後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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お待たせしました。いやマジで難産だった。
トレーニングって陸上競技やってないとホントどんなメニューを組んでいいのか分からなかったので(私は学生時代バスケ部でした)


20R リギル合同練習 練習の部

「さて、準備運動は終わったな。これからアークツルスとリギルにおける合同練習を開始する」

 

 練習場に着いた私たちはジャージに着替え、それぞれ軽く体を解してトレーナーであるたづなさんとおハナさんの二人の前に立つ。

 

「午前中だが、リギルの練習メニューを中心に行うわけだが、まずは基礎練習から始める」

 

 そうして行われる練習内容は地獄もかくやというべきか、腕立て伏せ、スクワット、体幹トレーニングから始まり、ラダートレーニングをやり追い越し練習左右それぞれ10セットずつ、その次に重りの入ったベストを着てスタートダッシュトレーニング、さらに疲れた所に坂路20本と、最後に模擬レース5本とかなり筋肉を酷使するトレーニングだ。

 

 流石のこれには私含めたアークツルスの全員がバテており、マルゼンやルドルフもかなり辛そうな表情だ。

 

「た、たづなさんのトレーニングも大概辛かったけど、リギルのは輪をかけて凄い」

「あぁ、私たちも一ヶ月近くこのメニューはこなしてるが、未だに慣れないぐらいだからな」

 

 ルナからドリンクを受け取ってゆっくりと飲みながら、休憩だというのに険しい表情のおハナさんを見て首を傾げる。

 

「おハナさん……東条トレーナーっていつもあんなに表情怖いの?」

「いや、確かに練習中は鋭くはなってるが……何かあったのだろうか」

 

 私達二人が疑問に思ってると、件のおハナさんがこちらに近づいてきた。

 

「カブラヤオー、少し良いだろうか」

「?構いませんけど、なにかありました?」

 

 別段練習で手を抜いたりなんてしてないのだが、

 

「率直に聞くがカブラヤオー、ここ最近全くトレーニングをしてない日、完全休養日だったことはあるか」

「トレーニングしてない日……ですか?」

 

 おかしな質問だと思いながらも、私はここ最近を思い出して

 

「……言われてみればシンザン会長と日帰りキャンプに行ったとき以来、全然休んでなかったような」

 

 休みの日も朝の自主練習は毎日欠かさずやってたし、平日の練習休みの日も寮にさっさと戻るのもどうかと思ってトレーニングついでにランニングしてたし。

 

「なるほど、やはりか」

「え?」

「はっきり言うとカブラヤオー、今の君の脚は疲労によって万全じゃない、かなり危ない状態だ」

 

 そう言っておハナさんは手に持っていたタブレットを私に見せると、そこには今日の練習での模擬レースのタイムが書かれていて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに最初の一回も、得意の2000mだというのに()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これって」

「今回のトレーニングでの疲労もあるのだろうが、最初と最後の回の落差があまりにも大きすぎる。たづなトレーナーから聞いたが、普段の模擬レース形式のトレーニングではここまで落差が開くことはなかった事から、脚が休息を求めてるということが良くわかる」

 

 何でも人体というのは人間もウマ娘も問わず、疲労後適度に休むことで筋肉が修復・再生されるらしく、より疲労しにくい体へと変わるそうだ。

 が、今の私の体はその定期的な休息が全くなかったらしく、その修復が疲労に対して間に合ってないそうだ。

 

「こうなると練習をしてもあまり効果はない。むしろ怪我や故障を引き起こす危険も高くなる」

「故障……」

「と、普通ならば言うんだろうが、ところでカブラヤオー、ここ最近筋肉痛や体がなにもしてないのに極端に疲れた、なんてことはあるかしら?」

 

 その問いに少し考えるが、思ってみればチームを作って最初の頃は筋肉痛が大変だったが、今はそんなことは無いうえに、むしろ練習をする度に強くなってる実感のおかげか楽しくさえ感じていた。

 

「カブラヤオー、あなたの武器はその肉体の頑強さにあると言って過言じゃない。むしろ体を虐め抜けば虐め抜くほど、強くなれるウマ娘というべきかしら」

 

 そもそもファルトレクは肉体に掛かる負荷からすれば普通のトレーニングの何倍以上ものものだ。地面は普通のトレーニングに使うアスファルトや整備された芝やダートに比べて圧倒的に悪く、ただ歩くだけでも普通に比べても高い負荷がかかる。

 ゆえに自然と身体的に怪我がしにくい体になるわけだが、カブラヤオーの場合それに加えて天性の肉体もあった。

 

 カブラヤオーの肉体は元々、他のウマ娘に比べるとそこまで柔軟性は高くない、むしろどちらかと言えば固い部類に入る。

 当然体が固いというのはスポーツを行う者にとってあまりメリットがないどころかおおよそデメリットになるわけなのだが、逆に言うとカブラヤオーは生まれつき頑強なウマ娘であるという証明でもあるわけだ。

 

 ウマ娘のレースははっきり言って過酷だ。2000mを2分前後で走るのだから当然だが、特に小柄なウマ娘は走るストロークが必然的に小さくなるため他のウマ娘に比べても歩数が多くなる。ゆえに小柄なウマ娘ほどたった数回レースを行うだけで骨折や膝関節の故障を誘発しやすくなる。

 

 だがカブラヤオーのようにウマ娘の中には柔軟さこそ欠けるが、その代わり骨の一本一本が他に比べて太く固いウマ娘がいる。骨が太い……つまり骨密度が高いことで走った際に骨折するリスクがいくらか減り、捻挫といった関節の固さゆえの怪我を除けば多少の無茶が効く肉体を持つうえに、トレーナーとしてはどちらかと言うとスパルタな育成方針なたづなの練習メニューをして筋肉痛にならないどころか楽しんでるとなれば、もはや肉体がドが何個ついてもおかしくないMと化していた。

