後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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3R 太陽曰く朝から混沌

 早朝の四時、何時も通りの時間に起きた私は慣れたように壁に掛けてあるジャージに着替える。隣のベッドに寝ているテスコガビーさんはまだ寝ているようで、起こさないように静かに部屋を出る。

 そして寮から出て少し肌が震える。四月とはいえ早朝の四時だ。スマホ情報だと今の気温は5度とかなり低い。

 

「……よし」

 

 軽くジャンプ、もも上げ、屈伸をした私はすぐさまランニングに移る。

 今日のコースは簡単にトレセン学園の正門から外周を一回り。それも学園側ではなく道路を挟んで反対側の右回りのコースだ。関東最大の学園だけあって敷地も大きいトレセン学園の外周を走るだけでも8キロとそれなりにあるうえ、カーブは緩やかだが距離が外回りになるからさらに増える。

 入学してすぐだしと、今日は信号ごとにダッシュとジョグを繰り返す。前もって調べた限り、トレセン学園外周道路にある信号機は16台。平均500メートルだと考えればウマ娘の私にとっては軽い準備運動だ。

 約15分ほど時間をかけて正門へと戻ってきた私はすぐさま来た道を戻るようにもう一周。今度は信号が赤になるまでは全部ダッシュ。

 

「……ッ!!」

 

 坂だろうがなんだろうがペースは変えずに全力疾走。運良く信号にさほど捕まらなかったおかげで10分で走り終えた私はすぐさま移動して、寮の近くの河川敷に移動する。

 この河川敷にはトレセン学園がウマ娘のために無料で貸し出しているトレーニング用具が納められている倉庫があり、私はその中からトレーニングラダーと脚に巻く重りを取り出す。

 そこからは地道なトレーニングだ。坂道を走るためのピッチ走法の練習のためのクイックランを始め、内や外にずれるためのスラローム、さらにそれを複合させたクイックスラロームを10回3セット、さらに足腰を鍛えるためにうさぎ跳びに階段ダッシュ、初日からオーバーペースな気がしなくもないが、才能がない私にはこれぐらいやってようやく丁度いいぐらいだ。

 

「おや、どうやら先客が居たのか」

「え……あ」

 

 と、誰かが声を掛けてきたので振り返ってみれば、そこには同学年のシンボリルドルフが、私のようにジャージを着て立っていた。

 

「中々早いな。まだ朝五時前だというのにもう練習かな」

「……えぇ」

 

 ニコニコとした表情で私の前まで来ると、懐からペットボトルを私に差し出す。それは昔から良く見るスポーツドリンクだった。

 

「少し休憩したらどうだ。その様子だと、朝起きてすぐにトレーニングをといった感じかな」

「……ありがとうございます」

 

 お礼を言い、私は一口だけ水を飲み込む。

 

「……そういうルドルフさんもこんな朝早くからトレーニングですか」

「あぁ。何せもはや習慣でね、私にとってはトレーニングをやらないと朝が始まらないくらいだ」

「……私もです」

 

 やはり強い人にとってこんな練習は当たり前のことで、やって当然、こなせて当然のものなんだろう。

 

「ところで……」

「カブラヤオーです、何故か幾名からはカヤなんて呼ばれ方をしてますけど」

「カブラヤオー、もし良かったらだが、少し練習に付き合ってくれないか」

 

 その一言に私は目を見開く。

 

「私なんかで構わないんですか?私はルドルフさんみたいに凄いウマ娘じゃないですよ」

「なんか、というのは相応しくないな。今ここにいるのは私と君の二人だけだ、それに私は驕るつもりはないが、君とは対等な関係でいたいと思っている」

「対等な?」

「友達というやつだ。トレセン学園では努力するのは当たり前だが、今まで出会ってきた中で、私以上に早起きしてまでトレーニングをしているウマ娘を見たのは君が初めてだ」

 

