「名門の魔術師、百戦錬磨のアマゾンキラー。並ぶには少し気が引けるんじゃないか?シロウ」
「うるさい!俺には強化がある!この力だけでも……戦い抜いてみせる!」
「そこでだ、ここでオレに全面的に協力すると誓ってくれるのなら、お前たちに全てを超える力を与えることをルーラーのマスターとして約束しよう!」
「「「はぁ……?」」」
素晴らしい提案をしたはずなのに何故……
「断る!言ったはずだ!俺は正義の味方になると!お前とは組めない!」
はぁ……面倒過ぎる。
「では我が救世主!このウォッチを受け取り給え。それが君の未来になるだろう!」
面倒なので、さっさとプライムを渡してしまおう。
正義の味方、救世主……いずれも本質は同じ、かつ元となる人物像もおおよそ似た様なものだ。いうなれば魂の形、それは似たようなもの……
「……なんだ、これ」
「ブランクのままとは……嘆かわしい。もういい」
投げ渡したウォッチは何の反応も見せず、何の色を示すことも無い。
やはりまだ、この時点でシロウにプライムは重過ぎる。クソワカメみたいな奴ならばワンチャンの賭けで軽く渡してやれるが……そうではないからな、コイツはな。
「……ザ・ワールド・オーバーヘブン」
「「「……!?」」」
『オレがランサーの側にいる』という真実を上書きし、3人の側を通ることすらなくランサーの側に移動する。
「戦うだけ無駄だ。何度も言わせるなよ……何度も言わせるってのは無駄なんだ……無駄無駄、無駄無駄無駄無駄……」
『ランサーはオレと戦うも無傷で生きていたた』という真実を上書きする。
もうこの場での進展は望めない。さっさと切り上げてキャスターへ備えるのが優先だ。
「ん……あ……?」
「よう、気がついたか。肉の芽の感触はどうだった」
「……最悪だ。だが……どうやら約束は守ったみたいだな」
「守れてはいない。数分とは言わないが、2秒以上かかってしまった」
肉の芽に与えられたダメージ、消耗した魔力も全てが回復したランサーが目を覚ます。
「おら、何ボーッとしてんだ。中入れ。キャスター対策を練るんだろ」
「「「…………」」」
「まてシオン!コレはどうするんだ!?」
「あ?持っとけよ。あって損は無いだろ」
どーせ色の無いウォッチなんぞガラクタに過ぎん。どーでもいい。
装着したら死ぬベルトでもあるまいしな……
「そうだシロウ。お前、後でオレとちょっと遊べな」
「……は?」
♢♢♢
キャスターへの対策はオレの能力と卿のセンサー、ランサーの生存力を基本として、セイバー、アーチャーをシロウと凛に、キャスターとそのマスターを戦闘不能まで追い込みオレが拘束しながら保護する、という形に収まった。アサシンは卿によればあの門から動けず、バーサーカーも標的にしなかったことから放っておいても生存するだろうとの事だ。
「……で、何だよ」
今は衛宮邸。オレとシロウだけが訓練にと移動した。する気ねぇけど。
ライダーと他の奴らの面会は拒絶した。反旗を翻した場合にはランサー達の相手は最悪卿がする。
「何だも何も……お前がこの戦争で戦おうってんだ。お前にはまずこの戦争で最も必要な反射を覚えてもらう必要がある」
「反射だって?」
「ああ。反射……脊髄反射だ。お前にはそれが絶対的に足りない」
「……?反射って体に備わった機能みたいなもんで、覚えるも何も無いだろ?」
「例えばだ。オレやお前は近くで突然火が上がれば瞬時に身を引くだろう。それは何故か?答えは単純、火は危ないからだ」
「ああ……当然だな」
「だが、火が危ないことを知らない……高熱が自身に及ぼす危険を理解していない赤ん坊はその火へ手を伸ばす。何故か?」
「……好奇心、か?」
「そうだ。火というもの、高熱を発するものに触れたことがない場合はそれがどのようなものかを知るために触れる。その結果として痛み、火傷、酷ければ死ぬ。それが学びとなり、以後それを見れば引くという反射に繋がる」
「なるほど……」
「お前らだってそうだろう。知らないものがあればまず見るだろう。知らないものが目の前にあって、即座に目を逸らすことなどしない……できないはずだ。まずそれが何か、最低限の概要は理解できるまで視認するはずだ」
突然目の前に肉と魚と野菜でできたモンブランです、とソフトボール大のモンブランにしか見えないソレが出てくれば凝視するしかないだろう。オレは未だに理解も解明もできてないが。
「そこでだ、この戦争でお前が最優先に反射するべき項目とは何か?」
「そりゃあ……生き残ることだろ」
「そうだ。それを意識レベルより深く落とし込む必要がある」
「……?」
「簡単に言えば今この状況がそうだ。言うなればお前は好奇心に敗北している。最大限生き延びる手段を見つけようとするのが好奇心とするのなら、お前は生き延びようとすらしていない……オレにもし殺意があれば、他の奴らとは離れたこの場に移動すること自体、考え無しのバカとしか言いようが無い」
「でもお前はそうしようとはしないだろ?」
「……」
そりゃあ、無いのは無いのだが、そうストレートに言うことじゃない……まぁいい。
「とりあえず、だ。お前がこの戦争で生き残る手段を教えられるのは今はオレだけだってことを認識しろ」
「何でだよ、セイバーから剣術の訓練も受けてるし、遠坂からも少しだが戦争のことや魔術について聞いた。これから慎二も含めて深く聞いていくつもりだ。お前だけに頼るわけじゃない」
