思ったより広いぞこの屋敷。良い家住んでるね。手入れがめんどそうだから私は四畳半でいい。今の家割と広いけど。
『お前なんかに!殺されてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「っと……」
さっきの男の子の声。今度聞こえたのは勇ましさを交えた意志のある叫び。
えっちゃんだし大丈夫だよね……?人間には殺されないよね?
「えっちゃん!」
「えぇ、取り敢えず目的は達成しました」
庭にえっちゃんの姿を見つけ、えっちゃんがカリバーで指し示した蔵の中、確かに英霊召喚の術式が見えた。
『問おう──貴方が、私の……』
『殺されてたまるか!俺はまだ何もしてない!こんな所で死ねないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『えっ⁉︎まっ、待って下さい!何の話ですか⁉︎』
男の子の困惑しきった声が倉から響く。そしてえっちゃんと同じ声が動揺する。
これは……アレだ。
「アレって同じ声だしどうせ顔も一緒なんでしょ、アレ。あの子区別付いてないよね、アレ。カルデアでは知り合い?アレ」
「アレアレうるさいです……そうです、知り合いです。カルデアでは日常だったので忘れてましたが。確かに普通はあり得ない事態です。先ほどまで命の危機まで追い込まれていた精神状態なら見分けられる方がどうかしています。いえ、別人なのですが」
「誤解……解いてきなよ。進まないよ」
「……はい。そうですね。すみません、そのサーヴァントと私は別人です。殺そうとしていたのは私で、守ろうとしたのがそちらです」
「あ……え?2人に増えた⁉︎」
「貴様ッ!容易く近付けると思うな!」
近づくえっちゃんに混乱する濃いオレンジだか赤茶だかの男の子。
そしてえっちゃんを牽制するえっちゃんと同じ顔。青色。色被ると覚えられないなこれな。
「っと……すみません。私はこれ以上害を加える気はありません。サーヴァントとマスターで話がしたいのです」
えっちゃんがカリバーを地面に突き刺し、両手を上げて敵意が無いと示す。
敵サーヴァント……えっちゃんの言からセイバー……は警戒態勢を解かずに疑問を返した。
「話……?」
「はい……すみません、後でいいですか。外にもう1組います。お先に」
「……そのようですね」
えっちゃんが私を置いて、敵サーヴァントを残して行ってしまった。
味方サーヴァントが敵サーヴァントを前にしてマスターの私を放ってどこかへ行って、敵は私に視線と武器を向ける……と。
普通のマスターだったらもう令呪使っちゃうよ?この状況。
「じゃ!お邪魔しました!」
「あっ!待て!」
相手が構える前に塀に向かって跳んで敷地外へ離脱。そのままえっちゃんのいる場所に向かう。やってられるか。
「っと」
「ああ、遅かったですね」
「即離脱したつもりだったけど」
表では既に終わってたようで、さっきの赤いのが両腕と胴体、ちょうど心臓を中心に横向きのX字に斬られたようなダメージを負っている。宝具……な訳ないか。
「倒しちゃうの?」
「いえ。危害を加える気はありません」
「死にそうだけど」
「話を聞かず襲ってきたので」
「じゃあしょうがないか」
「はい」
「はいじゃないわよ!さっきと言いなんなの⁉︎あなたた……あら?貴女、ウタネ……?」
尻餅をついて腰が抜けたまま立てないでいる赤いののマスターと思われる黒髪が私に怒声と疑問をぶつける。
キンキンうるさいなぁ。男女問わずテンション高い声嫌いなんだども。
「フタガミウタネだけど。何?知り合い?」
「知り合いでしょうが!まさか私を忘れたとは言わないでしょうね⁉︎」
「そーなんだ。忘れた」
黒髪の黒っぽいような赤っぽいような緑っぽいような目の……ん……?中途半端に濁ってる……?あんまり好みじゃない。
会ったことあるらしいけど誰だろ。
