「ねぇねぇ!次はあれ見ようよ!」
「ちょ、待て・・・!ちょっと休憩を・・・!」
(紗夜とのデートだったはずなのにどうしてこんなことに・・・)
紗夜そっくりな少女に手を引かれあちこちへ振り回される。お陰で紗夜は不機嫌オーラ全開だ。
あれは紗夜とショッピングモールの服屋さんで買い物していた時の出来事だ。
「私にはこんな可愛らしい服似合わないわよ・・・」
「いやいや、たまにはこういうのも───────」
「あれ?おねーちゃん?」
「日菜・・・!?どうしてここに・・・」
「うん?暇だったから何か面白い事あるかなーってふらふらしてただけ・・・・・・あれ?隣にいるのって・・・」
紗夜そっくりではあるが、髪の長さだったり纏っている雰囲気が違う少女が俺の方へ視線を送る。
「ねぇ、君!もしかしておねーちゃんの彼氏!?」
「え、うん。そうだけど・・・」
「やっぱり!!・・・・・・んーなるほど・・・」
紗夜そっくりの少女が品定めするかのように俺を上から下までじっくりと観察する。
「ちょっと日菜。彼が困っているじゃない。あまりそういうことは──────」
「うん!!るん♪ってきた!!」
「え、は?るん?」
「はぁ・・・またあなたはよくわからない事を・・・」
「あたしおねーちゃんの妹の氷川日菜!君の名前は?」
ようやく自己紹介がなされ紗夜の妹さんである事が判明したところで、俺の方からも自己紹介をする。
「ねぇ、おねーちゃん。あたしも一緒に行っていい?」
「そんなのだめに決まって───────」
「じゃあレッツゴー!」
「え、ちょ・・・!」
「ちょっと日菜!!」
日菜ちゃんが俺の腕を引いて歩きだす。
(俺の意思は無視ですか・・・)
彼女の自由奔放さには驚かされる。紗夜も呆れてため息を吐いている。
「それでね!彩ちゃんが──────」
未だ彼女が隣で喋り続けている。反対側に紗夜もいるのだが先程からずっと黙ったままだ。
(やっぱり怒ってる・・・よな?けどなんとかしようにも・・・)
今すぐにでも紗夜のフォローをしてあげたいが現状ではどうしようもない。
(どうしたものか・・・)
そんな事を考えていたら日菜ちゃんが声をあげる。
「着いたよ!」
「ここって・・・映画館?」
「うん!あたし観たい映画あったんだー」
(これで紗夜と隣の席になってなんとかできれば・・・)
券売機でチケットを購入する。どうやら恋愛ものの映画らしい。日菜ちゃんからはあまり想像がつかないが彼女も華の女子高生だ。そういうのにも興味があるのだろう。
(紗夜っていう身近な人間が恋をしてるっていうのも余計にそう思わせてるのかも)
「日菜ちゃんってあんまりこういうの興味なさそうだから意外だったよ」
「うん?いつもなら観ないよ?」
「え?」
「実はこれ千聖ちゃんが出てるんだー」
(千聖ちゃん?)
「日菜のバンドメンバーの方よ。『白鷺千聖』って聞いた事ないかしら?」
「あ〜聞いた事あるかも。・・・・・・ちょっと待って。日菜ちゃんもバンドやってるの?」
ようやく紗夜が口を開いてくれたことに少し安堵する。
「え〜!!やってるよ!『Pastel*Palettes』って知らない?」
(確か今話題のアイドルバンド・・・だったっけ?)
