聖杯戦争で暇つぶし   作:もやし

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第20話

「秘剣……」

 

 静かに構えられた長刀が、その切っ先を殺意で染める。

 

「燕返し!」

「……!そこッ!」

 

 常人であれば認識すらできない超高速。同時に放たれた二閃の太刀。

 その唯一の隙を見て階段の下へ身を投げたセイバー。

 

「ほう」

 

 階段の上で感心したとばかりに顎を撫でる……真名を佐々木小次郎と名乗ったアサシンのサーヴァント。

 

「よくぞ躱した……と言いたいところだが、今の燕返しは不完全であった」

「あ……っ⁉︎」

 

 冷静にセイバーを称えつつ、更に上があることを示して階段を降りるアサシン。

 起き上がったセイバーの小手が音を立てて砕ける。

 秘剣・燕返し。上段から襲った剣筋から、更に別の脅威を感じ取り回避を試みたセイバーだが、未来予知に匹敵するその直感を持ってして二つ目の太刀筋から逃げられなかった。

 

「本来の燕返しは三の太刀が存在する。次は無いぞセイバー」

 

 十分な足場を確保し再び構え、セイバーへの警告と挑発を投げる。

 セイバーにもう受けの選択肢は無い。二つで何とか回避が間に合った速度、それが階段の踊り場という平地、三つ目の太刀ともなれば白兵戦最強を謳われるセイバーを相手にして必殺と言える。

 

「解き放て、風の王!」

 

 セイバーが剣を構えると、今まで不可視だった剣がうっすらと輪郭を帯びる程度に見えるようになり、そこから強烈な風が吹き荒れる。

 

「ほう……さながら台風と言ったところか」

 

 アサシンはその風に怯むことなく、一層楽しそうに口角を上げる。

 

「ゆくぞ小次郎!」

「来い……セイバー」

 

 ♢♢♢

 

「うーっす、邪魔すんぞ」

「……あの結界をよく通ったわね」

「キャスター……敵か」

 

 直感でキャスターの居場所へと向かうと端っこの部屋に丁度2人だけいた。ラッキー。

 結界なんてのは直死の前には無いも同然。神代のそれもこの目の前にはただの区切りに過ぎない。

 

「そーいちろーだったか。確か教師だろ、お前。何してんだ」

「フタガミか。お前が魔術師とはな。ただキャスターの手助けをしているだけだ。そして年上の教師には敬語を使え」

「そーかい。じゃあこのままだ。オレはアンタより実質年上でな。じゃーやる前に二つの選択だ。一つ、オレに殺される前に戦闘行動を中止する。二つ、再起不能まで追いやられて永遠に拘束される。良いと思う方を選べ」

「どちらもお断りよ」

「じゃあ拘束させてもらうぞ」

「私の遠見を認識する目とカンの冴えは認めるわ。けれどその微弱な魔力反応……内包する魔力はあれど使う力は無いようね」

「ん……まぁな。魔法ならともかく魔術はカラッキシでな」

 

 この世界では魔力量どのくらいなんだろな……多分標準下回るくらいだろうからそんな多くないな。

 

「キャスター。外でも戦闘が始まっている。手早く終わらせる」

「はい。お願いします」

 

 男が構えを取るとその両拳にキャスターがエンチャントを施す。

 マスターが前衛、サーヴァントが後衛という珍しいスタイルだな。

 

「っと……不意打ち上等だがオレには効かんぞ」

「よく受けた」

 

 超スピードで背後へ回り込まれたが攻撃手段は拳。タイミングを読み刀を合わせて防御する。

 

「スーツとローブの組み合わせは合わねえなぁ……」

「……ジャージ姿のあなたに言われたくないのだけれど」

「あー……寝間着なんだよ。パジャマみたいなちゃんとしたのは持ってない」

 

 服装について軽く言ったら厳しいのが返ってきた。今着てんの学校指定のジャージなんだよな。ジャージだと男モンと女モンの区別があんま見てわからんからな。気楽なんだ。今着てる男モンだと腹ガバで腰キツいんだがな。肩幅に合わせりゃそうなる。仕方ない。

