妹がコミュ障過ぎるので、一か八かでVTuberさせてみた   作:naonakki

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第二話

 俺たちは今、会社側が用意してくれた待合室にいた。椅子と机があるのみの無機質な部屋だ。普段は会議室か何かなのかもしれない。俺たち以外は誰もおらず静かな時間が流れていた。

 ふと横を見ると唯香が手を膝の上で組み、真っ青な顔でカタカタと震えていた。しかし、ここまで来ればもう逃げられないと悟っているのか、その目を見れば覚悟が決まっていることが分かる。

 

 ちなみに唯香はVTuberのことは全然知らないとのことだった。とりあえず、動画を配信するお仕事だとざっくりだけ説明してある。それに対して唯香は「……まあ、お兄ちゃんが紹介してくれたお仕事なら」と仕事内容にあまり興味はないようで俺がチョイスしてきたものなら問題ないと捉えているようだ。信頼してくれるのは嬉しいが、それでいいのか妹よと思ってしまう。

 

 「では次お願いしまーす。あ、話は聞いていますのでお兄さんも一緒にどうぞ。」

 

 いよいよ唯香の面接の番が回ってきた。そして本当に俺の面接同伴が許可されている。

 ……本当、あの人は何者だったんだろうか?

 俺の面接同伴に協力してくれた女性を思い出し、ふと思考する。会社の面接に口出しできるってことはよほど影響力持った人ってことだよな?

 そんなことを頭の片隅で考えながら、椅子から立ち上がる。唯香も俺に続いて立ち上がるも、勢いよく立ち上がりすぎて、椅子がガタッと大きな音を立て「ひゃあっ!」とびっくりしている。可愛いが、もう少し落ち着かないと面接が悲惨なものになり、トラウマになりかねない。

 

 ……しょうがない。

 

 「……唯香。もし面接を練習通りに頑張ることができたら、好きなゲームソフトを買ってやる。」

 「えっ!? 本当!?」

 

 途端に、先ほどまでの緊張はどこへやら、ぱあっと唯香の顔に満面の笑みが浮かび上がる。

 現金な妹め……だが可愛いから許す。それにこれで少しでも緊張がほぐれてくれるなら安いものだ。

 俺がそんなことを思っていると、唯香がこちらをじーっと見つめていることに気付く。なんだと思い、俺が見つめ返すと唯香は恥ずかしそうにしつつもその思いを告げてくれる。

 

 「……あの、色々ありがとうね、お兄ちゃん。私頑張るからね!」

 

 その言葉に俺は一瞬、思考が停止してしまう。その表情はこれまで見たどの唯香よりも自信に満ちていた。

 ……成長したな、唯香。いかん、泣きそう。

 

 「……なら、一人でもいけるか?」

 「それは無理。」

 

 と、最後に冗談(別に冗談ではなかったが)も交えていい雰囲気になったところで面接に挑む。

 

 ……頑張れよ、唯香。

 

 

 

 

 

 

 「では、お名前をお願いします。」

 「ひゃ、ひゃい! その、わ、わた、私は、す、すず、鈴木、唯香といいましゅ!」

 

 ……唯香。

 

 わが妹は緊張しまくりであった。最初の時のように全身が激しく震えているし、過呼吸気味にもなっている。頑張っているのが凄く伝わってくるだけになんとも言えない歯がゆい気持ちになってくる。心臓が締め付けられるようだ。

 

 そんなことを思っていると、俺の心の声を聞こえたかのようなタイミングで天の助けが舞い降りた。

 

 「あ、お兄さんも妹さんに何かアドバイスとかありましたら声をかけてもらって構いませんからね?」

 

 え、いいの!? と思わず心の中で突っ込みつつ声のした方向を見ると先ほどのほんわかした女性がいた。彼女は満面の笑みで手をフリフリしてくれている。面接官は全てで3人いたが、そのうちの一人が彼女だったのだ。気づかなかった。なんだかんだ俺も緊張しているようだ。

 

 ……え? というか本当に彼女何者?

