後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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5R 当てなしエスケープ

 学園から出てきてしまったは良いものの、言いようのない後悔とどこか諦めにも似た感情が胸を締め付けていた。

 私自身、自分の脚質が逃げなのではないかって薄々は感じ取っていた。が、私が目標にしたウマ娘の走りから、絶対に逃げはしないと拒絶してきた。

 

「……なにやってるんだろう、私」

 

 分かっている、彼女達が私のことを評価したうえで薦めてくれたということも、逃げてる瞬間に感じた、狂おしいほどに甘美な風の衝撃、そして多数の実力派ウマ娘から逃げきってやったという優越感。その全てがようやく平凡でしかなかった私に、私だけの武器があるという証明に他ならない。

 だが、例えそれがあったとして、私が目標としたウマ娘に私はなれるのだろうか、あの日私が初めて見たあのレースのウマ娘のように。

 

「逃げ、か」

 

 ウマ娘の戦いかたは大きく分けて二つ、前を走ってそのまま勝つスタイルと、最初後ろの方を走って最後に追い抜くスタイル。

 そしてそれをさらに分けた結果、最前線を走り抜ける逃げ型、逃げよりも後ろだが最終的に前へ抜け出す先行型、全体の中盤の少し後ろ側を走って、最後に勢いを爆発させて差し込む通称差し型、そして最後方を走り、ロングスパートと共に先頭に躍り出る追込型の4つの脚質に分かれる。

 だが、大概のウマ娘の脚質で有名になれるのは先行と差しの何れか。逃げのウマ娘が有名になることは殆ど皆無だった。

 

 その理由は単純明快、逃げのウマ娘は他の脚質のウマ娘の半分しかレースに出れないことが多い。寧ろその半分に至るまでに大抵が屈腱炎や骨折、何かしらの怪我でレースを断念・引退に陥ることが大半だ。

 というのも、逃げというのはレース中、休むことなく常に全力疾走しなければならない。普通の人間の長距離ランナーでさえ、長時間走り続ければその負荷によって関節炎や捻挫、骨折や筋肉の断裂を引き起こす可能性がある。幾らウマ娘の体が人間の数倍、十数倍の強度を持つとしても、レース中に時速60㎞オーバーの速度で常に走り続ければ、自然と怪我のリスクは跳ね上がる。

 

 そして何より、逃げの脚質はウマ娘に求められる能力が一番多い。他のウマ娘よりも一回り以上のスピード、それを常に走り続けるためのスタミナ、芝の状態に関係なく走るためのパワー、逃げきるという強い意思、その全てが超一流と呼べるほどでなければ大成しない。

 

(他のみんなが100%の実力を引き出せていたら、多分私はすぐに捕まってただろうし)

 

 シンザン会長はレースの最前線から退いてたし、シンボリルドルフさんは私が撥ね飛ばしたテスコガビーさんを抱えていた。他のメンバーだって準備運動もなにもしてない状況で走っていた。トレーニングで体が温まっていた私が少し、ほんの少しだけ有利だっただけ。

 

「はぁ、自分のひねくれ具合が嫌になるよホント」

 

 なんだかんだ言って、私自身はあのそうそうたるメンバーを相手に逃げきれたこと、それ自体は嬉しいはずなんだ。

 何せ三冠ウマ娘のシンザン先輩に、一年生の中では最上位のシンボリルドルフさんにマルゼンスキーさん、名門一族メジロ家の令嬢に我が妹、他の面々も普通に考えればかなり強いメンバー。これに勝てて喜べないのはある意味競技ウマ娘失格と言って他ならない。

 けど、私の中で何かが狂ってるんだろう。その狂った何かがこのひねくれた面倒な自分を形作ってるんだ。

 

「……久しぶりに行ってみるか」

 

 その何かがわかる場所、恐らく自分自身の原点となる場所は多分あそこしか存在しない。そう思った私はすぐさま駅の方へ向かおうと……

 

「……ダッ!!」

 

 見せかけて反対側の路地裏へと駆け抜けた。

 

「あ!!お姉ちゃん逃げました!!」

「ルドルフ、マルゼンは追いかけろ!!あとラモーヌとハイセイコーは回り込め!!」

「くそなんでバレたかな」

 

 そんな不審者な格好(トレンチコートにサングラスにマスク)なんてして、しかも10人近い視線が向けられたらバレるわ!!

