はい、嘘です。エタリ神に取り付かれそうになりました。
カブラヤオーが伝説の三冠ウマ娘セントライトと出会ったその日の夜、トレセン学園近くのバーの片隅に彼女らは居た。
「それにしてもあの暴君みたいだったトキノが、今じゃニコニコ笑顔の理事長秘書とは、世も末というべきかね」
「もう、やめてくださいよセントライト先輩。幾ら現役のウマ娘が居ないとはいえ、あんまりバレたくないんですから」
スコッチをストレートでチビチビと飲むのはそのセントライト当人、そしてその隣にはお気に入りの緑の帽子を外し、特徴的なウマ耳を見せるたづなことトキノミノル。
「……けど、あのときのん先輩がにこやかに挨拶してる姿は想像しただけでサブイボなんだけど」
「そうっすね、アタシもたまにトレセン学園に搬入の仕事で行きますけど、トキノさんが笑顔で出てくるだけで尻尾が逆立っちゃいますよ」
そしてそのトキノミノルの隣に座るのは、片や黒い着物を着こなし左耳に赤と青の交差する8のような髪飾りを付ける物静かな出で立ちでカクテルを飲み、片やスポーツルックというよりどこかの配送業者の制服のような姿に右耳にリボンをつけたその姿でノンアルコールカクテルを傾けてる。
「あぁ。たしかにあの暴れん坊の暴君だったトキノが今やにこやかにしていれば、当時を知るものからすれば鳥肌ものよな。わっちも最初に見たときは思わず仕事道具に手が伸びかけたわ」
そしてセントライトの隣には白い袴姿に右耳にリボンをつけた女性が日本酒をチビチビと飲んでいる。
「もう、シラオキさんもトラックオーさん、それにタチカゼさんも勘弁してくださいって」
たづなは辟易としながら三人に苦言を呈するが、セントライトと含めて全員が全員もとは同じチームのメンバーだ。昔を知ってるがゆえに失笑するだけに止めていた。
「しっかし、セントライト先輩に映像を見せてはもらいましたけど、あのカブラヤオーってのがトキノの後継者ですか」
「……正直、御愁傷様としか言いようがない」
「二人とも酷くないですか」
「いやいや、だってお前の考える練習って今の科学的な根拠無視した少年漫画スタイルじゃん。努力、根性、勝利って感じの」
「……昔、アドバイスしてもらおうとした後輩たちがときのん先輩基準を求められて挫折して辞めたなんてこともざらだったし」
どうせ今でも『私に比べて』って頭につくアドバイスをしてるんでしょ、とにべもなく言う同期と後輩による否定しようがない事実にノックダウンするたづなに、タチカゼもセントライトも苦笑していた。
「……けどこのメンバーで集まるのもいつ以来かな」
「たしか前回はあれっすね。タチカゼ先輩の49回破局残念k」
「トラ、そんなにわっちの仕事道具で成敗されたいようやな。それとも愛車のデコトラを縦に真っ二つがよかか?」
「さらっとワープじみた移動するのは反則っす!?あとお願いっすからその大太刀をケースにしまって欲しいっす!!許可つきとはいえ抜いたら銃刀法違反っすよ!!」
ギャーギャーワーワーと叫ぶ二人にたづなもセントライトもお約束なのか笑っている。シラオキもカクテルを飲みながらではあるが微笑を浮かべてる事から、仲の良さが感じられる。
「で、今回はタチカゼの失恋じゃなくてたづなの仕切りなんだけど……もしかしなくても愛弟子のことかな」
「セントライト先輩、あとで覚悟してくださいね」
「ふっふっふ、元祖三冠ウマ娘に追い付けるものならね」
セントライトの軽口に笑いながらも、たづなは改めて真剣な表情を浮かべる。
「ええ。実は最近、カブラヤオーさんの併せができるウマ娘が居なくて」
併せ、それは簡単に言えばウマ娘を二人一組にして走らせる事なのだが、カブラヤオーの場合は意味合いが少し変わってくる。
「あぁ、カブラヤオーの脚ってたしか加速型だったか。それもトキノと同じ逃げの」
「……私もセントライト先輩から見せてもらったけど、あれは末脚型が多いトレセン学園のウマ娘じゃ対応が難しいだろうね」
「そうなんですよ」
ウマ娘は走るスタイルで大きく二種類に分けられる。
1つは末脚型、終盤まで脚を貯めて、最後に爆発させるように一気に駆け抜けるタイプ。今のレースではこちらが主流というか、先行ないし差しの戦術が多い昨今ではこの脚を貯めつつ位置取りをする戦法が多く用いられる。シンボリルドルフやシンザン、スーパークリークがこの典型的なスタイルで、主に中長距離レースを走るウマ娘にこのタイプが多いとされている。
そしてもう1つが加速型で、文字通りレース中に加速することで相手に追いつかれて差し込まれる前に勝つ、または追い込みから一気に捲るように加速してちぎる戦術は大概このタイプだ。カブラヤオーやテスコガビー、マルゼンスキーやゴールドシップはこの典型的なタイプのウマ娘だ。
その中でもカブラヤオーの走りは暴走加速型……端から見れば暴走してるようにしか見えない狂気の加速をするウマ娘で、さらには逃げて差せる末脚もある。
正直、同じチームのテスコガビーが何とか併走相手になってくれてはいるが、彼女の練習のためには他のウマ娘とも練習をさせるべき、だが走りの性質上他に着いていけるのは現状シンボリルドルフとゴールドシップの二人だけ、マルゼンスキーもできなくはないのだが……
(マルゼンスキーさんの場合、脚が脆いのが欠点というべきか、下手に走らせると故障させてしまうでしょうし)
