5月の、いわゆるゴールデンウィークと呼ばれるお休みはトレセン学園にも適用されてる土曜日、私達アークツルスはバスでトレセン学園の合宿地へとやって来ていた。
「まさか1年生で、しかもこんな時期にこんなところに来れるとは思ってなかったかな」
窓からは綺麗な海が見えて、さらには青々とした森がある。例年よりも暖かなゴールデンウィークはまさに練習日和と呼ぶに相応しい絶好のロケーションだ。
(まぁもっとも……)
チラリと横を見れば、その雰囲気が台無しというか、まぁ学生らしいというか、そんな情景がぶっ壊れるような光景が広がってるわけで、
「よっしゃ3カード!!」
「ふふ、甘いよカネケヤキ、フルハウスだよ!!」
「んぎゃぁぁ!!なんでこんなときにブタやねん!!」
「ふっふっふ!!私こそがナンバー1ウマドルなんです!!4カード!!」
「「「な、なにぃ!!」」」
まずはいつの間にか持ち込んだトランプでポーカーを楽しんでるのはタマモクロスさんとハイセイコーさん、そして我らが美浦寮の寮長にして黒く乱れた短い髪が似合うタケシバオー先輩と、シンザン会長のライバルでもあった金色のメッシュと枝飾りが似合うカネケヤキ先輩がポーカーを楽しんでるし、
「久しぶりねラモーヌ、こんなところで一緒に練習できるなんて思ってもみなかったわ」
「い、いえ、そんなファントム姉さま。ですが、今日こそは姉さまを抜かす勢いでやらせてもらいますわ」
「フフ、威勢が良いのはいいけど、甘いものの食べ過ぎはしてないでしょうね?あの娘たちが居ないからって食べ過ぎてはダメよ」
「そ、そんなことはありませんわ。私は至って普通に普通の量しか食べませんわ」
その後ろでメジロ家同士の繋がりか、ラモーヌさんと通称『リギルのステルス機』ことメジロファントム先輩が優雅に紅茶を飲んでるし、
「「アタシの歌を聞けぇ!!」」
どうやって持ち込んだのか分からないカラオケ機器で熱唱するテスコガビーさんと、それを合いの手する若草色のイヤーカバーが似合うキーストン先輩と、こう言ってはなんだが雰囲気ぶち壊しのカオスな雰囲気だ。
「今さらですけど、止めなくていいんですかシンザン会長?」
「あー、どうせ止めたって止まらない連中ばかりだから構わんさ」
そんなものかとげんなりしてると、今更ながらメンバーの人数に疑問が生じる。
「なんていうか、ルドルフさんとマルゼンさん以外は皆さん現役から退いてる方ばかりですね」
そう、今回のリギルのメンバーのうち、同級生であるルドルフさんとマルゼンさん以外は引退組で、グリーングラスさんが調べてくれた話ではあと二人、現役のウマ娘が居たはずだ。
「あの馬鹿二人は今現在補習でトレセン学園の教室の中だ」
「ほ、補習?リギルのメンバーが?」
「アイツら、レース自体は強いんだが如何せんオツムが悪いというか、勉強はできるんだがテストができない感じで補習を受けてる」
なんとも微妙な顔で話すシンザン会長に顔をひきつらせる。まぁ確かにトレセン学園のモットーは文武両道であるわけだから、勉学ができないのは問題ではあるか。
そんな話をしているとシンザンさんはふと何かを思い出す。
「そういや勉強で思い出したんだが、カヤって意外とダンス上手なんだな」
ダンス……それはウマ娘がレース後に行うウイニングライブのことだ。
1年生が現在練習してる課題曲は『Make Debut!』で、ライブ楽曲の中で振り付けは簡単な方だが、如何せん素人の1年生がやるとつたない。
「買いかぶりですよ。合わせるので精一杯です」
謙遜するように言うが、すぐにジトリとした視線が回りから殺到する。
「え?え?なに?」
「カヤ、お前さんあれで精一杯ってどんだけ自己評価マイナスやねん」
タマモクロスさんが呆れるように言ってくる。
「少なくともライブ大好きなハイセイコーさんはともかく、カブラヤオーがほぼ文句なしなのは流石に悔しいな」
「あとミカちゃんも同じだったわよね。何か特別な練習でもしてたの?」
特別な練習と言われると少し微妙な気はするが、
「あー、うちの実家の祭事で舞をやったりしてるんで、その影響かと」
私と妹のカブラヤも、うちの実家の神棚に奉納されている破魔の矢と言い伝えられてる鏑矢から来てるし、正月や奉納際の時期は私達も幼いながら神楽舞いを披露してきたぐらいだし。
「へぇ、てことはカヤの実家は神社なんだ」
「貧乏が頭につきますけどね。私が山で練習できたのも、実家が所有してる山中を使ってたわけですし」
ついでに言うと和楽器なら琴、三味線、鼓、和太鼓、横笛の全てを一通りできる。これも祭事でよく使われるからだ。最も和太鼓に関しては子供のころに力が強すぎて皮を破ってしまって以来、叩いたことは1度もないが。
「しかし舞いか~舞いってやっぱり巫女服でやるのか?」
「ええ、うちだと巫女服に千早っていう特別な衣装を着て奉納しますね」
そこまで話して、そういえば今頃、神社の繋がりで知り合った昔馴染みのあの占い大好きウマ娘は何をしてるのだろうと考え、すぐにラッキーアイテムやら四柱推命やらを熱心にしてるんだろうな~と少しだけ笑みを浮かべる。
「となるとカヤの勝負服は巫女服だな」
「せやな、最悪着物は取り入れんとな」
「言っておきますけど、もう勝負服のイメージだけはたづなさんに提出してますから、変更できませんからね」
『えぇ~!!』
ブーブーと、ウマ娘じゃなくてブタ娘といわんばかりのブーイングだ。そんなに巫女服で走らせたいか貴女達は。
「まぁ巫女服じゃないですけど、和のイメージは入れてるので、期待だけはしておいてください」
「ちなみに聞くけど……やっぱり巫女服は下着とか着けな「マルゼンさん?山中引き回しの刑にされたいんですか?」ゴメンナサイ」
殺気を込めて言い放つとマルゼンさんはすぐに土下座した。そのため、私は心が広いので笑顔で頷く。
「今度マルゼンさんに巫女服の着付けしてあげますよ」
「え!!良いのかしら?」
「ええ、ただその大きなお胸は邪魔なのでさらしでぎゅうぎゅうに締め付けて差し上げますが」
その瞬間バスの内部が一部を除いて凍った。
「ええそうですわよね、大きなお胸は着付けの邪魔ですからね」
「せやな、大きすぎて着付けるのに邪魔になるさかいな」
「ええ、大きな胸は着付けの際に本当に邪魔ですからね」
他意はないと伝えるが、私とグリーングラスさんとタマモクロスさんの三人による怨嗟の呪詛に全員気が気でなかった。
そしてそうなる風景が思い浮かんでしまったマルゼンさんとクリークさんは冷たい汗が額を伝う。どれだけきつく縛りつけられるのか、実際にはやらないが戦々恐々といわんばかりだ。
「あ、そろそろ到着みたいですね」
私が無理矢理に方向を変えるが、バス内部に残る格差社会の不協和音は間違いなく一部のウマ娘の未来を不安視させることになった。