「掴んだ……?そんなバカな、私のカンでも完全とは言えないのに……」
フェーズ4の結界焼却ライン、その火力を見極めたと宣うランサーをシオンと警戒しつつ小声で話す。
「仮にも歴戦の勇士だ、オレ達の領分じゃない以上……想定しておくべきだな……」
私達に圧倒的に不足する実戦経験。
競い合うことを放棄した私は当然、常に自分の負荷が最大の相手となるシオンはランサーの感覚まで把握はできない。
だから……ランサーの言葉が本当かどうかも判断できない。できない以上、悪い方で想定しておかなければ……
「同じ武器の召喚も可能なマジェスティがいる……今対応しないといずれ殺されるな……」
ここで対応しなければ、永遠に続く未来、その先で殺される。
死んでも転生する以上、どこかで近い相手に出会う。誰かが同じ力を手にする。そこで負ければ、どうなるか想像も容易い……
「前やってた心臓の予備とかどう?」
「近くにストックするならいいがワープさせるとなると面倒だな。幸運の護符でも着けるか」
「性能は?」
「知らん。適当言った……ゲホッ」
シオンが血を吐いた口を拭う。
袖口からも血が見えるし、負荷じゃなくて物理で死ぬみたいね。
「じゃ後でいいや。急場凌ぎはできるのね?」
「ああ。それなら全く問題無い……その場凌ぎ10年で事故死だ、オレがそれに失敗した事はない……」
シオンは生前、私の生活の99%を代わりに行なって学友や教師に疑われたことさえ無い。互いの演技なら自己認識以外寸分違わずという事だ。そもそも同じ存在だからね!互いだとか私達だとか2人だとか言う表現の方が間違ってる。
「そして!条件は『オレと5分間戦闘を行う事』!よってお前らが寝たきりだろうとオレが動作してりゃあ何故かお前らは戦闘が行えなくなる!それは決定的だ!」
「なんか急に元気……」
何故か発言に活力の戻ったシオンがまったりと歩き始める。
元気なのは口調だけでスタイルは変わらないらしい。不自然が過ぎる。やる気あんのか。
「……私ってもしかして、人が見るとあんな感じなのかなぁ……」
口が元気なのに動作が気だるそう、うん……そうだね、私だね。
とは言えど、シオンの言うことは正解だ。相手がどうしようと、片方が寝たきりだろうと、戦闘行動が世界に認識されれば相手は戦闘行動を今後封じられる。何なんだ世界?
まぁ……あと2分、ゆっくり待とう。その後私がマトウを消せばいい。
「ならルーラー!俺とお前で隙を作る!ランサー!必殺を狙え!」
「俺に指図するな!しくじるなよ!」
「こっちのセリフだ!行くぞシオン!」
赤いオブジェはもうへたり込んで無理そう、シエルさんも私と一度やってるからか他より効いている様子。
残りの3人でシオンを攻撃するも……変わらず回避行動は全てを無効にする。
「シオン!ブラックホールはコレと同じベルトだったな!同じ系統の力ならどうだ!」
マジェスティがマグマを纏った拳を放つも、シオンは不可視の回避によりそれを躱す。
「今更オレに人間レベルのベルトが通じるわけがないだろう」
「く……ルーラー!」
躱された先に不可避とも言える切先が添えられる。
当たらない、当ててこないと知っていても、分かっていても反射的に逃げてしまうほど真に迫る攻撃のフリ。
シオンの目的が傷付けないということもあるけれど、この知っていても避けてしまう、という事象もメンタルへの負担を高めてしまう。
分からない、避けられない攻撃であれば受けてしまっても仕方ないと割り切れてしまう。でも……知っている攻撃を避けてしまうとなると話は違う。
私みたいに誰が相手でも同じように逃げまくるタイプなら問題は無い。けれど最小の動きで攻撃を捌こうとする……戦闘をする意思のあるものなら、その精神的ダメージは大きく跳ね上がる。
「シオン!せめて死なないことを望みますよ!」
《ファイナリービヨンドザタイム!》
《超ギンガエクスプロージョン!》
マジェスティの呼びかけに応じたえっちゃんがブラックホールに似た挙動でシオンを空中に吸い寄せ、両足によるキックを構える。
空中に吸われたってことは流石に避けられないか……耐久も生身以下。死んだか……その割にシオンは抵抗しない。フェーズ4の中ではそこまで動けない……?
「バカめ……もう忘れたのか、その火力はラインオーバーだ」
「しまっ……!」
「あ、忘れてたや……」
そうだ、必殺技なんて使えば当然、結界中の魔力は暴発して……すっかり忘れてた……
えっちゃんの足先を中心に再び爆風が発生する。
「何だよもぉぉぉぉ!またかよぉおぉぉおおおおお!」
私の体はあらゆるダメージに弱いんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ!
【永劫不滅】
爆破直前に宣言する。
この瞬間から私の肉体、正確には私の肉体の表面がこの世全ての破壊力と暴力と攻撃力を上回る。いかなる爆破だろうが刺突だろうが、もう何も私を傷付ける事は無い。
「むぅ……えっちゃんさぁ、普段通り冷静になりなよ……」
もはや目や喉の粘膜さえ無敵になった私に爆風など意味も無く、誰よりも先に原因を非難する。
「く……あと数十秒しかないのです。それまでにシオンを止めなければ……!」
えっちゃんは私より冷静な思考力を持ってるはず。
なのに必殺技まで焦る要素は何……?あと1分もすればシオンのフェーズ4が完成して丸く収まるのに……
「クソ……流石にコレを何度もやられるとオレも無事じゃ済まないな……」
「ん……?シオン!?避けられるんじゃなかったの!?」
ランサーの時は無傷と言ってたシオンが膝を付いている……
流石の瞬間移動でも面制圧には勝てないか……?
「避けはした……だが、その分移動に際する重力で身体にガタが来てる……やはりフェーズ4は生きてる生身の人間以上の耐久性は必要な様だな……」
面制圧は問題でなかった様子。
爆風を避けるという意味不明な挙動のために発生する加速度はそのフレームに相当な負荷をかける。想像に易いな。
「だが残りも30秒を切った……もうペースは考えなくても身体は保つな……それに、お前らにもう戦う力は残ってない。どうだ、胃薬くらい用意してやろうか」
シオンはフラつきながらも変わらず歩き、近づいていく。
残り30秒……なら、もう何も起こらない。
こうして見てるだけでも、5秒、7秒……戦争終結はすぐそこだ。
「……甘いぜ」
「……!」
ランサーの呟きが安堵した神経を直立させる。
因果逆転の最速の槍……まさか、今の今で……
「ゲイ!ボルグ!」
シオンがランサーの射程に入った瞬間に訪れた必殺の時。
刺さった結果は確定してる。回避はスピードでは足りない……