聖杯戦争で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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第37話

「おかえりなさいウタネさん……誰ですか。ウタネさん、まさか拉致誘拐にまで手を出すとは……」

「待って!?」

「ほー?お嬢ちゃんも中々やるなぁ」

「違う!分かって言ってるよね!?あと貴方誰!?」

「当たり前です。で、どちら様で?」

 

 えっちゃん顔変わらないから怖いんだけど……あと誰だこの青いの。

 

「この世界での私の最初の被害者だよ。シエル、って言うらしいよ」

「たしか……カレーでしたか。何とも面倒な人を……」

「そうなの?まぁ、もういいけどね。これからは闘争心にさえ恐怖する、実に平和で温厚な人間になるよ」

「戦闘行動のみ不能になるものと思っていましたが……そこまで恐ろしいものだとは……」

「私とマトモに5分以上やりあったの、この人が初めてだしね。いやぁ、流石というか何というか……私が死なずに戦うだけでコレなんだもん。人間って大変だなって」

 

 未遂は何人もいるけど完全にこうなったのは初めてだ。戦闘ができないどころか戦意すら持てなくなるってかなり致命だと思うんだけど私だけ?

 

「……ウタネさんも人間なの忘れてませんか」

「……え?」

「え、ではありませんが……」

「私まだ人間なの?」

「いや、まぁ……種族で言うなら?」

「ああうん……」

 

 何度も死んで転生して……ヒトの世界を侵食して生きていく。それはやっぱりシエルさんの言う吸血鬼に近い生き方なんだろう。

 私が望んだわけじゃない、けれど私が求めていた道だ。

 

「う……ううん……」

「んあ、起きたかな」

「ウタネさん、とりあえずこちらへ寝かせてください」

「はーい」

 

 えっちゃんが寝ていたソファを何とも素直に開け渡す。珍しい。

 

「……え?ウタネさんが、人を担ぐ……?待って下さい、貴女、本当にウタネさんですか?」

「え?なんで……?」

「小学生に力で負け、バランスボールに吹き飛ばされ、台風の風に飛ばされるとまで言われたウタネさんが人を担いで動けるなどとはとても思えません。現在の私の情報の中では貴女は100%ニセモノです」

「ならやっていいのか?ルーラー。みすみす敵を侵入させたんだ、コイツは殺していいな?」

「ホンモノ……って証明するにはどうすればいい?」

「そうですね……ではシオンの能力を使って私の心を読み、その全てをこの場に出してください」

「ん……シオン、聞こえてた?」

 

 出していいのか、って何?私が死なずに家壊れないならいいよ。

 

「右手を前に……?で握る?こう?」

 

 物質具現化系の能力の動作なのか、謎行動をすると……大量の和菓子が湧いて出た。

 

「ああ……出すべきじゃなかったね。これはね」

「おお……!ありがとうございます、少し物足りなかったもので」

「ってなんだそりゃ!結局本物なのかよ!?」

「当たり前でしょう。仮にも私のマスターです。令呪の繋がりは分かりますよ」

「あ……そっか。それがあった」

「じゃあ何か、和菓子せびる為だけに主を疑ってみたってか」

「まぁそうですね。素直に出して貰えないので」

「……なぁお嬢ちゃん、今からでもオレと契約する気ねぇか?絶対今より良い契約になるぜ?」

「んー、私サーヴァントと契約する気無いからいいや。協力してくれるなら使い潰すけども」

「そいつと契約してんじゃねぇか」

「私が喚んだんじゃないもん。勝手に強制契約されただけだし。貧乏くじどころか死神だよ」

「失礼な。あのプレシアさんですら出張っているというのにあなた方だけが逃れられると思わないでください」

 

 プレシア……ホントに戦争する気あったんだ。てっきり無理矢理やらされてるものとばかり……

 

「どーせ私みたいに縛り無しで皆殺ししてるんでしょ。楽なもんだよ」

「全員同じ条件です……アインスさんはかなり順調に進みそうですよね。貴女達と違って」

「まぁアインスだしねぇ。1番人柄良いでしょ」

「ですね。ではウタネさん」

「ん」

「後2時間すればキャスターへ強襲をかけます。それまで寝てて下さい」

「みゅ……なんか私のマネージャーみたいね」

「その為にわざわざ来ましたので。1番信用無いですよ、ウタネさん」

「……おやすみ」

 

