「はっ!ふっ!とっ!」
「……こんな状況だと言うのに、熱心ですね」
「……!キサマ……ルーラーか。何の用だ」
とある洞窟の奥、架空の相手に打ち合いを挑むランサーに声をかける。
「用も何もありません。ランサー、もう一度、私たちと共に生活しませんか」
「放り出したのはあの兄ちゃんだ、元より戻る理由も無い」
ランサーは私への警戒も込めて槍を向け、私の提案を否定する。
「それは分かっています。私たちの勝手な動機で正規サーヴァントの全てが不都合を被っていることも」
「なら今やるべきは、オレがお前らを殺す事」
「言ったはずです……星3ランサーでは100ルーラーに勝機など無いと」
「だからソレ何なんだよ!?何しに来たってんだ!」
「いいえ、一応の安否確認です」
「捨てといてそれかよ」
「ライダーとキャスターが殺されました」
「……!?」
私の報告に、ランサーは目に見えて動揺する。
「キャスターにはシオン達も向かいましたが……間に合いませんでした」
「誰だ……!間桐桜か!?」
「いいえ。衛宮士郎です」
「あのボウズが……?」
「彼はアーチャーの力を取り込み、サーヴァントの肉体を手に入れました。シオンのプライムふたつを掛け合わせ、更なる力も手にしました。もう私でさえ……」
「そうだ、アーチャーはどうした。取り込んだ?死んだのか?」
「アーチャーはシオンが確かに殺したと証言しています。本来であればアーチャーが消えた時点で終わりであったはずですが、何故かその後衛宮士郎がアーチャーの能力を使い始め……」
「死んだか、あの野郎……」
「アーチャーを悔やむ前に本題です。ついにVNAが本格起動しました。既にアーチャーの固有結界の世界が破壊され、もう後がありません。私に手を貸してください」
「私たち、じゃなく……私に、か」
「はい。活動を始めたVNAはどれほど理性的であろうとその結果、世界を永遠に破壊する存在です。もう止まりません。ウタネさんとシオンはこの世界を後々跡形も無く消し去るでしょう」
「……ルーラーでさえ手が震えてる。オレに何が出来る」
薄暗い洞窟だと言うのに、私が少なからず怯え、緊張している事がランサーに知れる。
私はとても恐れている。今後どうなるか分からない。私さえ消えてしまうかもしれない。
「不意を突きウタネさんを殺してください」
「……!?」
「私のマスターだからと遠慮する必要はありません。彼女さえ殺せれば僅かではありますが目処が立ちます。貴方の宝具が最適です」
「……信じると思うか。オレを誘き寄せるエサだろう」
なるほど。そう捉える事もできる。
私としてもそうであってほしい。ソラの敵とはいえウタネさんを殺すなど望みはしない。
けれどウタネさんが死ねばこの世界はリスタート、私が召喚させるところまで巻き戻るはず。そしてその記憶はウタネさんに引き継がれる。彼女とてバカではない。私がそうせざるを得ない所まで行ったのだと理解してもらえるはずだ。
もしやり直しに発狂すれば、この世界ごと何もかもが終わりだろうが。
「では目的の日時だけ伝えます……シチュエーションは十分なはずです。不可能と判断すれば実行しなくて構いません」
「……まぁ、気が向きゃあな」
「そして、念のため言っておきますが衛宮士郎に戦いを挑むのはやめて下さい。そして出会っても即座に逃走を。彼もまた、既に我々では対応ができません」
「気に食わねぇな。サーヴァントたるもの、自分の力を最後まで示すもんだろ。人間相手に背を向け、自分のマスターを狙わせるなんぞ……」
「サーヴァントの前に英霊である事を示してください。私たち英霊は人類の存続のため。衛宮士郎は既に人類の域を脱しています。多少の犠牲は……目を瞑らねばならぬ時もあるものです」
「……そこまでの覚悟か」
「私は元より、不確定な英霊です。それを抑止力に拾ってもらった。無意味に消え去る私の手を……掴んでくれた。その恩に、その縁に……私は報いたい。例え私はこの戦争に関する全てを、関連する全てを滅ぼしてでも、人類を守る。彼女が抑止力だったからじゃない。彼女が、私のマスターだから」