売店は空いてなかったが、レースに出るウマ娘用のフードコートは空いており、カブラヤオーとシンボリルドルフは謎のウマ娘、ゴールドシップと共にそこにあるテーブルの一つを陣取っていた。
「お?二人はそれだけでいいのか?」
「いや最終レースでまだまだ時間があるとはいえ、直前にそれだけの量を食べるウマ娘なんて普通いないから」
ゴールドシップの前には山というかなぐらいに盛られた焼きそばとお好み焼きとたこ焼きという大阪食い倒れセットが鎮座していて、対するカブラヤオーの前には好物の大判焼き6個セットと緑茶、シンボリルドルフの前には少し大きめのキッシュとコーヒーと明らかに量が違った。
それに対してゴールドシップはそれ以上は何も言わなかった。私たちの言うことに納得はしないが理解はしたのだろう。
「ところでゴールドシップ、なぜ我々二人に声をかけてきた」
「あ?んなもんフィーリングに決まってるだろシッポリルドルフ」
「誰がシッポリルドルフだ!!間違えるにしてもそんなふしだらな間違いだけはされたくない!!私の名前はシンボリルドルフだ!!」
顔を真っ赤にしながら怒るルドルフに、カブラヤオーはこの流れに一抹の不安を覚えた。そしてゴールドシップはケラケラと笑いながら
「悪い、噛んじまった」
「否、わざとだ!!」
「ルドルフストップ!!それ以上はいろんな意味でいけない!!」
このままではどこぞの吸血鬼と幽霊の少女のやり取りになってしまうのを無理矢理止めさせる。
「ちぇ、せっかくウマチューブで纏められてたアニメのネタができると思ったんだけどな」
「そんなのやらなくていいから!!」
カブラヤオーはやはりと思った。このゴールドシップというウマ娘、見た目に反比例するように癖が強すぎる。
カブラヤオーも若干癖がある方だと自覚してるが、この癖の強さは自身なんかの比じゃない。下手すると禁断症状時のスーパークリーク並かそれ以上だと安易に理解できるほどだ。
「まぁフィーリングってのは半分そうなんだけどな、半分は違うぜ」
「???」
「まずアタシはお前ら二人がどんな考えをしてるかなんてさっぱり分からない。分かるなんて事をいう奴は、そりゃ真剣に考えてる二人に対する冒涜だ、喧嘩を売ってるな。ゴルシちゃんがプロレス技をお見舞いしてやるぜ」
いやどんな脈略でそうなるのかと思ったが、二人はとりあえずスルーすることにした。
「けどあの控え室で見たのは二種類のウマ娘だった、二人とも何か分かるか?」
「?」
「どこか勝つことを諦めてるモブウマ娘と、絶対に勝ちたいと闘志をみなぎらせてるお前ら。気にかける理由なんかそれだけだろ」
それだけ言うとゴールドシップは改めて焼きそばを食べ始めるが、カブラヤオーとルドルフは唖然とした。いや、唖然とするしかなかった。
「……問おうゴールドシップ」
「あ?まだ何か聞きたいのか?」
「あぁ、なぜ我々二人以外をモブウマ娘と呼んだ?」
そう、カブラヤオーもそこに唖然としたのだ。私達ウマ娘にとって勝ちたいと思う闘志こそが、ウマ娘そのものの本能と言って同じだからだ。
「んなもん知らねぇよ。ゴルシちゃんはあいつらじやないからな。けど、そうなった理由なら分かるかもしれないけどさ」
「え……」
「多分、お前ら二人に絶対勝てねえってどこかで気づいたんだろ。このゴルシちゃんだってお前らのレースを見て、少し、ほんの少しだけ尻尾を隠そうと思っちまったくらいだからな」
ゴールドシップは今走ってるウマ娘達をモニターで見ながらそう呟く。
「アタシは自分を強いと思ってるし、他のモブウマ娘達も多少の程度の差はあれどそんな風に考えてる。けど、お前らの走りは強いの次元を通り越してる、いや、走っても届くと思えないって言うのがアイツらの本音だろうな」
「追いつけない?そんなの、練習して」
「その練習が確実に成果に繋がるとは限らない。二人だってそのぐらいは分かるだろ」
ゴールドシップの問いにカブラヤオーは思わず胸元を掴んだ。
自分に合わない先行や差しのスタイルをひたすら努力し、親友と同じ走りをするためにひたすら追い込んでも、全く成果に繋がらなかったことを、カブラヤオー自身が一番良く知っているからだ