 

「キャスター、余裕を見せる時ではない」

「は、はい!」

 

 マスターの言葉に意識を切り替え、寺の壁なぞなんのその、2桁を数える魔力弾がこちらへ射出される。

 

「寺壊していーのか⁉︎」

「いいわよ、結界は万全だしこのくらい直すのは手間ですらないわ」

「そーかよ!」

 

 凛のガンド10発分はあるだろう魔力弾を切り刻みながら流れ弾で空いた壁の穴から外へ出る。

 

「ふぅ──!やれやれ、想定通りのえげつなさだな」

 

 キャスター陣営の弱点はキャスターの火力の高さによる連携不備。

 直死と未来予知でさえ退避するしかなかったほどの弾幕は、近接格闘のマスターさえ巻き添えにする可能性が十分にある。そしてキャスターはマスターごと消し去るという選択が存在しない。

 よってオレが対面するのはマスターかサーヴァントのどちらかのみ。2対1とは言えどその負担は同時ではなく連戦のそれに近い。

 

「人間のくせに生意気に」

「サーヴァントのくせに生意気だな。オレの提案は無抵抗に受けろ。誰とも戦わないならお前らを保護してやる」

「信用できるわけないでしょう。それでも魔術師?」

「そー言うと思ったよ。サーヴァントは頭悪いからな……っと。お前も躊躇えよな、こちとらお前の教え子だぞ」

「中々できるな。だがこれは戦争だ」

 

 殺人拳を未来予知を駆使して捌き、さらに距離を取る。

 

「魔術ではないようね。不可解な能力……」

「まぁな。魔術も使えるが使う価値が無いからな。ま、使ってやるよ。お前を」

「どう言う意味かしら?」

「そのままの意味だ……」

 

 オレの能力は並行世界にいるシオンの能力を使用することができる。姉さん以上、姉さん以下である別の存在がシオン。つまりはこの世界に存在しないあらゆる存在がオレだった可能性がある。

 この世界に存在するキャスターは並行世界のオレには定義されないが、並行世界で特異点を修正しているヴィーナスの1人も同じ能力を持つ。そいつの能力をオレの能力で使えばこの世界の能力であろうと問題無く使用が可能だ。

 

「さぁ、まず定石通りマスターからだな!」

「宗一郎様!」

「ふぅ……やっぱダメか」

 

 キャスターが先ほど撃った魔術をそっくりそのままマスターへ放ったが同等のもので相殺されてしまった。

 

「貴様……!」

 

 しかもそれについてキャスターはかなりお怒りだ。おかしい、オレの要求を呑まずに攻撃してきたから軽く反撃しただけなんだが。

 

「まぁ同じなのは分かったろ。これで終わろーぜっと……セイバーめ、予定通り自滅してくれやがって」

 

 寺の階段からだろうに、本堂さえ倒壊させかねないほどの風圧が数秒だけ発生する。

 それがセイバーの宝具解放の予兆であること、それをアサシンが静止したこと、シロウが場を止めたこと。全ては予定通り。

 

「何ですって?」

「いいや。死んではいねーよ。逃げただけ。流石にアサシン加えては相手すんのめんどーだからオレも帰るわ、じゃあな」

 

 それなら今日はこれ以上状況は動かない。オレがキャスターか宗一郎を倒す事も傷つける事も拘束することもしてはならない。

 適当な理由を付けて適当な能力で撤退する。アーチャーより先に戻れてるはずだからオレは何もしていないのと同じだ。

 

「何処に行っていたのですか」

 

 だというのに、例外たる卿だけがオレを咎める。

 何故か撤退先に的確に座り粉砂糖を袋から直飲みしていた卿が不満ヅラを向けてくる。

 その光景に不満を示すようにため息を吐いた。それ人間だったら死んでるからな。

 

