後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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27R 皇帝狂奏曲~第三楽章

 中山で行われる新入生模擬レースも佳境を過ぎ、ついにカブラヤオーやシンボリルドルフが走る最終第11レースとなった。

 

「しかし、第11レースは何が起こるか分からん面子だな」

「そうなんですか、亀谷さん」

 

 亀谷の呟きに屋根谷はカメラを回しながら聞き返す。となりには入場のさいに一緒だったウマ娘……マチカネフクキタルとその従姉のマチカネタンホイザもいた。

 

「前評判じゃ、大逃げのカブラヤオーが逃げ切る可能性も、それを差しきってルドルフが勝つって予想も半々だ。正直何が起こっても不自然はない。俺としてはカブラヤオーが勝つことが望ましいがな」

「亀谷さんはホントシンデレラストーリーが好きっすね。俺には何が良いのかサッパリっす」

 

 屋根谷の言葉に、亀谷は苦笑する。実際彼もたづな女史……現役名トキノミノルと出会う前は強いウマ娘こそ至高という考えだったのに否定はしない。

 否定はしないが、その時の事を思い出してしまえばどうしてもそういったシンデレラストーリーを追い求めてしまうのは性にもなってしまったなにかだ。

 

「パドックで見た限り、カブラヤオーは心身ともに絶好調、ルドルフも言わずもがなだ」

「ホント、カブラヤオーさんとは何度か一緒に走ったことあるけど、今日は特に調子良さそうでしたね」

「ええ。朝占ってみれば今日のカブラヤ姉様の運勢は大吉、タロットも戦車の正位置と文句なしの状態!!つまり負ける理由が見つかりません!!」

「けどシンボリルドルフも良い調子だったし、条件的にはイーブンというところっすか」

「いや、ややカブラヤオーに有利というべきだな」

 

 脚質的にシンボリルドルフはカブラヤオーを追わなければならないが、その都合上、シンボリルドルフは他のウマ娘の後ろを走らなければならないがために、カブラヤオーの最高速度を上回る速度と加速が必要とされる。

 だがそのカブラヤオーもシンボリルドルフも資質的にはほぼ同じ、互角と言って過言じゃない。

 

 そうなると淀の坂程じゃないが急な中山の坂路を得意とするカブラヤオーが一歩上手を行く可能性が高い。何よりも、

 

「先行や差しのウマ娘はカブラヤオーのハイペースに着いていこうとすれば、間違いなく脚をぶっ壊す。だから他のウマ娘はダメだと分かっていてもペースを落としてしまう」

 

 それは上がり3ハロンの最高速度でならばカブラヤオーよりも速いシンボリルドルフも例外じゃない。むしろ大逃げ相手にペースを落とすことそれそのものが自殺行為に等しい。

 これは知り合いのカブラヤオーの走りをウマ娘におけるスポーツ医学やら人体構造学に詳しい人間に確認してもらって、直接話を聞いたのだから間違いない。

 

 曰く、詳しくは調べてみなければ分からないが、少なくともG1逃げウマ娘でも、それこそ逃げウマ娘の代表の一人とも言える最盛期で全く怪我をしなかった仮定のトキノミノルでさえ、カブラヤオーの走りをデビュー戦から真似していれば間違いななく春のクラシックで、というよりも皐月賞ですら体を壊してリタイアということになりかねないそうだ。

 そもそもの話、仮に怪我をしなかったとしてもその心肺機能すら怪物レベル、一万のウマ娘に1人居るかい居ないかだそうだ。

 

「ならシンボリルドルフが勝つにはどうするのが最適なんすかね。今までは差しで勝ちきってましたけど」

「まぁ今回は先行策を取らなきゃ勝てないだろうな。スタミナの消費こそ差し以上に激しいが、カブラヤオーを差しきるほどの体力と溜が終盤にある可能性はかなり低い。なによりも今回のレースはこの二人以外にも面倒なのが出てるからな」

 

 そう言って亀谷は懐からタブレットを取り出すと、今回のレースの出バ表を確認する。

 

 

第一学年定期模擬レース 中山 芝2500m
1カブラヤオー逃げ
2フリルドナッツ差し
3リードパンク差し
4シンボリルドルフ先行
5バイトアルヒクマ先行
6ドナドナ差し
7ジュエルコーラル先行
8ゴールドシップ追込
9シアンシュシュ差し

 

 

「ゴールドシップ、こいつは特に厄介だからな」

 

 前回の定期模擬レースでの件のウマ娘を見て、恐らくカブラヤオーが一番苦手とする相手だろうと亀谷は予想していたが、まさかシンボリルドルフと共に走るとは思ってもみなかった。

 

「そうなんすか?確かに前回のレースじゃ後ろから捲るように追込かましてましたけど、そこまで注目するほどじゃ」

「そんなんだからお前は何時までたってもアシスタントから上がらないんだよ!!」

 

 何せ()()がつくほどに有名すぎるウマ娘を知らない屋根谷をどつきながら痛むような気分の頭を撫でながら続ける。

 

