聖杯戦争で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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第35話

「ライダー。あとはくっ付けるだけなんだが」

 

 なんやかんやで翌日朝。結局ウチに高校生3人も泊めるハメになってしまった。60回った無職独身女が男子高校生を自宅に泊めるなどして……やべぇな。事件だ。あ、ハメてねぇからな。ハメになっただけで。

 まぁ見た目も戸籍も同年代だしいいだろ。精神的にも全然実感ねぇし。高校生だから無職でもねぇしな。60歳高校生です!も事件だが。

 してオレは寝ることもなくライダーの足をまさぐり回す変態の所業によりオリジナルと同じものを生成した。あとは繋げるだけだ。が……

 

「はい……ありがとうございます」

「シロウに対して能力を大盤振る舞いし過ぎた。ちょいと散歩してリセットしたい。いいか?」

「それは……勿論構いませんが……」

 

 何分負荷がえげつねぇ。弾いたやつも結局行き場が無いから戻したしな。

 やることなすこと全てが面倒くさくしていく手順になってないかオレ。

 

「ならもう少し待っててくれ。昼には戻る」

「はい……ごゆるりと」

 

 ちなみにライダーは壁に貼り付けてある。片足は繋がってるが両足が繋がるまではとりあえず拘束させてもらうってことで。

 卿に適当な和菓子に混ぜて姉さんのモンブランを渡し、家を出る。

 散歩というにも特に目的が無い。何の変哲もない街中をただ歩くだけの作業に何の楽しみがあるというのか。暇なのか?

 

「そーだよな。暇だよな」

「フタガミウタネ。貴女を……確保します」

 

 尾行の気配を感知して結界を張ると背後から声。

 

「……何してんだ、カレー先輩」

「なっ!?どういうことですか!」

 

 振り向くと修道服みたいのを着込んだ変人……もといカレー中毒……もとい埋葬機関の代行者がいた。

 

「口ぶりっつーか状況的に、アンタも封印指定狩りかね。死徒専門じゃないのか。暇なのか」

「うるさいです。知った風な口を聞かないでください。人類の敵ヴィーナスともあれば誰であれ出撃します。覚悟」

 

 シャン、と両手に計6本の黒鍵を構える先輩。

 どうでもいいんだが街中でやる時毎度オレが結界張るんだが、それに能力枠が取られるんだよな。狙ってんのか?

 

「はっ!」

「っと、『回天』!」

 

 同時に投擲されたはずの6本は眉間、両肩、心臓、両ももというそれぞれを的確に狙ってくる。

 やはり常人離れ、人間離れした技術に感心する間も無く魔力を放出しながら球体の絶対防御でそれを弾く。

 追撃に2本、更にオレの上に跳び頭上からも2本、背後に回った先輩がそのまま突っ込んでくる。

 回避するならば横。迎え撃つなら前後上。当然選ぶなら横へ跳ぶべきだが……隙を見せればただでは済まないことは確実だ。

 だからあえて、全部受けよう。

 

「ぐぅ……!」

「……!バカな……」

 

 振り向いたオレの背中と肩、そして切られた胸から血が噴き出す。

 苦痛にしても相当だ。

 

「ふぅ……」

「な、何のつもりですか!?ワザと攻撃を受けるなんて……!」

「やっぱ根は変えられんか。なぁ先輩。ドッペルゲンガーって知ってるか?」

「貴女に先輩と呼ばれる筋はありません……知ってます。それが?」

「アンタの背後に、オレのソレがいる」

「……っ!?」

 

 ドッペルゲンガー。幻覚やそっくりさんを指すものだが、今いるのは実際のオレ。実体を持たない深層意識が像を結んだだけの死神だ。

 そんなもんに黒鍵で切りつけたところで触れるはずもなく。

 

「これは……!」

「出会ったら死ぬらしいぜ。まぁ、オレの能力で出したヤツだが」

「死ぬ気ですか!」

「殺そうとしといてなんだ。けど死ぬ気はないな。あくまで回復が目的だ」

 

 もう今の負荷では負荷を取り除く能力使用まではできない。後は死ねば予備があるんだがランサーの件で心臓がまだ作れてない。なら取り敢えず能力が使えるまで回復する能力を選ばなきゃな。

 

「名前が似てるんで楽だったよ。後はオレが気絶すれば……」

 