そう、マルゼンスキーは間違いなくカブラヤオーと同じ逃げウマ娘なのだが、彼女の脚はスーパーカー並みに速く走れても頑丈ではないため、練習とはいえカブラヤオーと併走をすれば怪我の危険性は充分に高かった。
故に並みのウマ娘とは併走練習ができないという、カブラヤオー自身は併走というか、他人と並んで走ることが苦手なので構わないのだが、それでは練習にならないという板挟みになっていた。
「ならシンザンの嬢ちゃんよろしくレースで練習をすれば良いんじゃねえか」
「まだデビュー戦も前なのにそんなことできるわけないじゃないですか」
「それもそうか」
カラカラと笑っているセントライトだが、相談者のたづなからしたら笑い事じゃない。それどころかかなりのピンチなのだ。
「いっそのことたづなが走れば良いだろ」
「無茶言わないでください。今だって時たま通院して痛み止め貰ってるんですから」
「それもそうか」
お酒が入って酔ったセントライトの言葉に呆れるが、
「……なら面白いウマ娘知ってるから、その娘呼ぶ?」
続いたシラオキの言葉に伝説のウマ娘二人が首を傾げる。
「なんだシラオキ、レースからは身を退いてたんじゃなかったっけ?」
「……去年旅行で海外に行ったときに、偶々面白いウマ娘を見つけただけ。確か怪我でシニア戦線からは退いたけど、たまにダートで今も走ってるって聞くよ」
「おいちょっと待て」
まさかの発言にたづな含めて他の全員の顔がひきつった。
「去年で、ダートで、面白いですか……」
「えっとシラオキ先輩?もしかして、もしかしなくてもですけど」
「わっちの思い過ごしでなければ、もしやそのウマ娘とやらは
「いやいやいや、幾らシラオキが旅好きだからって、まさかそんな」
全員否定気味だが、そうなるのも無理ならからぬというもの。もし予想通りならばそのウマ娘は
「……
大国アメリカで25年ぶり、史上9人目のクラシック三冠を成し遂げた偉大なる強者だからだ。
「うん、シラオキが色んなところに出掛けては見込みがありそうなウマ娘の事を鍛えたりなんだりしてんのは知ってるがな、なんでアメリカの三冠ウマ娘と知り合ってるのかとツッコミたいことはあるがな」
「そもそも無理矢理連れてくる訳にはいかないっすよ!!名前出したからはい終わり、じゃないんすよ先輩!!」
「……大丈夫、問題ない」
『どこが!!』
全員の大合唱にシラオキは悪びれないでお酒を飲む。
「……実は数日後に、そのセクレタリアトと偶々成田で待ち合わせしてる。観光旅行のガイドしてほしいって」
「なん……だと……」
セントライトは愕然とした。まさか去年のアメリカ三冠ウマ娘が観光に来るなんてスクープ情報を、畑違いとはいえ記者の自分が知らなかったという事実に。
「さらに言えば日本特有のダートを走ってみたいなんても言ってたから、観光もかねてG1の舞台でもある東京のレース場を貸してもらう約束をしてきた」
「そ、そう言えば理事長からそんな話が出てたような……」
「だから私からお願いすれば併せぐらいはさせてもらえる……かもしれない」
どうする?と聞いてくるシラオキに、たづなは少しだけ悩んだがすぐに笑みを浮かべる。
「お願いします」
「ん、なら後で国際電話しておく。どうせ今の時間だと大好きなお昼寝の真っ最中だろうし」
『お昼寝?』
その頃、米国ケンタッキー州のとある河川敷にて
「むにゃむにゃ……リンゴが10個……もっと……」
「Oh!!やっと見つけました!!teacherが探してましたよ!!」
「うーん、あと30時間は寝させて……」
「What's!!そんなに寝たらワタシがteacherに怒られマース!!」
「えー……」
熟睡しようとする少女を、無理矢理に連れていこうとする幼女の姿があったとか、なかったとか?
オマケ マチカネ日記
「ねぇフクキタルさぁ。私ってそんなに平凡なのかな」
「突然どうしたんです」
「最近ふと思うんだ。私ってカブラヤオーちゃんとかに比べてなんていうか……存在感が薄いような、そんな気がするんだよな~って。ウマ娘として」
「そういえばタンホイザさんは入学前のカブラヤ姉様とたまに一緒に練習してましたよね」
「うん。カブラヤオーちゃんとの練習は全部メモして毎日やってるよ」
「それなのにタンホイザさんはなんというか……平凡ですね」
「うわーん!!どうせ私は平凡な器用貧乏ウマ娘だよ~!!」
数年後、
「これってメモ帳?あ、タンホイザさんのだ……え"」
「もうダイヤちゃん、勝手に中を見たら……」
「うーん、私の手帳どこに……あ、キタちゃんとダイヤちゃんどうしたの」
「た、タンホイザさん。この手帳に書かれてた練習メニューって」
「え、あぁ見ちゃったんだ。でも
「「今まで平凡だとか普通なんて思ってすみませんでした!!」」
「え、ちょ、えぇぇぇぇぇぇ!!頭上げて、ていうかいったいどうしたの~!!」
「タンホイザさん、練習メニューの量だけは異常ですからね。鉄の女とか言われる私でも」
「アタシも前に見たことあったけど、なんであれだけ練習してるのにG1取れないのか不思議なんだよね」
「ししょーから聞いたけど、マチタンのあの自首錬習メニューってししょーのそれと同じなんだって」
「「異常を通り越して狂気の練習メニューなんだ……」」