《R・E・A・D・Y》
「……ッ!?」
「へんしんッ!」
ベルトと謎の装備品を手の平に当てて構え、ベルトへ挿入するシエルさん。
「『うっそぉ!?』」
「うぇ!?なんかスゴイ声出た!」
私の声と一緒にシオンの声も出てきた。これは初めての経験かも。
《フィ・ス・ト・オ・ン》
したらば既に変身完了。もはや元の面影は無くなってしまった。
《ラ・イ・ジ・ン・グ》
更に謎の電子音。
「その命……神に返しなさい!」
「さっき聞きました!てっ……と!」
「はっ!」
正面から走っての純粋な正拳、ただそれだけの動作の何と速いこと。
私の唯一の長所である直感の反射と魔力放出が無ければ死んでた……しかも私を殴り終わってからかけ声聞こえるし……速すぎる。
「そしてやっぱり力が強い!」
「ボタンをよこしなさい!」
「何故に!?」
魔力放出で追撃の拳を相殺したけど骨砕けた。右手はシオンの利き手……回復にと今変わるのは流石に厳しそう。
即座にシオンの刀で折れた箇所を切り開いて能力を届かせる。骨を無理矢理元の形に押し込んで切れてたり切った血管も繋いで、最後に傷口を塞げばほぼ回復。何一つ治ってないけども。
そして私の服はほぼジャージみたいなのだからボタンなんてないんだけれども。散歩中だっての。
「くっそ、しかも硬い!」
ある程度何でも切れるくらいには切れ味の良いシオンの刀が通らない。刃こぼれしたら怒られるかも。
しかも右手の手首から先は能力で無理矢理動かしてるだけで神経は機能してない。だから反射の速度からどうしても遅れてしまう。
「……っ」
「はぁっ!」
「あ……」
謎の剣に左腕を肘から切断される。
思った以上、想定内の戦力……!
「けどこのくらい、私でも何て事はない」
切断された腕を落下する前に能力でキャッチ、即座に元の位置へ戻して右手と同じように修復する。これで左手の反射も死んだ。後は両足をメインに腕をカバーに回しながら……
「せえっ!の!」
「っ!甘いですよ!」
「WRYYYYY!」
右足の首への蹴りは左腕に防がれた。
けれども魔力放出を最大まで解放、若干の負傷とともに押し切る事ができた。
「ふぅ……やっと一撃か。やっぱり私は戦闘に向いてないや」
「ならさっさとさっきの人格へ変わればどうですか?」
「そうはしないよ。シオンだと貴女を殺してしまう。シオンはアナタに死んでほしくないみたい。だから、私」
「どういう意味ですか……?」
「さぁね。とりあえず続き、やろうか!」
♢♢♢
「なぁルーラー。この家、オレとお前以外にもサーヴァントいるだろ」
「おや、鼻が効くんですね」
「流石にこんなチンケな家くらいは分かる。誰だ」
「何を警戒しているのか知りませんが……ライダーですよ。今戦闘不能なのでシオンの能力に空きができるまで拘束させていただいてます」
「そりゃあ知らないサーヴァントを隠してるんだ、不意打ちくらい警戒するだろ。戦闘不能なら殺せばいいんじゃねぇのか」
「ですから。全員生存が目的で干渉しているのです。殺してはいけないのです……と、私は何度同じ事を言わなければならないのでしょうか。まさか出番のたびに言わなければならないのでしょうか」
双神家のリビングのソファを占領し寝転びながら和菓子を貪るルーラーが壁際にもたれかかるランサーにため息を吐く。
「そこなんだよ、オレが聞きたいのは。何だってお前らは戦争を止めようとする?自分たちが聖杯を欲するなら分かる。戦争自体をぶっ壊すってのも、まぁまだ分かる。だが戦争を始めた上で終わらせないように、なんてのは理解不能だ。だったら始まらない内に取れる手段があったはずだ」
戦争を止めようとするのなら、そもそも戦争開始前にマスターを拘束するなどの手段はいくらでも取れる。なのに何故それをせず開催を待ってから行動し始めたのか、ランサーとそのマスターは疑問のようだ。
「ふむ。そういうものですか。まぁ……何故、の部分は答えることができませんが……それぞれの解答なら可能です。私たちは聖杯を求めてはいません。戦争は破綻してはいけません。同様に戦争は開催されなければなりません」
