後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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6R アークツルス

 どうも皆さんこんばんは、ウマ娘のカブラヤオーです。え?なにこの始まり?と思ってる皆さん、安心してください。私だって意味不明です。だって

 

「それでは、私達のチーム『アークツルス』の結成に、乾杯!!」

『かんぱーい!!』

「あ、あはは……ほ、ほどほどにお願いしますね~」

 

 何がいったいどうしたら一週間も経たずにチームが作れちゃうんですか!?

 

 

 

 事の始まりはあの大逃亡から二日後のとある授業だった。

 

「ええトレセン学園は文武両道です。基本的に入学して一年はトゥインクルシリーズのレースには出れません」

 

 女性教師が当たり前のように説明している。

 トレセン学園は基本的に中高一貫の国立学校だ。なのでレースだけでなく勉学にも力を入れていて、レースに本格参戦できるのは中等部二年の夏にあるデビュー戦からとなっている。中等部一年は基礎教育をすることになっている。

 

「先生、基本的にってことは例外もあるんですか」

「はい。一年生がレースに出る場合幾つか条件があります。まず二週間に1度ある模擬レース、これを全て一番になり、なおかつ平均タイムで上位三名に入ること」

 

 その説明に授業を受けてる全員が頬をひきつらせた。ただでさえ一番になるのはかなり難しいうえにそれを単純に六連続、さらにそのなかから平均タイムの上位三名ともなればどれだけ難しいかは想像しなくてもわかる。

 

「そしてもう一つにチームに所属することです。これはトゥインクルシリーズに出場する場合は必須なので、あえて説明はしません」

 

 その一言と共に授業に戻る先生を眺めながら、私には関係ないと思っていた……筈だったのだが、

 

「よし、チームを作ろう!!」

 

 お昼休み、テスコガビーさんにまた連れてこられたカフェテリアで、また何時ものように集まった面々に対してテスコガビーさんはそう切り出した。

 

「いやいや、唐突すぎないガビちゃん」

「というか、どうしてそういう結果になったのか話して欲しいですわね」

 

 山盛りパスタと巨大パフェ片手に聞いてくるハイセイコーさんとメジロラモーヌさんに、テスコガビーさんは胸を張って答える。

 

「今更だけどさ、このメンバーって結構いい感じの仲だよね」

「ええ、それは否定しませんわ」

「ルドルフとマルゼンはリギルに入るの確定してるけどさ、良いか悪いかはさておき、他のメンツは誰もお声が掛かってるわけじゃない」

 

 ふむふむ、と私は持ってきた山盛りの天ぷらそばを啜りながら頷く。

 

「だったらいっそのこと、私ら全員でチームを作れば一年生がメイクデビューする条件を1つは満たせるよね」

「そりゃそうやな。うち、クリーク、ラモーヌ、ハイセイコー、カビにミカにカヤ。ダートは居らんけど、十分な戦力やな」

 

 タマモクロスさんの分析通り、短距離・マイルは私とテスコガビーさん、マイル・中距離がメジロラモーヌさんと妹のミスカブラヤ、中長距離はタマモクロスさん、スーパークリークさん、ハイセイコーさんの3人と比較的バランスもいい。

 さらに逃げ・先行・差し・追込と脚質も全員揃ってる。

 

「まぁダート戦線は追々考えるとしても、七人いれば充分チームを作れるでしょ。だから、私達のチームを作ろう!!」

「私はパス「あ、カヤは私らが見てなきゃだから確定ね」なんで!?」

 

 私は別に来年のデビューで充分だし、それにトレーナーには嫌な思い出しかないから勘弁して欲しいんだけど。

 

「そうですわね、カヤさんをしっかりと見張るためにも、チームを作るのは賛成ですわ」

「むしろカヤの意識改革のため言う理由の方がメインやろうな」

「カヤちゃん、そんなでウイニングライブできると思う?」

「ぐぬぬ」

 

 言いたい放題である。というか的確に私の弱点を突いてきてる気しかしない。

 