 

「となるとカブラヤオーは肉体に柔軟さをつけるトレーニングが必須だな。ついでに確りとした休息の取り方のレクチャーも」

 

 おハナさんはそう言うと他のメンバーの練習を一旦たづなさんに任せると、私を連れて練習施設に併設されている建物の中に入り、その中の室内練習場に入った

 

「まずカブラヤオー、ウマ娘において柔軟さが必要な部位は分かるか?」

「えっと、膝と股関節ですか?」

「それだけでは半分以下だ」

 

 そう言うとおハナさんは備えつきのホワイトボードに文字を書き込む。

 

「走りにおいて柔軟さが必要な部分は大きく5つ、上から肩、腰、股関節、膝関節、そして足首だ」

「腰?腰の柔軟さってどういうことですか?」

「あぁ、上から説明していくが、まずは肩だ。走る体勢を作ってくれ」

 

 そう言われて私はフォームを組むと、おハナさんは私に近づいて肩に触れる。

 

「肩の柔軟さというのは、正確に言うならば腕の振りの鋭さと言い換えてもいい。ここが柔軟に動くと腕の振りが速くなり、自然と加速しやすくなる」

「腕の振り……」

「そうだ。速く走るためには歩幅と共にその歩幅を生み出す加速が必要だ。人体というのは腕を振ることで揚力……前に進もうとする加速を生み出すようになっている。腕を使わない走りもあるが、それは特殊な訓練をして慣れてるウマ娘ぐらいしかやらないから例外と覚えておくといい」

 

 そして次に腰に手を当てる。

 

「腰は体勢を維持するための柔軟さが必要になる。速く走るには可能な限り前に体を倒す必要があるが、それを支えるのが腰、つまり土台というわけだ。特にカブラヤオー、貴方が最終盤に見せるあの独特な前傾姿勢は、今以上に腰の柔軟性があればさらに低く走れる可能性もある」

「え!!あれより低くですか」

「あぁ。そうなるとほぼ弾丸のような走りとなるが、逆に言えばいつ転倒を引き起こしても不自然ではないから、こればかりはたづな女史と話し合うべきだが」

 

 それは流石に困るが、可能性があるというだけで今はいい。

 

「次に膝や股関節、足首だ。レースは当然走るわけだが、走っているうちに膝や股関節といった脚の関節系全てを酷使する。ここ全てが柔軟でないと選手生命が短くなると言って過言じゃない」

「それは分かりますけど、毎回思うんですけど関節が柔軟じゃないとなんで選手生命が短くなるんですか」

「それは人体の構造的な問題だ」

 

 そうおハナさんは言って腕を組む。

 

「人体……これはつまり人間もウマ娘も共通していることだけど、関節というのは何も骨同士が機械みたいに直接くっついてるわけじゃなくて、骨と骨の間に軟骨っていう柔らかい骨が挟まってる」

「で、ここで問題になるのは元々軟骨というのは歩くだけで少しずつ磨り減るのだが、これが柔軟性があるのと無いのとでは減る量が雲泥の差になるうえに、レースともなれば秒単位で変わる」

 

 柔軟性があれば、足首は踏み込みの力強さを助け、膝は一歩の瞬発力を高め、股関節は一歩の幅(ストローク)を大きく増やす。

 

「カブラヤオーの場合、ファルトレクの影響で足首の柔軟性は高いが、他の関節はそこまで鍛えられていない。このままでもいい結果は残せるだろうが……」

「残せるけど?」

「一流にはならないうえに、最悪ヘルニアや関節炎などの怪我を誘発しても不思議じゃない。それでレースを引退するウマ娘も少なくないわけだからな」

 

 脅すような一言に背筋が寒くなると同時に、今自分が何をすべきなのか確認できた。

 

「これからは午後のファルトレクまでは柔軟といったトレーニングの基礎を教える。これはトレーニングの中では比較的負荷も少ないから、休日のトレーニングの参考にするといい」

「分かりました」

「いい返事だ」

 

 そうして私はおハナさんから教わった柔軟トレーニングをこなし、こうして午前の練習は過ぎていった。




オマケ マチカネ日記

「ムムム……」ピンポーン

ガチャ「あれ、フクキタルじゃんどうしたのこんなところまで。っていうかその背負ってる荷物どうしたの」

「タンホイザさん。いえ、タンホイザ(あね)様、しばらくの間これを預かって欲しいのです」

「?預かるのは別にって重!!え、これ中身なに!?」

「これはつい先日カブラヤ妹様より託された『カブラヤオー木像(1/10スケール)』なんですが、ついに物置に入りきらなくなりまして」

「へぇ……ってちょっと待って、ついに?今ついにって言った?」

「はい!!既にうちの物置のフクキタルスペースには『カブラヤオー木像』が100近くあります!!これはカブラヤ(あね)様がレースデビューをしたらうちの神社で売る商品なんです」

「(ミカちゃん、多分カブラヤオーさんから許可もらってないんだろうな~)まぁ話は分かったけど……なんでマチカネ神社で?カブラヤオーさんも神社だよね?」

「カブラヤ姉様はフクキタルに言ってくれました。お姉さまの分まで走ってくれると!!ならばフクキタルはカブラヤ姉様を応援するためなら占いでも商売でもなんでもすると決めたのです!!」

「(あー、そういえばフクキタルのお姉さんとカブラヤオーさんって同い年だったっけ)そっか、じゃあこの1体だけは預かってあげるね」

「はい!!ありがとーございます!!タンホイザ姉様!!ついでに来年のトレセン学園入学のために運気アップアイテムを」

「それは要らないから持ち帰って」

「ニャ!?」


続くかも?
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