「いやー、朝は大変だったなお前ら」
昼休み、私は1人屋上でご飯をしようと思ったら、同じクラスのテスコガビーに引っ張られて学食のあるカフェテリアへと連れてこられていた。
そしてどういうわけか、朝一緒に走っていたメンバー全員が複数のテーブルをくっつけて車座になっていた。
「えっと、これ本当にどういう状況?」
何がどうしてこうなったとしか言えない現状。私よりも遥かに才能がある……しかも一人は三冠ウマ娘にして生徒会長のシンザン先輩……そんな人たちに囲まれた私はとてもびくびくしていた。
「なんかシンザン先輩が『こうして一緒に走ったのも何かの縁だし、一緒にお昼でも食べようぜ』って事らしいぞ」
「お、テスコガビーは物真似上手だな。シンザン先輩特製似顔絵リンゴを進呈しよう」
「ありがとうございますって結構リアルなんですが!?」
シンザン先輩がテスコガビーさんに渡したリンゴにはデフォルメじゃなく完全に肖像画かと言わんばかりのテスコガビーさん本人の顔が掘られていた。というか昨日もそうだけどシンザン先輩常に果物ナイフ携帯してるの!?
「しかし結構な人数になったからな、ついでだし一年生は全員自己紹介といこうか」
「なら順番は着順が遅かったやつからでいいか?」
「それが一番やな……ってそれうちやないかい!?」
テスコガビーさんがそういうと葦毛の関西弁を喋る少女がノリツッコミを叩き込む。というか、リアルでノリツッコミなんて初めてみた。
「うちは『タマモクロス』、栗東寮所属や。うちの追込で差せないって、やっぱりレベル高いなここは」
「『スーパークリーク』です~、得意策は先行策で~、同じく栗東寮に住んでます~。よろしくお願いしますね~」
間延びしたスーパークリークさんの挨拶の次に我が妹が立ち上がる。
「ミスカブラヤです。お姉ちゃんと同じ美浦寮の所属です、得意策は差しで、大好きなのはお姉ちゃんです」
「なんや、双子かいな。ウマ娘の双子は大成できないって聞くもんやけど、あながち本当とは言えんかもしれへんな」
「あ、双子じゃなくてお姉ちゃんが6月産まれ、私が3月産まれの姉妹なので関係ないですよ」
「なるほどな、道理で見た目が全然ちが」
「喧嘩売ってるなら高値で取引しますよ?」
私が静かに怒るとタマモクロスさんは青い顔で頭を横に振る。私の目の前でその手の話は例え家族であろうと禁句だ。言えば愛読してる文芸書の角でつむじにフルスイングの刑だ。
ウマ娘の筋力じゃ死んじゃう?大丈夫、普通の人ならともかくウマ娘なら骨の強度が違うから脳震盪で済む。妹で実験したから間違いない。
「お姉ちゃん、事実なんだからしょうがないでしょ。私はそんな慎ましいお姉ちゃんのお姉ちゃんも大好きだよ」
「どうやら喧嘩を売ってるのねそうなのね」
その巨大なメロンを惜しげもなく見せつけてくる妹に、私はブルンブルンと肩と最近閉店セールの古書堂で手に入れたそれなりに分厚い文芸書を取り出して振りかぶる。がすぐにテスコガビーさんに後ろから羽交い締めにされる。
「ストーップ!!カヤストーップ!!そんなので殴ったらウマ娘とはいえ死んじゃうから!!」
「放してテスコガビーさん!!妹が、妹が私の胸を指差して笑ってるんです!!身長は7センチしか違わないのにDだなんて許せない!!私はBもないのに!!」
ちなみに私の身長は143センチ、タマモクロスさんより少し高いだけだ。対して妹は150センチDカップのトランジスタグラマー、入学前に私は人知れず泣いたよ!!