 

 彼女のあり得ないような発言に重役ぽいおじさんもいかにも仕事ができそうな眼鏡をかけたキャリアウーマンぽい人も特に何も言うつもりはないようだ。

 状況は全く理解できないが、そういうことなのであればお言葉に甘えさせてもらおう。

 ここまで来たら手段は選んでいられない。唯香に本気を出させるために飴だけでなく鞭も必要だったのだ。

 

 「わかりました、ありがとうございます。では遠慮なく。……唯香、これ以上緊張してたら1ヶ月コーラとゲーム禁止な。」

 「……っ!?!?」

 

 俺の無情な言葉に唯香は顔を真っ青にし絶句している。やめてと潤んだ目で訴えてくるが、俺はそんな唯香の目を『本気だぞ』と見つめ返す。それで唯香は俺の本気をくみ取ったのか、「……そ、そんなぁ」と呟き、ワナワナと震えている。

 俺が唯香をこのように突き放したことはこれまでの人生で片手で数えるほどしかない。その度に唯香は本気を出してくれたが、しばらく口をきいてもらえなくなるという俺としてもできれば使いたくなかった最終手段になる。

 ……あぁ、これからしばらく辛いだろうなぁ。

 

 「あはは、なにそれ! 唯香ちゃんはコーラとゲームが好きなの?」

 

 謎の女性は俺たちのやり取りが面白かったのか、可笑しそうにお腹を抱えて笑いながら質問を投げかけてくる。

 

 「……好きなんてものじゃありません。……コーラとゲームが私の全てです。」

 

 そう答える唯香には、もはや緊張している様子はない。……まあ、正確には緊張している余裕がなくなっただけだと思うが。

 

 「あはは、そんな大げさな! ねえ、お兄さん?」

 「……いえ、本当です。以前、妹のコーラを父が飲み、一週間、口をきいて貰えなくて父が鬱になったということもありました。」

 

 補足しておくと、親父が自分用に買ったコーラを唯香が勝手に自分に買ってきてくれたものと勘違いしたことが事の発端である。親父は唯香には自分用とは別にコーラは買ってあげていた。親父は何も悪くなかったのだ。しかし、その説明をしようにも唯香は聞く耳持たず。最後は「……見てられないわね、情けない。」と、お袋が唯香に事情を説明し、事態は収束した。

 あれは本当に親父が可哀想だった。2キロ痩せたって言ってたしな。もう二度と自分用にコーラなんて買わんと言っていたなぁ。

 

 ということも説明してあげると女性は大爆笑している。他の二人の面接官は特に笑うこともなく、冷静な様子なのでなんとなく気まずい。ちなみに唯香は、自分の勘違いエピソードをバラされて恥ずかしいのか「なんで言っちゃうの!」と、涙を浮かべ、顔を真っ赤にしながら足でつついてきている。

 ていうかまずいな、唯香の面接なのに喋りすぎた……。いつもの癖で俺が唯香の代わりに喋っちゃうんだよな。

 

 その後はなるべく口は挟まないよう努力し、面接は進んでいった。

 唯香は鞭が効いたのか、期待以上の振る舞いを見せ、何とか最低限の受け答えはできていた。

 まあ、口下手な唯香をフォローする形でちょくちょく口ははさむ結果となったが。

 

 

 

  

 

 30分後、面接は無事……、いや、まあとにかく終わった。

 終始、あの謎の女性と雑談レベルの会話しかしていなかった気もするが終わったことを振り返ってもしょうがない。今日は唯香を一杯労ってあげよう。

 

 「よしっ! 帰るか唯香!」

 「……。」

 「……唯香?」

 

 しかし、唯香からの返事はない。どうしたのだろうか?

 唯香は、こちらを振り向くとその可愛いらしい表情を不満一色に染めて

 

 「いじわるするお兄ちゃんは……嫌い。」

 「……っ!?!?」

 

 嫌い嫌い嫌い嫌い。

 その言葉が俺の頭の中をやまびこのように反響する。

 そう言えば、唯香を本気にさせるための最終手段を使ってしまったんだった。

 ……あ、やばい鬱になりそう。

 

 俺が精神的に大ダメージを受けていると、唯香は表情を一転し、ニコリとほほ笑んでくると

 

 「えへへ、冗談だよ? でも、私の為だとしてもああいうことはあまり言わないでね。コーラとゲームは私の命だからね。」

 

 天使がいた。その笑顔ですべてがどうでもいいと思えてしまう。

 

 「……あのー、ところでゲームソフトは買ってもらえるのでしょうか?」

 

 このタイミングで唯香は俺の顔を下から覗き込みながらそう聞いてくる。ここで断れる奴がいたら見てみたいものだ。

 

 「……しょうがないな。」

 「やったー! お兄ちゃん大好き!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねながら子供のように無邪気に喜ぶ唯香を見て、養ってあげてもいいかもなと思ってしまった。本当にうちの妹には敵わない。

 

 

 

 

 

 さらに二週間後。

 俺のスマホに電話が掛かってきた。見知らぬ番号だった。

 電話に出ると、例の女性の明るい声が聞こえてくる。

 

 「あ、もしもし? お兄さんですか? この間は面接ありがとうございました! 唯香ちゃんの面接結果ですが、……合格です!! おめでとうございます!!」

 

 唯香が奇跡的にVTuberとして職を得た瞬間だった。

 

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