次の日。
えっちゃんからダ女神とやらについては多少聞いていた。とんでもない傍若無人の存在だと。まぁ神なんてそんなものだ。そうであってくれなければ私がハズレを引いているようでシャクだ。あのロリコンめ。
しかし同盟を組んだから、という理由で泊まりに行くのは多分意味不明だと思う。
「だからなんでフタガミまで俺の家に泊まるんだよ⁉︎」
「同盟組むんだから、一緒にいないと意味無いでしょって言ったじゃない!ほら!ウタネも学校休んで荷物取ってくる!」
「えぇ……めんど……」
私がセイバーのマスターを学校まで護衛しようと家に寄ろうとしただけなのに、その時既にいたアーチャーのマスターが私の移住を強制するために家の中に引き込まれた。家主は混乱したままだ。寝坊して既に登校時間ギリギリだというのに。
「アーチャーのマスター?それは無理矢理過ぎない?同盟とはいえ自由意志はあるんだからさ」
「じゃあ互いに襲われたらどうするわけ⁉︎衛宮くんは通信魔術も使えないじゃない!それを察知して駆けつける間に何かあったらどうするのよ!セイバーは確かに強いけど、単独で戦ったら同盟の意味が無いじゃない!」
「む……確かに一理ある。電話しても時間はかかるしできない状況に追い込まれてるかもなわけだし」
なら2人いればいいわけで、私は要らないんじゃない?という言葉は飲み込んだ。言えば多分面倒なことになる。
「でん……わ……?」
「ん?」
ぽかーん、という表現が1番だろうか。全く想定外のものを持ち出されたような表情をするアーチャーのマスター。
「どうしたんだ遠坂?」
「ああああああああアナタたち⁉︎何電話って⁉︎もしかして異世界の話をしてるんじゃないでしょうね⁉︎」
「「……?」」
我を見失うほどに取り乱しているアーチャーのマスターを見てセイバーのマスターと顔を見合わせる。
電話が私のいた世界にしかない可能性も一瞬考えたけどこの家の廊下にも今時見ないタイプだけど置いてあったしそもそも同じ世界にいるはずのセイバーのマスターも何言ってんだこいつみたいな顔してるから多分アーチャーのマスターがおかしい。とすると……?
……魔術師はそもそも機械関連が苦手なんだ。
忘れてた。魔術に信仰的なものさえ抱くのが魔術師だ。この世界の文明がどの程度か分からないけどテレビも携帯電話もある世界でそれに着いていけるはずがないんだ。
「セイバーのマスター、魔術の世界に疎いだろうから言っておくけども。魔術師はその歴史が深いほど現代の科学から取り残されていくんだ。だから、多分テレビも使えないと思う」
「そ、そうなのか?遠坂?」
「いいじゃない!魔術で同じことができるんだから!」
「コスト」
「う"……それは仕方ないじゃない。魔術の基本は等価交換なんだから」
「認知度」
「そ、それも仕方ないじゃない!魔術は神秘と秘匿なんだから!」
「そーでしょー?だから、電話使いましょ。番号押して発信ボタン押すだけだから」
携帯を手渡し、握らせる。
「うぅ……壊れないわよね?爆発しないわよね?」
「しない。するんだったら普及しない」
「そうよね、低俗市民が扱えるんだもの、私が使えないはずがないわ」
「そう。どれだけ知能が低くても消費者層にカウントされるだけの最低限人間と言える知能があれば使えるから」
「そうよね……番号を押して、このボタンでいいのね?」
「うん」
「お、かかってきた」
「……!」
見事子どもでもできるような基礎操作を成し遂げると、無くしたクレジットカードを無傷で見つけたような晴れやかな顔をして私を見てくるアーチャーのマスター。この瞬間の目だけは欲しいな。
ちなみに、何故セイバーのマスターの番号を知っていたかなどは気にしてはいけない。ヴィーナスってそういうもんだよ。
「じゃ、その携帯あげるから、さっさと部屋に戻ってなさい」
「ええ!シロウ、また後でね〜!」
「遠坂!待てって!おい!」
機械に慣れない魔術師はウッキウキで携帯を振り回しながら廊下をステップしていった。
「遠坂のやつ……屋敷荒さないだろうな。フタガミ、とりあえず助かった」
「うん?助かったの?」
「な、なんだよ、その嫌な笑いは」
「男子高校生の一人暮らしから一転、数日と経たず女が4人も増えるんだよ?昨日のえっちゃんみたいなことが……うふふふふ〜」
「……っ!何言ってんだ!そんな気はサラサラないぞ!」