 どうやら本気で尊敬してるような言葉を言ってくる彼女に、少しだけ、ほんの少しだけ罪悪感を感じる。

 

「……すみません、やっぱりワタシじゃルドルフさんの相手は力不足なんで」

「フッ、確かカブラヤオーは同じ今年入学した間柄だ。ならばさん付けは不要だ。なんならルナとでも呼んでくれて構わないぞ」

「いえ、お構い無く」

「いやいや、遠慮するな」

 

 ジリジリと下がって迫ってが数分続き、やがて私達二人の間に沈黙が掛かる。

 

「……」

「…………」

「………………ピュゥゥゥゥン!!」

 

 当然ながら私は逃げた。陽キャのシンボリルドルフと一緒に居たら私なんて地面に落ちたかき氷の欠片のように一瞬で溶けてなくなる。というか、私の精神衛生的に無理だ。

 

「フッ、追いかけるのも私は得意なんだがな!!」

「ヒィィィィ!!追ってこないでェェェ」

 

 が、どういうわけか私が逃げるタイミングと同じタイミングでシンボリルドルフさんは私を追いかけ始める。まるで気に入った相手を捕まえようとするかのような行動に、私の脚はさらに回転を速める。

 

「あれ、カヤこんなところに居たゴハァァァ!?」

「ごご、ゴメンテスコガビーさんンンン!!」

 

 目の前に立っていたテスコガビーさんを撥ね飛ばし、私はさらに逃げる。

 

「おっと、大丈夫かテスコガビー?」

「だ、大丈夫だよルドルフ……けど自分で走るから下ろしてェェェ!!」

 

 それを楽々とキャッチし、彼女をお姫様抱っこしながらまだ追走してくるシンボリルドルフ。ウマ娘は不安定な揺れが苦手なのでテスコガビーさんにとっては地獄のような状況だろう。

 

「あら、なんか面白そうなおにごっこしてるじゃない。私も混ぜてほしいわ!!」

「ヒィィィィ!!マルゼンスキーさんンンン!!」

 

 さらにどういうわけか赤いスーパーカーに乗って来てたマルゼンスキーさんが近くの駐車場にドリフト駐車して飛び降りて参戦してきた。

 

「あら、朝からレースなんて楽しそうなことしてるわね。メジロ家の一員としてこれは一緒に走らないと」

「なんや、おもろいことやっとるな!!うちも混ぜんかい!!」

「あらあら~朝からレースですか~面白そうですね~」

「私より目立つのは赦さないんだからぁぁぁ!!」

 

 なんでか知らないけど自称メジロ家、葦毛の関西弁、間延びした声の母性、いろんな意味でキラキラしてるやつまで出てきた。というか本当に誰ですか貴女たち!!

 

「おうおう、今年の一年は朝から張り切ってるね~私も久しぶりに若い連中と走ろうかね!!」

「今日こそは私がお姉ちゃんを捕まえるんだから!!」

 

 さらにさらにシンザン会長と我が妹まで参戦してきた。最早カオスだ。9人立て第一回早朝トレーニング杯がここに開幕してしまいました。距離は未知数です。

 当然私は物凄い勢いで追ってきてる全員から逃げるために、脚の回転数はトップギアを超えてオーバートップである。

 

「なんでこうなるのぉぉぉぉ!!」

「それよりも私を下ろしてぇぇぇぇ!!」

 

 私は平凡なウマ娘なだけなのに、そんな思いがこもった絶叫が空に響いた。

 

 なおこの騒動は校門にいたたづなさんによってあえなく沈静化し、後に『トレセン学園に入学した次の日の早朝にレースを行ったウマ娘は大成する』という変な迷信が生まれることになるのは、まだ少し先の未来の話である。




ウマ娘図鑑

ミスカブラヤ
適正 芝A ダートC
脚質 逃げG 先行G 差しA 追込B
距離 短距離B マイルA 中距離A 長距離G
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