「……ルーラー。オレが悪いのか?開催されるって事は終結があるってことじゃねぇのか?」
「ええ。頭は良くないでしょうね。でもいつかは終わりますよ。例えば、人類が滅びる直前、とか」
「オレは割と頭キレる方だと思うんだがな」
「今の私の話で思い当たるところが無いのなら私たちの方針にも思い当たらないということです。大人しく私たちに従ってください」
「……ルーラー。今オレがお前に殺意を向ければどうする?」
壁にもたれた背を放し、槍を手にするランサー。
「お好きにどうぞ。とは言いづらいですね。サーヴァント同士の勝負はどちらかが消えるしかない。私としては不本意です」
ルーラーはそれを一瞥すると、興味が無いとばかりに和菓子に視線を戻す。
「テメェらがいなけりゃライダー引っ張りだしてキャスターだってぶっ潰せる。何も問題ねぇな」
「やめた方がいいですよ……LV70のランサーがLV100のルーラーにケンカを売るなど……私は特権で即死しませんし……3回ではエクストラアタックでダメージは普通に通りますよ」
「レベル?エクストラアタック?ナニイテンダ?」
ルーラー、ヒロインXオルタの基準は常にFGOにあり、その中でのルールが適応される。そうなれば即死無効のルーラーに即死頼みのランサーが挑むという無茶な戦闘が起こることになる。
「ああ、すみません。混乱させてしまいましたか。まぁどうあがいてもこの戦争のサーヴァントでは私には勝てない、ということです」
「今のキャスター陣営でもか?」
「まぁ、所詮は星4以下の集まり、烏合の衆ですし」
「何かムカつくんだが……ならなんでこんなマネをする?お前さんでキャスターのしちまえば済む話じゃねぇか」
「先程言いましたよね。サーヴァント同士の戦いはどちらかが死ぬ。ですから私が戦うわけにはいかないのです」
「それで白羽の矢が立ったのがあのお嬢ちゃんか」
「ええ。私でもシオンでもなく、ウタネさんでなければならない」
「けど1番戦えないんだろ?セイバーのマスターと同等くらいらしいじゃねぇか」
「そうですね。それがいい、とは言いませんが……そのくらいが限度でしょうね」
「限度だ?」
「えぇ。それ以上になると私たちと変わりませんから」
「……?」
♢♢♢
「う……?く……!」
「もう終わりだよ。シエルさん……」
全身を痙攣させ、何が起きているのか理解できていない様子の代行者を見下ろし、自分のボロボロになった体を能力で無理矢理保つ。
既に5分を経過した。私と戦い続けるなら、もう2分前に諦めて逃げるべきだった。けれど強いからこそ彼女は戦い続けてしまった。
「な……に……」
「何を……?私と戦うっていうのはこういうことだよ。もう貴女は戦えない。もう黒鍵は握れない。もう拳を握れない。もう蹴れない。もう魔術も使えない。もう……変身も、できない」
私という、圧倒的に劣る相手を前にして5分も戦い続けること、それは自身の精神を大きく病んでいく。パワーでなら、スピードでなら、テクニックでなら、魔術でなら、実戦でなら、私に勝てると心の底では確信している。なのに私を倒せない。この私の脆弱過ぎる体を壊すのに片手があれば十分なはずなのに、それが成せない。それが自身の無力感に繋がり、最後にはその行為……戦闘行動の忌避に繋がる。それが私のイップス。
……と思っていたのが私の勘違いで、VNAの面々からは私の対戦相手への抑止力だそうだ。私が全力を、能力を全開にすれば世界は終わる。そして私の能力が世界を支配するものだから私自身を抑えることは不可能、ならば相手を縛り上げて私を本気にしないように、という抑止力だそうだ。
そんなことしなくても……とは思うけどこれに助けられたことも1度や2度じゃない。利用できるならするべきだろう。例えそれが、この戦争に関係する全てを戦闘不能にすることでも……
「もう、私達どころか、その辺の中学生すら倒せない。貴女はもう……貴女の全てを……失った。代行者に処理される前に……私達で保護してあげる……」