聖杯戦争で暇つぶし   作:プラスマイナス裏表

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第55話

「ぁあーつかれたーシオンー」

「知るか。何がしたかったんだよ」

「虚無のヒーローに……なのはと同じ結末をと思って」

 

 缶のお酒を投げ渡してくれるシオンにとりあえずの答えを返す。

 

「……殺す気だったのか?」

「んー、よ……ぶぁっ……ティッシュごめん……や、致命傷は受けて貰おうかなーとは思ってた。なのはも生きてたんだし」

「オレ達の目的分かってるか?」

「わかってるよー。シオンに直して貰おうと思ってたから」

「そうか……とりあえず我が救世主、お前は部屋戻ってセイバーといろ」

「ああ……」

 

 私のテキトーな返答にも納得してくれるシオン。

 運命という恣意的な偶然により生まれた2人の英雄。触れてみて分かる、2人の能力はただの人間でしかない事。

 当然強くなる才能はあった。それに見合う努力もできた。その才能と努力は実を結んだ。

 けれど、なのはもシロウも無敵じゃない。管理局ではなのはを落とせる魔導師は存在したし、英雄エミヤを超える魔術師も数多くいる。なのに何故、彼女たちは英雄視されるのか? 

 それは、彼女たちの選択肢に『自分』が存在しなかったからだ。

 自身の幸福と理想の実現。2つは似ている様であり相反する事もある。

 勿論の事、それが重なる人間も多い。『仕事を楽しみ、不自由無い家庭を持つ』などの理想であれば自身の幸福とも合致する。

 けど、『より多くの人々を救う事』は自身の幸福とは合致なんて絶対しない。救う道を選んだ先は戦場だ。互いに憎み合い、奪い合い、そして殺し合う。犯罪を犯す人が許せない、自分たちの思い通りにさせない法がおかしい。それらは総じて悪だ。自分たちにだけ都合の良い法律なんて作らなければ違法は無いのに、法に守られなければ生きていけない存在なのに、自分が正しいんだと水掛論。

 結局は自分が生き残らなければ意味は無い。

 でも……自分を選ばない人がその道を進んでも、相手と和解してしまう。

 和解した上で味方に引き込もうとする。そして彼女たちはそれを実現するだろう。事実として彼女は実現した。

 その結果は、彼女の元に集まった大勢だ。自分を選ばない人間の先は自分を選ぶ周囲だ。本人は存在しないに等しいのに、周囲の人の意識はその当人に向く。小規模な信仰だ。『高町なのは』『衛宮士郎』という空の器に周囲が勝手に理想を押し付け、ねじ込んでる。

 そんなものが行き着く先は英雄しかない。そんなものは私の知ってる人間じゃない。

 

「あ、姉さん、それ飲み終わったらマトウ行くぞ。もう終わりでいいだろ」

「ん」

 

 シオンからの最期通告。

 教会やらシャドウサーヴァントやらの問題をほっぽって成功条件を満たそうってことだ。まぁ、相手する意味も無いし合理的だね。

 

「じゃあさ、それに衛宮さんも連れてっていい?」

「あ? 何でだ?」

「何か行きたいんだって。正義の味方はみんなを助けるんだーって」

「……変な覚醒タイミングにならないか? マジェスティより上は知らないが……」

「さぁ? 連れてくだけだよ。私が見とくからさ」

「まぁ……それならいいが……」

 

 ♢♢♢

 

『よく来たのォ……ヴィーナスの』

「間桐……いや、マキリの長。門前まで出迎えとは……何だ? 降伏か?」

 

 間桐邸の前には虫爺の姿。

 オレ達を敷地のはるか手前で感知してた様だが……尚更姿を晒す意味が分からない。

 

『ふぉっふぉっ、何、客を出迎えるなら当然の事』

「客ねぇ……」

「桜は何処だ!」

『桜は儀式の最中。貴様如きに用は無い』

「まぁ出てきやしねぇわな。で? お前がオレ達の相手をするのか? 悪い事は言わん。オレは年寄りを優先的に殺すぞ」

 

 老害なら尚更だ……循環する世界に長く留まる存在は不純物だ。

 

『無論、それも良いが……これは聖杯戦争。相応の用意はある』

「今更サーヴァントか。オレに勝てそうか?」

『用意はある、と言うておろう』

「……?」

 

 蟲の塊が杖を鳴らす。

 移動するサーヴァント……1騎だけか……

 

「ふぉーりなー!」

 

 表れたサーヴァントは……フザケた水着姿のアルトリア顔。

 

