右手を前に。指は開ききったまま。
ふぅ、と息を吐き、人差し指、中指、薬指、小指の順に握り込み、親指で締める。
「シェルブリットォォォォォォォォォォォ!」
自身の右腕と服を分解、右腕に再構築する。
細身の腕が1度分解、分解した服を取り込んで金や赤の装甲を得て再構築される。
「やっぱりコレだろう。コレは割と実績があるしな」
前の世界ではそこそこな火力で安定もした。
何より何故か他の物質をほとんど必要としないのが良い。質量保存を完全に無視したオレの能力の一つだ。原作はかなり周囲を分解してるのにな。オレだから許せ。
「衝撃のぉぉぉぉぉぉ!ファーストブリットぉぉぉぉぉぉぉ!」
構えも無くただ走る。背中の3枚の羽の1枚をブーストとして加速する。
そして問答無用、アーチャー目掛けてただただ殴りつける。
「ぐっ……!っあっ!」
双剣の防御が間に合えど、拳に見合う防御力は無く、双剣を砕いてアーチャーを吹き飛ばす。
「そして!セカンドぉぉぉお!」
次はセイバー。
許せセイバー、これが多分最後だ!
「ぐぅぅぅ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
令呪への抵抗で弱っているセイバーならば簡単なもの。多少は耐えたがアーチャー同様に沈める。
「ラスト!ブリットォォォォォォォォォォォ!」
「宗一郎様!」
「……!」
抹殺!粉砕!正面から!
サーヴァントを圧倒する体術も限界を越える衝撃は許容しきれない。同じく撃沈。
「はーっと……さぁ!次はコイツだ!」
1度能力を解除、拳銃を取り出して再度アルターを発動する。
「コイツは!この光は!オレと!姉さんの、輝きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
拳銃を分解、右腕と共に再構築する。
「シェルブリットォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
オレのこの能力の最終形態。
「さぁ、最後はお前だ!」
「く……こうなれば令呪を……」
「シェルブリッ……待て!」
「セイバー、アーチャー!令呪を持って命じます!この忌むべき敵を」
「待て待て待て!」
キャスターが令呪を掲げ、その使用を行おうとする。
それを止めるために能力を解除、両手を上げて戦闘中止を呼びかける。
「令呪は使うなってんだろ!」
「……」
「もう終わりでいい、令呪を無駄遣いするな。予行演習とか言いながら調子に乗った部分もあるが、お前らの治療もしてやる。終わりだ」
十二の試練が活かされることも無かったな。
万全の頃でさえ劣勢だったのに令呪への抵抗で弱ったセイバー、根本から神秘の足りないマスター、卿に負けた上先の射撃からそう高いランクでは無いだろうアーチャー。キャスターが如何に強大な魔術を扱おうが、数回殺す程度では意味が無い。
「治療、ですって?」
「ああ。だからその手を下ろせ。お前のマスターも治してやる。それが1番いいんだろう」
元より十二の試練を使う気も無く、ただ凛と慎二を回収できれば良いだけだったんだ。戦う理由は何も無いんだよ、最初から。
両手を上げてもまだオレへの警戒をやめないキャスター。戦争最優先の思考だとそうなるか……
「わかった。この能力は『クレイジー・
試しに手頃な石を砕いて元に戻して見せる。
「この能力の範囲は絶命していない生命又は消滅していない物質だ。例外としてオレ自身はどれだけ軽傷であろうと治せない。だが……」
刀で右手首を切断する。
「今のこの身体はウタネのもの。オレが使っていようともオレのものじゃない。だからこうやって治すことができる」
繋がった手を閉じたり開いたりして治ったことを示す。
本来なら姉さんの身体はオレと共有で治せないはずだが2人に分かれて転生したりとオレはオレの身体があるという認識が世界に刷り込まれた。この身体はウタネのものであってオレの身体はこの世界には存在しない。だからこの身体も治すことができる。
