「さて、衛宮さんは生きてますかね」
「なにその不穏なセリフ」
翌朝、私に朝食を作ってくれていたえっちゃんが食事中にふと呟く。
メニューはスクランブルエッグに胡椒、フレンチトーストに胡椒、サラダに胡椒、牛乳に胡椒の胡椒推し。さては私が辛いの苦手と知っての些細な嫌がらせだな?
昨晩はコンビニのチョコレートを空にし、その全てを口に入れてご満悦だったえっちゃんだけど、既に若干の糖分不足が見える。あれで足りないならソラはどれだけ食べさせてるの……?いや、ルーラーで召喚したならその分消費が上がってるとか……?
「いえ。昨日言ったように衛宮さんはほとんど死ぬので慎重に選んでほしく」
「ほとんど死ぬっていう言い方悲しくないかな。物語のアレなんだろうけども」
大抵の物語は筋道が決まってる。例えば私がいたリリカルなのはだとスカリエッティが敗北して捕まるところまでは予定通りなわけだ。そして、その物語のキャラクター、人物ではそれを覆すことは絶対にできない。どんな行動を取っても、結果としてその筋書きに反映されて無意味となる。
そして、物語の中にはいくつかの分岐点が存在する場合もある。命のやり取りという大きな選択でなくとも、何かを拾った、何かを見た、といった小さな事柄で分岐することもある。えっちゃんの言うほとんどというのはそういった分岐点の先のほとんどを指すのだろう。
……つまり、死亡フラグ満載ということだ。
「まぁそうですね。ちなみに、彼が生きていても戦う限り死者は出るので、できるだけ戦闘行動の前段階から止めていかなければなりません」
「めんどー……予測してくれるの?」
「ある程度は。ただ、彼らの近くにいることを許してもらえる程度には説得しなければならないので、それが難しいです」
「どのくらい?」
「ウタネさんが正義の名の下に軍隊で尽力するくらいです」
「無理じゃん」
私は正義の正反対のところで存在している存在だ。
正義とはその価値観において最も『良い』とされる事柄だ。平和を願うなら戦争根絶を願い働きかけるのが正義であるし、国の王が国民を守ろうとするのも正義だ。そして、国、社会、地域から迫害され続けた親が子を生かすために食料を盗むのもまた正義。
そういったもの、その逆も正義と言える。平和を願いながら戦争をする理由を考慮し、ある範囲でならと許容するのもまた正義であるし、国のために国民を蔑ろにするのも正義。地域、社会のためにと自分を投げ捨てるのもまた正義だ。
所詮正義というのは言動を美化するためだけの装飾品に過ぎない。正義は絶対的に正しいものではない。だから私は自分を正しいとは思わないし、正義を名乗るつもりは絶対に無い。
「まぁ、そうなんですよね。衛宮さんはまぁ、説得の余地は十分にありますが、セイバーはダメです。より高次元の理屈と実際の行動で納得してもらうしかありません。そして、私たちにはそれが難しいです」
「一応聞いとこうか。なんで?」
「冬木の聖杯戦争はおおよそ2週間ほどで決着となります。つまり、2日に1騎が消える計算です」
「おー、ハイペースだね?」
「まぁ、基本は一度戦えばどちらかは消えますし、複数箇所で戦闘が起こることもあるので。まぁそれは過去の例というだけで問題ではありません。問題は何故2週間という短期間で終了するのか、という点です」
「ふむ……」
「サーヴァントもマスターも、基本的に敗北は死を意味します。失敗はできません。可能性がある限りはチャンスを待とうと決め込むはずです」
「それはそうだね」
「しかしいつまでも戦争が膠着してはたまったものではありません。最悪の想定として、現在ある7騎に追加してサーヴァントが召喚されます。が、そうなれば冬木の地脈はまず枯れます。それを防ぐために聖杯によって7騎それぞれには互いへの戦闘衝動が僅かながら植え込まれています」