「それにトレセン学園は文武両道が謳い文句だけどさ、学年を上がれる奴は一握りの才覚を持った連中ばかり、そんな中で本当に自分がここに居て良いのかなんて悩むやつ、悩んだ末に辞めてくやつが大半だぜ」
「それは……」
「アタシら競技科に所属していて、実際のレースに、それもG1クラスのレースに出られるやつは同年代だけのクラシック期ですら皐月、ダービー、菊花の三冠、桜花、オークス、秋華のティアラ、そしてNHKマイルの計7つで最大126人だけだ。けど実際はNHKマイルの18人を除きゃ、三冠目指すにしろティアラ目指すにしろ、三レースで出走したウマ娘がそれぞれ全部で30人にも満たない数しか出れねえなんてこともある」
その時自分が、目の前に間違いなくその30人の中に入れるウマ娘達を前に、自分がその中に入り込んで且つトロフィーを取ることが本気で走れるウマ娘はどれぐらいいるか、本気で考えたことがあるか。
その問いにカブラヤオーは何も言えなかった。いや、正確には何も否定できなかった。少なくとも今までの無茶な先行策や差込策で走っていたなら、遅かれ早かれ自分がそちら側に居たのは明白だったからだ。
「ならゴールドシップ、君は考えたことがあるのだな」
「おう、勿論だぜ。少なくともゴルシちゃんはゴルシちゃんなりにその答えを見つけてもいるしな」
「……参考までに聞かせてくれない」
私の言葉にゴルシちゃんはニヤリと笑った。
「何てことないぜ、
「い、言ってること矛盾してるような」
「バァ鹿!!これ以上ないシンプルな答えだろうが。そいつらが、アイツにだけは勝ちたい、アイツよりも前に走り抜けたい、そういうシンプルに熱くさせる感情を滾らせてやれる走りをすればいいってな」
「勝ちたい……?」
そこは普通負けたなら悔しくないじゃないのかと聞けば、ゴールドシップは呆れた顔をする。
「それじゃただ諦めさせただけだろ。アタシやお前らの走りに必要なのは諦めさせる強さじゃなくて、
「カリスマ……」
「別にそれが同じ学年の同じレースを走るウマ娘じゃなくていい。これから来る連中にそういう走りを見せれば、自然と周りには自分に勝ちたいって連中が集まるもんさ」
お前のようにな、とカブラヤオーを見て笑うゴールドシップに、当人はどことなくスッキリした気持ちになった。
今まで、カブラヤオーはどうして自分の回りにウマ娘が集まるのか不思議でならなかった。弱いウマ娘の自分になぜと思う気持ちは少なからずあった。
けど、ゴールドシップの話の通りなら、周りの皆が、本気で自分に勝ちたいと思って集まったのだとすれば、ああ、今までの居心地の良さに理解できる。
あれは純粋な好意であり、勝ちたいと思う闘志であり、強くなりたいという競争心。
「んだよ、どうやら腹は決まったんだな」
「……はい、ありがとうございますゴールドシップさん」
カブラヤオーは素直に目の前の葦毛の怪物に礼を言った。そして同時にルドルフの方へ向き直り、
「ルドルフ……本気で逃げ切るから、私」
共に練習してきた仲間たちの思い、その今まで培って、育んで、そして鍛え上げた全てを束ねて、カブラヤオーは宣言する。
「だから、死力を尽くして差しきって見せろ、
その全てを、この走りに込めると誓って。
オマケ マチカネカブラヤ日記
「ところでゴールドシップさん、レース前にそれだけ食べて大丈夫?」
「あ?なんか問題でもあるか?」
「えっと、別にゴールドシップさんが良いなら良いんだけど……」
数十分後
「ふぅ食った食った!!」
「あ、あれだけあった大阪三種の神器セットが……たった数十分で完食……」
「ま、これだけ食えばレース終わるまでは大丈夫だろ」
「むしろこれで足りないなんて言ったら、だいぶヤバイけどね」
「へ……ブんバぼ!!……む、誰かが噂をしたような……気のせいか」
「オグリ……せめて食事中にくしゃみするなら丼を起きなさい」
「ん……すまない」
「は、ハクション!!うう、今、誰か私のことバカにしたかも」
「スペ~もうすぐにんじんハンバーグできっからね!!遊んでないで準備してね!!」
「あ、はーい!!」