「んー、まぁ……カンケー無いか」
イリヤスフィールがどうであれ、私から逃れる能力が無いのは分かりきってる。
無限倍速で逃げ続けようとも、世界がイリヤスフィールを認識するなら私はそれを目の前に持ってこれる。
「シオンがしなかったって事はさして意味の無いことなんだろうし……まぁ、この地球の外から来た侵略者には違いないから、別れの言葉くらいは揃えてあげよう。チャオ♪」
虫のお爺さんを圧縮する。
しわがれた目に興味は無いので、光速で周囲の空間ごとゼロにする。
シオンの攻撃を初見で避けたんだ、なんかカラクリはあるんだろう。
「……ん〜……消えた……のかな。まぁいいや。どーでも」
そもそも私はこの世界に近い世界の生まれだ。
魔術の到達点、根源の渦。それを両儀とした時、その次に来る四象。そこのカケラが私だ。カケラとは言え私の能力は魔術如きに対して無敵だ。
今の私の全身を覆う『永劫不滅』の言葉はこの世界に存在する全てのモノより硬く、柔らかく、鋭く、しなやかであり、四象以下の概念を無効にする。つまり、世界の中でしか生きていない魔術師ごときに、私の能力は超えられない。この世界に存在している限り、この世界の私は傷付けられない。
「次……間桐桜。優秀な家の妹に生まれたのに……貴女の目は全く興味が湧かない。やっぱり虚数に落ちるのは姉じゃないとダメなんだ……でも貴女も一応、細切れで生きておこうか」
「ふ……!ふざけ──」
【チャオ♪】
「……んー」
マジェスティリバイブと同様に生きたまま細切れにしたら喋らなくなってしまった。
おかしいな……特に損傷はしてないはずなんだけど……脳の電気信号も伝わってるはずだし……んー?なんでだ?
「ま……それで後はセイバーか。衛宮の家まで歩くのか……めんどくさ……」
やれやれ過ぎる。残り1騎になったでしょ。聖杯起動しなよ。
イレギュラーの産物か?全部取り込んで並行世界諸々破壊するぞーってタイプか?
「セイバー……いるかなぁ……」
とりあえず到着した。衛宮邸。
今日だけで無限に歩いたな……一般人はこんな活動量を毎日してるのか……信じられないな。月1回でもキツいな。
「ふぅ……おじゃまー」
見知った家だし、気楽に入ろう。
「ヴィーナス、覚悟っ!」
「っと……チャオ、セイバー。元気そうで何よりだ」
「っ……!」
上空からの剣は私にコンマ数ミリ以下届かず、そのまま距離を取る。
「シロウはどうしました。まさか……」
「や、死んではないよ。細切れにはなったが」
「……!」
セイバーの表情が一段と険しくなる。
「他のサーヴァントは全部消えちゃったから、全部消そうと思って」
「ルーラーはどこに?」
「消えたよ。シオンもろとも」
「なんと……」
「だからこれでゼロだ。全てのサーヴァントを消滅させ、聖杯の器も破壊して、聖杯の完成しない世界ができる」
「バカな、残りが私だけならば、聖杯は起動するはずだ!イリヤスフィールさえ殺したのか!?」
「え──」
信じられないことを口にするセイバー。
「何でそんな確定的なことを言える?勝利したサーヴァントはもう戦争に参加しないだろう、敗北したなら聖杯を見ることはないだろう。憶測で話してるのか?意味ない事しないでよ」
「……私は、第四次聖杯戦争の参加者でもある」
「……話を聞いてあげる」
戦闘態勢を維持したまま、セイバーは語り始めた。
「その際、残り2騎となった私たちの前に聖杯は起動した」
「残り2騎はシオンの言ってたのと合致する」
「私は当時のマスターに裏切られ、その聖杯を破壊することになったためその後は分からない。シロウの話を聞く限り、勝者となったギルガメッシュとそのマスター、言峰綺礼が街を焼き払ったのだと考えている」
「ギルガメッシュ……」
そして……言峰綺礼。
たしかキャスターが殺しただか聞いたけど……前回の戦争関係者が教会神父だとは……
「ギルガメッシュを知っているのですか」
「ああうん、ブラックホールの向こうに飛ばされて死んだけど」
「ブラックホール……?」
「ブラックホール。そうか、見てないのか。ちょっとだけ再現しよう」
【オーバーザレボリューション】
空気に形と色を持たせ、シオンのソレを再現する。
「シロウの物とは少し違いますね」
「そうだね。これをこう振って、挿して……ハンドルを回すと……こんな感じの装甲になる」
ベルトに2本のボトルを挿す。
形だけの動作を行なって、フェーズ3を再現してみる。
「白い悪魔的な見た目だ……」
「白い、悪魔……それも踏まえて、ってことか」
「……?」
「いいや、何でも。ごめんね、話を続けて」
装甲を解除して、再びセイバーの話を聞く。
「はい……その後、シロウの夢を聞きました。シロウの父親、衛宮切嗣が……イリヤスフィールとその母、アイリスフィールを殺した夢を」
