妹がコミュ障過ぎるので、一か八かでVTuberさせてみた   作:naonakki

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第一話

 俺はどんな顔をしているだろうか?

 今の状況に理解が追い付かない。

 妹の唯香に大事な話があるからと呼ばれ、部屋に入った直後だった。

 

 まさか唯香が土下座をして俺を迎え入れるとは思いもしなかった。

 

 「……何してるんだ?」

 

 そう声をかけると唯香は土下座の姿勢を崩さず、可愛らしい鈴のような声でオドオドと答えてきた。

 

 「……あの、お兄ちゃんにお願いがあります。」

 「……なんだ?」

 

 思わず喉をゴクリと鳴らし唯香の答えを待つ。唯はちょっと変わったところがあるが、これまで土下座をしてきたことなんてなかった。つまり唯香の言うお願いとやらはかなり重要なことであることが予想されるわけだ。

 

 

 

 「私を一生養って下さい。」

 

 

 

 「……は?」

 

 しかし、そのお願いは予想の斜め上のものであった。素っ頓狂な声が漏れてしまう。

 

 「あ、勿論、洗濯とか料理とか家事は全部するよ? 私は最低限の衣食住を保証してもらえればそれで……。あ、でもコーラは定期的に欲しい……。後ゲーム機も貸してもらえると嬉しい……です。」

 「いやいや、何言ってんの? ていうか一回顔上げて?」

 「……はい。」

 

 こちらに向けられた唯香の小さな顔は失意に包まれており、うるうるとした瞳がまっすぐに俺を見抜いてくる。捨てられた子犬を彷彿させるその姿に庇護欲を駆り立てられ、思わず無条件に甘やかしてしまいそうになる。しかし、寸前に何とか思いとどまり、事情を聞くことにする。「何があったんだ」と促すと、唯香はポツポツと事情を説明しだした。

 

 唯香は、左右に伸びたツインテールが特徴的であり、全体的にこじんまりとした見た目は、小動物のようであり、もうすぐ高校生も卒業という時期にも関わらず中学生に間違えられることもある。酷い時は小学生に間違えられる時もあるほどだ。

 ただし抜群に可愛い。これは間違いない。俺が保証しよう。

 だが、人には何かしらの欠点がある。唯香にも致命的と言える欠点が一つある。

 それは、あり得ないほどのコミュ障ということだ。家族以外の人間とはまともに喋ることができないのだ。一応留年にならない程度には学校にも通っているが、未だに友達の一人もできないらしい。うわさによると、学校内ではマスコット的ポジションとして人気はあるらしいが……。本当、可愛いは正義とはよく言ったものだ。

 

 さて、その唯香がなぜ土下座をして、あんなことをお願いしてきたのかだが、唯香の要領を得ない説明をまとめるとこうだ。

 卒業も近くなるものの、未だに進路が決まっておらず、どうすればよいか迷っていること。ちなみに大学に行く気はないらしい。……まあ、お馬鹿な唯香が大学試験に受かるとは思わないからそれはいい。唯香なりに色々悩んだそうだが、結局、コミュ障の自分が一人で生きていくことは不可能だと悟ったそうだ。そして、追い詰められた唯香は兄である俺に養ってもらうことを決意したそうだ。

 なぜそうなったと聞きたいところだが、これは俺も懸念していたことだ。唯香はどうやって生きていけばいいのかと。唯香に甘々な親父は一生ウチで面倒を見るとか言っていたが……。

 とはいえ俺も解決策は見つからず、最悪実家にいてもらえればいいかと思っていた。しかし唯香自身がこうして人生について向き合っている今が社会へ旅立たせるチャンスではないだろうか?

 ……何かないだろうか、唯香を社会に馴染ませるためのいい案は。

 

 その時だった。ポケットに入れていたスマホからメッセージの通知を知らせる軽快な音が鳴り響いた。スマホを取り出し画面を確認するとそこには友達の名前が表示されていた。メッセージを見てみるとそこには、「おい、さきたん可愛すぎて死ねるんだが!? お前も早くこっちの世界に来いよ!」だった。速攻画面を閉じる。こいつは大学の友達だ。確かこのさきたんとやらは、今人気のVTuberだったはずだ、よく知らんけど。

 たく、こっちは妹の今後の人生について考えているっていうのに……ん?

 

 あれ? VTuberはどうだろうか?

 あまり詳しく知らないけど、自分の素顔を見せるわけでもなく、カメラ越しに喋るだけなら唯香でも何とかいけるのでは……?

