後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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31R アークツルスの休日

 どうも皆さんこんにちは、カブラヤオーです。私は今現在、とても気分が悪いです。ぶっちゃけるとエチケット袋が必要になるくらい。なぜなら

 

「よーし!!今日は一通り遊ぶぞぉ!!」

『おー!!』

「お、ぉぉ……」

 

 人だらけの東京でチームメンバーと一緒に遊びに出掛けてるせいです。

 

「……ねぇ、これ私居なくてもいいよね。帰って一人サメ映画見ながら缶詰め食べたいんだけど」

「ダメに決まってるじゃん。何のためにたづなさんに頼んで休みにしてもらったと思うの」

「け、けど……私、遊ぶって言ったって何をすれば良いのか分からないし」

 

 悲しいかな、小学生の頃からずっと練習ばかりしていた弊害か、私は同年代が普通にやっている娯楽や楽しみというのに疎い自覚がある。趣味だってアコギにソロキャンプとボッチ趣味に極振りしてるせいか、同年代の友達と話す話題なんて持ち合わせてなかったから常にクラスでボッチだったし。

 

「いやいや、ウィンドウショッピングとかゲームセンター行ったりとか色々あるよ?」

「ゲームセンターはともかく……ウィンドウショッピングなんてお店の人に迷惑だよ。買わないのに見るだけとか」

「カヤさんや、流石にそれは女子の買い物に喧嘩売ってますよ。それに」

 

 ガビがため息をつきながら私のことを指さす。

 

「その服のコーディネートはちょっとどうなのさ」

「?実用的でいいでしょ?」

「いやいや、実用的でって、可愛さの欠片も無いじゃん!!」

 

 カブラヤオーの格好は白いキャップにロングデニムジャケットに白いTシャツ、そしてチノパンと機能性重視の格好だ。メンテナンスに出すためにアコギの入ったギターケースを背負ってるため、どちらかというと可愛いより格好いいの方に振っていた。

 

「カヤはもっと可愛い格好をするべきだと思うんです!!同室の私としては!!」

「別に私なんか可愛くしても誰も喜ばないと思うけど……あんまり特徴ないし」

 

 背も小さく、胸もない、小学校時代はクラスで空気のような扱いだった私には、そういった服装は合わないだろう。

 

「……これは徹底的な意識改革が必要ね」

「せやな。流石に自虐も過ぎれば嫌みになるわ」

「ねぇラモーヌちゃん、カヤに似合うファッションのお店って分かる」

「そうですわね……カヤさんは黒髪で小柄ですし、どちらかというとこういった服装もありですし……」

「あ、それならこんなお店はどうですか~カヤちゃんならピッタリだと思うんですけど~」

 

 そう思っていた私に突き刺さったのは、妹を除いた全員からの遠回しなダメ出しだった。どうしてだろ、お出掛け用の服の中でも、個人的には本気のコーデだったんだけど。

 

「お姉ちゃんの場合、格好いいよりフェミニン系とかゴシック系が似合うからだと思うよ」

「ミカ、お前もか」

 

 もはや諦めるしかない状況で、私は目の前の地獄に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

「……買っちった……買っちった……私の今月のおこづかい全部飛んじった……」

 

 地獄の着せ替えショーをさせられ、精神的にズタボロになった私は、近くのベンチに座りながら放心状態だった。

 というのも最初は普通に着せ替え人形させられたわけだったけど、途中からゴスロリやらドレス風の服まで着させられ、そしてその試着した服の値段を見て驚愕(私が今日着てきた服の合計金額に0が1つほど高い品物ばかり)して魂が口から飛び出るような気分だった。

 

「うぅ……これじゃ来週のソロキャンプが……秘境キャンプがぁ……」

 

 せっかく直火OKの焚き火ができるわりと近場のキャンプ場を見つけられたのに……渓流釣りも楽しめるし、一人でゆっくりまったりアコギを弾いたり、石だらけの河原でトレーニングしたりしたかったのに。

 

