妹がコミュ障過ぎるので、一か八かでVTuberさせてみた   作:naonakki

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第三話

 「……どうして俺まで。」

 「まあまあお兄ちゃん。こうなっちゃった以上しょうがないじゃん!」

 

 俺たちは再び面接を行ったあの会社に向かっていた。げんなりしている俺とは対照的に隣を歩く唯香はご機嫌であり鼻歌を口ずさんでいる。若干音程がずれているあたりも含めて大変可愛いらしい。

 今日の目的は面接ではなく、これからVTuberとして活動するにあたっての説明を聞くためだ。加えて合格の連絡があった時に聞いた「唯香ちゃんは合格ですが、お兄さんの同伴が条件です!」という意味不明な条件についての詳細を聞くことになっている。

 ちなみにこれを聞いた唯香は、「お兄ちゃんも一緒なの? やったー!」と大変嬉しい反応を見せてくれたが、唯香が単純に一人で社会進出するのを恐れているだけだと知っているので純粋に喜ぶことはできなかった。

 

 ……そういえば、今日は他の合格者も一緒に説明をすると言っていたなぁ。確か唯香のほかに三人いるんだったっけ? 唯香が他の人たちとうまく馴染めるといいんだが。

 

 そんな一抹の不安を抱えながら会社に向かっていった。

 

 

 

 「わぁ~!! きゃ、きゃわいいい!!! あなたのお名前は? あ、私は、『渡辺かなえ』って言うから、かなちゃんとか好きなように呼んでね!!」

 

 そして部屋に入るなりにいきなり絡まれた。

 手足がスラリとしたスタイルの良い女性であり、肩上まで伸びた黒髪と柔和な笑みを浮かべた理想的なお姉さんといった感じだ。……いや、そう思っていた。

 唯香を見るなり目をハートにし駆け寄ってきたと思うと先ほどのように一気にまくし立ててきたのだ。

 

 「お、お兄ちゃん、たすけて……。」

 

 唯香は速攻で俺の後ろに隠れ、プルプルと震えながらSOS状態である。しかしそれでも渡辺さんはめげずに俺の後ろに回り込んでくる。

 

 「はぁぁ~!! 近くで見るとさらに可愛い!! 小さいし、肌はぷにぷにだし! ねえねえ、こっちを見てくれないかしら? ほら、これから同期として仲良くしましょう! ね?」

 

 ……えぐいな。唯香じゃなくてもこれはドン引きだぞ。

 

 渡辺さんとやらは、顔を真っ赤にし荒い息遣いで唯香に詰め寄っており、完全にアウトな絵が出来上がっていた。例の女性も似たような反応はしていたが、あちらはしっかり理性を保っていた。しかし渡辺さんは完全に理性が吹っ飛んでいるように見える。

 ……こりゃ、唯香一人で行かせたらまじで襲われるかもな。ある意味同伴で良かったかも。

 

 「お、お兄ちゃん。この人……怖い。」

 

 まあ、こればっかりはしょうがない。俺もちょっと怖いし。

 唯香は、俺の後ろに隠れるだけでは不十分だと感じたのか、コアラのように俺の腰にしがみついてきている。相変わらずこの震えはどうやって生み出しているのか。

 

 「……あのー、妹が怖がっているのでその辺にしてやってもらえませんか?」

 

 俺が無理やり唯香と渡辺さんの間に体をねじ込み、なるべく穏やかな口調を意識しそう宥める。

 

 「……はっ!? また私ったら暴走を……。は、恥ずかしいところをお見せしました。可愛いものを見るとこうなっちゃう癖があって……。」

 「……は、はぁ。」

 

 どんな癖だよ! とは心の中で突っ込んでおいた。

 我に返ったらしい渡辺さんは、顔を赤らめ恥じらっている様子だ。それだけ見るとかなりそそるものがあるが、さっきの後だ。……残念だなぁという感想しか出てこない。

 

 「あれ? ……でもなぜ男性がここに? この子のお兄さん、なんですかね?」

 「……あぁー、ちょっと色々ありまして妹の唯香と同伴で活動していくことになったんですよ。詳しくは、この後説明してくれるらしいんですけど。」

 「……はぁ、そうだったんですね。 ……コホン、では改めて。私は渡辺かなえと言います。これからよろしくお願いします。」

 

そう言う渡辺さんは、落ち着いており年相応のお姉さんといった感じだ。最初からこれだったらよかったのに……。

 

 「僕は鈴木健太と言います。こちらこそよろしくお願いします。……ほら、唯香も自己紹介しろ。」

 

 未だに腰にしがみついている唯香を無理矢理引きはがし、前に出す。

 

 「う、うぅ、鈴木唯香、です。」

 

 それだけ言うと、まだ渡辺さんのことが怖いのかまた俺の後ろに隠れてしまった。それを見た渡辺さんは「あぁ、……いきなり嫌われてしまいました。」と、項垂れてしまった。

 何となく気まずかったので、部屋の中を見渡してみる。すると、もう一人の女の子が既にこちらに背を向ける形で席についていた。しかし、髪はあちこちぴょんぴょん跳ねているし、服装も若干乱れているように見える。気になり、前に回り込み様子を見てみる。

