「ほらウタネ?話がしたいんでしょ?」
「戦争をやめて下さい」
「「「……は?」」」
えっちゃんの一言に場が固まる。
「話にならない。私たちは皆が聖杯を求めるからこそ召喚に応じる!それをやめろなどと、我々の存在自体を侮辱している!」
「同感だ。無理な話だ。どうしてもやめさせたいのなら君が聖杯の代わりをしたまえ」
「どういう意味でしょうか」
「君が私たちの願望を全て叶える事だ。それなら誰も不満なく聖杯戦争をやめる。できるか?」
「できませんが」
「……凛、私は周囲の警戒に当たる。揉め事になりそうなら知らせてくれ」
「そうね。お願いするわ」
一切感情を覗かせないえっちゃんの態度にため息をつき、赤の人が出て行ってしまった。
そのマスターと青のサーヴァントも同じような心象だろう。
「熱くなったところですまないが、そもそもの話をしてくれないか?聖杯戦争って一体何なんだ?」
「遠坂さん、説明をお願いしてよろしいですか?」
「ん……私?なんでよ。貴女が持ちかけたのだから、1からするのが責任ってものじゃない?」
「……ウタネさん」
「やーよ。説明苦手なの」
「なんですかその口調」
「……無理だってんだろ。やらねぇよ」
「変われとは言ってません。普通にお願いします」
「いやだ。説明面倒」
やーよ、も私多分言うと思うんだけど。
「はい。では面倒なのとおっちょこちょいなのは頼れないようなので私が」
「「む」」
「聖杯戦争とは、7人のマスターと呼ばれる魔術師がサーヴァントという使い魔を用いて最後の1人になるまで争う戦争です。勝者には膨大な魔力により全てを叶える万能の願望器、聖杯が与えられ、あらゆる望みを叶えることができます」
「なるほど……それで、サーヴァントってのは何なんだ?」
「サーヴァントとは、英霊、つまりは歴史に名を残した偉人たちです。例外はありますが、それぞれ歴史をもつ人物が使い魔として召喚されます。あなたが先ほど遠坂さんを生かすために使用した令呪ですが、無駄に使わない事をオススメします。サーヴァントは先の一連を見てもらった通り、通常の人間では対抗できない力を持ちます。令呪はそのサーヴァントに対して使用できる絶対命令なのです」
えっちゃんはほぼ全部が例外だよねー……背景はあんまり聞いてないけどファンタジーだし。
「さっきのか……あと2回、ってことだな」
「はい。令呪はサーヴァントの行動を制限するだけではなく、その行動を補強することもできる。ここぞの場面では切り札になるものだ。その2回は慎重に使うように」
「あ、ああ。すまなかった」
「はい。大抵は以上です。何かあれば」
「聖杯戦争の仕組みは大体わかった。それで、話って?」
「遠坂さんもよろしいでしょうか」
「いいわよ。その話を聞くためにいるのだし」
「はい。では。というよりも、先ほど述べた通り、戦争をやめていただきたい」
「理由を言いなさいよ。シロウに言ったように、戦争をする理由が各々にある。それを否定してるのよ?」
えっちゃんが戦争を止めたい理由。ロリコンからの命令で、冬木の聖杯が完成することによる災害を防ぐこと。ただしそれはタブー。あのロリコン、暇つぶしに私を転生させると聞けばゴミクズに聞こえるけど、実際のところ仕事を早く終わらせ過ぎて暇になっているという有能具合らしい。神のランクとしても結構上っぽい。それを話すことはできない。話せばまたどこか別の世界に転生させられる。
「面倒ですので」
「は?」
「戦えば私たちが勝ちます。無駄な血を流さず、傷付かず。そうすれば手の届かぬ理想に苦しむ必要もないでしょう。今が1番幸せだと諦めて、ただ今まで通り普通に生活してください」
「バッカじゃない⁉︎そんなの通るわけないでしょ⁉︎何様のつもりよ!」
「同感だ!今生きる人の代わりに血を流すためのサーヴァントだ!貴女は何を考えている⁉︎」
「キンキンと喚かないでください。ストレスになります……まぁいいです。私たちは交渉ごとは面倒なので苦手としています。これ以上は決裂ということにしましょう」
えっちゃんが露骨に嫌そうな顔をして終わらせる。
2人の反感を買うだけ買った気がするけど、そもそも説得には私も向いてない。今日はもう無理だろう。出直すか作戦を変えるしかない。
「私たちはこれで失礼します。遠坂さん、よければ衛宮さんを教会へ。そこの彼女で7人目だと思います」
「勝手決めないで貰えるかしら」
「では」
「ちょっ!待ちなさいよ!」
遠坂さんの声に一切の関心を寄せず礼をして部屋を出るえっちゃん。
「えっと……すみませんが、お願いします。私もこれで」
「待ちなさい。ウタネ」
「はい」
この世界の人間の思考回路はそこそこ分かるけど、分かるからこそこの場にいたくなかった。丁寧迅速に撤退しようとしたけど赤の人に止められる。
「なんなの?何が目的?」
「目的は戦争を止めること。それ以上は無いよ」
「止めてどうするつもり?その後のことを聞いてるの」
「知らない。止めることだけが目的なんだ。その先は君たちの好きにしたらいいと思うよ。私だって制限とか支配は嫌いなんだ。じゃあね」
やはりと言うか何というか、全く理解ができないという風な3人を私も気にせず礼をしてえっちゃんを追う。
親しくない人の家に長居するのは気が引ける。そもそも知らない人と長く話してられるほど饒舌じゃない。
「話は終わったのか?」
「……アーチャーか」
「君たちが何を企んでいるのか知らないが、私は私の望むまま動く」
「……それで?戦争を止める気は無いと」
「ふん。今日のところは見逃してやる」
……玄関先の屋根の上から偉そうに見下ろすアーチャーに軽口を叩いて見向きもせず敷地を出る。さっきやられた傷が深かったのか、特に攻撃してくるような仕草もない。
「……そうだな。望みは断たれた」
「……!」
……ポツリ、と呟いた一言は、奴には相当な効果があったらしい。