「いやー、アークツルスの快進撃ヤバイわ。ガチでヤバイわ」
時は巡って6月の後半、部室にて遠い目をしながら空を見上げるのはタマモクロスさん。
「どうしたんですタマモさん?そんな意味不明なほど山盛りご飯を食べるウマ娘を見たような顔をして」
「なんやそのありそうで無さそうな顔?そうやなくて次の模擬レースの事なんやねん」
次のという言葉に私は首を傾げる。
「まずは今うちのチームの個人成績確認してみよか」
「えっと私とテスコガビーとハイセイコーさんが四戦四勝、妹とタマモクロスさんが四戦三勝、グリーングラスさん、ラモーヌさん、スーパークリークさんが四戦二勝でしたよね」
私としては5月の二つの模擬レースはそこまで苦戦せず圧倒的に逃げ切れたので、そこまで記憶にないが。
「おいこら!!なんでアタシらとの戦いがカットされるんだよ!!」
「そうっす!!ちゃんと描写するっす!!」
「あ、遊びに来てたんだテンポイントさんとトウショウボーイさん」
「居たことすら忘れられてたのか!!」
愕然とする明るい栗毛に白い流星の入った少女……第三模擬レースで戦ったテンポイントさんに、鹿毛の荒々しい髪型をした少女……第四模擬レースで蹴散らしたトウショウボーイさんがブーブーと文句を言ってる。
「だって二人とも、二着だったけど最終的に6バ身以上離れてたじゃん。しかもかなりバテバテで」
「カブラヤオーの逃げのスピードがおかしいんだよ!!なんだよ1マイルの半分走って5バ身差とか!!」
「そうっす!!短距離1200の半分で4バ身つけられたら追い付けるわけないっす!!」
そんなこと言われても困るというか、私の適正距離は元々短距離とマイルだし。
「ハイハイお二人とも、カブラヤオーさんにそんなこと言っても意味無いのは分かってるでしょう」
「いやいや、グラスもなんか言ってくれよ!!あんな一人旅されたらレースじゃねえって!!」
「むしろなんでグラスはカブラヤオーの影を踏めそうになったんすか!!幾らか長距離近くだったからってズルいっす!!」
「お二人とも、静かにしないと……灼熱のアスファルトの上で石抱きにして、その逆立ってる尻尾の毛を一本一本、丁寧に丁寧に、けど一瞬で抜いて差し上げますわよ?」
「ぼ、暴力反対っすってギャァァァァァ!!アタシの尻尾を鷲掴みにするなっすぅぅぅぅ!!」
「お、おま!!それはやっちゃいけないことだろうがぁぁぁぁ!!」
アークツルスの怖いウマ娘ことグリーングラスさんに尻尾を握られてドナドナされていく哀れな子ウマに合掌しつつ、話を最初に戻す。
「まぁ一年生だけのチームでここまでやってこられた事自体は文句ないねん、むしろ出来すぎてて怖いくらいや」
「なら良いじゃないですか」
「いいわけあるかい!!カヤお前、次自分が戦うウマ娘わかってて言っとるのか!!」
睨み付けて叫ぶタマモクロスさんに、私は真剣な表情で答える?
「そんなの、私が一番分かってます。むしろ今回のレース私自身が望んでいたレースでもありますから」
「それは知っとるけど!!知っとるけどもや!!
タマモクロスさんの悲鳴にも似た叫びに、私はその日の事を鮮明に思い出していた。
「お昼休みに理事長室に集合?」
その日は梅雨前だというのに雨がかなり降っていた。朝食をカフェテリアで済ませ、乗らない気分をどうしようかとコーヒーを飲んでいるところに、もはや親友と呼んでもおかしくないウマ娘ことルドルフが思い出したようにそんな話をした。
「あぁ、なんでも次の模擬レースについて、特定のウマ娘には話があるらしいぞ」
「次の模擬レース……もしかして一年生のデビュー枠をかけたやつ?」
「だろうな、私とカブラヤオーだけでなく、うちのマルゼンやカブラヤオーのところのテスコガビーとハイセイコー、他にも『カシオペア』のラッキールーラ、『ペルセウス』のエリモジョージとテイタニアの二人も呼ばれてたしな」
「ラッキールーラさんは兎も角、あの二人はな~」
エリモジョージとテイタニア、あの同じクラスの気まぐれド天然ウマ娘とフワフワしてる女王様ウマ娘を思い出し、私は少しだけ頭が痛くなった。
「私、あの二人苦手なんだけど」
「まぁ……言いたいことは分からないでも無いな」
二人とも確かに強いウマ娘だし、私なんかよりも強い脚を持ったウマ娘なのは間違いない。
「だがそれを言うなら、カヤも大概癖が強いと思うがな」
「私をあんな変人奇人連中と一緒にしないで。私は至って普通のウマ娘だから」
「そう思ってるのは自分だけだと思うぞ」
そんなバカなと睨み付けるが、ルドルフは涼しい顔だ。逆にムカつく。
そんなこんなでお昼休みになって、私はテスコガビーさんとハイセイコーさんの二人と供に理事長室へと向かった。
中には既に私達以外の全員がその場に居て、目の前にはたづなさんと理事長、そして見慣れないスーツ姿の女性が立っていた。