 

 「……うわぁ。」

 

 思わずそんな声が出てしまった。

 唯香と同じような年齢の子と思われるその子は、輝く金色の髪と真っ白な肌が特徴的な女の子だった。多分だけど、ハーフだと思われる。普段可憐だと思われるその子は魂を抜かれたように白目の状態でぐったりしていた。

 ……もしかしなくてもこれは。そう思いながらジト目で渡辺さんの方を振り返る。こちらの視線に気づいた渡辺さんはバツが悪そうな表情を浮かべてくる。

 

 「あ、あはは、さっきまでその子とちょーっとだけスキンシップを取ってたら疲れちゃったみたいですね♡」

 

 はい決定。唯香は二度と渡辺さんと一緒にはしない。こんな姿になる唯香は見たくない。唯香もそんな様子の女の子を見て「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げている。

 

 「……はっ!? 来るなあぁこの妖怪!! ……ってあれ? あんたは?」

 

 すると金髪の子が目を覚まし、開口一番に流暢な日本語で叫んだかと思うと、こちらに気付きキョトンとしたようにパッチリとした藍色の瞳をこちらに向けてくる。

 渡辺さんは「よ、妖怪……」と小さく呟きショックを受けていた。まあ自業自得だろう。

 

 「あなたと同期である鈴木唯香の兄です、鈴木健太と言います。ほら唯香。」

 「え、えと、鈴木唯香といいます、よろ、しく、です。」

 「……はぁ、なんで兄弟で?」

 「……僕たちは兄妹揃ってという条件で合格したんですよ。」

 「何それ意味わかんない。フェアリーに男が入り込むとかありえないんですけど?」

 「……そう言われましてもね。一応その辺も含めて今日説明してくれるらしいんで。」

 

 ちなみにフェアリーとはこの会社で活動するVTuberのことを総称してそう呼んでいる。確かにこれまで女一色だった領域に俺という存在が入り込んでいいのかと思った。しかし、それも含めて今日説明しますと例の女性に言われたのだ。

 とは言うものの、やはりこうやってはっきりと拒否されてしまうと心に来るものがあるな。……俺だって好きで来てるわけじゃないのに。

 

 「……はあ、まあいいわ。じゃあとりあえずそれまでは保留にしておくわ。けど今は近づいて来ないで頂戴。」

 

 そう言うとその子はそっぽ向いてしまった。……言いたいことは分かるけど、なんかちょっとむかつくな。唯香の純粋さを少しでも見習ってほしいもんだ。

 

 「……渡辺さん、この子むかつくんでまたスキンシップとってあげてください。」

 「はぁっ、あんた!? なんて事言うのよ!? ちょっとあんた、またこっち来たらぶっ飛ばすわよ!」

 「……あの、私が悪いのは百も承知ですが、私を罰ゲーム扱いしないでください……。後、あいたんもそこまで嫌がらなくても……。」

 「あいたんって言うなっ!」

 

 ……いきなり険悪なムード過ぎるだろ。唯香はここでやっていけるんだろうか?

 というか後一人はまだだろうか?

 集合時間まで既に五分を切っている。遅刻だろうか。

 

 ……と、その前にトイレに行っとこうっと。

 

 その旨を唯香に伝えると、この部屋に取り残されるのが嫌だったのか、「私も行く」と言ってきたが、「あほか」と一蹴し部屋を出ていく。俺に見放された唯香はさっきの生意気金髪子と渡辺さんを見比べると、悩んだ挙句、金髪の子の隣に座っていた。……まあ俺としてもそちらの方がまだ安心できる。

 ちなみに渡辺さんはそんな唯香の行動にまたショックを受けていた。

 

 

 

 ……えーと、トイレは、と。こっちか。

 案内板に従ってトイレに向かっていると、一人の女の子を見つけた。よくわからんが、廊下の端で俯いてブツブツと独り言を呟いている。少し気になり、近づいてみると、可愛らしい少し高めの声が聞こえてくる。

 

 「……はぁ、はぁ。な、何とかここまで来れたけど緊張して部屋に入れない。うぅ、せっかくフェアリーの四期生に合格できたのに……。や、やばいもうちょっとで遅刻になっちゃうよぉ。は、早く行かないと。で、でも緊張ががが。ていうかVTuberの会社なら動画とかで説明会してよね……。どうしてこんな人が一杯いるところまで来ないとだめなのよぉ……。あぁ、もう。」

 

 驚いたことに最後の合格者のようだ。

 腰まで伸びた長い艶のある黒髪と小さなその容姿を持つその可愛いらしい少女は、必死に緊張と戦っているようであった。その人付き合いが苦手そうな様子からなんとなく唯香の姿が重なるが、一人で来ているだけ唯香よりずっと勇気がある。偉いと思う、まじで。

