聖杯戦争で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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第28話

「……おや、アーチャーも連れず……何の御用でしょうか」

 

 シオンの晩酌も終わり、ライダーの足の修復に入った深夜。

 律儀に呼び鈴を鳴らした来訪者に、ヒロインXオルタが対応した。

 

「いくつか話があるわ。シオンはいるわね?」

「居ませんが」

「嘘は無意味よ。なら何故貴女がここに居るのかしら」

「彼らにとって私が居るかどうかなど些細なことです。むしろ私が戦闘より身の安全を優先しなければならないほどに」

「ならシオンがいる時を教えなさい」

「さぁ、分かりません」

「ウタネがいるのかしら」

「いいえ。ウタネさんはしばらくは起きないでしょうね」

「話し合いをする気は無いってことね」

 

 居ない、分からない、知らないの平行線に若干の青筋を見せながら宝石の魔術師は続ける。

 

「話でしたら私が聞きます」

「貴女を通して話ができるのかしら」

「この戦争に限れば判断は私寄りです。ウタネさんもシオンもそれに従うでしょう」

「……そう。なら単刀直入に言うわ。貴女たち、教会への報告を誤解として取り消すからこの戦争から手を引きなさい」

 

 先刻まで殺すとまで言っていた方針の180度反対の提案をする相手に、ヒロインXオルタは大きくため息をついて答えた。

 

「……見損ないましたよ。ええ、恐らく私が予想していたより大幅に。格が知れましたね。どこに居ようと何をしようと、所詮は貴女。度重なる方針転換、目先の利益と自身の欲望にしか焦点の合わない姿は正にシオンの嫌う人間そのもの。決して歴史の勝利者とはなれない。仮初の栄光に酔い娼婦に身を染めるだけの存在です」

「……………………!!!」

「気に障りましたか。まぁ気にしないで下さい。私、バーサーカーなので」

「いいわ……やっぱり殺すわ」

「ええ、そうして下さい。できないでしょうしさせませんが。我々が戦争から抜けることはありません。では」

「このまま帰すって言うの……? 宣戦布告をした直後に?」

「ええ。貴女がそのつもりでも我々はそうではありませんから。全員に生き残って貰わなくてはならないのですよ、人間」

「また人間……やめろって言ったわよね」

「あぁ……そういえばそうでしたね。あまりにも適切な表現だと思いまして」

 

 もはや興味も無いとばかりに言うヒロインXオルタ。

 

「そう……あら? ちょっと失礼」

 

 反論を諦めたのか視線を泳がせていた魔術師が何かを目に留め、ヒロインXオルタの隣を失礼、と玄関へ一歩。

 

「……?」

「こんな靴あったかしら。さっきは見えなかったけど」

「あったと思いますが……?」

「ウタネの?」

「はい」

「ちょっと触っていいかしら」

「まぁ……どうぞ」

「……」

 

 何の変哲もないスニーカーを手に取り、軽く揺らしたりしている様子を非常に冷めた目で見下ろすヒロインXオルタ。

 

「じゃ、お邪魔して悪かったわね。お言葉に甘えて帰らせて貰うわ」

 

 靴をきちんと戻し、帰路に着こうとする魔術師をヒロインXオルタが止める。

 

「貴女は、貴女ですか?」

「……? 何の話?」

「分かりません。ですが貴女にしては挙動がおかしい。いえ、おかしくもありません。その言動は貴女そのもの。ですが貴女が取る言動では無い。シオンを呼びます。貴女の心を少し覗いて貰います」

『はぁ……よく分かったな』

「……」

 

 遠坂凛だった人物の輪郭がボヤけ、中肉中背の男のそれを作り出した。

 そしてその男の輪郭、顔、声に至るまでが正常な認識を阻んでいた。

 

「……なんか、アッサリ正体明かしましたね。しらばっくれればよかったのに」

『……』

「まぁ、大体わかりました。会話と物品、正確な手順までは分かりませんが……それによる相手への擬態。あの人間へは言峰神父を通して手順を実行した、と」

『正解だ。だが俺はただの擬態じゃない。その相手の姿形、性格から癖、記憶までもを自分とすることができる』

「しかも対象を直接見たりする必要すらないため諜報には向く、と」

『理解が早い』

「なるほど便利な魔術ですね。しかし……あの人間の記憶と能力を持ってしまったなら消えてもらいます。貴方はもうこの世界にいてはいけない」

 

 ヒロインXオルタが武装。

 見敵滅殺のオルトリアクターを稼働させ、即座に攻撃に移る。

 

『そうくるよな……だが』

「……!」

『コレならどう……かな?」

「ウタネさん……」

 

 ネクロカリバーは男の……ウタネと同じになったその片手で軽々と止められた。

 

「ダメだよえっちゃん。私達に敵対すること、その意味は分かるでしょ?」

 

 優しく諭す青天井の殺意。どこまでも優しく秘める殺意でさえ、それを完璧に、同じものを再現している。

 流石のヴィランもこれには一瞬血の気が引くが、即座に冷静さを取り戻す。

 

「……では、貴方の敗北です。ウタネさんが許したとて、シオンが許したとて。フタガミウタネがそれを赦すとは思えない」

「正解だね。ヒロインXオルタ。僕と同じ存在は何をどうしても有り得ない。シオンに教えたい能力だが、まぁ、もうどうでもいい」

 

 ヒロインXオルタの推理と同時にネクロカリバーを掴んだ手が緩み、行動が停止する。

 言葉を発しているのは男でもウタネでもシオンでもなく、ウタネの体本来の人格。浅神家や藤村大河の知る本来の双神詩音。

 根源、両儀に次ぐ四象の位置にいる存在であり、その能力はVNAの全てを上回る。

 

「この体は即座に廃棄する。今この瞬間だけは、僕とウタネとシオンが同じ世界にいるわけだ。珍しくね。戦争、もう僕を起こさないように」

「えぇ……もちろんです」

 

 そう言い残し、謎の男の体は消失した。

 

「……ふぅ……」

「おい卿、どうした、敵か?」

「……おや、シオン……ライダーは……」

「んなもん後でいいだろ。なんだ? 誰が来た? バーサーカーか?」

「もっと恐ろしい存在ですよ……双神詩音です」

「悪い冗談もほどほど……でも無さそうだな。その男は……教会か」

「ああ……そうですかね。ですが勝手に心を読まないで下さい」

「許せ、多分もうしない。しかしそこまでの奴がいるのか……割と面倒そうだな。そっちも対策しとくか」

「またそんな簡単に……ルーラーの眼ですら易々と騙してのける魔術です。本物ではなかったのでしょうが、限りなくそれに近い令呪の存在も確認しました。我々の知る魔術師とは話が違います」

「あのなぁ……確かに魔術師は知らんが、オレは世界だ。どこかの世界にあるならオレも使えるんだよ……三段階の擬態術式か。イイモノが見れた。もうその魔術師はこの世界にいないしな」

「……!」

 

 ニィ、と邪悪な笑みを浮かべたシオン。

 シオンの能力、この世界に存在しない能力を使う……ヒロインXオルタの記憶から見た能力は、既にこの世界を離れ……その先にシオンの能力へと繋がった。

 

「流石オレ達が封印指定されている世界だ。この戦争のレベル自体も想定し直す必要がありそうだ」

 

 面倒だ、とため息を吐きながら家の中へ戻っていくシオンを、ヒロインXオルタはただ見つめることしかできなかった。

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