「お待たせ。時間大丈夫かな」
「ああ、すまん」
「ふふーん、よく帰ってきたわね」
「何?えーと……誰だっけ」
アーチャーのマスター。って言うことだけは覚えてる。なんとかなんとかって名前だよね確かね。うん。確か苗字が漢字2文字だよね。うん。
そう考えてる顔があまりに間抜け面だったのか、ビシッと指を刺されて怒鳴られる。
「遠坂!遠坂凛!私を覚えないとか何様よ⁉︎」
「うん、記憶力悪いの。たまに全部忘れるから許して」
「えーと、フタガミさんのサーヴァント、ホント?」
「えっちゃんで大丈夫です。まぁそうですね。記憶力が悪いというより興味関心が限りなくゼロなので覚える気が無い、が正解ですけど」
「やっぱり失礼じゃない!」
「なぁ、ところで、えっちゃんのクラスを教えてもらってもいいか?流石にこの呼び方は恥ずかしい」
「あ、そうね。他同盟の特定にも繋がるから」
「そうですか。クラスはセイバーですがバーサーカーでルーラーです。セイバーを希望します」
「はぁ?セイバー⁉︎バーサーカー⁉︎ルーラー⁉︎」
「どういうことだ?セイバーは俺のサーヴァントだし、バーサーカーだってあの時のだろ。ルーラーってことなのか?」
「えっちゃんは元はバーサーカー。セイバーは願望、ルーラーは今のクラスだよ。えっちゃんも変に混乱させないの」
カルデアのサーヴァントはクラスが変わってたりするからな……面倒なんだよね。カルデアって言って通じるのかな……この世界にあるのか並行世界なのかわからないから放置でいいか。
「すみません、珍しいだろうと思いまして」
「ルーラーって裁定者じゃない!なんでこの聖杯戦争に出てくるのよ!」
「ですから、戦争をさせないために動こうとしてるんですよ。誰も止まってくれませんが」
「ルーラーがヴィーナスのサーヴァント……はー、ますます勝ちが遠のいた気がするわ」
「でしょうね。この戦争に勝利者はいませんから」
「はいはい。それができるといいわね。時にフタガミさん、アナタ、料理はできるかしら?女の子だもの、できるわよね?」
「おい遠坂……」
「うん?まぁ、一人暮らしだし、それなりに?」
「じゃあお昼はアナタにお願いするわ。メニューは何でもいいわよ、自信作でお願いね、それじゃあ私は部屋にいるわ。できたら声かけてちょうだい」
あっはっはっは、と高笑いをして消える遠坂さん。
ああ……コレか……
「わかりましたかウタネさん。アレがあの人間の本性です」
「まぁ、大体わかった」
「大丈夫かフタガミ。料理は俺がするぞ?」
「いいよ、お世話になるんだし。料理は嫌いじゃないしね」
「ウタネさん、モンブランだけはダメですよ」
「アレはもう作れないよ」
「では自宅のアレはどこから……?」
「あー、えっと……」
「あ、ああ!すまん、俺も道場の方にいるよ。料理できたら教えてくれ」
「ごめんね」
私が言い淀んでるのを見て、衛宮さんが走っていく。
まぁ……この世界の人には話しづらい事だしいっか。
「あのモンブランは前の世界、『●●●』の家の冷蔵庫から取ってきてるの。もう皇帝特権は無いしね。あそこにある分で最後だよ」
「そうですか……では作れるのでは?」
「うん?話聞いて……あー、できるけど……」
「やりたくなさそうですね」
「まーね。まぁあんなの私くらいしか作れないしもういいよ。市販ので諦める」
「そうですか。では料理はどうされますか?」
「材料何買ったっけ」
「さぁ。当てつけに値段の高い食材をメインに買いましたから、何を買ったかまでは。ではフレンチでもどうでしょうか。私は作れませんが」
「んー、そっか。まぁ和洋中なんでもいいでしょ。テキトーで」
「はい。お任せします。できればデザートも一品お願いします」
「オッケー。設備は勝手にしていいかな……まぁ、ダメだったら買い直そう」
「そうですね。金に物を言わせましょう」
「言い方が悪者だけどそうだからいいや。じゃあ座ってて」
「はい。お願いします。あ、すみません、少し衛宮さんと話をしてきます」
「はーい」
さーて、どーしよーかなー、なんて言いながらレジ袋を漁る。
中には軽く4桁の数字が書いてある食材がたくさん。まぁちょっと大きめのスーパーだし限度かなぁ。総額は5万くらいかな。1食5万か。世の労働者階級がそんなことしたら1週間で破産しそうだ。
さてさて……何作りましょうね。
♢♢♢
「ん?どうしたんだえっ……っと、ルーラー」
道場でセイバーと特訓を行なっていた士郎が顔を見せたえっちゃんに声をかける。
えっちゃんはセイバーと士郎を順に見た後、目を閉じて軽く礼をする。
「どうも。いえ、調理はウタネさんに任せているので、家主の目の届くところにいようかと」
「……?別に俺はお前らを疑ったりしないぞ?」
「いえ。ヴィーナスがそこまで知名度のあるものとは私も知らなかったので、本当に敵意はないとお伝えしたかったのです」
「クラスはルーラー、ということらしいですが」
「なんでしょう」
「貴方方からは確かに敵意は感じない。だが同時に、戦争中だという緊張感も感じない。シロウのように魔術に疎いわけでも無く、聖杯戦争に進んで介入しようとするのに何故でしょう」
「緊張感……ああ。私は多少なり持っているつもりでしたが、ウタネさんが隣にいるとつい油断してしまうようですね。私では確かに限界もありますが、ウタネさんになら任せられますから」
「……?貴女のマスターは魔術師としては二流なのでは?」
「そうですね。魔術はからっきしです。ですが……あの人は強い。まぁ、そう言う話はまた後日。少し相談があるのです」
「何ですか?」
「セイバーさん、貴女は霊体化ができず、衛宮さんの登校時はこちらで待機しているとお聞きしました」
「それが何か」
「先の話とも少し繋がるのですが、学校にいる間、衛宮さんの警護は私に任されて貰えませんか?」
「なんだと……?」
「ウタネさんは1人で放置しても問題が無く、衛宮さんは1人では危険である。ならば手の空く私がセイバーさんの代わりを担おうと思うわけです」
「貴女のマスターがいかに強かろうがあくまで人間。サーヴァントに襲われればどうなるか」
「セイバー、フタガミは遠坂とアーチャーを相手にして生き残ってる」
「……!本当ですか⁉︎」
「えぇ。我々は同盟を結んでいる身。戦うのを止められないのなら誰も死なせない。私が望むのはそれです」
「……今夜まで少し時間を下さい。私1人では決めかねる」
「わかりました。お時間を取らせてすみません。ウタネさんの味見係に行きます」
「ああ……」