「……イリヤスフィールを殺した?もう死んでるってこと?」
「いいえ。いかな要因があったにせよ、それは夢です。前回の聖杯の器であったアイリスフィールをキリツグが殺したというのは、聖杯を完成させたならばそう捉えるしか……」
「なるほど。聖杯が完成するなら器はヒトの形を保てない。それは殺したも同義だ……けれどイリヤスフィールともなると気になるな。私が見たアレは確かにイリヤスフィール。新しく作られたものでも、ニセモノでもない……ならば聖杯の意味で捉えるのが自然だ」
「聖杯の意味……?」
その夢の真偽がどうであれ、この現実に起こる事と重なっていればそれは証拠足りうるし、アーチャーがどこまでプランニングしていたか……
「そのアイリスフィール同様、イリヤスフィールも聖杯として起動してるってことだ。そしてそれをも否定する」
「なんと……」
「聖杯は起動していない。いいや、聖杯は起動しない。だから私はイリヤスフィールを探しに来た」
「……彼女はここには居ません。リンが何処かへ連れて行きました」
「リン……?」
誰だそれ……
「誰それ。教会?何で抵抗しなかった?」
「遠坂凛です!アーチャーのマスターで貴女のクラスメイトでしょう!」
「……ああそう。それで任せたと……あの人間か」
えっちゃん消えちゃったしな……どうするか……
んー……私は位置感知とかできないからなぁ……困った……
「よし、セイバー。私と一緒にその人間探そう」
「なんと?」
「貴女、仮にもサーヴァントでしょう?私が隅から探すよりマシだ」
「彼女を探してどうするつもりです」
「殺す」
「っ!?」
「なに。貴女はその後だ。別に私は今すぐこの街を平らにしてもいいんだよ。それを後2人で我慢してあげるの。全てのマスターとサーヴァントを殺して、戦争は終了だ」
んー、いらんマネしなけりゃ生かしてやらんでもないが……どーでもいいしめんどーだから殺そう。どーせ横の世界では平気な顔して生きてるよ。
「ヴィーナス……対話が可能であれば一言答えてほしい。不可能ならば、私を即座に殺せ。シロウが何故私を殺さなかったのか、答えに近づく考察は欲しくないか?」
「……いいよ、聞いてあげる。マジェスティはサーヴァントを全て……セイバーを除いて全て消すと言った。マジェスティの行動がアーチャーの戦略に沿うものだったなら、その『残す』ことにも意味があるはずだ。私にはえっちゃんの様にあらかじめ大体を知ることは無いし、シオンみたいに未来を視たり思考を読んだりは無い。ソラの様に全ての力を我が物とするワガママも、プレシアの様に自身を貫く執念も、アインスのように全てを導きたいとする理想も、私には無い」
「……」
「私はただ死ねてないだけ。死ぬ機会を失ったからただ彷徨ってるだけ。私はただ……意味を知りたい。世界に溢れて止まない欲望、生きる希望。その先にある意味を。私と同じ存在だと思うなら……至らぬ私に意味を教えて欲しい。生命の先は滅びだ。何もかもが無くなる。積み上げた全てが無になる。その崩れる音、落とされる悲鳴、無くなる景色。悲惨と言って違いない。人は何を恐れるか。死ぬこと、命を、存在を、尊厳を、資産を、愛情を、未来を。積み上げたそれらを、積み上げるだろうそれらを失うことを恐れる。その結果は悲惨……虚無だ。私と同じレベルの存在だと思うなら、私以上の存在と思うなら、その考えが理解できるはずだ。その考えに賛同できるはずだ。その考えを否定するのなら……その答えを提示できるはずだ!」
「いい……ですか?」
「ん、いいよ。ごめん、暴走した」
「意味を見つけられた人間など、1人もいない」
「……ふぅ。そっちか。じゃあ結論だ」
「正しくは!みなに強制できる意味は無い、という事だ!私は、故郷ブリテンの王を選定し直し、故郷をより良い方向に進めること。だがそれは私以外の誰にも強制する意味ではない。シロウの言っていた理想も、誰も彼もに言い聞かせられるものでもない。言うなら、理解されるものでさえ無い。だがその個人にとって、その意味は!自らの命と引き換えにしても惜しく無いほどの尊い願いだ!それを達成することに命を費やす!確かに、貴女の様に無限に長い時間で見るのならそれによって残されるものはない。だが人間が生まれたのはほんの20万年前!更に西暦で数えるのならたかだか2000年!我々はまだ積み上げる途中なのだ、まだ折り返してさえいない!滅びの悲しみは私とて知っている。だからこそ聖杯に頼ってまで変えようとしている!」
セイバーめ……まともに喋ったなやっとな。
だがそれも、私への解答とはならない……
「変えようとしてる……それは人類史の続行を意味する。結局同じだよ。みんな死ぬ。歴史を書き換えるなら、その最善は人類に繁殖能力を与えないことだ」