「…………………むぅ」
「いや揺れ動いたらあかんやろ!!うちも気持ちは分かるけど!!」
タマモクロスさんがツッコミ、シンザン会長はケタケタ笑いながらいつの間にか持ってきていた昼食のカレーを頬張ってる。
仕方ないので私も怒りを収め、大量に置かれているお昼御飯の中から山盛りサンドイッチを皿ごと引き寄せて食べ始める。
そしてその姿に安心したのか、さっきから変にそわそわしてる……朝でも目立とうとしていた少女が立ち上がった。
「私の名前は『ハイセイコー』です!!所属は美浦寮、No.1ウマドルになるのが目標です!!」
「あぁ、そういえば生徒会でやたら目立ちたがる新入生ウマ娘が居るって話に出てたっけ」
「ウマドルは目立ってなんぼですから!!得意策はありません、逃げでも追込でもなんでもござれです!!」
なんとも元気な姿に私としては少し気後れする。やはりこういうウマ娘が大成するんだろうな~という思いだ。
「次は私ですわね、『メジロラモーヌ』と申します。得意策は先行ですが、場合によっては差すこともできますので悪しからず」
「そういえば朝の時『メジロ家』って言ってたけど、もしかしなくてもあのメジロ家?」
「ええ。ただ私はメジロ家といっても分家筋でして、それに来年には妹、少し先になりますが姪達が四人それぞれ、トレセン学園に入学する予定でして。そのために何がなんでも結果を残すつもりですわ」
たおやかな表情の中に底知れぬ何かを感じた私は少しだけ身震いした。
「私とマルゼンスキーについては……自己紹介の必要があるかな」
「必要なくてよろしいでしょう。どちらも入学前から有名だったですしね」
「ええ~?私も自己紹介とか青春っぽいことしたかったんだけどな~」
「仕方あるまい、私達のことより今日集まったのはこのあと……
そのシンボリルドルフの一言に私は首を横に降る。
「いやいや、私は皆さんが思うような強いウマ娘じゃないですから」
「コンクリートとはいえトレセン学園の外周約8キロ、春の天皇賞の約2.5倍の距離を、
「しかもトレーニングあとで疲れてる状況でってなったらさらに、ね。私も少し本気を出して追ったけど、結局最後まで追い付けなかったし」
シンボリルドルフさんとマルゼンスキーさんが品定めするような顔で睨んでくるので、私は他の面々を見ると、
「私、逃げウマ娘の相手は姪がそれなので何度か相手をしていますが、逃げたうえで追い付かれそうになったらさらに加速するなんていう高等技術、トゥインクルシリーズの過去の映像を見てもそうそうおりませんわ」
「せやな。うちもこっち来るまでに逃げの相手した経験あるけど、アンタの逃げに比べたら月とすっぽんやな」
「悔しいですが、非常に悔しいですがもし仮に本番のレースでこれであったなら、一番目立つのは恐らく私じゃなくて貴女でしょうね」
全員が全員同じ意見で、私は心が締め付けられそうになる。
「か、勝手なことを言わないでください。わ、私は先行策と差込でレースを」
「お姉ちゃん、ここまで来たら分かってるでしょ。お姉ちゃんの本来の脚質がどうなのか」
「あぁ、同じ脚質のワタシが断言する。カブラヤオー、アンタの脚質は―――」
「勝手なことを言わないで!!」
テーブルを叩きつけて私は怒鳴った。
「私は!!私はずっと平凡なウマ娘だった!!ウマ娘の王道である先行策と差込で勝負したかったのに、その才能がないって言われて、それでもその王道で勝負できるように努力してきた!!その結果がこれ?私には先行策も差込も向いてない、才能のある逃げで勝負しろ?ふざけないでよ!!だったら私の2年間はなんだったの!!」
分かってる、これが単なる八つ当たりだということが。みんなが私に、その
けど、私のなかではそんなのは甘えだ。得意じゃないから諦めろなんていうのは敗者の弁。その敗者の弁を覆すためにしてきた努力すら周りから無駄だと笑われ、それでも、たった一人で頑張ってきた。
「私は!!私の二年間を証明するために、絶対に逃げてやらない!!逃げてなるものか!!」
私はそう叫んでカフェテリアから走り去り、一人外に向かって走り出した。
ウマ娘図鑑
シンザン
適正 芝A ダートF
脚質 逃げG 先行B 差しA 追込B
距離 短距離D マイルD 中距離A 長距離A
備考
トレセン学園現生徒会長にして、趣味でお悩み相談室を開いている。
常にナイフを所持していて、リンゴにウマ娘の自画像を描くのが趣味。
じつは包丁仕事は得意だが料理は下手。