「さて、分かってると思いますが来週の土曜日はカブラヤオーさんとテスコガビーさんのメイクデビューです」
放課後、いつもの部室でのミーティングはそんな言葉から始まった。
「正直に言います。カブラヤオーさんもテスコガビーさんもおそらくデビュー戦では負けることはほぼ無いでしょう」
「それはトレーナーとして見てってことやろか」
「その通りですタマモクロスさん。事前に出走のメンバーを確認しましたが、他のウマ娘たちに比べて二人は実力ならば間違いなく上、しかも逃げる二人を差したりできるほどのウマ娘は居ないと断言できます」
キッパリと言うたづなさんに、私達二人はそうなのかと首を傾げる。
「けどカヤは芝じゃなくてダートなんですよね?馴れてないのに大丈夫……大丈夫か」
「ガビ、なんでそこで私の顔を見て納得するのかな」
「だってカヤは山の獣道とか走ってたんでしょ?ならダートなんて余裕なんじゃないの」
楽天的に言うガビに、私はジトリと目を向ける。
「ガビちゃん、それは一概にはそうとは言えないんじゃないかしら~」
「クリークさんの言う通りですね。特にカブラヤオーさんの場合は癖が違うでしょうし」
「私もダートは得意だけど、土の感触っていうよりダートレース場のは砂地なんだよね」
クリークさん、グラスさん、ハイセイコーさんの三人も呆れるようにガビを嗜める。
「えっと、ごめん、どう違うの?」
「はぁ、簡単に言うと荒野を走るのと砂漠を走るの違いみたいなもの、かな」
本来ダートレースというのは文字通り
では日本のダートもそうなのかと言われると答えはNOだ。日本および韓国のダートレース場は土ではなく砂が使われていて、踏み込みが難しいうえに、砂が目に入ったりといったトラブルも起きる難敵なのだ。
なおこの素材(?)の違いには明確な理由があり、アメリカやドバイといった国は年間を通しても雨が少ないため、仮に雨が降っても水捌けの心配があまりない。逆に日本のような高温多湿で梅雨の時期や台風等で雨の多い土地では土のダートでは水捌けが悪くレースにならない。そのため水捌けのよい砂のレース場になっているのだ。
こういった背景のためか土のダートを走る海外のウマ娘が日本のダートを走ると、慣れない砂に脚を取られて思うように進めず、さらに余計な体力を奪われるということから敬遠されており、結果として日本でのダートレースのG1レースが増えない理由の1つに関係しているそうだ。
「私が得意なのはどちらかと言うと土のダートだから、暫くは砂浜を走るなりして、ダートレース向けてに仕上げないといけないかな」
「そっかー、私もダートを走れたら併せられるんだけど」
「ええ。ですのでメイクデビューまではチームを二つに分けて、それぞれ別メニューで特訓しようと思っています」
たづなさんの言葉に全員が納得して頷く。今のアークツルスは8人体制だし、切り良く半分ずつで練習するのはとても効率が良いと思う。
「ならダートが得意なハイセイコーさんはこっちでお願いね。可能な限り併せて行きたいから」
「勿論!!可能な限りお手伝いするからね」
「では私とミカさんもカブラヤオーさんに付きましょうか」
「うぅ、グラスさん苦手だけど……しょうがないか」
ハイセイコーさんとグラスさん、そして妹が私の方につき、
「ならウチらテスコガビーを追いかけ回すとするか」
「そうですね~あ、メイクデビューで負けないように、併せのタイムによって罰ゲームとか面白そうですね」
「クリークさんの罰ゲームは色んな意味でアウトですわよ。まぁそれはそれで緊張感が出ますし……」
「な、なんか悪寒が止まらないんだけど」
クリークさん、タマモさん、ラモーヌさんがガビの方につくことで決まった。
「そういえば、マルゼンさんとエリモジョージさんのデビュー戦も決まったんですか?」
「ええ。マルゼンスキーさんはカブラヤオーさんと同日の中山芝1200mで短距離戦、エリモジョージさんは翌日の函館芝2000mで中距離戦が決まってます」
「で私が東京芝1200mで、カヤが東京ダートの1200mか。正直被らなくて良かったと思ったよ」
ガビの言葉に私も頷く。正直私の実力じゃ、まだまだ他の同期三人に勝てる自信はないし、何より他の三人のうちの二人が同じ逃げウマ娘で、横並びされたらオーバーペースしてしまうかもしれない。というか間違いなくする。
「はぁ、砂ダート嫌いなんだよな~」
「もう、そこまで嫌う必要ないと思うけど」
「だってダートレースって脚取られて走り辛いし、風一つで目に砂が入るし、何より勝っても過小評価されて見向きもされないし……はぁ、ゲリラ豪雨で土砂降りの不良馬場になった芝のレース場の方が万倍マシだよ」
「うん、どれだけ砂のダート走りたく無いのか凄く分かったよ」
恐らくウマ娘史上類を見ない悪態に全員苦笑しかできなかった。
(カヤのやつ、なんであんなブー垂れてるんや?)ヒソヒソ
(恐らくですが、ダートレースにはルドルフさんや私たちみたいな圧倒的に強いウマ娘が居ないから退屈なんじゃないでしょうか)ヒソヒソ
(それにカヤちゃん、レースだと強いウマ娘に追われる事が多くてそれで気持ち良くなってるんじゃ無いでしょうか~)ヒソヒソ
(なんですかそのマゾヒスト気味な性分……と言いたいですが、逃げウマ娘に良く見られる兆候の1つと聞いたことがありますわね)ヒソヒソ
(ということは、お姉ちゃんは強い人に追われる事が楽しい変態さんになっちゃったのかな)ヒソヒソ
「全部聞こえてるから!!あとミカには変態なんて言われたくないから!!」
知ってるんだからね、ミカがクラブチーム時代の友達から自作のウマ娘……というかモデル的に思いっきり私を題材にして、ちょっと如何わしい漫画を貰って愛読してること!!趣味に文句つける訳じゃないけど流石にそれは擁護できないからね!!
「どうどうカヤ、さ、気分転換にダートコースを走りにいくよ」
「うわぁぁぁん!!砂のダートを走るくらいなら不整備の山道をフルマラソンした方が楽しいのに~!!」
「そんなことができるウマ娘はカヤだけだから無理だよ」
ハイセイコーさんに担がれるように私は部室から連れ出され、その後文句を言いながらもハイセイコーさんを墜落、途中なんでか分からないけど混ざってきた体力お化けというか不死身のゴールドシップさんすら轟沈させるくらいまでダートを走り抜けるのだった。
オマケ マチカネ日記
「~~♪今日もお掃除楽しいですね~」
「……久々にここの神社来たけど、やっぱり変わってないかな」
「おやこんにちは。参拝で……」
「(ピキューン!!)……ねぇ、貴女まだトレセン学園に入ってない?」
「……え?」
「……もし良かったら、私のトレーニング受けてみない?これでも中央のトレーナー資格持ってるんだけど」
「……え?」
「最近、北海道でも弟子を取ったし、君ならそのウマ娘とも張り合えると保証する。具体的には三冠の一つは間違いなく取れるぐらいにはする」
「………………え?」
「……あ、私の名前はシラオキ、G1は取れなかったけど弟子はそれなりに活躍してるから、どうかな?」
「………………」( ゚д゚)ポカーン
シラオキ教、設立の瞬間である(?)