模擬レース翌日の土曜日、私は何時もより少しだけ速い時間に起きていた。
「……」
いつものジャージに普段使い用の蹄鉄シューズと色んな荷物を身に付けて、音を立てないように部屋を出る。
完全な早朝というか深夜明ける少し前ぐらいの時間はやはり起きてる人の気配は感じれず、私はこれまたバレないように外へ出る。
「……ピュゥゥゥン!!」
そして私はすぐに走りだしてトレセン学園から離れるように進む。目的地は郊外のキャンプ場で、前もって寮長であるタケシバオーさんに許可は取って準備は念入りにしてきた。
あとは彼女達が気づかないうちに目的地入りするだけなのだが……
「ちょっと待ちなカブラヤオー」
どういうわけか私と並走する三冠ウマ娘ことシンザン会長がそこにいた。
「えっと、おはようございます?」
「おう、まだ夜は明けてないがな。で、そんな大荷物で何処へ行こうってつもりかな?」
ニヤニヤと笑っているシンザン会長に、私は素面で返す。
「私自身の趣味の時間です。前もって寮長のタケシバオー先輩には話を通してあるんで」
「へぇ、あのタケシバオーに許可取って……許可?」
「はい、外出許可です。今日はアークツルスは昨日の模擬レースの疲れを取るために完全オフなので外に出掛けようと思いまして」
ちなみに私の持ってるのは日帰り用のキャンプ道具一式と愛用のアコースティックギター、そしてお財布と携帯と生徒手帳と簡単なものだ。
流石に新入生が外泊許可というわけにはいかないので、今回の日程は早朝に出てゆっくりキャンプ場を目指し、途中でお昼ご飯の食材を買い込み、キャンプ場でゆっくりして夕方に学園に帰宅するというものだ。
「なるほど、けど確かガビ達がショッピングセンターで買い物する~とか言ってたような気がするんだが」
「アハハ、私が人混みのなか平気だと思いますか?」
自慢じゃないが私は人が多い場所が大嫌いだ。勿論レース場は別だが、デパートやショッピングセンターなんていう人混みの塊のような場所に行くだけで体調を崩す。新宿駅や渋谷駅なんてなんど失神しかけたことか。
「そういうわけで今日の私は自然を相手にアコギを弾いてゆっくりするんです。捕まって強制連行される前に」
「そうかそうか……私も着いていっていい?」
「……はい?」
「いや私もたまたま今日は久しぶりの仕事がない完全オフでね。どうせやることないし一緒に行こうか」
どうせダメだと言っても着いてきそうなシンザン先輩に少しだけ頭痛がしたが、私は仕方なく了承した。
「よし、それじゃキャンプ場へ出発だ!!」
「お、おー……」
まぁどうせ日帰りだしと思いつつ、私はシンザン会長と共にキャンプ場への道を歩き出した。
その二時間後、美浦寮にて
「お、お前ら起きろぉ!!カヤに逃げられたぁ!!」
「バカですの?おバカなんですのテスコガビーさん!!」
「カヤさんめ!!なんて鋭い直感ですか!!」
「テスコガビーさん!!お姉ちゃんの愛用してるギターケースとキャンプ道具と下着とタオルがありません!!」
「どさくさに紛れて下着まで確認するなシスコン!!」
「ふむ、ところでシンザン会長も見当たらないが?こんな話をしていればすぐに気づくと思うんだが」
「ええ、それに確か先輩方の話だと今日中に処理しなきゃいけない書類があるとか言ってたような」
「……」
「……」
『会長とカブラヤオーが一緒に逃げたぞぉぉぉ』
アークツルスとリギルの面々がどったんばったん大騒ぎとなった。
美浦寮が大変になってる頃、私と会長は目的地の近くの温泉へとやって来ていた。
「ふぁ~極楽極楽~」
「温泉は沁みますね~」
露天風呂でかぽーん♪としながら、私達二人は湯船に浸かっていた。