「キャスターのとこだ。軽く交渉してきた」

「失敗したのでしょう。そしてそろそろアル……セイバーさんが帰ってくると」

「オレの前では真名隠さなくていい。全員分かる」

「そうですか。FGO(わたし)的にはその方が言いやすいので助かります」

「で、オレに何の不満だ」

「勝手な行動はやめてくださいと言いませんでしたか」

「さぁ?」

 

 姉さんなら確かに聞いたかもしれん。オレも聞いたことがあるかもしれん。だがオレは姉さん以外を特に尊重する気は無い。

 

「ではここで言います。特異点のため、人理のため、不要な行動は控えてください。何故あなたやアインスさんはそう渋るのでしょうか」

「……ああ、そういうことか。それなら確かに渋るな」

「はい、納得した理由を話してください。包み隠さず全て」

「オレかアイツならすぐ終わる、ってだけだ」

 

 オレとアインスの共通点を少し考えるだけでこの戦争をする目的は達成される。だがそれが難しい。

 

「能力ですか?どのような?」

「何でそこまで」

「それが最短ならそうするべきです。はやくソラに和菓子をいただかなくては」

「ソラも大変だな、まぁ……オーバーヘブンだ。気が遠くなるだけの魂のエネルギーを持ってすれば『特異点Fは発生しない』という真実に到達することができる」

 

 ジョジョ第3部……天国へ至ったDIOが得た現実改変能力。他にも現実を捻じ曲げる能力は存在するがここは型月の世界。固有結界という一時的、局所的な現実改変でさえ相当な揺り戻しが発生する。そんな世界で恒久的な改変などしようものなら……

 

「ならしてください」

「ダメだ」

「何故ですか、それが最善です。その世界ならこんな戦争を止めなくてもいいというのに」

「やったらオレが死ぬ」

 

 そんなことをすればオレなんて存在は簡単に死ぬ。

 だがオーバーヘブンなら相応の魂を必要とする『代償』と、それを発動する『条件』が設定されている。ならばまぁギリ、オレの許容かもしれん。

 

「そうですか。ではお願いします」

「ふざけんな。意味無いことさせんな」

「特異点があなたの命で消失するなら十分な意味です」

「ちげーよ、オレは残機で復活できるけど姉さんは1回死ぬんだよ」

「ああ……ループすると。じゃあループしない真実も追加でお願いします」

 

 オレがどうかは知らんが姉さんが死ぬと初日からリスタートするのは確定してる。仮にそんなシステムが組まれてなくても卿が言ってオレ達が認識した以上あのロリコンは嬉々として実行する。そんな手間はやる気が無い。

 

「無理に決まってんだろ。この世界の魂で足りるかどうか」

「別に並行世界も使っていただいて構いませんが」

「お前、たまにオレ以上に倫理死んでるよな」

「人理が優先です。そもそも肉親の死を『ふーん』で片付けるあなた方と同じにしないでください」

「知るかよ、オレの家族はウタネだけだし、姉さんだって元がいるんだ、血縁上の肉親なんて知るかよ。勝手に死ね」

「ソラの前ではくれぐれも……くれぐれもそれを話さぬようお願いします……」

「わってるよ。でもアイツはそういうのに寛容だと思うがな」

 

 ソラ……抑止力は人類が進めばそれでいい。人が死ぬ、というのは自然の摂理であって、人為的なものじゃない。死ぬ命は死ぬ。生きる命は生きる。奴ら抑止力は死なないはずの人間が死ぬのを拒絶するだけで死ぬ奴は死んでいいと思ってる。

 だからこそ……人類の存続のための犠牲には……少しは寛容だと思う。まぁ、勝手に死ね、と言えば殺されるだろうが。

 

「ま、取り敢えずオレと姉さんじゃこの戦争の短期収束は不能ってことだ。めんどくせーがやるしかない」

「いえ、イスカンダルさんの王の軍勢を生贄にすれば足りませんかね」

「バカかテメー。バカだろ」

「なにを」

 

 仮にもカルデアの仲間だろうに、その宝具を生贄にとかコイツ……


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