「それは違う!貴女は無限の時間の先、生命が根絶すると考えているようだが、生命は続く!無限の時間の先1年!その次の日は、次の1秒は!確実にその時間は存在する。生命は氷河期を越えた、幾度の世界大戦を越えた!今や宇宙への旅行も可能となりつつある!例え地球が滅びるとも!その先に必ず!」
「……熱心だ。信じること……それは……確かな積み重ねの先にある。ブリテンを率いた貴女には、人類の、生命の繁栄は確かに信じられるものだろう。それは分かる。そうなのだろうと理解して、納得した」
「……」
「けどそれは、弱者の妄言だ」
確かに……あるかもしれない。地球が滅びる時より先まで、宇宙に生き延びる人類。
けどそれまでだ。それだけだ。
地球の先、宇宙の滅び、さらにその先に必ずある、生命の絶滅。それを否定する理論では無い。
「……!私を侮辱するのか!例え私を遥かに超える武力を持つヴィーナスであろうと!」
「……信じる……それは、積み上げる行為と同じ尺度だ。貴女が自分の剣を信じるのは当然だ。この確認は必要だ、答えてもらう」
「当然。我が剣に比類するもの無し!」
「……そうだよね。やはは……私とあなたで……根本的に違うもの……それは強さだ」
「……?」
「信頼と結びつかない……って顔だね」
「そう。です、ね……確かに力と信頼は直結する……ものである、と私は思う。だが貴女には違うものを感じた。それが疑問だ」
「もう答え言っちゃってるよ、セイバー」
「なんと……?」
「私からすれば、力と信頼はまるで無関係。力があるから信頼できる、信頼があるから力がある。全く戯言。貴女の剣は初めから信頼に足るものでは無かったはず。才能と努力、経験により積み上げられた結果であるはず。その戦歴と相対的評価によって『強いはず』と。そう信じられるはずだ。私から見れば思い上がりも甚だしい」
「……!」
「貴女たちの強さはあくまでその周囲、その過去に基準する。未知の存在に対抗できない。過去は塗り替えられ、記録は破られ続ける。努力しなければならないのは、そうしなければ自分に意味が無いから。水泳競技者は常に速く泳ぐことを考え、速いかどうかを競い、努力する。けれど一般はそんな事はしない。溺れない程度、自由に動ける程度に泳げればそれまで。それで完成。速いかどうかなんて気にしてさえいない。それと同じ。私はこの世界を自由にできる。だから私は、貴女たちの強さなんてどうでもいい。気にしてさえいない」
歩ける人間が、どれだけ上手く歩けるかなど考えるだろうか?
人がドアを開ける際、どれだけ上手く開けようかなど考えるだろうか?
湯に浸かる際、どれだけ効率良く体が温まるかなど考えるだろうか?
個人では無く、人間というスケールで見るなら、それらはノーだ。
おおよその人間は、自身の歩き方に思考を巡らせることは無い。
おおよその人間は、ドアの開け方など気にしてはいない。
おおよその人間は、入浴の効率など自身の満足より下に考えている。
「地球上、全ての水を瞬時に蒸発させることができるなら、どこで雨が降ろうが、誰が海を埋めようが関係無い。そんな中で貴女たちはどれだけ大きいプールを作れるかで競うようなもの。意味なんて無い。どこまで積み上げ、競い合い、生き残ろうが私が瞬時に消失させる。バトル物のヒロインがよく言うセリフを私も言ってあげる。『戦った先に何があるの!みんな傷付いて!失うことばかりじゃない!私たちより、戦いの方が大事なの!?』」
「っ……」
「無論、戦闘者たる英雄たれば否定したく、答え難いだろう。世界が滅びるかどうかの戦いを前にしても、ヤツらはみな、口を揃えて戦うなと言うんだ。自分の欲求のためだけに、世界の明日を捨てようとしてる。はは……気楽なモンだな、ヒロインサブキャラって」
「私だけならばともかく、英雄そのものを否定するなど……」
「やはは……最初から言ってるでしょ。サーヴァントごときが私に勝てやしない。戦う先には何も無い」
「……急に何を」
「何も無いと思うのは死ぬからだ。朽ちるから、忘却するからだ。そんな次元でしか物事を考えられないヒロインも、それに答えあぐねる主人公も、所詮世界に流れる一雫でしかない」
「一雫であろうとも!それらが重なり合い団結し!大きな力となるはずだ!」
「……もう面倒でしょ。水平線を辿る会議ほど、この世の中で不毛極まりない事は無い。多分もうサーヴァント全部消しても問題無いでしょ。それなら初めからこうすればよかったのに……消え「そこまでよ!ウタネ!」っと……ん?」
主人公の嫁ならばと答えを求めた愚問答も虚無に消え、消そうとした所で乱入者。
「この人間は繋いでおいたわ!観念しなさい!ヴィーナス!」
無から現れたのはヒトの形を保ったマジェスティリバイブとイリヤスフィールを持った人間もどき。
誰だアイツ……