聖杯は儀式を完了したい。魔術師は確実なチャンスを待ちたい。サーヴァントは願いを叶えたい。その3つを擦り合わせるためにサーヴァントが戦闘をしないという選択肢を消して、儀式を確実なものにしていると。あとはマスターも当然聖杯に願う願望があるわけだから自然に停止はまずしないか……
「えっちゃんは例外で冬木のサーヴァントじゃないんだよね?」
「私は完全にロリコンによる召喚で、ウタネさんの魔力もカルデアの電力も必要としていません。ウタネさんの魔力量なら私の糖分摂取を無くせるくらいには供給して貰えそうですね」
「え……なんで?そんな魔力無いと思うけど」
「世界を廻る度に記憶が蓄積されるように、魔力もその総量を引き継ぐのだと思われます。実際、ソラが知る世界の中で最も多くの魔力を有したウタネさんは通常の人類が耐えられないSSSであったと聞いています」
「えぇ?私確か……えっと、AAくらいまではあったと思うけど……Sも無いよ?」
「では未来の話です。それでもどうせ使わない魔力でしょう。いざという時のために私に回して下さい。ウタネさんとは違い私は普通に死ぬので」
「私も普通に死ぬけど……はい。令呪からでいいのよね?」
「はい。回路繋ぎますか?」
「ソラに殺されそうだから遠慮しとこっかな。2週間だけでしょ」
「さぁ。結果次第ですね」
「あ、決着したらダメなんだよね」
魔力供給で多少は糖分欲求が収まり始めたのか、胡椒入り牛乳を一口飲み、ふぅ、と息を吐くえっちゃん。マジでソレ飲むんだ……ココアかシナモンと間違え……るわけないか。流行ってるの?
そもそも聖杯戦争を決着させないって無理がありそうなんだけど、他に方法が無いのかなぁ……
「決着するための本能を持つサーヴァントに戦争をさせないだけの意識の変化をもたらす方法。これが、今私たちが優先するべきことです」
「そんな話だったねそういえば」
「最悪は貴方の能力をアテにします。よろしくお願いしますね」
「はぁ……それでいいなら、いいけども」
「では学校へ行きましょう。衛宮さんを守らなければ」
「誰から?」
「遠坂さんです」
「えぇ……?」
「いくらおっちょこちょいドジ天然ボケダ女神であろうとも、その基礎は生粋の魔術師です。下校時刻を過ぎても衛宮さんが1人で無防備に学校に残っていようものなら、即殺しにかかるでしょう」
「んー?遠坂さんが衛宮さんを殺すの?アーチャーがセイバーを倒すんじゃなくて?」
「言っていませんでしたか?セイバーは霊体化ができず、衛宮さんが自宅待機を命じています。なので学校では無防備ですね」
「素人魔術師が1人でねぇ……」
「ですので取り敢えず学校に行きましょう。私は霊体化して学校を散歩していますので」
「なんで?」
「懐かしい気分になれるかと」
「あぁそう……」
私のため息を承認と捉えたのか、姿を消して移動を始めたえっちゃん。
自分勝手。えっちゃんを形容するに相応しい1つだと思う。
いや別に否定するわけじゃない。私達は誰1人として自分勝手じゃないとは言えない。ただえっちゃんは私達と違ってサーヴァントだ。本来ならマスターに従順であるべき存在で、その知能が備わっている。それを敢えて無視して対等な存在として意見する。それを悪いとは思わない。対等で無い関係から来る会話の結果は正しくない。気遣い、遠慮、傲慢、悪意。真意が汲み取れないこともままある。そうならないよう私達は誰も支配しない。誰にも支配されない。ロリコンだって転生時とその世界で必要な事以外は干渉してこない。
さて、ロリコン程の力があれば戦争の1つや2つ、片手間で止められそうなものなのに何故わざわざえっちゃんを呼んでまで止めさせるのか。その辺も考えていかないとね。
「サーヴァントは互いに闘争本能がある」というニュアンスの話を見た覚えがあるのにそれがどこ情報かわからないのでオリ設定かもしれません。