──さよなら、イリヤ
──何を──あなたッ、何をォッ!?
──
──あなた、何を……なぜ聖杯を、私たちを、拒むの……私のイリヤ……そんなどうして!?
──だって……僕は、世界を──救うから、だ
──呪ってやる……〇〇〇〇……死ぬまで悔め……絶対に、赦さない……
──ああ、いいとも。言ったはずだ。僕は、お前を担うと──
♢♢♢
「
衛宮士郎が目を覚ましたのは、居候している何もかもが意味不明な少女の家。
勢いよく起き上がったものの、正面に見えた時計の文字盤は3時を回っていない。
「シロウ?」
「うぉあっ!?」
すぐ隣で発せられた声に布団から飛び退く衛宮士郎。
枕元に正座したセイバーは士郎の奇行にキョトンとしている。
「せ、セイバー……」
「随分とうなされていました。ご気分は?」
「いや、変な夢を見ただけだ……」
「夢?」
「ああ……随分、不思議な夢だ。オヤジが……切嗣が、その、イリヤとその親を、殺す、夢……」
「……!」
「はは、シオンの言葉が染み付いてるんだな。オヤジが聖杯戦争だなんて……その上、イリヤを殺すだなんて……」
「イリヤスフィールはその生い立ちから確かに聖杯戦争に関わるものです、が……」
「シオンが言ったのは聖杯が破滅しか齎さない災害だってだけだ。今のイリヤがどうこうじゃないし、俺たちがどうすべきかなんてのでも無い。その真偽さえ分からない。何も知らないままイリヤを迫害するなんてのは、正義の味方でも、常識を持った人間でも無い。この夢は夢ってだけだ。忘れるよ」
「あの……いえ、体調が悪くなければ、それで」
「そう言えばセイバーはどうなんだ?まだ安定してないんだろ?」
「はい。ですが私はシオンから魔力を度々補給して頂いてますから。彼らと行動を共にする限りは支障ありません」
「そうか……」
互いの無事を確認し、安堵する衛宮士郎。
少しの沈黙の後、セイバーが口を開く。
「その……シロウ。先ほどの夢の内容を詳しく教えて頂けませんか?」
「夢?そんな事言っても……もう忘れかけてる。なんか、暗い雪の中で、オヤジがイリヤを銃で撃って……その後、叫んでる女の人……多分、イリヤの母親を、首を絞めて……う……」
「……すみませんシロウ。気分を害する要求でした。お許しください」
「いや、いいんだ……ただ俺が見ただけの夢だ。ただの……夢」
「……気になるようでしたら、イリヤスフィールに話をされてはいかがでしょう。彼女と何か話せば、また発展があるやもしれません」
「そうだな……でもやっぱりただの夢だ。一応シオンに朝になったら話してみるよ。ありがとう。セイバーも休んでくれ」
「はい」
♢♢♢
「なー間桐慎二」
「ぐ……降ろせ……クソアマ……」
ウタネの部屋、そのベッドに腰掛けて壁に釘付けの間桐慎二に呼びかける。
「オレは今、名実共に男だよ、顔面と体格が姉さんのコピーなだけだ。んでな、お前でいいんだよ、そーいえばな」
「なんの……話だ……」
「擬態の話だ。お前が散々こき使って、脅して、殴って蹴って犯して、やりたい放題した間桐桜についてのな」
「……」
「お前がやった事に関してはどーこー言わない。お前がこの戦争以前に何をしてようが興味無い。お前ら生命の3大欲求については姉さんが嫌うから話さない。はは、意外と潔癖なんだぜ?オレ達は」
「……」
そもそもを言うと3大欲求ってのがオレに無い。周囲と食事しなきゃいけない時に食ってるだけ、やる事ねー時に寝てるだけ。
食わなくても最終的に空腹を感じることも無いし、寝てなくても何ともない。
「あ、センセーさんよ、今聞いた話は漏らすなよ。アンタも望んで参加した戦争だ。仕方なかった、ってやつだ」
「私とて犯罪者は犯罪者である。その程度の問題に口を挟むつもりは無い」
壁に貼り付けてあるセンセー……葛木が答える。
殺人だっけか。まぁ確かに生身の戦闘能力とは思えん程だ。ヤマ育ちめ。
「そか。ならいい。要求はあるか?今なら呑んでやるぞ」
「キャスターはどうしている」
「別に。この家のどっかにいるよ。殺しちゃいないし家から出てもいない。どっかの掃除してんだろ」
「ならばいい」
「お?降ろせとか言わねぇんだな」
「お前たちを前に私ができることはもう無い。抵抗はしない」
「あのなぁ……オレ達は支配しない。お前に行動を強制しない。それに罰を与えない。まぁ……行動を縛ってるが……部屋を増やすのが面倒だからってだけで降ろせと言うなら降ろすんだ。部屋を用意しろってなら用意する。家から出さないのも死んでもらっちゃ困るからで、出せと言うなら出すんだ。そんな宙吊りで最低限の食事でいいのか?戦わないならこの家で永遠にキャスターと上質な生活でもさせてやるってのに」
コイツは鍛えられた殺人者で普通の人間じゃねぇが……壁に吊るされたままでいいとか普通じゃないだろ。手首吊るしてんだぞ、肩くらい外れろ。
「ならば降ろしてもらおう。体が鈍っても困る」
「ほいよ」
