後に狂走と呼ばれるウマ娘   作:ドロイデン

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9R 課―もくひょう―題

 チーム内での模擬レースを終えた私達は、汗を流したあとに部室に戻って簡単なミーティングを行うことになった。

 

「まず皆さん、今日の模擬レースはお疲れさまでした。今回走った結果、皆さんそれぞれに必要な課題が分かったと思います」

 

 そう言うたづなさんに、全員言葉には出さないがなんとなく分かっていた。

 

「私は脚質を絞ることが必要かなって。いろんな走りができるのは勿論楽しいけど、それで勝てないんじゃ意味がないもん」

 

 そう言うハイセイコーさんの全体レースでの結果は短距離から並べて5位、7位、3位、4位とひどく、それぞれで別々の脚質を使った結果とはいえやはり走りの手札が増えすぎたせいで勝ちに動けない事が多かった。

 

「そうですわね、私の場合はスタミナとパワー不足でしょうか、得意のマイルと中距離だというのに抜け出せず、結果が残せませんでした」

 

 ラモーヌさんは3位、2位、4位、2位。走りは全て先行を走っていたのだが、本人の自覚通り途中でスタミナがキレかけたことを切っ掛けに伸びが足りなかった感じだ。

 

「ううん、やっぱり差し込みのタイミングの見極めかな。他の人全体的に速めで前を走ってたから、差すべきタイミングで差せなかったし」

 

 妹はそう言ってるが、それでも7位、3位、1位、5位と中距離2000で勝てている。が、それでもこのメンバーならばすぐに抜かれてもおかしくないと考えているようだ。

 

「決めた、うちは追込をまず極める!!先行は数が多いし、何より追込ならある程度自由に組み立てられるわ」

 

 そう決意しているタマモクロスさん、短距離2位から4位、2位、1位と本番なら掲示板確定になれる順位を取れているので、間違いなくアークツルス最強の中長距離ウマ娘だというのは間違いない。

 

「私はスタミナかな。得意距離こそ勝てたけど、やっぱり受験勉強で若干鈍ってたのは否めないかな」

 

 そう言ってるテスコガビーさんは短距離・マイルを1位、長距離こそ最下位だったけど中距離は5位と完全なスプリンターのテスコガビーならば充分に強力だろう。

 

「そうですね~私は全体的に力不足だったので、もっと強くなるように鍛えないと」

 

 クリークさんの順位は6位、5位、6位、3位と微妙なライン。普段のおっとりさとは打って変わっての走りだったが、それでもこのメンバーの中では今一伸びきれなかった印象。

 

「……」

 

 で、私の結果は4位、6位、7位、6位と完全な轟沈。自分自身の才能の無さに苛立ちを通り越して呆れしか出てこない。

 

「今日の模擬レースで見つかった課題、それを乗り越えるためにはとにかく練習するしかありません。ですが、それは走った相手も知ってるということ。つまり貴女たちは自分の弱点、そしてそれを改善するためにどんな練習をするかということを相手に晒した状態です」

 

 たづなさんのその一言に、全員静かに彼女を見つめる。

 

「私達は同じチームであると同時に、3つしかない今年の1年生デビュー枠を賭けたライバルです。その事を見つめた上で、これからの練習に励んでください」

『はい!!』

 

 そう言って今日の練習は終わり、皆それぞれ部室から出ていく。

 

「あれ?カヤも帰ろうよ」

「ごめん、ちょっとたづなさんに聞きたい事があるから先に戻ってて」

「……わかった」

 

 テスコガビーさんは何かに気づいたような表情だったが、あえてその事に触れることはしなかった。

 そして私とたづなさんの二人だけが部室に残り、部屋の中には重たい空気が満ちる。

 

「カブラヤオーさん、改めて今日のレースはどうでしたか」

「……悔しかったです。負けたことも、自分自身の弱さも」

 

 こんなことは初めてだった。私にとってレースは勝てないもので、勝つことそのものにどこか諦めてる節があった。

 だからこそ今感じてる悔しいという感情、負けたくないという苛立ち、その全てが新鮮で、なおかつ自分の不甲斐なさを恨む気持ちでいっぱいだった。

 

