『……この豪雨により各地で交通機関が停止しており、○○鉄道は……』
気づけば窓の外は雨がカーテンのように視界を遮っている。
「他のみんなは大丈夫かな」
「さっき聞いたら、降り始めてすぐになんとか帰れたらしいわ」
「それは良かった。……メグはどう?」
「うーん……ダメね。やっぱりどこもかしこも止まってるわ」
携帯端末で調べる限り、稼働している公共交通機関は、ない。
「あとはタクシーを呼ぶか、なんだけど……」
『……既に浸水被害の情報もあります。道路も冠水する地域が見られ……』
画面にはタイヤの沈んだ車が何台も映されている。
「……タクシーも厳しそうだね」
「終電にはまだ時間もあるから大人しく待つわ」
折角ケイの家にお邪魔できたわけだ……っくしゅん
「メグ、大丈夫?」
「えぇ……思ったより濡れてたみたい……」
「良かったら入って行きなよ。もうすぐ沸くから」
えっ?
「えっ?」
「風邪でも引いたら大変だよ?鼻水垂らしながらVRなんて、僕ならしたくないね」
「それってお風呂……?」
「ついでに洗濯機と乾燥機で服乾かしなよ。替えの用意はこっちでやっておくからさ」
ケイに流されるまま脱衣所に連れられ、扉を閉められた。
もちろんケイは廊下だけれど……
脱衣所には洗面台と洗濯機、それに乾燥機。
「あ、そうだ」
「ぇひゃい?!なによ?!」
「流石にその……下着は用意できないから、洗濯しないでね、と……」
「それくらいわかってるわよ!」
トタトタと離れていく足音を背に、室内を見渡す。
洗面台には歯ブラシとコップが一組……まぁケイも独身だし当たり前よね。それにカミソリと……まぁ、一般的な洗面用具ってところね。
洗濯機は斜めドラム式、中は何もないけど、手前のカゴには半分くらい衣服が入ってる……これ下着も入ってそ……
「いやいやいや!!!流石にそれはダメよ……」
邪念を振り払って、洗剤は……隣ね。
下着だけ残して衣服を脱ぎ、洗濯機に突っ込む。
「流石高級マンションね……」
広い。その一言に尽きる。
マンションの一室でこの広さはすごい。
一通り洗って湯船に浸かると、少し思考が落ち着いてきた気がする。
「……シャンプー、このメーカーの使ってるのね……」
少々柑橘系……具体的にはレモンに近い香りをまとったシャンプーは、いつぞやの騒動を思い起こさせる。
というか、そうよ。ここケイの自宅なのよ……
ケイは普段ココで……
コンコンコン
「ぁっひゃい?!」
「今、脱衣所入って大丈夫?着替え……持ってきたんだけど」
「え、えぇ、大丈夫よ」
扉を一つ隔てた向こうにケイがいる。
「じゃあ、ここ置いておくから。ごゆっくり」
ん?ちょっとまって……?
「これって彼シャツというやつなのでは?」
一気に体の芯が熱くなる。
「あ、あんまり長居しても迷惑だろうし、早めに出て着替えましょう、そうよ。それがいいわ」
もう温まったしね!!
ザバァ
......
「さむっ」
全然温まってなかった。
――15分後――
「……なにも起きない……」
悶々と考えていたが、特になにも起きなかった。
「魅力無いのかな私……」
こういう時って、うっかり扉を開けちゃってキャー、とか、そういうものなんじゃないの?
某掲示板でも一瞬しか掛け算されなかったし……と言うのは考えるだけ無駄か。あそこはよく分からない。
「……いや、あったわね」
彼シャツイベントが。
流石にもう温まったし、そろそろ出ましょう。
脱衣所で体を拭いて髪をタオルで纏める……これもケイのタオルなのよね。
「なんだろう。嬉しい」
着替えはあれね。
綺麗に畳まれた
手に……取り……
「フリルがついてる……」
というか、これワンピースよね?
なんで?
「ん……ちょっと大きい……かしら」
くるりと回れば、フリルのついた裾が円形に広がる、薄桃色のワンピース。どう考えても女物にしか思えない。
「っとと。あんまり動くとずり落ちるわね」
私には少々大きいらしい。まぁ、胸はぴったりだけど。
…………
……
「ケイ!」
どうやらリビングでテレビを見ていたらしいケイが振り返る。
画面は相変わらず、この豪雨の中継を映している。
「あ、メグ、出たんだね。サイズは大丈夫そう?」
「なんとか、ね。これどうしたの?」
「……あー」
「どう見ても女性用よね?」
「それは」
「前に姉が置いていった」
「服なんだ」
「お姉さん、随分大柄なのね」
「え!あ、あぁ……?ぼ、僕も少し温まってくるからどうぞくつろいでて」
「そう?じゃあお言葉に甘えて……」
パタン
………………
…………
……
『……○○の定点カメラの映像です。現在も……』
ピー……チャラララララ
「?」
なんだろう。この音…………
「あ、洗濯機の音か」
痛む前に乾燥機、だったわね。
「ケイー、ちょっと入るわよー」
ガチャ
「え、ちょっとまっ……」
……ん?
………………
…………
……
『……夕方に始まったこの豪雨は止む気配が無く……』
あぁぁああぁぁぁあああ!!!!
「メグ」
なにあの腹筋!!!!!!
「メグ?」
それに胸板!!!!!!
「メグ?」
「ぇ、ぁ……なに?」
もしかしてずっと話しかけられてた?
「この調子じゃ
食べたいもの、ねぇ……
「フライドポテトは無いよ」
「え?」
「いや、普通は無いからね?」
「もしかしてポテトしか食べないと思ってる?流石に心外よ」
「で、何にするの?」
「……ピザ」
その顔は、「結局ジャンクなのか」って思ってるわね?
「オーケー、焼いてくるから待ってて」
「ケイは何にするの?」
「僕は冷凍炒飯かな」
定番もド定番ね。
…………
『現在の交通情報です……』
「止まないね」
「気配もないわね」
食事も終わり、缶詰のジャーマンポテトをつまみながらケイとニュースを眺める。
「これは今日中は厳しそうだね……泊まっていくかい?」
「電車は終日運休の動きだしタクシーも雨が止むまでは厳しそうよね…………なんて?」
「いや、この状況じゃホテルにも行けないだろ」
「…………いいの?」
「大丈夫だって。来客用の布団は無くても、オプションのベッドは大きいんだ。このマンション」
それはその、
「
「ま、まあ、帰れないんじゃどうしようもないものね……!お言葉に甘え
ピンポーン
ガチャ
ダダダダダダ
「Hey!メグ!!」
「レッツパーティーターイム!!」
……そういえばお隣だったわね。
なるほどなぁ。さっきからケイが携帯を弄ってのはこういうことだったのね。
「シルヴィア、当然アレはあるんでしょうね」
「フレンチフライでしょ?もちろんコーラもセットよ」
完璧じゃないの。流石シルヴィア。
「……二人ともほどほどに、ね?」
ケイのスクラップブックを読む流れはカットしました。