後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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8R チーム練習~模擬レース編~

 翌日、朝練禁止のために何時もよりゆっくりと起きた私は欠伸をしながら制服に着替え、学園のカフェテリアで朝食を取っていた。

 基本的に寮生のために学園のカフェテリアは朝から営業しているため、朝練をしないウマ娘たちはここで朝食を取るのが一般的だった。

 

「ほう、今日は模擬レースをやるのか」

 

 相席で一緒に朝食を食べるのはルドルフさん……というと若干拗ねるルナさんで、目の前で山盛りのバゲットサンドを優雅に切りながら食べている。

 

「模擬レースって言っても実力確認のためですけどね、あ、私は暫く逃げ禁止なんで、その事は他のみんなにばらさないでくださいよ」

「それぐらいは心得てるさ。だがそうか、今回は逃げないのか」

 

 なんとも残念そうな表情をしているが、逃げないものは逃げないのでしょうがない。

 

「まぁでも試験の模擬レースでは使うつもりですから、もしぶつかったら容赦しませんので」

「それはかまわないが、随分と強い言葉が出るな。何時もの臆病さが嘘みたいだ」

「こういうとあれですけど、強い言葉を使っておけば、今日のレースを見た人たちからすれば口だけの雑魚と思ってくれるんじゃないかと期待してまして」

 

 私は集団行動は苦手だが、トレーナーに囲まれるのはもっと嫌だ。注目されたくないし、何より私のスペックは他のウマ娘と比べて低いし。

 

「ふむ、別にカヤは弱くないと思うんだがな。むしろどうやったらそんなにスタミナを付けられるのか、教えてほしいくらいだ」

「……大したことはしてませんよ。ただ休日に毎日獣道の中フルマラソンを一回走っていただけです」

 

 フルマラソンは良い。ウマ娘的にゆっくりとだが長時間走れるうえに、炎天下の中二時間以上走るから体力をつけるのにもってこい、走る道が獣道だから足腰も鍛えられる。

 夏場はたまに趣向を変えてトライアスロンもしていたというと、ルドルフはまるであり得ないと言わんばかりの表情をしていた。

 

「そのメニュー、ミカもやっていたのか?」

「いえ、妹は妹でクラブのほうで練習していたので、私はゆっくり気ままにやってましたよ」

「……どおりでカヤのスタミナが異常なわけだ」

 

 まるで常識はずれと言わんばかりの目に私は内心憤慨する。

 

「え?これぐらい普通の練習ですよね?」

「そう思ってるなら今すぐ普通の意味を調べてこい。少なくとも私はそんな非常識な練習を休日に毎日なんてやるウマ娘を聞いたことがない」

「そんな……」

 

 私はそれこそあり得ないと思いながら、そばに寄ってきたラモーヌさんに聞いてみると、

 

「カヤさん、メジロ家にはトレーナーも少なくないですが居ります。居りますが、少なくともそんな狂気の沙汰としか思えない練習をしているなんて聞いたら間違いなく卒倒しますわ。ええ、絶対に」

 

 断言するように言われて私は何にも言えなくなった。

 

「そんな……明日お休みだから何時もみたいにやりにいくつもりだったのに」

「ダメですわよ。やるならばたづなさんが了承してからになさいませ」

「うう、せめて、せめて山の中で走らせて……」

「諦めろ。休日までトレーニングするのは間違ってるから、大人しくギターでも引いてゆっくりしてろ」

 

 ルナさんからの無慈悲な宣告によって、私のオリジナルトレーニングは廃案になりました。ションボリルドルフ。

 

 

 

 そんなこんなで放課後のレースコース、見た感じ上り坂路が急なうえに、下りがカーブと一緒になってるという、スピード管理が難しい結構厳しいコースだった。

 

「こりゃえぐいコースやなたづなはん」

「ええ。コースの一周は1400メートル、芝、なおかつ起伏の激しいコースを選ばせてもらいました」

 

 まずは確認のために軽くランニング一周と言われ、私達全員は二列体勢でゆっくりと右に回っていく。

 

「少し芝が重いね、バ場状態は稍重って感じかな」

「良好が一番良いんですが、まぁそこは腕次第ならぬ脚次第というところでしょう」

「カーブは下りと一緒になってますから~若干緩やかになってますね~」

「総じて技量が直接、私達の目立つ力になるって感じだね」

 

 全員なんとなくコースの概要が分かったようで、一周しただけでそれぞれコースに対する答えを見つけられたようだ。

 

(私なら外から先行を取って付かず離れずを維持、カーブは膨らまずに直線のように曲がれるだろうからそこまで速度を落とす必要はなさそう、って感じかな)

 

 流石に本職の差しウマ娘を相手に差し込めると思うほど過信はしてないが、それでも先行ならばスタミナを使って最後に抜け出せばと考える。

 

「それじゃまずは短距離1200の右回りで全員から始めます。くじを引いて順番を決めますので、一人ずつ引いてください」

 

 たづなさんの言葉にそれぞれがくじを引いていく。私の番号は1番、つまり大内だ。

 

(最悪だ、これじゃ外に抜けるのが難しくなる)

 

 最初から目的がご破算になったことに少し眉を潜めるが、すぐに切り替えてコースに並ぶ。

 結果順番としては内から私、タマモクロスさん、テスコガビーさん、ラモーヌさん、ハイセイコーさん、妹、クリークさんという形だ。

 

「それではよーい……」

 

 その掛け声で私達は体勢を構える。そして、

 

「ッ!!」

 

 ピストルの音と共に駆け抜ける。

 

(先頭はやっぱりテスコガビーさんか!!)