「カヤってそんなにキャンプとか一人で行動するの好きだよね」

「だって他人に気を使ったり、他人と喋る必要性全くないんだよ!!ルールさえ守れば自由に行動できるんだよ!!なんて素晴らしい事なんだよ!!これ以上に楽しいことなんてないんだよ!!」

「な、なんか普段のテンションと違うんだけど……というかキャンプってそんなにお金かかるの?」

「私は基本的に日帰りだから寝袋は必要ないけど、道具だけでも基本的に諭吉さんが何人か飛ぶよ」

 

 ちなみに私のテントはお爺ちゃんが昔に使っていたそれだけど、それでも普通に買えば樋口さんが余裕で飛ぶ値段だし、シートやホットサンドメーカーやガスバーナーやリュックなどで、合計3諭吉ほど軽く飛んでる。寝袋も買えばさらに軽く諭吉さんが1人飛んでいく。

 

「それにキャンプ場の使用料やら薪代、交通費やら食費でまた諭吉さんが飛ぶから、下手に散財すると月1の楽しみが消し飛ぶことだって……」

「あぁ……ま、まぁカヤだって気に入ったから買ったわけだしさ、今日はこのままみんなでカラオケに」

「カラオケだけは絶対に行かないから!!」

 

 私は憤怒の形相でガビを睨み付け、ガビは突然の事に驚く他なかった。

 

「え、えーっと?急にどうしたのカヤ?」

「私は絶体に、絶っっっっっっっっっっっっっ体に、カラオケだけはいかないし、やるつもりは無いんだから!!」

「そこまで断言するくらいに嫌がるほどなの!?」

 

 ガビがどうしてか頭を抱えていると、事情を知る我が妹が説明してくれる。

 

「ガビさん、お姉ちゃんは小学校の時に友達と1度だけカラオケに行って以来、ちょっと訳あってトラウマになってるんです」

「と、トラウマ?」

「えぇ。というのもお姉ちゃんが歌う曲が……その……どう頑張ってもウマ娘っぽくないというか、見た目のギャップと相まってからかわれたというか……」

 

 説明してくれる訳なんだが、最後の一言で少しだけブチッと弾けた。

 

「ミ~カ~、それは暗に私の持ち曲を貶してると受け取って良いのかな~」

「そ、そんなことないよ!!ただすこし、ちょっと?珍しいとは思うけど」

「それだけでアウトじゃ!!扇風機か、それとも強制ヘドバンかどっちか選べぇぇぇい!!」

「そう言いながら頭をぐわんぐわんさせるのやめてぇぇ!?」

 

 ちょっと大袈裟な姉妹喧嘩に唖然としたのか、それともなにか察してしまったのか、ガビは唖然としていた。

 

「ね、ねぇカヤさん?もしかしてだけど……持ち曲ってヘビメタ系?」

「それもあるけど、どっちかというと洋楽ですが!!ボ◯ミア◯・ラ◯ソ◯ィーとかス◯ンド・バ◯・◯ーとかギター引きながら歌って99点とりますが!!なんならク◯ーンの曲でも歌おうかな!!」

 

 というか私がカラオケ歌えるのは洋楽以外だとトゥインクルシリーズの曲しか歌えない。というか、お父さんとお爺ちゃんがどっちも洋楽大好きだった影響で、私はレトロ洋楽の大ファンなのだ。邦楽の今時の曲は本当に殆ど何も知らないので、たまに小学校の時にクラスの子に誘われたりとかでカラオケにいくと、このせいで大概白けられたりからかわれたりしてトラウマになったのだ。

 

「何て言うか……カヤって自覚なしで単独行動しちゃうんだね」

「良いもん、別に一人大好きだし、小学校の頃なんか毎回クラスの人数奇数で誰ともペアにならなくて良かったし、一人で図書室に籠って古本読むの楽しかったし、それに実家が神社だからあんまり友達とかと遊んだりできなかったし、ボッチ……アハハ、ボッチタノシイナァ……アハハ」

「カヤァ、ダークサイドにトリップしてないで戻ってこ~い」

 