「分かってるよ。まぁあっても私かえっちゃんに来てね?セイバーだと信頼うんぬんだろうし、遠坂さんも一応普通のじぇーけーだし」
「お前らは違うのかよ。まさか、あれか?……夜の店とか」
「あははは、違うよ、私処女だし。私なりの優しさかなー。私もえっちゃんも性とか手段としか見てないからさ。体が柔らかいとか力があるのと同じ。あ、男がいいなら言ってね。そっちでもいいから」
「簡単にそういう事を言うなよな。ほんとに間違いが起きたらどうすんだ」
「ま、今のところあなたが1番弱いから無理矢理なんて無理だろうしね」
「それは言い返せないけど。それより大丈夫か?遠坂に携帯あげたりして」
「ん?ああうん。ほら、こうやって……いくらでもあるから」
ちちんぷいぷい……はもうダメなのかな。
とりあえず携帯を手元に特殊召喚する。遠坂さんとは別の、それでいて私が持っていた携帯と同じ携帯電話。同じものは同じ世界に2つ存在することができる。
「じゃ、悪いけどお部屋あるのかな?」
携帯と性のことでからかう気マンマンでケラケラと笑ってみる。やー、そういえば私存在年数にしてどのくらいだろ。少なく見積もって50以上なんだけど……うん、そろそろ人煽ってるトシじゃないな。
……実際寿命来てるくらいには未経験な気がするぞ。
精神年齢は生前の死亡時より若干若返ってるまであるし妊娠キャンセルくらいわけないんだけど人と関係持つのが嫌だな。まぁその気になれば別世界で胎児からでもやり直せるだろうしどうでもいいけども。私に人間的な活動は向いてない。
「ああ、離れが客間になってる。遠坂もそっちに行ってるからそうして欲しいんだが……」
「そう。じゃあ部屋指定してよ。決めらんない」
「まったく……荷物はいいのか?」
「うん?あー、流石に制服だけはキツいか。3着くらいあとで持ってくるよ」
「それだけでいいのか?なんか女の子ってもっと荷物あるのかと思ってたんだけど」
「んー、普通ならあるんじゃない?ほら、私ヴィーナスだから」
ハテナマークを浮かべまくるセイバーのマスターを放って廊下を歩く。
あー、封印指定の設定ほんと助かる。なんでもヴィーナスだからで誤魔化せそう。設定じゃなくてマジで指定されてるらしいのが笑えない。
「じゃあ、この部屋でいいか?あとお前のサーヴァントの部屋なんだが……」
「ん、一部屋でいいよ?迷惑でしょ」
「いや、1人一部屋は必要だろ?それに朝と夜はできるだけ部屋に隠れててほしいし……」
「うん?」
「あぁいや、こっちの都合なんだ」
「ふーん。まぁいいよ。私も基本は部屋籠るスタイルだし。鍵は開けとくから用事があったら言ってね」
「閉めとけ!」
「はろーチョコレート。いやぁ衛宮さん、あのダ女神……人間に言いくるめられて泊めてしまうことになったようで誠にお悔やみ申し上げます。さて、まずこちら……敷金礼金家賃先払い半年分一括となります。この辺りの相場から計算したものなので不足があればお申し付けください。20倍までなら本日用意することが可能です。それ以上は来月までお待ち下さい」
「ん……?えっ、うわあっ⁉︎なんだこの大金⁉︎」
急に小さめのキャリーバッグと封筒を持って出てきたえっちゃんがセイバーのマスター……衛宮さんだね、忘れてた……に封筒を渡す。
「250万ほどですが。50万は敷金礼金として1人あたり月16万ほどです。これだけ広ければ相応に必要だろうと想定しました」
「待て待て待て!俺は別にお前らから金取ろうなんて思ってないぞ!」
「しかし……ああ、一夫多妻の擬似体験ですか。それで1人一部屋と」
「……?どういうことだ?」
「殿方が夜な夜な各部屋を訪問し、共に寝ると言うものですが」
「しないって言ってるだろ!なんなんだお前ら!女の子がそう言う事を言うとすぐ勘違いする男だっているんだからな!」
「そうでしょうね。ですから何も言わずお金を渡したのですが。その気があったのでは?」
「う……無い!お前らとは同盟だけの関係だ!」
「でしたら尚更お金は受け取っていただきます。そうでなければ対等関係としておかしいですよね?」
「おかしくないだろ、部屋貸すだけなんだから。期間中守ってくれるなら、それが対価だ」
「なるほど。では本当によろしいのですか?」
「いいって言ってるだろ。人に見つかったらヤバい額だからしまってくれ」
「200万程度でそうはなりませんが。わかりました。ここは引いておきます」
「いや……遠坂に、だ」