「何だお前」

「コードネームXX。ヴィーナス、覚悟!」

「またヴィーナスか。何なんだよ」

『フォーリナーのサーヴァント。それの力は知る所じゃろう』

 

 意味の分からんサーヴァントに自信満々な死に損ないの蟲ケラ。

 ふむ……

 

「人類の脅威か。確かに分類は可能だな。だが……対セイバー決戦兵器じゃあダメだな。卿」

 

 姉さんの令呪を通じて卿を呼ぶ。

 霊体化したサーヴァントは流石の速度で参戦する。

 

「なるほど……Xさんですか。2人よりはまだ私が適任ですね」

「じゃ、頼む」

「しかしですね。アサシンの彼女ならばともかく、フォーリナーは私が完全不利です。プライム下さい」

「……」

 

 コイツやっぱりルーラーじゃないだろ。

 

「しかし仕方ない。こんなふざけたのに苦労するよりマシだ。ほれ」

「何ですかこの緑の」

「マジェスティもいるんだ、適当だと思うが?」

「宇宙、ヴィラン、違う立場の同じ顔……なるほど、そうですね……諦めて使います」

「そうしろ……使い方はご存知のはず」

「いや知りませんが……マジェスティやらを見ていれば想像もつきます」

 

 卿に渡したのは緑を基調とした奇怪なベルト。

 随分と馴染みのあるものになったウォッチを操作し、装着する。

 

《ギンガ!》

「シオン、後で甘味を所望しますよ。変身」

《アクション! 》

《投影! ファイナリータイム! ギンギンギラギラギャラクシー! 宇宙の彼方のファンタジー! ウォズギンガファイナリー! ファイナリー! 》

 

「祝え!」

「祝わなくていいです。行きます、Xさん!」

 

 奇怪なフォルムになった卿が敵サーヴァントへ向かう。せっかく預言者ぶってやろうとしたのにな。

 オレ達から遠ざかるように戦闘を始めたアルトリア顔。

 こっちを気遣ったんだろうが勝敗はどうあれオレに支障は無い。

 

「さて……どうする? あの2人がやってる間お前は無防備だ。お前が死ねば我が救世主の希望も通せる。オレ達の目的にも必要無い命だ」

『桜を野放しにする気か』

「さぁな。小娘1匹の処遇なんぞに興味は無い」

「シオンお前!」

「黙れ。オレの目的はあくまで聖杯の不完成だ。他は好きにすればいい」

「ったく……」

『その小娘が聖杯だと知ってもかの?』

「……なんだと?」

 

 クソジジイの放った一言は、オレの注意を引くには十分過ぎた。

 

「聖杯は……小聖杯は、アインツベルンのホムンクルス……それがルールだ。そもそも、お前らにアレ以外に聖杯の器なんぞ用意できるはずがない」

『桜は随分と優秀でのぉ……ワシも驚いておる。前回の戦争が活きた……ふぉっふぉっふぉっ……この戦争のイレギュラーは全てワシが掌握できた!』

「桜が……聖杯だって? どういう事だシオン!」

「聖杯の現状を知ってるってことか。可能ではある……か。となると厄介だな……」

 

 マジェスティうるせぇな……

 聖杯が狂ってるのはギリ想定の範囲内だ。そもそもロリコンがオレ達を頼る事自体狂ってるからな。いや、そもそもオモチャに頼るなよクソロリコンが。オレ達はお前の暇つぶしじゃなかったのか。

 それはそれとして、戦争のイレギュラーを全てを掌握、か。

 まずオレと姉さん、そして卿。これは対策を用意したと見て良い。

 だが……思い当たるのはそれだけだ。それだけなら、ヴィーナスなりお前たちなり他の言い方が十分にある。なのに全てと来た。他に何かあるのか……? 

 戦争の停止が必要な理由まで把握できてるのか? 他世界にまで発生するなどオレですら曖昧だというのに。

 

「だがまぁそんなのはどうでもいい。お前らは邪魔になる」

 

 とりあえず普通に切って死ぬ様な奴じゃない。

 死霊特攻でも乗せるか……いや、直死でいいな。

 

「我が救世主、援護しろ。とりあえず桜は後だ。あの蟲ケラジジイを消し飛ばす」

「あ、ああ! 変身!」

《ゲイツ! マジェスティ!》

「私はー?」

「最終は任せる。とりあえずオレとマジェスティだ」

「はーい」

『生身で儂とやる気かの』

「生身なんてレベルじゃない。超人たる所以は見せてやるよ」

 