「……お前、自分が圧倒的弱者だってこと、忘れてないか?」
「忘れるわけないだろ!この戦争で1番弱いのは間違いなく俺だ!」
「ならなんで、魔術師の最上位クラスや最優のサーヴァントの指南を受けている気でいる?」
「なんで、の意味がわからない」
「アイツらが知ってる戦い方ってのは、どうやって勝つか、なんだよ」
「……?」
「そしてお前やオレが必要とする戦い方ってのは、どうやって生き延びるか、なんだ」
「俺やお前だって……?」
「オレも本来なら無力なものだ。そこらの中学生に劣る腕力、そこいらのコマにも劣る持久力、そこいらの飴細工にも劣る耐久力。勝つための要素など何一つ持ち合わせていないこの身体。生き延びていく為に生まれたのがオレだ。だからこそ……オレは生存という一点においてはVNAの中でも頭抜けている」
やれ生命の意味を見つけるだの人理を護るだの夢だの娘だのなんてのはどうでもいい。永遠なんてのは自分がいなけりゃ永遠じゃねぇ。例えその先がどれだけ苦しかろうが……自分が無けりゃ意味がねぇ。
「でもお前は、その能力は、この戦争でも圧倒的な力を持ってる!それが弱者だと!?」
「永遠を……お前ら人間からすれば果てしなく長い何月を過ごすオレ達にとって、遥か未来の危険は明日の死に等しい。人間は死ねばそれまでの問題から逃げられるが、オレ達はどこまでいってもその問題が付き纏う。だからこそ、今オレがこの戦争で全力を振るうこともない」
「……」
「何だ?疑問質問は口にしろ。それらは黙っても解決しないし無い方がいい。気を使われるとムカつく」
「……素直に言わせてもらうと、だ……」
「ああ」
「何を言ってるのかわからない」
「……」
まぁ……オレもあんまりわかってねぇしな……この戦争……
「んでな、とりあえず。オレの能力について、少し掘り下げてやる」
「……?大体は分かってるぞ?」
「いや、その先だ。能力を使えば使うほど、オレの存在概念に対して負荷がかかっていく。これは自然治癒にもかなりの時間を要し、医療や治癒魔術等は対象にならない」
「能力の使用に限界があるってことか?」
「ああ、だが、オレはこれを克服した」
「どうやって……そうか、自然治癒力を強化する能力を使えば……」
「……ああ、そういう手段もあるか。今度試してみよう。オレが克服した方法はもっと直接的なものだ」
能力を選択し、手のひらをシロウに見せる。
「なんだ……?その手」
「ニキュニキュの実という、モノを弾く能力だ。この肉球ならば人や物はもちろん、空気を弾いて空気砲の様な使い方もできる。何よりオレにとって有用なのは……」
肉球で自分の腹を弾く。
けれど体はそのまま、背中から何かが飛び出す。
「これだ」
「何だよそれ」
「オレの体に蓄積された疲労、ダメージ、能力による負荷。それをオレの体から弾き出した。さっきのランサーとお前らだけでも相当な負荷だったからな……思ったよりデカかった」
肉球の形に弾かれたそれは大の大人が中に入れる程には大きなものだった。やはり現実改変能力は負荷が大きい。比較的軽いオーバーヘブンでこれだ。
「で、何が言いたいんだよ。ただ回復できるってだけか?」
「いいや。この能力は攻撃にこそ真価を発揮する。こうやって自分のダメージを弾き出し、こうして相手に向けて弾けば……」
塊からピンポン球ほどの大きさを弾き、シロウへ飛ばす。
それはシロウの胸へ染み込むように入っていった。
「をぐ……ぅ!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
シロウの体が一拍置いて大きく跳ね、のたうち回るように苦しみ始めた。
「それが能力の負荷だ。打撃とも斬撃とも刺突とも振動とも、電撃火炎氷結とも違う存在へのダメージ。そんなものが能力を使うたびに襲ってくる。オレも初めは気絶さえしたものだ」
自分の体を初めて持ったあの時、自分の体に実感の無いまま……言うなら酒に酔ったような状態でさえ明確に負荷の存在が知れた。
生まれた時から自分の体を認識してる奴らにはより酷いものだろうな。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「な。昨晩からのオレの立ち回りってのはそれだけの負荷がかかってるんだ。その一握りにそれだけ苦しむお前が、勝つ前提の戦いをしてるセイバー達から学べることなんてねぇんだよ……オーバーヘブン」
「ぁぁぁぁ……あ」
シロウへの能力を取り消す為にまたも負荷を被る。
「まったく……」
「……なんだか、2回は死んだ気がするぞ」
「大袈裟だ。まぁお前もいずれは戦えるようになる。だが今は生存だけを考えて動け。1人になるな、前に出るな、隙を見せるな。お前の命はシャボン玉より儚いと刻め」
「言い過ぎだろ……」
「ロクな魔術も使えず剣術もオレに劣る。そんな奴が何を言う」
「う……」
「なぁシロウ。お前、死にたくないって思ったことあるか?」
「そりゃあ……常々思ってるよ」
「なら……生きたい、って思ったことは?」
「……?同じじゃないのか?」
「意味はな。だが前提が大きく違う。それが分かるまでお前は戦うな。時間取らせて悪かったな。もういいぞ」
「はぁ?特訓するんじゃないのかよ?」
「するわけねぇだろ。オレは人に教えるのが面倒なんだ」
オレは、死にたくない。