 どうせデビューしたって一番人気なんて絶対になれないだろうし、どうせライブステージに立てることなんて一生ないんだろうな~。いっそのことクラシック終えたら引退するのも悪くないかも……。

 

 そんな風に思っていたその時、嫌な直感がして私はキャップを深く被って走り出す。

 

「え、ちょ、カヤ!?」

 

 ガビが驚いて声をあらげるが、そんな些末ごとは一旦無視して―――

 

「―――うーん、さすが『黒い韋駄天』のカブラヤオーね。アタシじゃなかったら間違いなく逃げられてたわね」

 

 まるで神速、明らかに私の方が先に走り出していたのに、どこからか走り出して一瞬にして追い付き、横から見覚えのない女性が私の肩を掴んだ。

 

「は、速い……」

 

 私服でスニーカー、さらに人混みということで本気で逃げた訳じゃない。それでも出遅れて追いかけてくる彼女は、まるであのシンザン会長を思わせるような鋭い走り。

 よく見ればその頭の上には特徴的な黒いウマ娘特有の耳と、その腰には手入れが殆どされてないといわんばかりに雑然とした尻尾がゆらゆらと揺れている。

 

「うんうん、この前の中山で見たけど、目の前で直接見ると本当に良いわね。あのときはカメラで撮るのを忘れちゃったのが残念でならなかったわ。まるで徹甲弾で撃たれたかと思うぐらいには」

「か、カメラ?あなたは、いったい……」

「ん?あぁ、なんだ、トキノのやつ私のこと話してないんだ。全く、昔のチームメンバーの先輩のことをなんだと思ってるのかしらね」

 

 トキノ……それが意味するのは私において、かの幻のウマ娘にして、私達チーム『アークツルス』のトレーナー、トキノミノルこと駿川たづなさんしかいない。

 つまり、彼女はたづなさんの元チームメイトということ、しかも先輩。

 

「ま、今日は偶々見つけたから写真を撮っておこうかな~って思っただけなんだけど、まさかシャッターを押す前に逃げられるとは思ってなかったわ。正しく天性の逃げウマ娘ね、トキノが後継に選ぶわけだ」

「えっと……」

「ま、近いうちに取材させてもらうから、その時はよろしくねカブラヤオーちゃん。これ、私の名刺」

 

 そう言って懐から名刺ケースから1枚を取り出して私に渡すと、その首に掛けた一眼レフカメラで写真を素早く撮ってあっという間に消えてしまった。

 

「いったい……え?」

 

 誰だったのか、そう思って渡された名刺を見て、それに書かれていた文字に思わず驚きが漏れた。

 

「もう、カヤ!!いきなり走るなんて反則……どうしたの?」

「お姉ちゃん?」

 

 ようやく追い付いたらしいガビと妹が、固まる私のもとに近寄りどうしたのか聞いてくる。

 

「……私、伝説と会っちゃった」

 

 そうして私は二人に、今さっき渡された名刺を見せると、二人も驚き悲鳴のような叫びをあげた。

 

『◯◯社 特殊地域報道部カメラマン / 月刊トゥインクル名誉カメラマン

 

セ ン ト ラ イ ト




オマケ マチカネ日記

「さて、そろそろカブラヤ妹様からの木像が届く頃……」

マイドー、宅急便デェス!!

「はい!!……さて、今回の木像はいったいどういう……」

カブラヤオー木像(私服&ギター装備)
カブラヤオー木像(白ゴスクマ装備)
カブラヤオー木像(ワンピース&眼鏡装備)
カブラヤオー木像(水着装備(白ビキニ&パレオ))

「な、なんとぉぉぉ!!こ、今回は四つもですか!!というか、なんというカラーリングの細かさ!!まるでフィギュアさながらです!!さすがはカブラヤ妹様!!」



「む、無理……さすがのデジタンでもここまで細かい着色は腕が燃えちゃう……けど写真も送られてきたし、なにより萌えが……尊みが辛い……ルン♪」

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