 体術を極めた者の体技。そのひとつ。

 地面を瞬時に10回以上蹴り、縮地法を超える速度をして相手の背後へ回り込む……

 

「剃!」

 

 完全に不意をついた……振り返る未来は視えない。

 直死の線は多くない……が、狙えないほどでもない。

 

「嵐脚『白雷』!」

 

 心臓部を通る即死を狙える位置。

 だが……

 

『ふぉふぉ。中々面白い』

 

 斬撃の後に大量の蟲が広がる。

 線を捉えたのに……いや、捉える前に避けられた。

 この世界において直死の死は絶対だ。たかだか数百年の存在が耐えられる能力じゃない。

 だとするとやはり感知されている、か。

 間桐の敷地内だと剃程度の速度では不能か。

 

「我が救世主! 追加のサーヴァントが来る! 警戒しろ!」

『流石じゃの』

 

 屋敷から動くサーヴァント……こいつはランサーか。

 

「ランサー長尾景虎! 再び推参! べべん!」

「お前じゃオレには勝てねぇよ。セイバーも消えた今、戦力が足りないんじゃねぇのか!」

 

 ランサーの不意打ちもどきを刀で受け止めて弾く。

 

『ふぉふぉふぉ。油断したの」

「……何?」

 

 油断……? これは余裕と……

 

「な……!? ぐぅぅ!? シオン!? これは!?」

「オレを越えて我が救世主に攻撃を……? しかし物理では無い。何だ……?」

『イレギュラーも大変なものじゃ。精々足掻くとよい』

 

 蟲が散って気配が消える……撤退したか。ランサーともう1人……

 

「そこ!」

 

 次のを予感したのか姉さんが屋敷の上に鎌を投げる……投げる? 

 

「む、避けられた……」

「何で投げた?」

「え、いやだって私遠距離攻撃無いし……」

 

 まぁそれもそうか。

 とりあえず攻撃は外れた。姉さんのカンからしてまず間違いなく……クラスはアーチャーか? 

 

「遠距離攻撃ができないのは分かるが……」

「どーにかしてよ」

「……マジェスティ、少し時間稼ぎ頼む」

「あ、ああ。よし!」

 

 マジェスティが長尾景虎と接敵……負けやしねぇと思うが……

 攻撃してきた敵が未だ捉えられない。姉さんのカンはともかく、オレは見てないと未来視できねぇからな。

 とは言えどおかしい。アーチャーのサーヴァントなら無防備な姉さんから狙うはず……なのに何故マジェスティを? 

 思いつく答えは無い。距離ならオレ、強弱なら姉さんだ。ヴィーナス狙いだってなら尚更。なのに戦況にさして影響の無いマジェスティを何故……

 

「ひとつ……注意しておく」

「お? 私に注意? 珍しいね?」

「コレを使うと……」

「使うと?」

「目から出血し、次第に失明する」

「ちょお!? 失明とか私に致命じゃ!?」

 

 目を通してでしか能力の使えない姉さんには天照は致命的な能力だ。

 如何に言葉を使ってもそれを目視しなきゃ発現しない。だからこれを提案した。プライムなんぞ姉さんが使うまでもない。有り得ない。

 姉さんの性癖共々、目は姉さんの価値観の上位にある。視る事において姉さんを超える執着を持つ者はそうそういない……だから、プライムは諦めて欲しい……

 だが……

 

「まぁ……いいや。いいよ、頂戴。それ」

 

 だが、姉さんの本来の姿は言葉だ。視る以上に言葉の存在だ。

 視ることにさえ、最終的には何の価値も見出さない。己の存在が詩音である事。それ以外に意味も価値も、興味も無い。自身の存在さえ保てるのなら、自身の腕すら、首ですら切り落とす。

 だから平然と自身の存在を切り捨てる。五感の一つさえどうでもいい。命さえ……死ぬならどうでもいい。

 

「やりたい事は、もう全部やってるもんな。ウタネ」

「できない事は、一つしか残してないから。シオン」

「だからな」

《デュアルガシャット!!!》

 

「えっなにそれ」

 

《The strongest fist!》

《What's the next stage?》

 

 姉さんの疑問を無視してモーションを続ける。

 

「マックス大変身」

 

《ガッチャーン!》

《マザルアーップ!》

《赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! パーフェクトノックアーウト!》

 

「2つの世界が混ざりあって1つになった……オレが2人分になる。姉さんは不必要な遠距離攻撃の為にプライムなんて付与する必要は無い」

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