俺の反応が芳しくないのを見て日菜ちゃんが肩を落とす。
「うーん、あたしたちもまだまだってことかぁ」
「いえ、彼があまり流行に詳しくないだけよ」
「あはは・・・テレビとかあんまり観なくて・・・・・・紗夜は知ってたみたいだけど・・・」
「・・・・・・日菜が所属しているし、一応チェックしていただけよ」
こういう素直じゃないところは付き合ってからも変わらない。しかし全く嫌だとは思わない。むしろそこが可愛いと思ってしまうのだからかなりの重症だろう。
「へぇ・・・」
「ん?どうしたの、日菜ちゃん?」
「ううん、なんでもない!」
笑顔で答える日菜ちゃんを見て俺の気のせいだったのかと思い直す。
そして、日菜ちゃんがとある提案をする。
「さぁ!ここにおねーさんから貰ったチケットが三つあります!これをシャッフルして〜・・・」
この後の展開は予想がつく。
「はい!ど〜れだ!」
(やっぱり・・・)
「日菜・・・あなたって子は・・・」
紗夜も呆れているが日菜ちゃんの言う通りにするようだ。紗夜は日菜ちゃんに甘いところがあると思っていたがどうやら気のせいではなかったらしい。
(まあ、可愛い妹だろうしそういうもんか・・・・・・それより)
重要なのはここだ。紗夜と隣になるのがベスト。既に紗夜が一枚引いているため運の要素がかなり強いが何とかするしかない。
そして、覚悟を決め紗夜が引いて残った二枚のうちの一枚を取る。
「じゃあ、あたしがこれだねっ。それじゃあしゅっぱーつ!」
(なんでこうなるんだ・・・)
運命の席順だが日菜ちゃんが俺と紗夜に挟まれる形となった。
紗夜の隣であるからなのかご満悦の日菜ちゃん。対照的に俺と紗夜の顔は沈みに沈んでいた。
そんな俺たちの気を知ってか知らずか日菜ちゃんがマシンガントークを再開する。俺はそれに相槌を打つ事しかできなかった。
「あ、千聖ちゃんだ!」
「日菜、上映中は静かになさい」
「は〜い」
(仲良しだなぁ・・・)
紗夜のフォローを、と思っていたがむしろ俺の方が空気と化している気がしてきた。
(にしても・・・白鷺さん、だっけ。スゲー演技上手だなぁ)
彼女は劇中で主人公の後輩の女の子というポジションで主人公に好意を抱いているという設定なのだが、大胆なアピールはできないが好きだと気付いてほしいという微妙な塩梅をすごく上手に表現していると思った。
(そういえば紗夜も最初の頃はそんな感じだったっけ・・・)
紗夜も付き合って間もない頃は手を繋ぐのすら恥ずかしがっていた。顔を真っ赤にしてすごく小さい声でやっと、という感じだったのだ。
(それで俺がそこまで恥ずかしがらなくても・・・って言ったんだっけ)
そしたら彼女はこう言った。
『だって今まで異性を好きだと思った事はありませんでしたし・・・それに・・・あなたの事は・・・その・・・とても・・・好ましく・・・思って、いますし・・・』
それを聞いた俺が紗夜を抱きしめてキャパオーバーさせてしまったのはいい思い出だ。
(・・・懐かしいなぁ。最近ではあんまり恥ずかしがってくれないんだよなぁ。まぁ、ちょっと頬は紅くなってるんだけど)
未だ恥ずかしさが抜け切らず初心な彼女がとても愛おしい。
そんなことを考えているうちに映画が終わってしまった。
「う〜ん、あの千聖ちゃんすっごいるんっ♪ってきたよ!」
「さっきも言ってたけどその『るん』って何なの?」
「んー?るんっ♪はるんっ♪だよ?」
(えー、全くわからないんですけどー)
日菜ちゃんの説明はざっくり過ぎてさっぱりだったので結局『るん』が何なのかは謎のままだった。
「別に覚えなくても大丈夫よ。教えてもらったところでわからないもの」
「えー!ひどいよ、おねーちゃん〜!!」
こんなやり取りからも彼女たちの絆を感じる事ができた。
「それじゃあ、次はあそこで!」
「え、もう流石に──────」
俺の抵抗は敢えなく散った。
俺たちが次にやって来たのはゲームセンターだった。
「なんでゲームセンター?」
「この前パスパレのみんなで行ったんだけどすっごくるんっ♪ってするものばっかりだったんだ!」
(アイドルがゲームセンターか・・・注目の的だったろうな・・・)
しかし彼女たちにもプライベートというものは存在する。彼女たちがゲームセンターを利用していたとしても問題はないだろう。
「えーと、この前やったのは・・・・・・あれだ!」
そう言って日菜ちゃんが指さしたのはUFOキャッチャーだった。中には何やら変わったキャラのぬいぐるみが展示されていた。
(なんなんだこのぬいぐるみは・・・ワニ・・・いや、トカゲ・・・なのか?)