「こほん……ちょっと顔見なくなったと思えばマスターだったのね。まぁいいわ。私の負けよ。できれば楽にお願いするわ」
「凛……すまない……」
「いいのよ。ホントに短かったけどそこそこ楽しかったわ。次があれば楽しくしましょう」
「君は十分優秀だった。私が至らなかっただけの話」
うんぬんかんぬん。膝をついてるのと尻もちついてるので死ぬ前特有の理解と懺悔が始まってしまった。
えっちゃんに視線を向けると、目線と表情で『面白いので少し待ちます』と返ってきた……賛成。
「待て!セイバー!」
「っ⁉︎何故です⁉︎今は完全に不意を突けた!」
「先に説明が必要だ!なんなんだこの状況は!」
「この事態で……!」
男の子の声と共に空から赤2人の後ろに落ちた青の金髪。令呪受けてるし……かわいそ。不意打ちしようとして意見が食い違ったのかな。
なんだろう。すごい頑固そうだなぁ、あの子。2人とも。
「って、遠坂⁉︎」
「あら……衛宮くん?あなたも魔術師だったなんて驚きだけど、気を付けることね。ウタネは強敵よ」
「そいつが?俺には話し合いをって言ってたぞ」
「……え?」
目を点にして呆けるトオサカ……さん。
武装を解いたえっちゃんが淡々と説明する。
「はい。話し合いがしたいのです。こちらから危害を加える気はありません。なのでどうか、1度武器を下ろして下さいませんか……と言おうとしていたのですが。急に戦闘態勢だったもので」
「急に目の前にサーヴァントが降りてきたらそりゃあ戦うわよ!ねぇアーチャー⁉︎」
「……まぁ、そうだな。私も早とちりしてしまった」
「あなたはアーチャー。つまりセイバーを倒せます。つまり私には勝てません。ので、話し合いを、しましょう」
「言っている意味が分からない。凛、どうする」
カルデアでのクラス相性、他では一切意味を持たないんだけど、僅かでも理論が成立するならえっちゃんは概念的に強化される。知名度補正0だけど。
……というかクラス相性って何?まぁ一応、陣地作成でキャスターはアサシンの暗殺を防ぎやすく、セイバーは対魔力でキャスターに強い……って感じのはあるけども。
「……仕方ないわ。これ以上抵抗しても意味無さそうだし。見逃してもらえるなら話くらいはいいわよ」
「では中へ行きましょう。衛宮さん、よろしいですか?」
えっちゃんがかりばーを衛宮さんに投げ渡し、戦意の無いことを示す。
しかし油断することなかれ。えっちゃんは謎の超能力持ちなのでその武器はまだえっちゃんの手の中にある。どころか射程に入れたも同然なのだ……殺さないと思うけど。
「え?あ、ああ……いい、のか?」
「……少なくとも今は戦意を感じません。マスター、貴方の知識不足を少しでも埋める機会だ、話すだけ話しましょう」
「では。お先に失礼します」
「それは流石に失礼過ぎないかなぁ?令呪使うよ?先に行かせよう?」
流石に無人の家に家主より先に入るのが失礼なことくらい私にも分かる。入れればいいって理論は分かるけど社会性には必要なんだ気遣いってのが。できるくらいのことはしよう。
えっちゃんを止め、衛宮さん?セイバー?遠坂さん?アーチャー?の後を追ってお邪魔する。
まぁ敷地から見てもかなりの広さがあって、木造の良さが出る良い屋敷だ。私は家具とかにあんまり木材使いたく無い派だけど、たまにお邪魔する分には好きだ。
「テキトーに座ってくれ。お茶淹れるから」
「お構いなく……すみません、このおかきはいただきます」
「ああ、遠坂とフタガミ?もくつろいでくれ」
やはり糖分摂取は抑圧できないのか、僅かでも摂ろうとする欲望を抑える気が無いのが分かる。割と数あったのに一瞬で無くなった……ごめんなさい……
サーヴァント同士睨み合ったり、遠坂さんに睨まれてる意味が分かんなくてポーッと目を眺めている内に全員の前に湯呑みが置かれ、では、という流れになった。