「では聞きますが、そこで諦めますか?」

 

 挑発するように問いかけるたづなトレーナーさんに、わたしは奥歯を噛み締めるように応える。

 

「私を速いって、強いって言ってくれた人がいたんです。そんな人に情けない姿を見せたくありません」

 

 ルドルフさんが、シンザン先輩が、友達が、皆が皆私のことを真剣に考えてくれて、私のことを強いって認めてくれた。才能がないって言われてきた私のことを、ただの平凡なウマ娘でしかない私のことを。

 

「私は!!私のことを信じてくれる人に、人達に誇れるようなウマ娘になりたい!!私なら絶対に勝てる、私こそ最強なんだって誰もが認めるウマ娘に!!」

「ならどうしてここに立っているんですか?強くなりたいならここで立っているのではなく、例え一人でも練習をするべきでしょう」

「はい。けど、私一人が考えたって素人のトレーニングです。だから」

 

 私はたづなさんに向かって躊躇いなく土下座する。その事にたづなさんは少しだけ驚くが、今の私には関係ない。

 

「お願いします!!私に、最速の逃げウマ娘としての走りを!!技術を!!心構えを!!その全てを教えてください!!」

「貴女は逃げが嫌いだと、逃げたくないと言っていたそうですね。だというのに勝つためにそれで、逃げで走るというのは、それこそ本当の逃げなんじゃないですか?」

「……そうですね、私だって本当は逃げなんかやりたくない。逃げるくらいなら競争ウマ娘なんて辞めてやるって、そう思ってきました」

 

 私が憧れたのは、伝説の差しウマ娘『タチカゼ』さん。子供の頃初めて見たダービーでのそのごぼう抜きに感動して、いつかこうなりたいと夢見た、私の競争ウマ娘としての原点。

 

 だからずっとどんなウマ娘が相手でも差せるように努力してきた。小学生時代には難しかった内容も頑張って読めるように努力して、努力した内容を実戦で走れるように練習して、それでも私には才能がなかった。

 

 悔しかった。私はあのタチカゼさんような鋭い差しはできない、お前みたいな臆病なやつがレースなんて無理だと嗤われ、貶され、それでも努力すればできると信じていた。

 

 差しが無理なら先行でできるように努力して、それでも強くなれない自分に悔しくて仕方なかった。

 

 いつしか私は私が夢見た走りをすることに拘って、意固地になって、逃げや追込という数少ないながらも存在する脚質から目をそらしてきた。

 

 なけなしのプライドだったのか、ただ自分を認めなかった人達を認めさせたかったのか、今ではもう良く分からない。

 

「けどそんなちっぽけな、自己満足なプライドなんか捨ててでも勝ちたい!!速くなりたい!!強くなりたい!!だから!!」

 

――全盛期のトキノミノルの全ての走りを、私に教えてください――

 

 その一言を言った瞬間、たづなさんから恐ろしいほどの何かが吹き出した。

 

「カブラヤオーさん、私の全てを真似しても、絶対に届くとは限りません。ルドルフさんやマルゼンスキーさん、他の皆さんも私が走った時代よりも遥かに凄い才能を持ったウマ娘ばかりです。私の技術が通用しない可能性だってあります。それでもですか」

 

 淡々と述べるたづなさんだったが、私にはそこで応えるべき言葉を知っている。

 

「それでもです!!」

 

 目の前の最強に怯む気持ちも、怯える気持ちもある。けど、そこで下がっていたら何も得られない。なにより――

 

「――私は……私だってウマ娘ですから!!」

 

 時には遅くなり、他者に抜かれ、負けることだってあっても、ウマ娘は後ろを振り返らない。戻ろうとは思わない。ただ前に向かって走り抜く。それが私達という存在の意味なのだから。

 

「……良いでしょう、そこまで本気なのなら私は何も言いません。ですが、私のトレーニングは狂暴ですよ?」

「上等です、たづなトレーナー!!」

 

 これが最速と狂走が真の意味で師弟となった瞬間だった。

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