 分かってはいたけども。シオンいるからいいじゃんさぁ。

 

 ♢♢♢

 

『いいですか、まずランサーが正面にいる見張りのアーチャーを引きつけます。その間に私と衛宮さん、人間、アマゾンが隠し通路から潜入し、私がセイバー、衛宮さんとアマゾンで葛木、人間が何やらキャスターを無力化できる奥の手があるそうなのでそれ。です。何かあれば』

『この前のボロ小屋じゃないんだね』

『あ……すみません、報告ミスです。キャスターは戦争の前提を覆し監督役を強襲、教会に取り付いてしまいました』

『りょーかい。したらば私の役割は?』

『シオンの能力で全体をできるだけ詳細に、かつリアルタイムで把握することは可能ですか?』

『……うん、できるっぽい』

『ではそれを使ってください。そして誰かが死にそうになれば時間を止めるなりして介入をお願いします』

『それだけ?』

『あとは……先ほど提示した以外の戦力へ備えていてください。例えば教会。シエルさんが捕獲され、監督役が抹殺されたとあれば追加戦力を寄越しても不思議ではありません』

『分かった。そっちは最悪死んでもいいよね?』

『シオンの判断に任せます。私もそこまでは』

『はいー。じゃあその2つ以外は無視するよ?』

『……まぁ、はい。シオンの意見も聞いてくださいね』

『私、マジで信用無いかな?』

 

 ……とのことだ。今はなんやかんやで拮抗してる状態らしい。シオンが見えてるだけで私は一切状況が分からない。

 

「むー、このままじゃランサー、アーチャー殺しちゃわない?」

 

 教会外、現状把握のために使ってる能力の空いた1枠で隠密能力を使い、ランサーvsアーチャーを肉眼で見てる私だけれども、その実力差から言ってランサーがアーチャーに近接戦で負けることは無い。

 ランサーが宝具を使えば……次の瞬間にはアーチャーが死ぬ。

 それでもなお、シオンと私の未来視はアーチャーの死を読み取れない。

 つまりは……ランサーの宝具を何らかの形でアーチャーは防御、回避する。

 

『お前も俺を……お前らは俺をなんだと思ってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

『……ッ!?』

『……全呪開放……さて、殺すか……』

『なんだ、その姿は……!』

 

「え、ナニアレ、ねぇシオン、ナニアレ」

 

 何やらランサーがブチギレ、漆黒に包まれたと思えば謎のトゲトゲを纏って低い威圧的な声を発している。

 ん……これはアーチャー、死んだ。

 シオンの返答も不明ばかり。どうも霊基に乱れ、変質があったらしい。えっちゃんのせいでカルデアのなんやかんやが影響したのだろうとのこと。シャレならん。

 

『絶望に挑むがいい……抉り穿つ(ゲイ)……』

 

 ランサーは無造作に槍を引く。両足を踏ん張り、魔力を集め、限界まで腕を振り絞る。

 それでもなお高まりそうな構えに、私の勘がアラートを鳴らす。

 

「っ!交代!」

「いくぞ!世界(ザ・ワールド)!」

 

 やってられん。恐らくはカルデアのバーサーカーのクーフーリンだろう。

 その槍たるや全てを屠らんとするばかりだ。

 時間を止め、即座にアーチャーを庇う様に移動する。

 停止時間中にあの槍をどうこうするのは恐らく不可能。投擲前に槍を破壊するかランサーを殺すなら止めることは可能だがそれは選択として最終だ。放たれた槍を完全に受け止める。それしか無い。

 能力1つではどうにもできん。卿たちへの監視が切れるが後だ。今はこれをどうにかしないとな。

 

「まず追尾対策……破幻の瞳。サーヴァントや宝具の存在自体はそのままだが、心臓破壊や追尾の特殊効果は無力化される。そして物理的な防御……もいらねぇか。レインの幸運ならな」

 

