「……」
衛宮士郎は前日を振り返る。
圧倒的魔力量と神代の魔術で遠坂の切り札の宝石を尽く打ち消していたキャスター。
自分とアマゾンとなった慎二2人を相手に尚余裕のあった葛木。
最優とも言われ、白兵戦では無敵とさえ言われるセイバーを傷付けない様にしながらも無力化し続けていたルーラー。
そしてなんやかんやで慎二のアマゾンと同じプライムを受け取り、ゲイツマジェスティとして力を得た自分。がそのまま今の正義を目指して行った結果がアーチャーだと言うこと。
それら全てを圧倒したシオン。
「はぁ……昨日からキャスターがこの家中を掃除し始めるしシオンはやっぱり負荷の限界で寝込んでるし葛木と慎二はシオンの部屋に磔にされるし俺もプライムがキツ過ぎたのか全身が痛むしでもう散々だ」
この家、が衛宮邸ではなくシオン……ウタネの家であることが更に疲労感である。
「人の……女の子の家で洗濯してくれなんて無茶言うよな……遠坂は当然として、フタガミだって隠れファンは多いんだぞ、こんな事が他の奴らにバレたら殺されちまうよ……白はこっち、女物の下着はとりあえずまとめて……あ」
慣れない他人の家、疲労と筋肉痛に痛む体とあって、下着を纏めて籠に移そうとしたところで何かの瓶を落として中身が溢れてしまった。
幸いにも口が小さい物で落ちた衝撃分以外の漏れは無さそうだ。
「ふぅ……」
安心してため息が漏れる。家族のいない高校生が一人暮らしで一軒家を持っているのだ、よほどの何かがあるのだろう、そんな人物の所持品をうっかり壊したなどと弁償などできるはずもない。
「衛宮さん……?」
「……っっっっ!!!!????」
ため息が漏れた、そんな時にその家主が現れる。
完全に寝込んでいるものと思っていたために背筋が大きく跳ねる。
「女物の下着をそんなに抱えて……それに、それ……ドロッとしてて、変なにおいで、でもクセになっちゃう感じの匂いで……」
「ち、違うぞフタガミ!これは洗濯をしようとして!」
「ほっといたら固まる……」
「……?」
「あれかな……ボンド……」
「……え、いや、その……」
衛宮士郎は考える。このフタガミはまずどちらかと。
この無感情で関連の取れない口調や仕草、表情からしてウタネであることはまず間違いないだろう。
であれば異性の性について認識がどうか、という問題点がある。
比較にまず挙がる遠坂はすでに全てを知っていると言わんばかりと言える。だが桜はそんな雰囲気を一切感じないし、この前は風呂上がりで上裸の俺を見ただけで顔を真っ赤にして逃げて行ったほどだ。それを踏まえてみるとなるほど、性についての興味が無ければそれについての知識など保健体育の数ページほどのもの、フタガミが授業でまともに起きていたことなど無いと言うし、知らないということもあながちまったく「んなワケないよね」終わったな俺。世界と契約云々でどうこう言う前に死んでしまうとは情けない。
「精え『姉さんのボディローションだ。相変わらずだがおちょくってやるな』む……久しぶりだったからつい」
「知ってたのかよ!くっそビビったじゃねぇか!50年は寿命縮んだわ!」
「私の認識能力を侮らないでほしいな。0.1秒あればその場全てを理解するよ。さっき起きて顔洗いに来ただけだけども」
「つーか起きて大丈夫なのか?」
「えっどこが起きるって?」
「どこがじゃねぇ!」
「あっはっはー。まぁまぁ。私もコレ飲み終わったら寝るからさ。それで許してよ」
「……?」
ウタネはワインのペットボトルをヒラヒラ振って笑う。残り3割ほどになっているところを見ると、相当なペースで飲んでいる様子。未成年のはずだが。
そして何を言いたいのか理解に悩んでいると、圧倒的な答えが返って来た。
「薄着でティッシュ用意して鍵開けとくから」
「やらねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「えー……私だって数十年そんなイベント無いからさー」
「だれでもいいのかよ……」
「うん。汚くない顔と体で病気なければ別に」
「……シオン、さっき俺の心読んだならウタネに言うなよ。言ったら令呪全部使ってセイバー自害させるからな」
『お前、時と場合によってはエゲツねぇ手段取るよな。まぁ了解だ。おやすみ』
「んむー、まぁいいや。おやすみ〜」
「あ、ああ……おやすみ」
なんやかんや混乱したままシオンとウタネは出て行ってしまった。
最後に男らしくグッとストロングワインを飲み干し、そのペットボトルを洗濯物の上に投げ捨てていった。
その礼儀知らずというか適当さに憤りを感じつつ、衛宮士郎は下着の山を抱えたままそれを捨てようと腰を下ろし、ある真実に到達した。
遠坂、ウタネ、ルーラー、キャスター、ライダーの下着の山とウタネの飲んだペットボトルが転がった誰も立ち入らない部屋に男子高校生が1人。何の感情も起きないはずもなく……
結局何もしなかった。男子の理性というものは女のそれより強固らしい。