「ウタネさん。言うの忘れてましたがあのセイバーは丁寧な料理が好みなので気をつけてください……おっと」
「……今それを言うのか」
「おや、もうでき始めていたのですか。流石、速いですね」
「……まぁ、あのダ女神のことだ、料理の腕でマウント取る気なのは分かる」
「分かって全力ですか。意地も悪いですね」
「……ギリギリに調整しても次はどうこうとダラダラやるのも面倒だし潰しておく」
「そうですか。お料理お邪魔してすみません」
「……いい。もうできるからセイバーたちに。凛は行く」
「了解です」
ふぅ……結構頑張ったね?
「悪いなフタガミ。食器とかは俺が出すよ。座っててくれ……って凄いなこれ。そんなに時間経ってないぞ」
「ああうん、すぐできるモンブランよりマシだよ。私は遠坂さんに声かけてくるから、よろしくー」
「ああ、頼む」
離れの部屋まで行き、コンコンコンコンとノックする。家広過ぎるのよ。
『どうぞー』
「はい失礼。お昼できたからどうぞ」
返事を聞いてスルッと入る。
そして私の顔を見るなり少し嫌な顔をされた。なんで?
「早いわね……インスタントだったら殺すわよ」
「20分かかるインスタントとかあるの」
「知らないわよ」
「まぁいいや、アーチャーは?」
「アイツは周り見張ってるからいいわ。さー、ウタネのご飯はどの程度なのかしらね〜」
ルンルン気分で部屋を出る遠坂さん。
余裕ある時は冷静で、って聞いてたけどテンション高いね?
「お待たせ」
「あああああああなた⁉︎ななななななななな……!」
「な……?ナイスタイミング?」
「違う!何よこの料理⁉︎」
「何って……なんだろ、買ってきた食材が統一できなかったからバラバラにしたんだけど……和洋中どれかで統一した方が良かった?普通は統一するのかな」
料理といってもスーパーに売ってる食材だしそう珍しい物はないと思う。
なんかのソース付きローストビーフ?と素材不明チーズリゾット、何かの煮魚、何故か沸騰している麻婆豆腐、黄色い謎スープとえっちゃん用ケーキ型謎デザート、品数こそ少ないものの昼食には耐え得る品揃えにはなってるはずだ。味は知らないし素材も知らないけども。
統一はするのかな。暗黒の学生時代だったから人の食卓を見たことない。
「それは人によるんじゃないかしら!」
「ま、まぁ落ち着け遠坂。折角なんだ、冷めないうちに頂こう」
「そ、そうね。見た目なんて所詮は見た目よ、問題は味!猫の皮被っても無駄なのよ!」
それぞれがそれぞれの感情を隠さず座り、いただきますと揃えて大皿に手を伸ばし、それぞれがそれぞれの一口目を口にする。
「「「〜〜〜⁉︎」」」
「おー、中々美味しい」
「ウタネさん、このケーキは私が貰います。人が耐え得る糖分濃度ではありません」
「えー、ちょっとだけでもー」
「砂糖菓子より濃度が高いです」
「それはもう砂糖じゃない?」
「砂糖より砂糖濃度が高いですね。何故とかどうやってとか考えてはいけない気がします」
「まぁそうだね」
世の中には魚と肉を使ったモンブランを作る奴がいるんだ、砂糖より砂糖してる何かを作ってしまっても誤差だね。
「……あーちゃー」
「敵襲か」
「ええ……私のプライドを粉々にする最強の敵よ……ぬけぬけと愛の神を名乗るだけはあるわ……」
「凛⁉︎どういうことだ⁉︎説明しろ!」
魂の抜けた顔でぼそぼそと呟く遠坂さんにアーチャーが動揺する。
「アーチャーさん。よければどうぞ。そこの人間がそうなってる理由が分かるかと」
「……?毒か?」
「違いますから。単にウタネさんの力量に慄いているだけですよ」
「では少し……なるほど」
「美味しいものが食べられると言うのにそうなるとは、自意識の高い人間には困りますね」
「えっちゃんて遠坂さんに厳しいよね」
「そうでしょうか。そう思うのならそこの人間がそういう性格だということです」