センセーの杭を消して降ろす。マジで体に異常がねぇ……何だこいつ。
「部屋はどうする?」
「空きがあるのか」
「いいや?」
「ならば良い。廊下で構わん」
「おいおい……1部屋でいいのか、2ついるか聞いたんだが」
「……?話が読めん。どういう意味だ?空きは無いのではないのか」
「造れるから聞いてんだよ。こんな家にこんな人数のプライベートを確保するのに能力無しでやってられるか」
「内装が自在と言うことか?」
「いや、ん?そう言う言い方もできるか。この家の空間を引き延ばしてだな……ま、めんどくせーから説明しねーけどな」
時間を操る程度の能力……ザ・ワールドやスタープラチナにできない事の多くがこの能力によって可能となる。逆もまた然り。
現在我らが双神家はリビングとキッチンを除けば3部屋しか取れないところを能力の拡張により無限城バリに増やすことが出来る……無限城で良かったなそれな。
拡張したら姉さんの能力で固定する。そうすると能力を切ってもそれが維持される。多分姉さんの能力切れるとこの家、質量に耐えられず爆発するな。
「そうか。なら頼む」
「へいよ。内装はどうする。広さは?寝具は?シャワールームやら何やらも付けたいなら付けるぞ」
「そこまでは望まない」
「一般的なホテルルームにしとく……そーだ、おいゴミ」
「……」
壁の生ゴミに声をかけても返答無し。
「質問する。答えろ。要件が済めば食事と……望む夢を見せてやる」
「ふざけるなクソ売女!僕も降ろせ!」
「ふざけるな……お前の思考回路は野生動物となんら変わらない。欲求の赴くままだ。知性を感じない。野生のアマゾンを姉さんと同じ床に立たせると思うか?」
「言うに事欠いて貴様!僕は学内では超のつくエリートだぞ!衛宮なんぞよりよっぽどな!」
「そう、そういうとこだぞ。学校だ仕事だなんてどーでもいいんだよ。頭が良いだとか身体能力が高いだとか、そんなレベルで話してない。今、この状況で、お前に何が出来る?センセーは無抵抗を示すことでオレに取り入り解放させることに成功した。お前はそれすらしない。する発想に至らない。お前らは死ねば終わりなのに、自身の保身より大事なものがあるとでも思い込んでる。有限なら大切にしろ。そうだな、お前の思う永遠ってあるか?」
「永遠だと?そんなものあるはずが無いだろう。空想の概念だ」
「急に理性的になるな……そう、永遠なんてものは無い。概念だけ……だが、それは他にも言えることだ。金や時間なんて身近だろう。そんなものは人間が勝手に言ってる妄言だ。紙束を有難がる生物なんて人間だけだ。だが、全ての人間がそれを認識して信じている概念ならばそれは実在する。それと同じ様に永遠を渇望するのがオレ達だ。お前たちが生きる為に用いる知識と能力を用いるように……オレ達も永遠を成す為に世界の全てを使う。姉さんは世界の物質全てを、オレとアインスは世界の能力全てを、ソラは世界の力全てを、プレシアは世界の法則全てをな。で、間桐桜は?」
「は?桜?何が?」
オレ達はそれぞれが世界を形作る。それは世界である事と同じこと。
それも概念。ただそうであろう、というだけの空想。
オレを……姉さんの姿をクソ売女なんぞ吐き散らかしたコイツには多少思うところはあるが……まぁ、オレの能力負荷の処分場になってること、目的は果たせたことを踏まえてこの場は許してやろう。
「よし、条件は満たした。もうコレもいらねーんだが、どーする?」
懐から布切れを取り出し、間桐慎二の目の前でヒラヒラと振る。
「……返せ」
「返せじゃないだろう。コレはお前のか?お前が使うのか?ああ……使うには使うのか。ま、どっちでもいいがな」
「あっ!お前!」
布切れ……女物の下着を手の上で焼却する。
こんなもんで興奮できるなんて人間ってのはコスパ良いよな。
「もう持ち主はお前の知るそれじゃない可能性さえある。この戦争が止まった時に生きているかすら分からん。無い方がいいだろう」
間桐桜は聞く限り普通の人格を持つ人間だ。間桐を恨みこそすれ間桐の前線に立つなどは考えづらい……ま、擬態後には全て分かる。
♢♢♢
「お……擬態できた?」
「ああ。身体を変えた経験は何度かあるが視点が上がるのは初めてかもな。ぶっちゃけ不便だ」
リビングでお酒を飲みながら色々としていると、いつぞや見た少女の姿が見える。
シオンは手を握ったりしながら、本物の生身を堪能している。
「まー、取り敢えず情報は探れた……なんか、メンドーなのばっかだ」
「どーすんのよ」
「どーも何も。できるだけ捕縛だろうな。今消えてるのが正規のバーサーカー、非正規のライダー、バーサーカーだ。やり直しが嫌ならこれ以上増えるのも減るのも勘弁だな。だが、もう単独で戦う場を用意するのは難しいだろうし、全面戦争になると殺してしまいかねん。難しいところだ」
「間桐家を全固定する?」
「あぁ……それもアリっちゃアリだな」
「うん」
「……」
「……」
「それいくか」
「おっけ」
単純明快な指針が決定した。