「おいおいおい緑谷、どーしたんだよその怪我!」
発端は一人のクラスメイトが大きく叫んだことからだった。大分前から緑谷出久が本格的な筋トレを開始したことは知っていたがある日に何かで打たれたような傷を多く拵えて学校にやってきたのだ。
彼らが知る出久はみるみるうちに全体的に大きくなってかつてオドオドしていた彼からは似ても似つかないほどの成長を遂げていた。もういじめたりからかったりしたら手痛い反撃を食らうのはあり得るだろうと彼らが考えるほどに変わっていた。
これが特に関係ない人物だったら問題はなかっただろう。だが『無個性』の出久がこうなったのだから、無個性をからかっていた一部クラスメイト達は内心でヒヤヒヤしていた。そもそも彼自身が温厚で力を振りかざす必要がない以上そんなことはしないのだが。
とはいえ今日の出久はいつもと大きく違う。多少疲れている顔はしていても怪我をするようなことはなかった。
出久の身に何かヤバいことが起こったに違いない、そう考えるのは当然のことだった。
「あ、あはは。何でもないよ、これから増えるだろうし」
「増えるって、お前なにしてるんだよ!?」
「特訓がやっと本格的になってきてね、実戦を取り入れる形でやり始めたんだ」
「実践って…………お前ホントどこに通ってんだよ。普通のジムでもやらんぞ」
「マジでヒーロー目指してる?」
「いやでも今の緑谷ならワンチャンあるんじゃね?」
「個性抜きとはいえ体育とかじゃ最近負けなしだもんね」
出久が意外ともてはやされることに当人は若干困惑し、少し遠いところにいる少年は視線で人を殺せそうな目をして出久をにらみつけていた。
今まで散々乏して来た幼馴染が他人の力を借りているとはいえ変わってきているのが相当気に食わないらしい。
「ハッ!いくらデクが鍛えたって無個性なんだ、お前ごときがヒーローになれるわけねえだろ!」
ワイワイ賑わっていた教室内が一気に静かになる。
「うわ、やっぱこいつやったな」みたいな空気を出すが、発言者の性格は最悪でも学力や実力は非常に優秀なため放置気味なところがある爆豪勝己である。空気が凍ったところで罵倒をやめるつもりはない。
「今更無駄な努力したところでデクはデクなんだよ!恥かくだけで終わるだけだ」
爆豪は
だが、出久が師事している完璧の塔の住人達は普通じゃない。まだ顔を合わせていない面子がいくらかいるが、一人一人が超人であり最高の存在、そこらの人間とは違うのだ。流石に出久はそこまで思っていないが、昔なら怯えていただろうが今は何とも思わない。
むしろちょっと可愛いと思えるくらいには思えてきていた。いつもの修行がだいぶん恐ろしくなったが故に感覚が壊れただけで決して変な意図はない。
だから何を言われても放置することが一番と言うことに気づいてしまった。いままで構えば構うほどつけあがってきたため、逆に爆弾を処理するのではなく近寄らないことがいいということに気づいてしまったのだ。
ヒーローを目指す身としてどうかと言われたらダメなのだが、爆豪勝己が爆豪勝己である限り一種の正解だと言わざるを得ないのだ。
「はーい、授業はじめるよーって何この空気!?またなの?またいつものアレなの!?」
まだ何かを言いたそうだった爆豪だったが担任がちょうど入ってきたため舌打ちをしつつ大人しくなった。
一触即発な空気だったが、この空気はしばらく続くことになる。誰がかわいそうと言ったら無駄に巻き込まれるクラスメイト達だろう。受験も近くなってきたというのに無駄にギスギスした空気を味わわざるを得ないのだから。
彼らは早く学校の授業が終わってほしいと願った、そうすれば本来競い合うクラスメイトと共に己の勉強に集中出来るようになるのだから。
「あンのクソデク…………今日こそここ登ってやる」
爆豪勝己は『完璧の塔』の前に立っていた。彼自身は塔の名前を知らないが、そんなことはどうでもいいのだ。
目的は既にこの塔に入っていった元モヤシの幼馴染。急激なパンプアップをキメた
不法侵入と言われたら反論はできないが出久をダシにしたらいくらでも言い訳が利く、と言うか逆に何をしたらああなるのかが気になりすぎて追いかけてきたというのが実情である。
何をどうしたらあのような肉体になるのか、その恩恵にあやかるというより出久がああなるほどの訓練を受けたら自分はもっと凄くなれるという確信を持って来ているのだ。
この塔の入り口を開くまでは。
「
本物のチンピラ顔負けの凶悪な顔で両手を『個性』の爆発でブースターの如く推進させて爆速で塔の中を駆ける。
『楽園のような世界』を爆豪勝己は何も知らずに駆けていく。
『ここは私の作り出した幻想の世界。資格無きお前はこの塔を登ることはない、永遠に』
何故なら門番(といっても既に塔の中だが)は
たかが幻覚と侮るなかれ、この幻覚は五感すべてに作用したとえ幾らかの幻覚に対しての対抗手段を持とうが簡単に破れる者はいないのだ。
故に、爆豪は延々と偽りの楽園を駆け巡る。
その間、ミラージュマンは『もんのすげぇドブの中であがく罪人』のような顔で駆け抜けていく爆豪をカメラで撮影しながら明日の出久に見せようと静かに考えていた。
見せつけられた当人は引きつった笑いしか出ず、たまたま帰ってきていた『イヤミな潜入捜査員』は爆笑していたとかなんとか。
〜おまけ・跡の理由〜
「…………そこ!」
出久はとある階層にて何かをつかもうと手を伸ばした。
しかし、その手は空を切るだけに留まる。その代わり身体を鞭打つような痛みが走る。
「遅い!その程度では力を抜いていているとはいえ私を捉えることはできんぞ」
そこに立つは烏の姿を模した衣装を身に纏う男、『カラスマン』である。
「私の修行は反射神経と『勘』を鍛えるもの。高速で動く私を捕まえることができる時こそこの修行は終了する。捉えられなければ私の手に持つ羽根で打つがな」
「反射神経はともかく勘って相当無茶では」
「残念なことに実際にこれの修業を大真面目にやって反射神経を鍛えた奴がいる。その男は最終的に背中にバリアを張ることで己の弱点を解決したがな」
「何をどうしたらその結論に!?」
「私にもわからん。だが休憩は終いだ。続けるぞ」
「はいっ!よろしくお願いします!」
修行内容・全く本気でないカラスマンを捉える。捉えられなければ烏の羽根で打たれる。
感想や評価をいただけるとモチベーションにつながるのでよろしくお願いします。