(い、いやだ…………こんなところで!だ、誰か助けて……!)」
今にも途切れそうな意識の中、突然出久の体が軽くなった。
もしかして死んだ?と思ったが彼の腕は誰かに捕まれて『
「いけないな。未来あるーーを痛めーーーうとは」
「ちぃっ!だがオールマイトじゃーーーーLLサイズのーーー!?」
朦朧としていたので全部聞き取れなかったが爆音が聞こえた瞬間、『ああ、助かったんだ』と思いすっと意識を手放した。
「次はないと思え」
「はいっ!スイマセンでしたァ!」
「うん…………あれ?」
目を覚ましたころには日は暮れ始めていた。なんで寝ていたのかを首をひねって考えて、思い出した瞬間冷汗が大量に出た。
あの時に死にかけていたことを思い出したら震えが止まらなかった。
誰かに助けられたからこそこうして生きているのだが、いったい誰に助けられたのかは思い出せない。ただ、身体が大きかったことだけは覚えている。
「目が覚めたか。ふむ、割と根性はあるみたいだ」
そう、今まで寝ていたベンチに座っているような大男くらいに…………
「ってどわあぁ!?あ、あなたは…………」
「叫ぶ元気があれば大丈夫そうだ。気分が悪いとかはないか?」
「あ、はいっ、大丈夫です!」
優しそうに語り掛けてくる男のにじみ出る強者感に押されつつも勢いで返事をしてしまったが、今は体調に問題はないので間違ってはいなかった。
出久の記憶の中では大男の顔に覚えはなかった。ヒーローオタクである彼が覚えていないということは全く活動していないもしくは新人の可能性だってあった。
新人の線はない。何故ならにじみ出る強者の風格と出久が毎日のようにチェックしているヒーロー名簿にも男のような特徴を持った新人は居なかったからだ。
「あの、貴方はヒーローなんですか?」
「違うぞ」
「違うの!?」
思わず出た言葉に即答されて驚愕してしまった。ヒーローではないにもかかわらずベンチが滅茶苦茶きしむくらいの大きくてぜい肉の一つもないオールマイト級の肉体をした人がヒーローじゃなかったなら何だというのだ。
レスラーとか個性で筋肉がついている可能性はあるが、流石に出久も困惑と疑惑を隠せなくなる。
「緑谷出久くんだったな。悪いが学生手帳を見させてもらった。親御さんにも連絡はしたから早く帰って安心させるといい。今にも倒れそうな声をしてたぞ」
「母さんに!?えっと、すみません」
「寄り道はしないほうがいい。また襲われたらよほどのことがない限り太刀打ちできないだろう」
男が言った言葉が出久の心に刺さった。個性が無ければこの世界ではヒーローになれないことを突き付けられたような気がしてならなかった。
だからなのか、出久は男に聞いてしまった。
「あ、あの!僕、ヒーローになりたいんです!無個性なんですけど…………こんな僕でもヒーローになれますか?」
男は黙った。出久がヒーローになりたいと言った途端に目を変えて出久の目を見定めていた。
「…………その体でヒーローになろうとするのか?」
男の口から出た言葉にうっと言葉に詰まる。無個性であるため彼に戦う力はない、故に冷たく突き放すような言葉を言ったのだろう。
「や、やっぱりそうd「その体はなんだ。ヒーローになりたいのならその肉体を鍛えたのか?」…………へ?」
「自分が何もないと分かっているなら何故体を鍛えなかった。「技は力の内にあり」という言葉があるように筋力が多少あるだけでも活動できる範囲は大きく変わる。ヒーローになりたいのなら最低限のこともしなかったのか?」
「そ、それは…………」
「愚か者!自らを鍛えずして誰を守る!そのように甘ったれているようではヒーローなど到底務まらん!」
「す、すみませぇん!」
「そのような体たらくでヒーローになろうなど夢を見るな。やるならば基礎から見直すことだ」
「え、あ、はい!」
一喝されたと思いきや後半は諭すように語りかけてきた男にびびりながらも頷く出久。ただ厳しいだけでなく慈悲のような面も垣間見えた。
鍛え抜かれた男の肉体は個性ではなく鍛錬で手に入れたものではないかと出久は思った。
「鍛えたら、貴方のようになれるんですか?」
そう聞かずにはいられなかった。
もし、個性が作用していたとしても液状化した
僅かな希望であるが、本気の質問を問いかけてしまった。
「分からない、それを決めるのは私ではない。出久君、君だ」
「僕がですか?」
「君が本当にヒーローになりたいなら、『誰かを助ける力』を欲するなら、例え無個性だろうと君は
断言された。断言されてしまった。
無個性だからいつの間にか諦めていた夢を肯定されたことは初めてだった。
「……そうか。思っている以上に思い詰めていたようだ」
「え?あ…………」
気づいたら目から涙が溢れていた。ずっと否定されていた夢を、誰からも無理だと言われていた夢を肯定されたことが想像よりも嬉しかったのだ。
「ご、ごめんなさい。初めてそんなこと言われたので………」
「君はまだスタートラインにすら立っていない。個性と言うアドバンテージがない分、君は他の者よりも大きく後れを取ることになる」
男はそこまで言って一度言葉を止めた。
「だが、個性は数多ある手数の一つに過ぎん。真に武器となるのは己の心!たった一つの力のみを盲信してはならない、どこまで自分に厳しくいられるかだ」
そして男は一つの紙を出久の手に握らせる。
「もし、君が真にヒーローへとなりたいのならばここに来るといい。ただし、覚悟は必要だぞ」
それだけを残して男は去っていった。
男が何者かはこの時は知らなかった。だが、出久は後に知ることだろう。
あの男はまさに『
感想や評価をいただけるとモチベーションにつながるのでよろしくお願いします。