「でもチームを作るって簡単に言うけど~、それってチームを作ってないトレーナーさんを探すって言ってるようなものよね?」

 

 スーパークリークさんののんびりした声に私は勢い良く頷く。

 

「そうですわね、幾らトレセン学園とはいえ、完全にフリーのトレーナーさんを探すのは難しいでしょうし」

「私から言わせれば、一年生だけでチーム作りたいなんて言うウマ娘に付いてくれるトレーナーなんていないでしょ。というか私はそもそもトレーナー嫌いだし」

 

 私の言葉に全員がため息をつく。

 

「カヤはなんというか、逃げたくない、トレーナー嫌い、集団行動も苦手やろ?どんだけ我が儘やねん」

「うぐぐ、だって今までは妹がトレーナーの真似事をしてくれてた訳だし……いやまぁ流石に妹でもトレーナー資格は持ってないから、ちゃんとやるならそういった人が必要なのは分かるんだけど」

「素直でよろしい。で、実際空いてるトレーナーさんが居るかは……まぁ全員知ってるわけないか」

 

 当たり前だと揃って頷く。まだ入学して一週間もしてないのに知ってたら逆に凄いわ。

 

「うーん、でも私とルドルフでおハナさんに聞いてみるって言う手もあるけど」

「まぁおハナさんが教えてくれることは多分無いだろうな」

 

 既にチームリギルに内定してる二人もこの様子ではどうしようも打つ手はない。かに思えたのだが、

 

「……もしかしたら手がある、かも」

『え?』

 

 私の一言に回りの全員が一気に視線が向き、思わず席から立ち上がって逃げようとしてしまうが、そうなる前に良い笑顔のテスコガビーさんとハイセイコーさんの二人が肩を掴む。

 

「おカヤさんや、それ詳しく教えてもらえないかな」

「大丈夫、成功したら今度外の美味しいご飯連れてってあげるから。ラモーヌの奢りで」

「な!?ちょっと待ちなさいな!?」

 

 勝手に財布扱いされたラモーヌさんが抗議してくるが、二人の表情は笑顔のままだ。

 

「えっと、手の空いてるトレーナーさんを知ってるわけじゃないけど、そういうのを知ってる人を知ってると言うか」

「?誰のこと?」

「たづなさんだよ」

 

 私のその言葉に全員があの緑の帽子を被った女性の姿を思い出した。

 

「たづなさんって、いつも朝挨拶してるあのたづなさん?」

「あの日の朝私らを止めた人?」

「うん、そのたづなさん」

 

 そう肯定すると、なんとなく察した妹以外の全員が首を傾げた。

 

「いや、確かに知ってるかもしれないけどさ」

「話してくれるかわからないですわよ?」

「まぁ無理だったら地道に脚を使って探すとして、とりあえず私が聞いてくるから放課後にまたここに集合ということで」

「あ、なら私も付いていくからねお姉ちゃん」

 

 まぁそれは構わないので頷き、一先ず私達は授業を受けるために教室へと向かうのだった。

 

 

 そして放課後、私は妹と共にたづなさんが居る事務室へとやって来ていた。なお、一応今回は私が主だって交渉し、妹は見てるだけにしてもらう。

 

「えっと、私に用があるって聞きましたけど、どうかしましたか?」

「えっと、単刀直入に伺うんですが、今チームを率いていない、もしくは手の空いてるトレーナーさんを教えてもらうことってできませんか」

 

 その一言になんとなく察したのか、たづなさんは呆れるように肩を竦める。

 

「えっと、もしかしなくてもチームを作るつもりですか」

「はい、メンバーは全員一年生ですが私達含めても七人集まってます」

「七人……あ、もしかしてこの前のですか?」

 

 たづなさんは確認するように聞いてきたので、私はその通りだと頷く。

 

「なるほど、確かにそういうことなら教えたいのは個人的には吝かじゃないですが、はっきり言うとそれはできません」

「どうしてでしょうか?」

「まず一年生だけでチームというのが問題でして、はっきり言うとレースに出れない状態のウマ娘が集まっても意味がありません」

 

