「えっと、ここだよね」
出久は悩みぬいた。自分がヒーローになりたいと言ったところで何もしていなかった現実を振り返りめちゃくちゃに反省した、大体一週間かけて洗いざらい自分の悪かったところをノートに書きだして反省した。
出久の唯一自覚している取り柄は分析力であり、それが無駄に発揮したことを一応記しておく。
自身の悪いところを反省した後は行動に移すのみ。ヒーローになるためにどんな過酷な修行も覚悟をして男から渡された紙に書かれた住所を訪ねた。
町はずれとはいえ幸いにも学校帰りでも頑張れば着ける場所に『ソレ』はあった。
出久は思い出した、町はずれの変な塔のうわさがあったことを。
「『振動する塔』だっけ。中で何か起きてるから良く揺れてるって話だったけど…………よし、行こう」
意を決して門を開ける……開ける………開け…………
「(あ、開かない!門が重すぎて全然動かない!)」
扉が重すぎて全然動かないのだ。ほんのちょっとだけしか動きはするのだが開く気配は全くない。
「こ、これどうやって開けるのかな?あの人ならこれくらい開けられそうだけど、ぐぐぐぐぐ!」
全ての体重をかけて門を押し込む。非常にゆっくりだが徐々に開いていき、10分くらいかけてようやく開くことが出来た。
「はあ、はあ、やっと開けることが出来た…………」
「13分42秒、子供ということを考慮すると上出来と言ったところだな」
門をくぐってすぐに誰かの声が響く。今度はどうやって門を閉めようと考えていた出久の意表を突いたため声にならない声を上げつつ振り返ると、薄暗い玄関らしき場所には一人の人物が立っていた。
その人物は妙に青い。筋肉質なシルエットは見えるのだが肉体は青く、そして金属のような光り方をしている。
「君があの方が言っていた…………ようこそ『完璧の塔』へ」
「完璧の、塔?」
「知らないのも無理はない。ここの正式名称はごく一部の関係者しか知らないからな。私は『ミラージュマン』と呼んでくれ」
「えっと、ミラージュマンさん?ここは一体」
「ここはあの方が作り上げた修練所だ。己を鍛え、そしていつしかあの方を超えるために用意してくださった場所だ」
「修練場って、もしかしてこの塔全体がですか?」
「そうだ。そして私はここの門番を務めている」
「門番も何も、既に門の中じゃ」
「君にとってはそうかもしれないが、我々にとっての門は別なのだ」
そうしてミラージュマンと名乗った男が指さしたのはさらに奥にあるモノ。なんとそれはプロレスで見かけるようなリング!彼はリングを門と主張しようとしているのだ!
「本来ならばあそこにてこの塔に入る資格があるのかを試すのだが君は少々特別な事情でな。登るといい、あの方が待っている」
まさかいきなり戦闘かと思って震えていた出久だが、流石にここでふるい落としはされなかったことで安堵した。
だが、ここには強くなるために訪れる者が多いということは分かった。それ故に戦うことで資格があるかどうか彼らは試してくるのだ。
改めて出久は自分は運がよかったと考え、改めて気を引き締める。間違いなく環境が整った場所で自らを鍛えると言うのは滅多にない。後で何かを請求されたら困るが、かの男の慈悲を信じて塔を登っていく。
「テハハハ、やっとここまで来たか」
だがそこにいたのはあの男ではなかった。顔面や全身に梱包に使われる通称プチプチと呼ばれるやつの、さらに大きいサイズのもので包まれていた謎の人物だった。
「ここにあの方が居ないことに驚いてるだろう。テハハ、いきなり会おうと言ったってそうはいかない」
「こ、今度は誰ですか!?」
「私の名は『ペインマン』、ここを登りたくばストレッチをするがよい!」
「え、ええええええ!?」
「なんてな、テハハ。私は君に準備運動の基礎を教えるように頼まれたんだ。いいかい、ストレッチは基礎の基礎とはいえ自分の体調を知るいい機会となる。ストレッチの具合でその日一日が決まると言って過言ではない。何故なら肉体の可動域をどこまで伸ばせるかが決まるからだ!」
ビシッと出久に指をさして断言した全身プチプチ男。半透明な体でどう見ても個性持ちであるがよく見ると筋肉が膨張している線が見えて相当に鍛えてきたことを物語っていた。
「もちろんだが、私たちがやっているものとは違い、本当の基礎の部分だ。一応教えるが音を上げるようなことはしないでくれ」
「はいっ!分かりました!」
早速の先人の指導を受けようと意気込んだ出久。いつでも特訓を受けられるよう動きやすい服で来たことが功を奏したことを実感した。
ストレッチもしっかりと叩きこんでくれる、そう、『普通の』ストレッチを。
「まずはこの人形を使ってこのように、っと回転して投げるのだ」
「え…………え?」
いきなり持ち出してきた実際の人間大の人形をペインマンは体の部分を掴むようにして回転して地面に投げつけた。
その回転は突風のように早く、そして滑らかに動き一種の芸術に見えるほどのものだった。が、そこではない。
「これって、その、ストレッチですよね?」
「そうだ、さあやってごらん」
「(やっぱりとんでもない所に来ちゃった?)」
出久の知る常識とかけ離れた(自称)ストレッチに若干後悔しかけてるものの、言われた通りに人形を持ち上げて回転させようとした。だが思っていたよりも人形が重くてふらつきながら回転してしまっていた。
「軸足がブレているぞ。しっかりと軸足を地面から離さずに回転するんだ」
「は、はい!」
この日は結局、あの男に会うことはなかった。そもそも人形を使って行うストレッチはなんだと言う疑問があったが指導を受け終わった時点で疲労困憊になるためいい運動にはなった。
このストレッチ(仮)は役に立つのだろうか?そんなことを考えつつ今日やったことをノートに写してから爆睡した。
次の日、若干の筋肉痛に悩まされたのは言うまでもない。
ストレッチといえばこれだよね(キン肉マン脳)
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