「けどシンザン会長、良くこんなところに温泉施設があるの知ってましたね?私、たまにここら辺来ますけど見たこと無かったです」
「クラシックのころに湯治で来たことあってな。キャンプ場へ向かう道に直接は繋がってないから知らないのも無理ないかな。ここからキャンプ場まで徒歩で15分はかかるし」
「そうなんですか」
そう喋りながら、会長はさっき受付で買っていたお米のジュース……日本酒じゃなくてお米のジュースが入った徳利をお猪口に注いでクイッとする。
「クァァァ!!温泉入りながら飲むのは最高だな!!」
「飲んでるのはお酒じゃなくてお米のジュースですけどね」
あくまでも私達は未成年です。未成年飲酒は致してませんので悪しからず。
「そういうお前だって飲んでるじゃねえかシードル」
「失礼なこと言わないでください。私が飲んでるのはリンゴジュースです、決してお酒じゃありません」
「いや名前がカブラヤなのに飲むのはリンゴジュースってお前」
なんか笑われ、少しムッとしつつもジュースを口に入れる。
「ほっといてください……そういえばシンザン会長」
「ここは学園じゃないから堅苦しく呼ばなくていいぞ。呼び捨てなりヤマちゃんって呼んでくれ」
「ヤマちゃん?」
「どっかの記者が私の髪のことを名前から文字って『針山』って吹聴したことがあってね。ソイツは色々とまあやりあったわけなんだが、そこからヤマちゃんって言われる事が多くなって、私も愛称として悪くないから親しいやつからそう呼ばれてるわけさ」
なるほど、確かにシンザン会長の髪は少し……というか結構鋭い針のように尖ってるから、そう揶揄する気持ちは分からなくない。
「会長呼びじゃだめですか?」
「私の会長の任期は今年含めて2年間だからダメな」
「……ならせめてさん付けでお願いします」
「まぁカヤだし仕方ないか」
シンザンさんはやれやれと肩を竦める。そんなに私って堅苦しいかな?
「さて、そろそろ昼飯の食材買いにいくか」
「そうですね……ところでシンザンさん、リンゴ持ってます?」
「ふっふっふ、私居るところにリンゴありだよ」
どんな表現だと思ったが、そういうことならと私は少し考えて
「じゃあデザートは焼きリンゴにしましょうか」
「お、焼きリンゴか。私、意外と食ったことないんだよな」
「え?アルミホイルで包んでオーブンで少し焼けば良いだけなのにですか?」
「私、実はみじん切りとか刃物の扱いは大得意なんだが、何故か料理は大失敗するんだよな。カップ麺も大爆発したし」
「どんな状況ですかそれ!?」
そんな他愛もない話をしているころ、私達が居ないことに気づいた美浦寮では
「これよりカヤとシンザン会長の捕獲作戦を開始するぞ!!」
「いいか、相手は三冠ウマ娘と人一倍警戒心が強いウマ娘だ、正面捕獲は無理だと考えろ」
「皆さん、生徒会室の物置からネット銃の山を持ってきました!!」
「けどルドルフ、タケシバオー先輩の話やとミカのやつ近場のキャンプ場へ行くと言ってたそうやけど、どのキャンプ場かは言ってなかったそうやで」
「恐らくカヤのことだから、向かうキャンプ場は山の方面だ。アイツはおそらく人の居ないところで静かにギターを弾いてるに決まってる。となるとここから近くの林間キャンプ場はここしかないが……ウマ娘の歩きでも二時間ぐらいか」
「お前ら!!捕まえられた奴には内申点をくれてやるから、しっかりと頑張れ!!」
『ヒャッハー!!新鮮な内申点だぁぁぁ!!』
何やら結構な騒ぎになっていたのだが、結果として言うと彼女たちは私達を捕まえることができなかった。なぜなら
「それじゃ
「おー!!」
私達は山とは反対側の海の方へ歩いていたのだから。