「うーん。なるほど?衛宮さんはどうかな。お口に合う?」
「あ、ああ、すごく美味しいよ。俺なんか比べられないくらいだ」
「それはよかった。人の家で変なの作ったとか嫌だからね。うん」
なんだかんだまともな人生を送った世界が無い。普通であろうとすればするほどその世界からズレてたりするかも、と思うと早いうちに現地人に確認を取っていくしかない。その犠牲に選ばれたのが衛宮さんと遠坂さん。はは、可哀想に。
「フタガミさん、でしたか」
「うん?」
「この、ろーすとびーふ、ですか。随分と良質なものに感じます。どのようなお肉なのでしょうか」
「あー、なんだっけ……あれ、なんだっけ?えっちゃんちょっと」
「国産和牛だったかと思いますよ。グラム単位は忘れましたけど」
「だっけ」
「高かったんじゃないのか?すまん、金渡してなかった。レシートあるか?」
「いいえ、それには及びません……ですが」
悪かった、と立ち上がり財布を取ろうとする衛宮さんをえっちゃんが制する。
因みにレシートなど持ってない。貰ったけどサッカー台のゴミ箱にシュートした。レシートなんて毎回財布に入れてると嵩張って仕方ないからね。どうせ無限に湧いてくるんだし財産管理なんて気にする必要が無い。今の私がお金を節約するのは酸素を節約するくらい意味不明なこと。
「ここに、今回のお買い物で発生したレシートがあります。総額5万ほどですが、おそらく全てこの食卓に並んでいます」
「「「⁉︎」」」
えっちゃんがポケットからピラっとレシートを広げる。
私も驚いたんだけど、値段じゃなくて捨てたはずのレシートに驚いたんだよね。ロリコンか?あの神はそんなこともするほどヒマになったか?
「なら尚更だ!5万なんて1食で……!」
「ですが、これはレシートです。領収書ではございません。ので、この費用は自己負担。あなたに支払う権利は無いのですよ、衛宮さん」
「……!くっ……面倒くさい会社みたいなことを……」
「我々がお買い物する度にこれです。一般人にしては高い!質の良い!栄養豊富!全てにおいて完璧な食事をご提供致します。ウタネさんが」
「私か」
「私はあなたほど調理ができませんので。残念でしたね衛宮さん。大人しく家賃を受け取っていれば罪悪感は遥かに軽かったというのに。これからというものエンゲル係数は増えていくにも関わらずあなたの負担は軽くなっていく……それにあなたは耐えられますかね?」
「なんでだ……同盟を組んでる相手から嫌がらせを受けなきゃいけないんだ……」
「これもヴィランの嗜みです」
「まぁいいじゃん。減るもんじゃなし。ねーセイバー」
「そうですシロウ。毎日……んむ、この料理が食べられるなら!」
セイバーと遠坂さん、えっちゃんはもう黙々と食べてくれてる。
うんうん、一般に合う料理で良かったよ。1日1食モンブランの生活をさせると普通の人は死ぬらしいからね。食事は2日に1度でいい。
「ん?お前はもう食べないのか?」
「うん?食べたよ」
「さっき取った分だけだろ?ひと口ずつくらいしか食べてないじゃないか」
「うん……?ああ、私はこれで満足だよ。小食なんだ」
「それにしたって少な過ぎるだろ。遠坂があれだけ食べてるんだから同じくらいは……」
「しーろーうー?私が食べ過ぎだとでもいいたいのかしら……!」
「うわっ⁉︎違う!食べないと健康に悪いということをだな」
「まぁそうね。ウタネ、本当に大丈夫?そういう魔術を使ってるわけでもなさそうだし」
「うん。別に……普段食べてるくらいの量だし」
食べる量が少なくてもダメなのか……えっちゃんは甘味以外ほとんど食べないし甘味は無限に食べるし……食事量も頑張るか、次から。
そもそも転生した私に栄養は必要なのか……?いや、ロリコンのことだから絶対いるんだろうな。ちゃんと食べよ。
その後も学校を無断欠席しているとは思えないほど呑気な空気で食事を終え、聖杯戦争の話に移ることに。