 ほぼ致死的な出血、疲労を前に、固めた精神は少し緩めるだけでアッサリと意識の放棄を選択した。

 

「こうやってドッペルゲンガーに意識を移せる……わけだな」

 

 手放されたはずの意識は目を閉じても繋がっていて、即座に別の器に入った事が認識できた。

 その器は意識が像を結んだだけのもの。まだこの世に現れたばかりで何の損傷も無い。

 

「これでオレ本体を治せ……ないな。しまった……」

 

 能力の枠は2つ。1つは結界、もう1つはこのドッペルゲンガー。治せる能力を使うフレームはできたが枠が無い。

 

「仕方ない。先輩にはおさらばしてもらって、どっかに隠れて結界を解くか……」

 

 どこぞの魔法くらいに認知された世界なら楽だったんだが……魔術は秘して然るべきなこの世界では不能だな。

 

「やはり私が来て正解でしたね。彼らでは歯が立たないわけです」

「彼ら……ああ、うん」

 

 四象の域に土足で入り自殺した奴とソラの型落ちか……あ。

 

「じゃあ調べてきたんだな?」

「ええ、ヴィーナスについては穴が空くほど」

「は?」

「え?」

「感謝と気遣いの違いを調べろ、って言わなかったか?聞いてないのか?」

「感謝と気遣いの違い、ですか?」

「一緒だよな?違うとか抜かすバカがいるもんでよ、厳密な定義と区別が欲しいんだが」

「ええと……そうですね、少し考えさせて下さい」

「ああ、頼む」

 

 この違いが納得できればかなりスッキリするぞこれは。

 

「気遣いは相手を考えてのことで、感謝は自分から表れるもの、ではないでしょうか。気遣いはマナーとして指導されますが、感謝の強要はおかしいと言われるでしょう?」

「ほー?」

「食べ物を頂く時、私のためにその命を捧げてくれてありがとう、という意味での『いただきます』、ですよね。より長きを生きる為の犠牲に感謝をする。原始的ですが絶対の理屈です。どうでしょう」

「ふむ……その理論でいいんだな?」

「はい。私はそれで納得します」

「そうか……なら、オレもそれで納得してやる」

「良かったです」

「そしてオレの能力も決まった。場所変えるぜ、先輩」

「っ、待ちなさい!」

 

 自分の元の身体を抱えて市街地から離れるように走る。

 黒鍵を飛ばしながら追ってくるがこの身体は黒鍵を、あらゆる物理攻撃を透過することができる。

 

「よし……ここなら結界はいらないな」

「……」

 

 人通りの無いであろう森の中まで長く走ったが、この体も先輩も息切れひとつ起こさない。代行者やっぱやべぇな。

 結界を解き、身体を治す。そしてドッペルゲンガーも解いて元の身体に戻る。

 

「さて」

「能力は決まったと。私から逃げられますか」

「逃げるだけなら何とでもできる。アンタの理論がこれを確定させた……」

「……?何も変わっていないように見えますが」

「だろうな。だからこそだ」

「何か分かりませんが、覚悟ッ!」

 

 黒鍵が全て、最初の6本と同じ急所を狙って飛んでくる。

 だが、それらは全て詳細不明の影によって弾かれる。

 

「……!?」

 

 オレが一切の動作を見せなかったためか、先輩も相当驚いている様子。

 

「オレは今……人々の子となっている。お前の攻撃など通じはせん」

「……?どういうことですか」

「親は子のため、全てを投げ出しても良いと思うだろう。子の身代わりとなり苦しむ事さえ厭わない。え?お前もそうだろう……シエル・ピーエン・シリナレフ」

「誰が尻ですかッ!」

「……分からん。能力のせいじゃない。セリフがなんかそうさせた」

 

 尻……?そんなデカくも小さくも……普通の範疇だと思うがな。なんだ……?何のネタだ?