「ああ……でしょうね」
邪悪な言い方をして封筒を仕舞う。といっても制服のポケットに雑に押し込んだだけ。まぁそのくらいならロリコンがすぐ振り込んでくれるだろうしホントに誤差だね。以前の世界では小学生だからと数百万で制限をかけたまま放置されてたからね。今回は制限無し。もう4桁万円は貯まってる。
……毎月数倍になるんだから一生使わねぇ額だなホントな。
それに戦争が2週間で大体っていうのに半年分とは。マジで全員生存が目的なんだ……
「ああ。あと風呂と飯なんだが、ちょっと朝早かったり夜遅くても大丈夫か?」
「……?サーヴァントに食事は必要ありませんが」
「そうだとしてもフタガミがいるだろう。まだ高校生なんだし食べ盛りだろ?」
「言われてますよウタネさん。食べ盛りなんですか」
「……?」
「食事はいいよ、そんなに食べないから」
「でも腹は減るだろ?」
「とーう!」
「ぐはっ⁉︎」
食事提供を断っていると衛宮さんにアーチャーのマスターが飛び蹴りを背中に直撃させた。やっぱり魔術師の運動能力の平均を超えてると思う。
「何すんだ遠坂!」
飛ばされた衛宮さんを支えるわけでも無くスッと避けてしまう私とえっちゃん。
遠坂さんね、多分もう忘れない。
「女の子にそんな言いよるものじゃないわよ、シロウ。乙女は常にダイエットと隣り合わせに生きているんだから」
「そうなのか?」
「だから聞くな!」
「いや、私は純粋に食べないから。ダイエットもしたことないし」
「違うじゃないか遠坂!」
「あ、あああああああああなた⁉︎何したことないって⁉︎もしかしてシロウに幻想を持たせようとしてるのよね⁉︎私に対する悪意じゃないわよね⁉︎」
「さぁ……知らないけども。食べないのはホント。なんかめんどくさいし。3日くらいなら何とでもなるし」
「わわわわわわわわ私がこの体にどれだけ気を使ってるか……!いい⁉︎同盟中は同じ食事を取りなさい!これは必須条件よ!」
「それ必要ある?」
「ど、同盟の意思表明よ!同じ釜の飯を食う!それが仲間というものでしょう!」
「まぁ、食べろと言うなら食べるけども」
「そ、そうよ!なんだかんだ言って食べるんだから!」
「にんげ……遠坂さん、非常に厳しいことを言いますが、ウタネさんは私が見た限り2日に1食です。それもあなたの言う食事とは程遠い低カロリーなものです」
「ぁ……」
えっちゃんの言葉に完全に何処か遠い世界に行ってしまった遠坂さん。
生前からそうなんだよ、という言葉を言おうかとも思ったけどなんかややこしくなるからやめておいた。
最後に食べたのえっちゃんが出てきた日のおつまみと昨日えっちゃんが作ってくれた胡椒の朝食か。我ながら充実した食生活を送ってるね。
「では衛宮さん、食料の買い出しが必要なのではありませんか?よろしければ我々が行きますよ」
「いや、それもいいって。気を使ってもらっても居心地が悪い」
「今は戦争中です。単独で身を守れない衛宮さん、まだ傷が完治したばかりで本調子では無いアーチャー、単独で戦争を終わらせられる我々。私たちが外で必要な分担を担い、遠坂さんとアーチャーは作戦の立案と周囲の警戒、衛宮さんとセイバーは中での家事等を担うのがそれぞれの最適な役割と考えますが。いかがでしょうか」
「それは……そうかもだけど」
「そうね。アーチャーはフタガミさんにも止められちゃったもの。それがいいわ。私は賛成」
「そうか。じゃあ頼む。あとでリストを渡すから」
「はい。では少し部屋にお邪魔します」
「ああ。ホントに一部屋でいいのか?」
「基本的にサーヴァントに部屋は必要ありませんが……お言葉に甘えてもう一部屋いただきましょうか」
「ああ。フタガミの隣でいいか?」
「はい。ありがとうございます。ウタネさん、一応服を持って来ましたので、とりあえず着替えますか。この様子だと学校はサボるようなので」
「あーうん」
えっちゃんが私にキャリーバッグを渡して一応ノックをしてからドアを開け、内装の確認後何も言わずに閉じこもってしまった。
「じゃあ私もお邪魔するけど、この家のルールとかある?」
「ん?いや、別に決めたことは無いぞ」
「じゃあ勝手にするけど、何かあったら言ってね。私に気を使ったら殺すから」
「お、おう……」
呆れられながらもえっちゃんが持ってきたバッグと共に部屋に入る。
ようこそ私の新しい部屋。このまま普通の生活をさせてくれ。