「ん……あふ……ふぁ……ぁ」
十分に、とは言えないが満足できるほどの睡眠を取っての目覚め。
寝る前の記憶は無い。確か1.5Lのワインペットボトルを直飲みし始めてから暴走してた気がする。やっぱりストゼ○10本の後に飲むには失敗だったか……記憶無くすほど飲み潰れてることはあるけど二日酔いにはならないのが幸いだ。反省しないアル中の一例だな。
「シオン……ふぁ……変わったこと、今日やることは?」
『この状況でやることもどーもねぇよ。とりあえずライダーを修復して戦力を盤石にする。後はアサシンとバーサーカー、ランサーだな。ランサーは最後でいい。姉さんが能力を切らない限り無敵だからな』
「ん……わかった。じゃー任せる……ん、そうか、ランサーあの場所に放ったままか。いいの?」
『ぶっちゃけ全サーヴァントにアレやるだけで目的達成できるからな。卿が許さんからやってないだけで』
「なんだかんだでシオン、ソラに優しいよね」
『あ……?そんなつもりは無いぞ』
「またまたー。なんだかんだで優しいんだから」
『……姉さんに無い社会性のせいだろ。オレの性格とは違う』
「そう?ならそれでいいけども。したら変わればいいかな?流石の私も自分の部屋に貼り付けられてるのが3体もいたらドン引きだよ」
そう。なにを隠そうこの部屋、昨日のゴタゴタの後私が知らない内にヒトガタの生きた装飾が3つも増えていた。クモ1匹で発狂する私からすればよく平静を保てていると思う。酒に逃げる事にはなったけれども。
『……部屋がねぇんだよ。じゃなけりゃ慎二も葛木も好き好んでこの部屋に入れる訳無いだろ』
「おいフタガミ!それはこっちのセリフだ!さっきから1人でブツブツ喋りやがって!僕だって好き好んでこんな部屋にいられるか!それなりの代償は覚悟してもらうぞ!」
『……それがこの体か?』
「う……な、なんだよ、分かってるなら僕を降ろせ!」
『はぁ……ま、全人類がコイツと同じ思想ならオレも全人類の根絶を掲げたかもな……ひとつ説教をしてやろう。お前はそんな一時の欲求の為に信頼を捨てるのか?性欲、食欲。生命が生き、子孫を残すと言う目的の為に必要なものである事は事実だ。だが、それが目的になっては本末転倒だ。今の人類を見てみろ、生きる為に食うのでは無く、食うために生きている。栄養を摂取するという食事ではなく、食という快楽を求めて栄養不足にさえ陥っている始末だ。性欲もそうだ。子孫を残す為でなく、快楽のために行為をする。挙句の果てに避妊だと?その行為そのものの否定だ。オレをして理解が及ばない。お前ら人類は何のために生きてるんだ?何がしたい?より栄養を効率的に摂取する手段を開発するなら分かる。より妊娠しやすくなる手法を見つけ出すなら分かる。だがその行為の本質を全て否定してお前らは快楽に沈む。知性体として誇りは無いのか?知的生命として恥を感じないのか?地上最大に発展した種族はそんなものなのか?だったら生命なんて矛盾だらけ、無い方が簡潔に済むよなぁ?』
まーたシオンが暴走し始めた……ほとんど賛成だけども。
『テメーら人間のやってるこたぁつまり!快楽のための快楽!欲求のための欲求!どこぞの
スカリエッティ……半人半機械の戦闘機人という人形兵器を作り上げた天才だ。プレシアにボコボコにされたけども。それと同等と評される人間ならば確かに、私の価値観から言っても生きてる必要は無い。
「僕が死んでいいワケないだろう!僕は間桐を継ぐ男だぞ!」
『黙れ。この世のコンプレックスの全てを凝縮したようなゴミめ。お前に無いものは無い。お前が出来ないことは出来ない』
「ふざけるな!間桐の魔術が僕に正統に継承されていればお前なんか……!」
『ふざけるのはお前だ。お前は魔術師では無いし、お前の願望が現実になることも無い。だがオレは全ての能力を使えるし、お前が手出しできるほど安くもない』
私は別に構わないけどなー……それで不満が無くなるなら。人間って簡単だね。
「フタガミ!」
『ったく……今度は何だ。お前については何の制限もしてないはずだぞ、我が救世主』
「その呼び方もやめろ!何なんだ一体!」
『さてな。真の救世主たるお前を呼ぶのに他に何がある?』
「だからそれが分からないんだよ!もういい!それよりセイバーが!」
『……?』
♢♢♢
「やー、セイバーが消えかけとはねぇ。困ったものだ」
我が家の狭い廊下に倒れていたセイバー。外傷も無くキャスターの仕業でも無いとのことで魔力切れが近いらしい。
「まぁ、セイバーさんはここの聖杯に嫌われてるでしょうし……セイバー顔としてはよくやった方じゃないですか?」
「えっちゃん何言ってるの……セイバーがセイバー顔じゃなかったら何なのよ……」