「感謝ッ!!皆、時間が無い中良く集まってもらった!!」
理事長はそう言うと、手に持っていた扇子を開いて豪快に笑う。
「えっと、私達に用があるということなんですが、いったいどういう?」
「ふむ、説明ッ!!まずは私がここに君達を呼んだ理由を話そう。簡単に言えば、次の模擬レースについての事だ」
そう言うと理事長は開いていた扇子を閉じて真剣な表情を浮かべる。隣に居たスーツの女性……たづなさんの後任にして現秘書役の樫本さんも鋭い目をさらに鋭くしている。
「既に気付いてるとは思うが、今回呼んだウマ娘はここまでの模擬レースで全勝してる。つまり、今期の特別デビュー枠のチャンスがあるということでもある」
「正直、ここまでの人数が特別デビュー枠を争うとは思っていなかったというのが実情でな。優駿が揃うこと自体は良いが、揃いすぎるのも困りものでもあるわけだ」
曰く、これだけの特別デビュー枠を取れるほどのウマ娘の過半数が来年のデビュー枠になってしまったらどうなるかということらしい。
デビュー枠を取れるということはつまり、他のウマ娘とは実力が一線を画す強者ということだ。そんなウマ娘達が半分以上来年にデビューとなれば、それ以外の本来優駿となるウマ娘達が霞んでしまうということになりかねない。むしろなるのが当然だろう。
「故に提案ッ!!次回の模擬レースの結果による特別デビュー枠を4つに拡張する!!そして同時に、君達の中でペア同士でその1つの枠を奪ってもらう!!」
その一言に全員の雰囲気がガラリと変わり、そして同時に真剣で剣呑な風が漂う。
「えっと、理事長さん、それってつまり、私達八人をそれぞれ二人ずつに分けて、その二人のうちのどちらかかつ一位のウマ娘だけが枠を取れる……そういうことで良いんでしょうか」
ラッキールーラさんがおずおずといった表情で質問すると、理事長は然りと頷く。
「組み合わせは?もう決まってるんだよな」
「肯定ッ!!そしてこの場で発表させてもらう」
そう言うと理事長は懐からタブレットを取り出して読み上げ始めた。
「第一レース、ハイセイコーとエリモジョージ」
呼ばれた二人は互いのことを見ると、エリモジョージさんはどこ吹く風と口笛を吹き、ハイセイコーさんはエリモジョージさんを睨む。
(それだけハイセイコーさんも真剣なんだってことか)
「次、第四レース、マルゼンスキーとラッキールーラ」
「うぇ!!まさかのマルゼンさんとだなんて」
ラッキールーラは不安そうな表情で肩を落とす。どういうわけかラッキールーラさんはマルゼンさんのことが苦手らしく、近づいて話すのも怖がるくらいだ。
(運命的な何かがあるのかな?二人には)
「次、第七レース、テスコガビーとテイタニア」
理事長のその言葉にテスコガビーもテイタニアさんも互いのことを見るが、すぐにその言葉の意味を理解し、同時に私はルドルフの方へ視線を向ける。
「そして第十一レース、カブラヤオーとシンボリルドルフ」
その瞬間、私達二人以外のウマ娘全員が驚愕の表情となった。
方や質実剛健、完璧を体現し、模擬レースでも他を差しきり、追随を許さぬは正しく『皇帝』シンボリルドルフ。
方や破滅の大逃げ、無茶無謀を無とし、模擬レースでは誰もが影を踏むことすら許されない『漆黒の韋駄天』カブラヤオー。
間違いなく現1年生の中で最強と最速を意味する私達二人の対決、そして同時にこれは『推薦と血筋のエリート』対『一般入試からの叩き上げ』という正反対のカード。
「負けるつもりはないよ、ルドルフ」
「フッ、それはこちらの台詞と言わせてもらおう」
外の雨は激しさを強め、雷が二人の間を裂くのだった。
オマケ マチカネカブラヤ日記
「いやーニンジンが増えて増えて楽しいな」
「……何やってるんですかシンザン会長、あとルドルフとマルゼンとハイセイコーさん?というかなんでシンザン会長以外半裸なの?」
「カ、カヤちゃん助けて!!このままだと裸に剥かれて部屋に戻れなくなるよ~!!」
「なんというか、シンザン会長がニンジンを賭けて麻雀をやろうと言い出して……結果、惨敗というわけだ」
「うぅ……シンザン先輩強すぎよ!!なんでそんなにポンポンロンできるのよ!!」
「はっはッは!!ま、これも実力さ!!ちょうど良いしカブラヤオーもやるか?ハイセイコーは弱くて話になら無いし」
「うぅ……お願いカヤ!!私の仇を取って!!」
「えぇ……まぁ、やるだけやってみますか」
数十分後
「ツモ、平和八連荘。全員に16000点」
「ちょっ!!おま!!安い役ばかりで八連荘とか勘弁しろよ!?」 シンザン トビ
「嘘でしょ!?積み込み!!積み込みよ!?」 マルゼン トビ
「言いがかりはダメですよマルゼンさん」 カブラヤオー 大差勝ち
「一番強いのはカブラヤオーだったか……」ルドルフ トビ