 

「待てぇカブラヤオー!!」

「待ちません!!」

 

 ジグザグ曲がりながら曲がり角天国である東京の中を走り回る。

 

「お、なんギャァァァァァ!!」

 

 途中背の高い葦毛のウマ娘を撥ね飛ばした気がするが、恐らく気のせいだろう。

 

「待てぇカブラヤオー!!」

「アイツなんでこんな曲がりまくってトップスピード維持できんねん!!」

「とにかく脚を止めなさいな!!そうすればシンザン会長達が止めてくれますわ!!」

「ギャァァァァァ連続で死体踏み!?」

 

 シンボリルドルフさんといつの間にか合流してたタマモクロスさんとメジロラモーヌさんが倒れてる葦毛のウマ娘を踏み潰して追ってくる。

 

「倒れてるウマ娘を踏んでまで追ってくるなんて、貴方達に良心は無いんですか!!」

「「「撥ね飛ばしたお前(貴方/アンタ)が言うな!!」」」

「あーもうしつこい……って嘘でしょ!!」

 

 さらに細かく曲がって加速した私が一瞬目にしたのは、なんと分かれ道の十字路それぞれにテスコガビーさん、ハイセイコーさん、そしてスーパークリークさんの三人が待ち構えていた。

 そして後ろからは追ってきていた三人まで追い付いてきた。

 

「さて、袋のネズミならぬ袋のウマ娘よ!!」

「大人しく縛につきなさい!!」

「まだです!!」

 

 私はすぐに正面に構えるテスコガビーさんに向かって走り出す。

 

「朝と同じ展開にはならないよ!!」

 

 そういってテスコガビーさんはどこから取り出したのか不審者撃退用の大きいさすまたを手に持って突撃してくる。

 普通に考えたら万事休すだ、普通の人間ならば。

 

「な!?」

 

 ウマ娘は普通の人間より頑丈で、脚力は当然ながら普通の人間よりも断然高い。では、その脚力を使って全力で跳躍すればどうなるか?

 答えは簡単、その飛行高度はアパートの2階ぐらいまで優に跳ぶ。まして助走つきともなればその高さは常人の非ではない。

 ハイセイコーさんの頭を余裕で飛び越え、私はさらに疾走……

 

「はい、そこまでな」

 

 しようとしていつの間に現れたシンザン会長に首根っこを掴まれてしまった。

 

「まったく、私らが原因とはいえ入学二日目でこれとはな。走りの凄さに驚けば良いのやら、怒れば良いのやら」

「ぐぬぬ」

 

 唸ってみるものの、完全に空中に持ち上げられたうえで、さらに他の面々から囲まれたらどうしようも無さすぎる。

 

「さ、昼休みの時間ももうすぐ終わりだからな、さっさと学園に戻るぞ」

『はーい!!』

 こうして私はシンザン会長に引き摺られ、大人しくトレセン学園に戻るのだった。

 

「あ、カブラヤオー、お前これからは一人で行動するの禁止な。ここにいる全員の誰かしらと一緒に行動するように」

「え?」

 

 ……どうやら私、問題児認定されてしまいました。解せぬ




さて、ウマ娘を愛するトレーナーの皆さんはは例の動画をご覧になったでしょうか。ご覧になってない?そんな方は今すぐTwitterで確認しましょう。
そしてゴルシを敬意を持って撥ね飛ばしましょう。ありがとうゴルシ、キミのお陰でたくさんガチャが回せるよ(おいまて)
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