「去年のジュニアウィンターレースシリーズを覚えてるか」

「えっと、たしか小学生の冬大会でしたっけ?」

「そのときの準決勝、走り方はカブラヤオーと似た()()()()()()()()()()()()()()()()スタイルで他の追随をゆるなさい圧勝で決勝進出を決めたのがゴールドシップだ」

 

 小学生離れした高身長を生かしたロングストローク&ロングストライドを武器に、芝2400mを中盤1000mから驚異の17人抜きの圧倒的な加速力とスピードで最終的に大差勝ちした。ゆえにその名前からあやかって『不沈艦』やら『ウマ娘界のヤマト』、『機動戦艦ゴルシ』など、多くの異名がつけられた。

 

「それは……ちなみにその決勝はどうなったんです?」

「あー……そのだな、決勝でゲートを蹴り飛ばしたもんで発走除外になった」

「……はい?ゲートを蹴った?」

 

 何を言ってるんだと目を細めるが、間違いなく事実だ。

 ゴールドシップ、見た目こそ美人系なウマ娘だが、実態はカブラヤオーの強心臓なみに珍しいレベルで、癖が強すぎるウマ娘なのだ。

 一時期調べれてみれば出るは出るはの大量の伝説、地頭は良いのにそれを悪戯ばかりに使い、その追い込みの切れ味の元になる筋力でどこからか持ち込んだ錨をぶんまわし、あげくの果てに常人ウマ娘なら絶対にやらないと思われることを嬉々としてやりたがるうえに、自らをゴルゴル星の宇宙人だと平然と宣う。もはやゴールドシップだからという理由で納得するしかない天災の一種だ。

 

 そんなウマ娘がシンボリルドルフとカブラヤオーと同じレースを走り、しかも追い込みに向いた外枠8番の好位置、はっきりいうと何が起こっても不思議じゃないと言えるレースだと、亀谷は自信をもって言える。

 

「お、出てきたみたいだな」

 

 ターフへと件のウマ娘たちが出てきたのを確認し、亀谷は改めて目的の少女……カブラヤオーを見つけその一挙手一投足をまじまじと確認する。

 

「今の状態、端から見ると女子中学生をジロジロ見る危ないおっさんっすよ」

「それに関してはあまり否定できないが……それを言ったらここにいる大概の観客もそうだろ」

「自分はただレースを撮ってるだけですから違うっすよ」

 

 生意気な返しにこのやろうと思いつつ、ふとカブラヤオーの姿に違和感を覚える。

 

「……なぁ、カブラヤオーってあんなだったか?」

「?なにがっすか?」

「なんていうか、普段はおどおどしてばかりなのに、今日のカブラヤオーは……そう、落ち着いてるっていう感じだ」

 

 何があったかはわからない、分からないが間違いなく今までの模擬レースでは見られなかった姿であり、ターフの状態を確かめるその姿は貫禄すら身に付きはじめてると言っても過言じゃない。

 

(いや、それはカブラヤオーだけじゃない)

 

 よく見ればシンボリルドルフも今まで以上に落ち着き、そのオーラは遠目からでも流麗にて鋭く研ぎ澄まされている。

 ゴールドシップに至っては表情は癖者と言われる通りな不適な笑みを浮かべているが、雰囲気は真剣そのもの

。らしくないというより、そうしなければ勝てないと本気で考えてるウマ娘のそれだ。

 

「カブラヤオーさん、なんていうか雰囲気出てるね~ちょっと怖いかな」

 

 知人であるマチカネタンホイザもどうやら今日のカブラヤオーの姿になにか思うところがあるようで、

 

「……」

 

 彼女を姉と慕うマチカネフクキタルに関しては黙ってしまう。それだけ仕上がってると見るべきだと亀谷は考えることにした。

 

(……いま、おぼろげにですがカブラヤ姉様の背後にトキシラズ姉様の姿が見えたような……気のせいでしょうか)

 

 フクキタルのその考えを知るものは、誰もいなかった。




オマケ マチカネ???日記

「なにやってんのさもう!!最後のレース前にコンビニでそんなに買い込んでさ~()()()()()()()

()()()()()()だって!!それにターボの勝手なんだから良いじゃん!!それに《テイオー》》もジュース買ってるじゃん!!」

「ボクは食べきれるからいいの」

「ターボも全部食べれるもん!!」

「はぁ、二人とも、急がないとレース見れなくなっちゃいますよ~と、休日に無理矢理連れてこられた()()()()さんが言いますよ~」

「ごめんごめんネーチャン」

「誰がネーチャンか!!もう勉強教えてあげないから、二人とも」

「ヴぇ!!」

「なんでターボも!?」

「仲良く次の豆テストで先生に怒られると良いじゃん、二人とも」

「ご、ごめんごめんネイチャ!!謝るからそれだけは~」

「ネイチャ、お願いだからターボだけは、ターボだけは助けてよ~!!」
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