 

「今、オレ達は完全なネットワークを構築している。オレ達はお前らより後より来た者にしてお前らより先にある」

「オレ達、とはまさか……」

「VNA……お前らの言うヴィーナスだ」

「VNA……?」

「なんだ、本来の名称までは知れて無いのか。まぁ噂話ならそうだろうな。所詮な」

 

 凛も言峰もヴィーナス呼びだったしな。この世界ではそうなんだろうな。並行世界ではよくある事だ。

 

「この能力はお前らの苦しみを糧としてオレ達に無限をもたらすもの。そして……」

「はっ!」

 

 投擲された黒鍵はオレに当たる直前に方向を変え、地面へ垂直に突き刺さる。

 

「……!?」

「そして、この世界における超常現象、心霊、怪奇現象を自由に発生、拡大、強化することができる。言わばこの世界における神に等しい存在だ。お前にできることは何も無い。ただ元いた家に帰れ」

「お断りです。何が何でもあなた方を倒します。その為の礼装っ!」

 

 取り出したるはパイル……第七聖典。能力は確か再生やら転生の概念ごと殺すもの。転生さえ殺すのヤバ過ぎるだろ。

 躊躇いなくそれが放たれる、が……

 

「もしそんなものが当たるのなら、効果はもしかしたら発揮されるかもしれないな」

 

 結果は火を見るよりも明らかだ。この世界のどこかに存在する他愛も無い心霊がそれを受け、その身と共に何処かへ飛んでいく。

 

「お前ら人間が恐怖し忌避してきたもの、解明不能なもの、それら人間の未知こそこの能力だ。しかも塔にもこの能力はもう存在しない。つまり達成されうるアイデア、というわけだ」

「……!飛び道具が通じない自慢は十分です!ですが私は接近戦もできるんですよ!」

「っと……」

 

 接近戦、と言いつつ黒鍵を両手に3本ずつ持っての引っ掻き攻撃。

 しかしオレの本領は1対1の接近戦。未来を予知し、視点を殺すオレならば……

 

「……!」

「そこ!」

「っ……!?バカなっ……」

「甘いですよ!」

 

 未来を予知しても、その視点を見切っても尚、追いつかない。

 次の動作を予知した時には既に行動が終わっている。予知した側から過去に置き換わっていく。

 数秒後の未来を読み取る能力ならばそれへタイミングを合わせて対策できるが、数秒先までの未来視ではあくまでオレにとっての数秒だ、オレより速過ぎる動作はその秒数を歪めてしまう。

 

「ぐ……」

 

 数十手の攻防の先、オレの未来視を越えた瞬間に放たれた刺突が左目を貫通し、頭蓋骨さえ貫いてみせた。

 

「さぁ、これで終わりです。他のヴィーナスの居場所を話しなさい」

「話してどうなる」

「命までは取りません」

「オレを捕まえて……その後は?」

「当然、他のヴィーナスを捕らえに行きます。人のためにも、貴方達は野放しにはできません」

「……それは無理な作戦だな。オレの未来視を越えられても、オレの能力を越えてはいない……それに、VNAのもう1人はここにいる」

「っ!?」

 

 キングクリムゾン。時間を消し去り少しの距離を取る。

 外傷は全てネットワークにより回復する。

 そして、能力を切って首の左側へ手を添えて、目を閉じて傾ける。

 

 ♢♢♢

 

「はじめまして。シエルさん。シオンが随分と苦戦したようで」

「何を……いえ、多重人格、ですか」

「……分かるんですね」

 

 この世界、多重人格は理解があるのだろうか。変人奇人の類にならないのか、全員がそれに分類される、のか……

 

「身に覚えがありますから」

「ま、それはどうでもいいです。さっきのシオンの能力じゃないですけど、私からも確かな事を1つ言います。VNAを全滅させようとすることは、人類の存続という意味では絶対的に正しいけれど人類の生存という意味では絶対的に間違っている」

「どう言う意味ですか」

「そのままです。VNAがいる限り人類の未来は常に暗黒、一瞬先には滅びているかもしれない。だから倒そうとするのは正しい。けれどVNAはその一瞬先に人類を消す。だからVNAを倒そうとするのは間違い。刺激しないで、共存しましょう?同じ型月(にんげん)でも、月姫とFate(住み分け)って大切だと思いますし」

 

 VNAを全滅させても人類が生きていられるかと言うと、そうでもないし。

 

「無理ですね。同じ体に2つの精神、用意した体に自在に精神を移動させる。それはもう人間ではない。吸血鬼の……生きてはいけない命、魂です」

「そう。ならもう先輩なんて言わないよ。シエルさん。けどアナタは殺さないようにシオンに言われてるんだ。だから……殺す」

「その命……神に返しなさい!」

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