「分かったらさっさと令呪仕舞え。あと不意打ちは効かないからやめとけ」
キャスターを素通りしてそれぞれを治療していく。
……少なくともこれで、セイバーの魔力も少しはマシになる。
「じゃあな。もう面倒は起こすな。魔力がいるならオレのとこへ来い。好きなだけくれてやる」
♢♢♢
「……で。何してんだ?卿」
「いえ。ランサーが我々に協力したいと申し出てきたので、夕食をと」
「どこで会った、いつからだ、マスターは?」
「それがですね……」
「まぁまぁお嬢ちゃん。キャスター倒すまでだ。よろしく頼むぜ」
「……」
オーロラカーテンで我が家へ帰宅すると呑気に飯を食う高校生3人と卿、そして全身青タイツの変質者がいた。シロウ何してたんだ。
色々と言いたいことはあるが答えが出てこないのは読み取れた。卿があるとはいえこのメンツ、そして衛宮邸に比べ狭すぎるこの家でオレが戻るまで暴れてないとなると本当に協力するつもりなのだろう。
「協力は分かった。だがせめて殺意は隠せ」
「「「!?」」」
「なんだ、バレてたのか」
隙あらばオレを殺そうとする殺意を消そうともせず、呑気に飯を食うランサー。
「当たり前だ。言っとくがオレを殺す意味は無いぞ。無意味だからやめとけ」
「それはこっちが決めることだ」
「ランサー……私がルーラーと知りながら騙すとは……」
「別に騙しちゃいねーよ。キャスター倒そうってのはマジだ。だがヴィーナスってのは魔術師全員の敵らしいじゃねぇか。マスターからはそう聞いてる」
「敵というのは否定しない。広義に見ればそうなるからな。だが、お前じゃオレを殺せないし、戦争を終えることもできない」
「言葉には少し気ぃつけろよ、嬢ちゃん。これでも英雄の自覚ありなのがオレだぜ」
「ならば言ってやろうか。お前はオレに挑んだ時点で死ぬ。くだらん誇りなど……」
少し迷ったが、売ってしまったものは仕方がないか。
「そこいらの狗にでも喰わせてしまえ」
「──────」
挑発というにはあまりにも感情の無い声。
しかし文面だけでも十分な効果はあるようで、ランサーは口を少し開けて虚空を見る能面のような顔で固まってしまった。
「シオン!貴方という人は!」
「覚悟しろよ、この真名を知っての発言だろ」
卿の非難もどこ吹く風。
ランサーの殺意は青天井に昇っていく。
「真名をサンタn……セタン……クーフーリン。ケルトの大英雄にして魔槍ゲイボルクの使い手。その宝具は相手の心臓を射抜く因果逆転の呪い……そしてその真名解放に要する魔力は他の宝具と比べて少量。通常の戦争ならばマスターからの魔力供給が無くとも勝ち残ることができる」
「よく分かってんじゃねぇか……!表へ出ろ!今日がテメェの命日だ!」
ランサーが瞬時に槍を持ち窓をぶっ壊して外へ出る。
……窓の修理と人避けの結界はオレの能力負荷だ。クソ迷惑だぞ。
それはそれとしてオレも玄関から外へ。外出てから窓直せばよかったな。
「警告はしたぞ。ストレス発散なら壁殴ってろ」
「宝具まで分かってんじゃあな!早速いくぞ!ゲイ……!ボルク!」
射程に入るなり即宝具。心臓を突いた結果から起こる現実は何があっても心臓を貫くという結果だけを残す。
そうそう。殺し合いなんてそれでいいんだ。先に殺した方が生き残るんだからな。
「……」
「……おい、ヴィーナス」
真名を叫んだランサーがかなり深刻な顔と声で呟く。
「シオン……」
「シオン!?」
後を追って出てきた卿と凛もそれぞれの反応をする。
オレの背中に突き抜けた槍から血が流れ、服を汚す。買い直すにしてもまた同じの買うんだろうな姉さんはな……
「なんだよ」
「何普通に食らってんだ。マジで死ぬ気かよ」
「いいや?死ぬ気はないぞ」
「この状況で何言ってやがる」
「確かにオレの心臓はゲイボルクにより刺し貫かれ、呪いを受け、生命活動を止められる」
ゲイボルクの真の恐ろしさは因果逆転の呪いでも何故か爆裂する投擲でもなく、不治の呪いだ。つまりは、ゲイボルクに破壊された心臓は治らん。