「セイバー顔じゃないセイバーもいますしセイバーではないセイバー顔もいます。事実私もそうです」
「……まぁ、それはそれでいいよ……」
結果から言うと私の部屋の磔人形が1つ増えた。もう壁が人で埋まってしまう異常事態に陥ってる。そろそろライダー直して降ろしてあげればいいのに……
『姉さんちょっと変われ』
「ん」
私の時でも当たり前に話す様になったシオンが表に出る必要なんてあるのだろうか。私が外見れなくなるだけなんだども。
「ふぅ。さて、これからセイバーにプライムを導入する」
「シオン。サーヴァントに手を加えるのは……」
「卿、セイバーはオレ達の目的のために生かしておくことが必須だ。しかしこのままでは聖杯に吸収されて消える。それを阻止できるのはオレだけだ」
「しかし……」
「セイバー。お前は望みの為に存命することを選ぶか?」
「……」
「……何だ、もう喋れないレベルか」
やれやれ……一向に目を開けないから大分弱ってるとは分かっていたが……
「しょーがねぇ。とりあえずオレの魔力をある程度流しとくか」
「そんな事できるのか!?」
「サーヴァントは人の魂を食って魔力に変換できる。とりあえずこのまま2日程度存命できるくらいの魂を食わせる」
「待て!そんな事したらお前はどうなる!?」
「さぁな。オレも同様に寝込むかもしれん」
「だったら他の手段は……」
「寝込む程度で何が他の手段だ。どーでも良いことだ。卿、そうなったらこの部屋頼む」
「分かりました。ただし報酬は弾んで貰います」
「……まぁいい」
闇の書に蒐集された時も死にはしなかった。大丈夫だろ。
♢♢♢
「結局倒れてしまいましたね。体が弱いのに無理するからです」
「それで……セイバーはどうなんだ?」
「魔力に関しては大丈夫でしょう。しばらく……というより、更なる対処法が無ければ目を覚ます事もないでしょうが」
「くそ……」
「まぁ気を落とさないで下さい。シオンのことです、最終的には自分の命と引き換えに存命させるくらいの手段はありますよ」
シオンは何かしらの能力で自身の魂の半分を抽出し、セイバーへ与えた。
その後はウタネに変わる余裕も無かったのか、そのまま糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちてしまった。
「ほら、今ですよ」
「……?何がだよ?」
あくまで丁寧にウタネをベッドへ運び、ドアを背にしたルーラーがドアノブに手をかけたまま士郎を誘う。
「この家にいる私とキャスターを除いた全員が行動不能、キャスターさんは何故か細部の掃除に拘っている為シエルさんと大掃除。家主たるウタネさんが表に出られず、表に出ているシオンが意識不明のくっ殺状態であるからして。やることは1つでしょう」
「ぶ……っ!くっ殺とかサーヴァントがどこで覚えるんだ!」
「ええと……刑部姫さんでしたか……邪ンヌさんだったかもしれません。文系のサーヴァントもそこそこいるのですよ、カルデアには」
「サーヴァントが文化的な交流してるのか?カルデアってトコは」
「そうですね。大元の任務は人理を保ることですが、この冬木の様な特異点を見つけるまでは集合住宅の様子を呈しています。ソラの目的ともおおよそ合致していますし、私もそれで納得してそこにいます」
「なるほど……?よく分からないが聖杯戦争のサーヴァントとは別なんだな。それにしてもたまに出てくるよな、ソラって名前。誰なんだ?」
「ソラは私のマスターです」
「……?マスターはウタネじゃないのか?」
「それはこの戦争においての擬似的なものです。私を喚び出し、盟友としたのはソラで、ソラの代わりはあってもソラを越える関係は有り得ません」
「お、おう……なら、相当な魔術師なんだろうな。このウタネとシオンをして代わりでしかないって言うなら……遠坂より余程優秀な魔術師に違いない」
「魔術師として測るなら、衛宮さん」
「なんだ?」
「貴方より下の可能性さえあります」
「マジか!?」
「ソラは元より魔術師ではありません。この世界の存続を目的とした抑止力です」
「じゃあ何でマスターに?」
「たまたま抑止力として顕現した場がカルデア……魔術師の施設だっただけです。ウタネさんやソラにしてみれば魔術師なんて無意味に無意味を重ねる無意味な存在でしかありません。その気になればこの戦争など半日と経たず終了するでしょう」
「マジかよ……そんな奴らだったら、確かにヴィーナスを倒そうと色んな奴らが来るはずだ」