 ……いや、それでもトーク力が必要だろうし、他にも色々大変なことがあるに違いない。そもそも簡単になれるものでもないだろう。唯香には無理か……。でも万が一があるし……。

 

 「わかった、唯香。ちょっとお兄ちゃんも色々考えてみるからまた後日な。」

 「……うん。」

 

 そう言って、その日は唯香の部屋を後にした。背中に縋るような唯香の視線が刺さり、いたたまれなくなった。

 

 自分の部屋に帰った俺は早速VTuberについて調べてみると、ちょうどとある事務所が新人を募集しているという記事を見つけた。運よく募集期限が今日までになっていた。そこは有名VTuberを多数生み出している大手だそうで、かなり注目されているとのことだった。さきほどメッセージでもきていた、さきたんとやらもここに所属しているらしい。

 まあ無理だろうなと思いつつ、募集要項に書いてあった条件は満たしていたので、唯香には無断で一応応募しておいた。今はネットで応募できるから便利だ。

 ……はぁ、他にも何かないか色々調べてみるか。どうせ書類審査で落ちるだろうし。

 

 

 

 VTuber以外にいい案が思いつくこともなく、二週間が経った時だった。

 突然一通のメッセージが来た。それを開くと、なんと唯香が例のVTuber事務所の書類審査に合格したという連絡だった。

 

 まじか、嘘をついてもしょうがないと、短所の欄に『コミュ障』とか書いたのに……。長所欄に『類を見ないほど可愛い!』と書いたのが効いたのだろうか?

 

 まあ受かったならよし! これは早速唯香に知らせよう! 

 あ、でもこの後、対面式の面接があるのか。まあ、一回くらい唯香にも死ぬ気で頑張ってもらうしかないか。

 ……。

 まあ、無理だろうな……。

 

 

 

 

 

 「こ、ここここここが、め、めめめめ、面接会場……だよね。」

 「……あぁ、そうだ。後、もうちょっと落ち着け。震えすぎてマナーモードの時のスマホみたいになってるぞ。」

 

 あれから俺たちは必死になって特訓した。自己紹介や趣味の紹介など面接のリハーサルも何度も行った。その甲斐あってか家族の前でなら何とか噛まずに面接ができるようになった。

 ……しかし、当の本人はこの状況だ。緊張のしすぎで練習通りに事が運ぶとは思えない。唯香を見ると、体の構造がどうなっているんだと言わんばかりに震えている。

 これはだめだ。今日の晩御飯は豪華にして唯香を労う準備をするように母さんに伝えておこう。

 

 「だ、だだだだって。うぅ、……ねぇ、お兄ちゃん。お願いがあるんだけど。」

 「……なんだ?」

 「……一緒に面接について来てくれない?」

 「あほか。ほら、行ってこい。」

 「じゃ、じゃあやっぱり無理っ!」

 「あっ、こらっ!?」

 

 唯香は逃げ出した。

 しかし回り込まれてしまった。

 

 「ほらっ、観念しろ。」

 「うぅ~っ!」

 

 まさかの逃走を企てた唯香だが、ろくに運動もしていない唯香が逃げ切れるわけもなかった。すぐに追いつき後ろから抱える状態でまた面接会場であるビルの前に連れ戻してきた。せめてもの抵抗なのか手足をバタバタしているが無意味だ。しかし周りの視線が刺さるので本当にやめてほしい。

 それにしても唯香は軽いなぁ、ちゃんとご飯食べているのか?

 そんなことを思っていると、不意に唯香は抱えられながらも半泣きの状態で俺にお願いと言わんばかりに、潤んだ瞳をちらりと向けてくる。

 ……罪悪感が凄い。

 

 「……あの、どうされたのですか?」

 

 俺たちが必死の攻防を繰り広げていると、横合いから女性の声がした。視線を向けると、そこにはほんわかした雰囲気の女性が不思議そうにこちらを見ていた。ふわりとしたウェーブかかった茶髪とくりっとした瞳が特徴的で全体的に可愛いらしいという言葉が似合っている。

 

 「……あ、あはは、見苦しいところをすみません。ちょっと今からここのビルでこの子が面接を受けるんですが、ちょっと緊張しちゃってるみたいで。」

 

 怪しまれないように極力笑顔を浮かべながらそう答える。ちなみに唯香は人が近づいてきたとあって、途端に静かになり俯き人形と化している。

 

 「えぇっ!? ということはもしかして四期生の面接ということですか?」

 

 すると、さきほまでのほんわかした雰囲気はどこへやら、もの凄い勢いで食いついてきた。

 

 「え、あ、あぁ、まあそうなりますかね。」

 

 ちなみに、この事務所では所属した時期によって一期生、二期生などと言われているらしい。今回は四期生の募集だったはずだ。

 

 「わぁっ! じゃあこの子が! えぇっ、凄い! 小さくて可愛い!」

 

 その女性は、目をキラキラさせながら唯香のことをジロジロと観察し、キャッキャッとテンション爆上がり状態である。

 やめてあげてくれ……唯香が緊張と羞恥のせいで震えだしてきた。

 

 「え、でもどうしてこんなところでこの子はあなたに抱えられているんですか?」

 「……その、俺はこの子の兄で付き添いで来たんですよ。でも、直前になって嫌になったからって逃げだそうとして。」

 「……お兄ちゃんが一緒について来てくれたら行くもん。」

 

 唯香はポソリとそう呟く。呆れながらも、どうしたもんかと思っていると、突然

 

 「はぁ~、声もとっても可愛いっ! もん、だって! 一緒にコラボ配信したいなあ! 分かりました! 私からもお願いしてお兄さんが一緒に面談できるようにお願いしてみます!」

 「……は?」

 

 その後、謎の女性の計らいでなんと前代未聞の兄同伴の面接が許可されたのだった。

 

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