「対処法は宝具を受けないことだが、受けてしまった場合ではどうするか。方法はオレが今できる限り4つ。1つ、心臓が治らないのなら、他の心臓を用意する……」
打ち尽くしたカートリッジを投げ捨てるように、槍ごとこの体の心臓を抜く。
姉さんの能力であれば防げたかもしれない槍は先のキャスター戦で解除しているからオレの力でも体内へ手が届いた。
そして……予備の身体から心臓をワープさせ、接続する。そして傷口を塞ぐ……
「これで……その心臓はもうじき死ぬ。だがオレは呪いをそのままに存命することが可能だ」
呪いも通常の攻撃であれば厄介なものだが、宝具はあくまで心臓に命中するもの。強引な解釈だが命中した心臓以外は呪いも弱くなる。そもそも心臓入れ替えて直してるから呪いも何もねぇけどな。
「ふざけやがって……」
「全くシオン……ランサーさんも中へ。対キャスターへの対処法を議論しましょう」
遅れてシロウとワカメも来たが事は既に終わってる。
「ああ……殺さずに無力化する、ってのは苦手なんだがな」
「その必要は無い」
卿が収集をつけようとするが既に遅い。もう終わってるんだからな。
「死人仕掛け。スイッチはその心臓だ」
「な……っ!?」
心臓が停止するとともに血管の一本一本がゲイボルクに絡まりながらランサーへと伸びてその全身から侵入する。
この能力は心臓が停止した際、その加害者全員へ攻撃する。本体のいないスタンド、死後強まる念といった具合の能力だ。
「シオン!何をしているのですか!サーヴァントは殺さないでくださいと言ったでしょう!」
流石の事態に卿が珍しく声を荒くする。
「コレは肉の芽という……本来髪の毛から作り出される洗脳能力だ。脳に食い込めばオレへの絶対的忠誠心を植え付けることができる上、おおよその事では取り除くことができない」
「ぐぁ……クソッ!なんだ……!?どんどん体内へ入ってくるぞ!」
原典の肉の芽がなぜ髪の毛から作り出されるのか、並行世界のオレはこの能力だけをどうやって使っていたのか、そんなことはどうでもいい。
今重要なのはランサーがこのままでは死ぬか、オレに忠誠心を持ってしまうかもしれないってことだ。どちらかと言えば後者の方が最悪だ。
「シオン!能力を解除してください!サーヴァントがこんなことで消えるなんて許しません!」
「この能力の原典が吸血鬼の細胞だ。まぁゾンビだな。そのせいで死んだ後にしか発動しないんだろう、というのがオレの予想だ」
「……?何の話ですか……はぐらかさないでください」
「解除できないんだな、これが。この能力の発動イコールオレの死、というのが確定している。アレはもうオレの能力じゃない」
最悪だ。テーブルクロス引きをしたらあたり一面にワインをぶち撒けたような「やるんじゃなかった」感がある。面白トラップってだけのつもりだったんだがな。
「なら……原典の対処法があるはずです!知らないんですか!?」
「は?もん?波紋疾走だと?」
「何でもいいので早く!」
「したら死ぬ。だから迷ってる」
死後強まる能力だとするならオレより強い波紋がいる。
そして波紋は人体に対しても効力を発揮する。
既に全身に回りつつある肉の芽を全て殺そうと思えばランサーの身体はかなり深刻なダメージを負うことになる。手足に感覚が残れば僥倖、と言ったレベルだ。
「よしランサー。いっぺん死ね。2秒したら生き返らせてやる」
「シオン!」
「ゔ、ヴィー、ナス……貴様……っ」
「ランサー!」
凛が叫び、ランサーは槍を手放すことなく崩れ落ちた。
「シオン……ヴィーナス!やっぱりアナタとは協力できないわ!慎二!やるわよ!」
「シオン……助けてもらってなんだが、流石にやり過ぎだ!この場は俺も遠坂に付く!」
「アマゾン……!」
それぞれがランサーを庇うようにオレと対峙し、戦闘態勢を取る。
「……これは貴方の責任です、シオン。全員生存で解決してください。貴方は世界から嫌われ過ぎです」
「オレは破壊者じゃない……仕方ない。お前らもいっぺん死んどくか」
「私はもう戻りますよ。終わったらお菓子出してください」
オレはソラじゃない……虚無から菓子は出せん。