 

 「あの、大丈夫?」

 「ひゃっ!? え、ええと、あ、あの、私はそ、その怪しい者ではなくて、そのふぇ、フェアリーのその、四期生でその、ええと」

 

 その子は、緊張のあまり目をぐるぐると回し、嚙みまくりである。だが心配ご無用。俺はこれよりも酷い妹の兄を二十年近くしてきたのだ。その扱いは慣れたものである。

 

 「うんうん、分かっているよ。フェアリーの四期生の説明会に来たんだろう?」

 「あ、は、はい。そうです。……あの、あなたは?」

 「同じくフェアリーの四期生に合格した子の兄になります、鈴木健太といいます。」

 「あ、えと、私は『如月亜美』といいます。……え、というか兄ですか?」

 「うん、兄です。意味わからんと思うけど。」

 「……本当にどういう意味ですか?」

 「……うん、まあそれはこの後の説明会で分かると思うから今はそこに触れないで?」

 「……はぁ。」

 「とにかく、もう少しで説明会始まると思うから早く行った方がいいと思うよ。初日から遅刻はまずいと思うし。」

 「はっ、そ、そうでした! あ、あの、もう他の四期生の人たちとは会ったんですか?」

 「……まあ、一応。」

 「良い人たちでしたか?」

 

 如月さんの期待に満ちた目がまっすぐに俺を見抜いてくる。これは厳しい質問が飛んできたものだ。

 

 「……。」

 「……あの、どうして黙るんですか?」

 「……いや、まあ、その……うん。」

 「ちょ、ちょっと!? 不安にさせないでくださいよ! 良い人たちなんですよね?」

 「……イイヒトタチダヨ?」

 「……え、凄い不安になってきたんですが。」

 

 如月さんの顔色が徐々に青ざめていき、カタカタと震えだしていく。この子、ちょっと弄りがいがあるな。反応がいちいち大げさで面白い。こんなこと言ったら怒られるだろうが。

 

 「……じゃあ俺はトイレ行くから、早く部屋に行った方がいいよ? じゃあね、また後で。……南無。」

 

 どうせまた渡辺さんの犠牲になるんだろうなと思いつつ、そそくさとその場を去ろうとする。しかし、そこへ待ったがかかる。

 

 「……ちょっと待ってください。……一緒に行ってください。というか最後、南無って言いましたよね!? なんですかそれ!」

 「えぇー。でも俺今からトイレ行くし。」

 「待ってますから! いいから、私を不安にさせた責任取ってください!」

 

 というわけで、本当に俺が用を足すのを待ってくれた如月さんと一緒に部屋に戻ることになってしまった。

 

 「如月さんはどうしてフェアリーに入ろうと思ったの?」

 「……私、フェアリーの配信を見るのが大好きなんです。いつか私もこの人たちと一緒に色々なことをしたいなと思って、二期生の頃からずっと応募し続けてたんです。そして今回ようやく合格できたんです! 本当に合格した時は生きてきて良かったと心から思えました!」

 「……そうなんだ。」

 

 部屋に向かう道中そんなことを聞いてみたが後悔した。我ら兄妹のクソみたいな動機と比べてなんと立派な動機だろうか。……これは、せめて全力で仕事に取り組まないとな。

 そんなことを密かに思っていると、如月さんがじーとこちらを見ていることに気付く。

 

 「どうしたの?」

 「あ、いえ。すみません。……私口下手で普段人と話すのが苦手なんですが、鈴木さんは何となく喋りやすいなーと思って。」

 

 少し照れくさそうにそう言う如月さんを見てこの子は純粋でいい子なんだなと思った。しかし、やはり唯香と性格が似ている為、どうしても唯香の上位互換に見えて仕方ない。可愛さの点なら僅かに唯香に軍配が上がるから、完全に上位互換というわけではないな、うん。良かったな、唯香。

 

 「あぁ、妹が如月さん以上にコミュ障だからな。そういう子の接し方に慣れてるからだと思うよ。」

 「なるほど。……え、というか私以上にコミュ障ってそれ、大丈夫なんですか?」

 「……だから俺がついているんだよ、多分。」

 「……何となく事情が読めてきました。」

 

 

 

 「さて、着いたぞ。」

 

 俺の言葉にゴクリと如月さんが緊張を隠し切れず、ドアを見据えている。

 そして

 

 「きゃ、きゃわいいい!! 天国? ここは天国なのかしら!? 同期が皆美少女だなんて!?」

 「ひゃ、ひゃああああ!? 助けてくださーい!!」

 

 案の定、渡辺さんのスキンシップを受けた如月さんがそう叫ぶが助ける者はいない。他の二人も見て見ぬふりを貫いている。 

 

 「はいは~い! お楽しみのところ悪いけど、時間だから席について下さ~い。」

 

 そんな時だった。

 例の女性の声が聞こえてくる。振り返ると、そこには相変わらず満面の笑みを浮かべた、ゆるふわな雰囲気を放つ謎の女性がいた。

 

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