 猛毒を飲んでも運良く死なない、複数投擲されたナイフが全て運良く自身を避けて飛ぶ。そんな不条理を体現した様な幸運の高さ。恐らくオレにも後ろのアーチャーにも当たらずに済むだろ。最悪オレなら治癒はできるしな。破幻で魔槍の能力を剥いで無いとランサーに当たりかねんのが何とも恐ろしいな。

 

「5秒経過……時は動き出す」

 

 ズドン、と槍が垂直に地面に突き刺さり、その衝撃でオレの身体が少し浮く。

 

「「……!?」」

「そうはならんやろ……なってるけどな……」

「ルーラーのマスターか。何のつもりだ?まさか、私を庇ったのか?」

「そりゃあそうだろ。変なことしやがって」

「余計なお世話だ。今私は君と敵対している勢力なのだからな」

「死にたいのか?」

「……」

 

 地面の槍を引き抜いてアーチャーへ向ける。

 返答は無い。戦意もなさそうだ。

 

「……分かっているだろうが、キャスターが存外苦戦している様だ。セイバーを手中にして尚、凛を上回れなかった様だ」

「卿もいるからな。セイバーがあいつに勝てるかよ」

 

セイバーを殺す奴を殺す奴がセイバーに負けるはずもない。

 

「そういう訳だ。私はキャスターの元へ向かう。君は彼を止めておくといい」

「……すぐ追いつく。オレ達に逆らうな」

「ふ、ならば急ぐことだ」

 

 アーチャーが霊体化して消える。

 さて。何を言ったか知らんがバーサーカーになったランサーをどうにかしないとな。

 

「止められたのか、俺の槍は」

「ああ。運良く地面に突き刺さるという結果でな」

「変わらない。殺すだけだ」

「それは無理だ……お前の筋力を100とするなら、オレは0と1の間くらいだろう」

「……?」

「スピード、パワー、テクニック。全ての基礎スペックにおいてお前がオレの遥か上を行く。だがお前はオレに勝てない」

「あ……?」

「お前が勝てない理由その1。オレはお前の未来が全て視える。オレ固有の未来視と、姉さんのカン。それを擦り合わせればより遠い未来をほぼ確実なまま予知することができる。これでオレとお前らサーヴァントの経験による予測を完全に上回った。動作の読み合いではオレに勝てない」

 

 同じ未来視を持つ相手になら劣化品のこちらが負けるが、それならそれで能力1つを使えばより精度の高い……なんなら測定系さえ使える。何にせよ未来においてオレ達は負けない。

 

「なら、それを俺が追い越すだけだ」

「っと……!」

「形勢逆転だ」

 

 持っていた槍が消失、ランサーの手に戻る。

 次の瞬間にはオレに向けて槍が飛んでくるが……

 

「……あ?」

 

 槍は後方の教会の壁を抉るだけに留まった。

 

「キング・クリムゾン……時間をほんの少しだけ消し飛ばした。これがお前が勝てない理由その2。オレにあらゆる攻撃は通用しない。今の様に攻撃される瞬間さえ予知できていれば、その時間だけを消すことができるし、攻撃そのものを透過することもできる。能力2つを防御に回すなら、オレは神話大戦のド真ん中でも昼寝ができる」

 

 さっきの幸運、キング・クリムゾン、神威、世界……挙げればキリがない程に攻撃を受けない能力がある。

 

「そしてお前が勝てない理由、その決定的なものがコレだ」

【】

「な……っ!?」

「このフタガミウタネの存在だ。姉さんの言葉は物質を思うままにする。今はお前の周囲数メートルの空気が鉄の硬度になっているようだ。ただの鎖やらならお前らでも簡単に脱出できるだろう。だがその一帯の全てが鉄なら?身動きひとつできないその状態から逃げる事は不可能だ。予備動作無しで鉄の中を動くことは不可能。土なんていう柔らかい物質にさえ、埋まると身動きひとつできないんだからな。霊体化しても無駄だぞ。姉さんのは霊体を掴む様にもできるらしいからな。じゃ、しばらくそこにいてくれ。キャスターが殺されるかもしれんからな」

 

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