「まぁ、それについては不明なのですが……それを踏まえて私は彼女たちが好きですよ。自分だけで全てが完結する存在でありながら自分を絶対とせず、他人を尊重し妥協する柔らかさがある。もしウタネさんが自己中心的な思考に染まっていればあらゆる世界の生命は滅びていたでしょうね」
「ウタネがそうだとして……シオンやお前のマスターもそうだってのか?」
「いえ……まぁ……その……」
「歯切れ悪いな……」
「シオンはあくまで中立。行き過ぎたその立ち位置は、自分の存在だけで世界を構築してしまう。ウタネさん以外がシオンとなれば、全ては公正に回っていく。その世界にウタネさんとシオン以外は存在しません。ソラは抑止。行き過ぎたその守護は、この世の害意を全て滅ぼし、あらゆる生態系を淘汰させてしまう。プレシアさんはあくまで母親。行き過ぎたその母性は、愛娘を守ろうとするあまり触れるもの、近付くもの全てを蒸発させる。アインスさんは理想の夢。全ての生命が望むままの世界を享受できる世界を創るため、無限月読は完成する……目的や手段は違えど、結局は今の人類を否定するもの。悲しいものですね。元を正せば、誰もが抱く『人を守る』ことだけしか考えていないというのに」
人を守る。それは衛宮士郎も同様に抱く夢。
しかしそれは、対象を絞り、先手を打とうとした瞬間に現実的な攻撃手段へと変化する。
アーチャーも同様、救えるだけを選定し、その他を消す事でその夢を実現した。他の英雄も同様に、守るために誰かを攻撃し、殺したはずだ。
正義の味方など存在しない。あるとすれば自分だけ。アーチャーの言葉は間違いでは無い。そんなモノは自分の夢でしか有り得ないのだから。
「……」
「まぁ、気にしなくていいですよ。何をしても彼女らは変わりません。彼女たちは自分勝手の極みですし。目的のためのコストとリスクを計算しなくなった気狂いばかりなので」
「……」
「ひとつ。ちょうど良いので言っておきます。もし彼女たちが傷を負ったり、死んだとしても。この世界から命の総数が減った事にはなりません。サーヴァントが死んだとしてもこの世界に影響が無いように、ウタネさんが死んだとしても何も思う必要はありません」
「何だって言うんだ!ウタネは人間だ!その辺にいる、その辺の女の子と何も変わらない!この世界の命のひとつだ!」
「彼女らの説明はしたつもりですが」
「それでもだ!」
余りにもルーラーの人権を無視した発言に声を荒くする士郎だが、そこで家の呼び鈴が鳴る。
「……?なぁ、誰か呼んだのか?」
「いいえ。わざわざこの家に呼ぶ理由もありません。衛宮さん、ウォッチを準備しておいてください。私が出ますので、キャスターさんにシエルさんとこの部屋の防御をお願いして下さい」
「分かった」
ルーラーは玄関へ、士郎はキャスターの元へ。
サーヴァントの反応が無いことからルーラーは教会の魔術師と踏んでいたが、想定外な相手が立っていた。
「おや……どうされましたか。ウタネさんに用が?」
「いえ……その、先輩はここに?」
間桐桜。士郎を訪ね衛宮邸を探し回ったがいないため、居場所を探しているという。
「そうですが」
「兄さんも……」
「そうですね」
「あの……合わせて貰えませんか?」
「構いませんが……この家に入る前に、その影にも出てきて貰いましょうか」
ルーラーが武装し、桜にネクロカリバーを突き付ける。
『ほほう……中々の眼じゃ。それに慎重じゃのう』
「呪い2000如きがソラの石を……失礼、私はウタネさんの様に無敵では無いので。貴方は確か、間桐の……」
桜の影から大量の蟲が舞い、集合して形を作る。
『何の話か。儂を知っとるようじゃの』
「目的も分かっています。ライダーを取り戻しに来たのでしょう。本来のマスターである、桜さんをダシに」
『いいや、ライダーはもう必要無い』
「……?どういう事ですか?戦争を続けるつもりがないと?」
『何を言う。聖杯こそ悲願』
「貴方が戦うつもりですか?我々と?あのバーサーカーと?」
『そうではない。戦うのは、コイツらじゃ』
桜が両腕を捲る。
「……!」
その腕にはルーラーが驚愕するほどの令呪が手首から肘にかけて隙間無く刻まれていた。
「何ですかその令呪は……正規の物では無い。元々あった物でも無い……」
『ルーラーならば解るじゃろう……聖杯は完成するように作られておる』
「……」
『まぁ、今日はこれで充分じゃ。近い内、間桐が聖杯を手にすることになる』
「失礼します。先輩と兄さんにも伝えてください」
大量の蟲が2人を包み、姿を消す。
「……何を、どう伝えろと言うのでしょうか……」
武装を解き、説明する内容の多さに朦朧とするルーラー。
「シオンが起きたら心を読んでもらうなりして代わりに説明してもらいましょう。それまでは面倒が増えた、だけでいいでしょう」