だが日菜ちゃんはこれをいたく気に入ったようで。
「すっごいるんっ♪ってきた!!」
(え〜・・・マジなの・・・)
俺にはさっぱり理解できなかった。
「あら・・・確かに少し可愛いわね・・・」
(えぇ!?紗夜!?)
「よぉーし!頑張って取るぞー!」
どうやら姉妹の好みは似るらしい。
そして日菜ちゃんが挑戦するようだ。
(まあ、一回やそこらじゃ・・・)
「やった!取れた!」
(うそん・・・)
あっさりと景品を獲得してしまった。
そんな日菜ちゃんに驚いていると紗夜がそわそわしているのに気が付く。
(欲しいん・・・だろうか?)
確証は無かったがやるだけやってみることにした。
100円を機械に投入する。
「おー、君も挑戦するんだね」
「どうして・・・」
「まあ、日菜ちゃんの一発獲りに感化されちゃってさ」
日菜ちゃんが頑張れー!と応援してくれる。紗夜も不安げな表情でこちらを見ている。
しかし穴の近くに移っただけで獲得までには至らなかった。
「ああ〜・・・惜しかったね・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
でも、これで終わらせるつもりは毛頭ない。
再び機械に100円を投入する。
「え?」
「確かに日菜ちゃんみたいに一発では無理だけど・・・・・・ほらっ!」
「・・・・・・!」
景品が音を立て落ちてくる。
(近くで見ても何の動物かわかんないな・・・)
「はい、紗夜」
「え・・・?」
「あれ?欲しそうにしてたと思ったんだけど違った?」
「い、いえ。そういうわけではないのだけど・・・」
(俺の気のせいだったのかな・・・いらないのにあげてもだよな・・・)
「ごめん。いらなかったら俺が──────」
「あ・・・・・・ち、違うの!そ、その・・・ありがとう・・・」
「・・・・・・・・・・・・やっぱりるんっ♪ってするなぁ」
大事そうに胸に抱える紗夜。俺の直感が間違っていないみたいでよかった。
「ん?日菜ちゃん何か言った?」
「・・・ううん!よかったね、おねーちゃん!」
「え!?え、ええ・・・」
顔を赤くして俯いてしまう紗夜。
「・・・あ、あたしおかーさんに早く帰ってきなさいって言われてたんだった!」
「え?」
「ごめんね二人とも!ばいばーい!」
「ちょっと日菜!!・・・・・・行ってしまったわね」
(本当にそうなのかな・・・?日菜ちゃんは初めこそ偶然だっただろうけど何か別の目的があったような気がしてならないんだよな・・・)
「どうかしたの?」
「・・・いや、なんでもないよ」
時間も時間だったので俺たちも帰路に着くことにした。
「その・・・」
「──────?」
「今日はごめん。日菜ちゃんが悪いってわけじゃないんだけど元々紗夜とデートするって約束だったのに、俺が流されちゃったから・・・」
「・・・構わないわよ。あなたが私を気遣ってくれていたのは気付いていたから」
「・・・・・・そっか。ありがとう紗夜」
(ほんと、俺はいい彼女をもったよ)
「けれど・・・」
途中で言い淀んでしまう。
「・・・・・・けれど、その・・・日菜といえどあまり・・・仲良くは・・・」
「─────!・・・・・・ごめんね」
いけないとはわかりつつもつい笑みが溢れてしまう。
「なっ!何故笑うのよ!」
「いや、やっぱり紗夜は可愛いなぁって」
「・・・・・・あなたはすぐそういうことを」
そこまで言って紗夜は俺の顔を覗き込んでくる。紗夜とはそんなに身長が変わらないからそうされるとすごく顔が近くに感じる。そして紗夜が
「んっ・・・」
「・・・・・・これでいい?」
「・・・いいえ、もっと──────」
「・・・してあげたいのは山々だけどこれ以上は流石にここでは恥ずかしいし戻ってから、ね?」
「・・・・・・・・・・・・」
不満そうな顔を隠そうともしない紗夜。そんな顔も愛おしく思えてくるのだから手が付けられない。
「わかったわかった。あと一回だけね。それ以上は帰ってか──────」
言い切る前に彼女の整った顔が視界を埋め尽くす。
「・・・・・・せめて最後まで言わせてくれ」
「・・・・・・ふふっ、我慢できなかったんだもの」
そんな俺たちを見ていたのは沈みゆく夕陽だけだった。