 曰く、チームを作ると言うことは必然的に学園の資金からチーム費用……レースのための遠征費用や勝負服の発注費用、トレーニング設備のための費用やチームの部屋の確保費用と、莫大なお金が経費として降りてしまう。

 だが、一年生だけの実績のないチームに資金が降りるなんていうことはまずあり得ない。1年生は基本的に1年間はレースに出れないうえに、退学する人数が数多い。

 そのためトレーナーを紹介することはできなくはないが、目立った活動がないチームに継続して予算が降りることはないということだ。

 

「だったら、チームが存続不可能な状態とか、そういうチームを紹介してもらうことは?」

「そちらも現状では無いので、残念ながら……」

「そうでしたか……すみません()()()()()

「いえい……ちょっと待ってください、今なんて言いました?」

 

 まるで錆びたブリキのように首を動かすたづなさんに、私はニコリと笑って続けた。

 

「え?ただ名前を言っただけですよ、元ダービーウマ娘の()()()()()()大先輩」

「ミニャァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 まるで火山が噴火したように叫ぶたづなさんを見て、やはり私のその直感が間違いでないという裏付けになった。

 

「ど、どど、どうして知ってるんですか!?」

「私が入学する前まで参考にしていたウマ娘の走りが、『トキノミノル』大先輩と『タチカゼ』大先輩だからです」

 

 正確にはトキノミノル大先輩の走りについては、妹から薦められた色んな脚質のウマ娘という資料で目にした程度だが、実は読んだ資料は大概漏れなく全部覚えることができるので、当時と格好こそ違うが、緑色の走りづらそうな服装で私達に追い付いてきた事からなんとなくそうではないかと思っていたのだ。

 

「そ、そうでしたか……まさか私の現役時代を知ってる人が居るなんて」

「いや寧ろ知らない人の方が少ないんじゃないですか、怪我さえなければクラシック三冠取れてたって言われてた人のことを」

「うぐぐ……お、お願いですからこの事はご内密に、知っているのは理事長以外いないので」

 

 なんとかお口チャックを頼み込むたづなさんに、私はイイ笑顔で答える。

 

「じゃあトレーナーさんのこと教えてください」

「そ、それは……」

「あ、お姉ちゃん!!いっそのことたづなさんにトレーナーさんをしてもらうっていうのもアリじゃないかな!!」

 

 妹のアシストにたづなさんはさらにぎょっとする。が、私は少しだけ頭のなかで考えてニヤリと笑う。

 

「残念だけどたづなさんだってお仕事があるんだし、トレーナーになってもらうのは不可能でしょ。それにもう引退しちゃった大先輩だし」

「む……」

「確かに『トキノミノル』大先輩は凄い人ですけど、ここにいるのは『駿川たづな』さんなんだし、素人に教わることほど困ることは無いわ。かえって邪魔になるだけよ」

「素人……」

 

 私の言葉にたづなさんの笑顔に初めて剣呑さが現れる。自分の正体を知ったうえで、やれ素人だのやれ邪魔だの言われれば、たとえ温厚な人物といえど癪に触るのは間違いない。

 

「すみませんたづなさん、今回は私達に縁がなかったっていうことで……」

「……良いでしょう」

「へ?」

「分かりました!!えぇ、そこまで言うなら私が、この駿川たづな改めてトキノミノル!!貴女たちを徹底的に、最強のウマ娘に育てあげてさしあげます!!これでもしっかりと、中央トレーナー資格も持っていますからね!!泣いて謝ったって許してあげませんからね!!」

 

 怒髪天をつくように、帽子を振り落とす勢いで立ち上がったたづなさんの頭にはウマ娘特有の耳が露になった。

 

「……」

「た、たづなさん、帽子」

「……あ」

 

 急に何時もの温厚な姿に戻ったたづなさんは、いそいそと帽子を拾い、元の通りに帽子を頭に乗せてやってしまったと言わんばかりに肩を落とすのだった。

 こうして、勢いによってトレーナーにたづなさんという強力な人物を手に入れた私達は、翌日からチーム『アークツルス』として活動していくことになった。

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