 

 私以外の逃げウマ娘であるテスコガビーさんが内を突くように先頭へ抜け出す。そしてその横外側に逃げを選んだハイセイコーさん、1.5バ身離れた後ろに私、ラモーヌさん、クリークさん、先行を選んだタマモさん、そして最後尾に妹のミスカブラヤと並ぶ。

 

(外に脱け出したいけど、この短い距離じゃ難しい!!)

 

 想定するなかで一番最悪な状況に少し歯噛みするが、ならばと内を抜けようと仕切りギリギリへ攻める。が、それによって私とラモーヌさんの間が開くわけで、

 

「そこや!!」

 

 タマモさんがするりと突撃してくる。さらにタマモさんは体勢を低く構え、まるで白い稲妻のような走りで先頭を走るテスコガビーさんを捉える。

 

「なんの!!」

 

 しかし逃げウマ娘であるテスコガビーさんも負けず劣らずに加速する。それによって外にいたハイセイコーさんは距離的な意味で調子に乗りきれないのか、少しずつ後ろへ下がっていき、逆に私にとっては得意な距離なのだが、やはり平凡的な才能しか持たない先行では中々前へ進めない。

 

 そして上り坂からの最終コーナーを抜けて最後の直線200メートル、抜かすならここしかないと脚を加速させるが、テスコガビーさんと距離が一向に詰まらない。いや、むしろ距離が開かれていって

 

「ゴォォル!!」

 

 そのまま逃げきってゴール。次にタマモクロスさん、ラモーヌさんと続いて私と四着、本番なら掲示板こそ確保できるだろうが、それでも惨敗と称するしかない結果だった。

 

「……ッ!!」

 

 練習とはいえ、この程度の実力しか出せないことに歯噛みする。内側での戦略を考えていなかったこともそうだが、得意距離である短距離でこの結果では苛立ちしか出てこない。

 

「もっと、もっと速く走れば……」

 

 小さく、自然に出てきたその言葉は誰にも聞こえることはなく、ただどうすれば前に出れるかを私は考えていた。

 

 

 

(これは想像以上ですね)

 

 レース直後のカブラヤオーさんの姿を見た私は、内心考えていた評価を改めた。

 

 正直最初にデータを見ただけのカブラヤオーさんの走りはなんというかパンチに欠ける、そして同時に平凡としか思えなかった。むしろこの能力で、ギリギリとはいえトレセン学園に入れたこと自体奇跡と呼べるレベルだった。

 

 が、その評価は入学式の翌日の朝にすぐ覆すことになった。圧倒的な有利な状況とはいえ、8人のウマ娘を、それもほぼ引退してるとはいえ三冠ウマ娘でもあるシンザンさんを相手に、トレセン学園の外周一回りを走って逃げきれるだけの逃げ足。

 状況を止めるために追走したが、当時最速と言われた私の脚を全力で使ってギリギリ追い付くかというほどの逃げ。

 正直言って、私が現役だったなら対戦したいと思えるほど、どちらが最強の逃げウマ娘かを決めたいと思えるほどの才能だった。

 

 そして同時にこう思った、まだまだ荒削りなこの娘を大成させたい。私の技術の全てを叩き込んで、私以上に最速のウマ娘として活躍させたいと。

 私はすぐさま秋川理事長に秘書の立場を降りたい旨と共にこの事を話した。理事長は少し戸惑っていたが、すぐに納得してくれた。

 

「条件ッ!!それを了承するには幾らか問題がある」

 

 そう言って理事長は3つの提案をしてきた。

 1つは私の代わりとなる秘書役を立てること。これは知り合いでもある樫本さんにお願いし、少し呆れられこそしたが納得してもらえた。

 2つ目は彼女の方からお願いしてきた場合に限ること。これはチームトレーナーとしての場合でも良いということなので、話をして数日と足らず声をかけてきてくれたのは幸いだった。もっとも私の正体までバレていて、そのうえで煽られたのは想定外で、どうやら覗き見していた理事長と樫本さんの二人に弄られる結果となったが。

 そして3つ目、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()。はっきり言ってこれが一番の鬼門だった。が

 

(臆病であると同時にどうすれば次に勝てるか考える、逃げウマ娘にとって大切なことを彼女は持っています)

 

 逃げるということは常に考えることだと私は思っている。ただ何も考えずに逃げるのなら誰でもできる。けど、逃げて勝つのならどんな脚質よりも考える必要がある。1度勝った逃げ方で次も勝てる可能性はまず無いからだ。

 

 そして彼女の極端な臆病さと自己評価の低さは、言い替えればそれだけレースに対して慎重であるということ。慎重すぎてもいけないが、彼女の今の姿を見ればどういった走りの組み立てをすれば勝てるのか、頭の中で一瞬で組み上げられる。

 

(慎重な頭脳に大胆な大逃げ、それに聞いた話無茶なトレーニングを長く行っても壊れることのない頑強な肉体)

 

 おそらく考えられる中で最強の逃げウマ娘になれる可能性の原石である彼女のこれからを思い、今は引退し彼女たちのトレーナーだということに身震いが止まらなかった。




追記
感想の方で少し指摘されましたので補足させて頂くと、アンケートでのレース展開というのは出走するウマ娘についてです。基本的にカブラヤオーには逃げさせますので悪しからず。詳しくは活動報告にて書かせていただきますので、そちらを読んで頂けると幸いです

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